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チート勇者も楽じゃない。。  作者: 小仲酔太
第4章 煙の彼方に忍ぶ謎
80/160

第24話 女湯に潜む魔の気配

【前回のあらすじ】

 マギーを危険視するオルガノは、彼女を無理矢理眠らそうとして暴力的になってしまう。何とかレナが諫め、ハニカの荷物の検分が始まる。マギーが感じた花の匂いの記憶で遂に謎の小瓶に辿り着く。

 「あっ!?その匂いニャ!!間違いないニャ!懐かしい花の匂いニャ!!」


 ユカリの見つけた小瓶にマギーが反応する。嗅覚の鋭い種族でなくとも、蓋の開けられた途端にその花の香りを感じることが出来た。かなり強い匂いのようだ。


 「懐かしい花……これがもしかして奇跡の花のエキスとかなのかしら」


 「うーん、それは調べてみないと分からないだろうけど、可能性は高いわね」


 私はユカリから瓶を受け取る。手にすっぽり入るほどの赤い円筒の瓶。シンプルなその小瓶の底には、僅かに液体が残っていた。


 これが奇跡の花に関わるものだとしたら、あれから僅か半月で呪いの力を秘めた薬にまで精製したということ。アリシア盗賊団が連なる組織は想像以上に高い技術を持っているのだろうか。


 「あれ、もう匂いが薄くなってきてるニャ?」


 「え?」


 マギーの言葉にひとまず蓋を閉める。かなり揮発しやすいのだろうか。


 「レナさん、何か分かったかしら?」


 「一応分かったことはあるけど、事件とは関係ないわね」


 オルガノが見るからに落ち込む。


 「はあ。ハニカの持ち物には他に目ぼしいものは無いのかい?」


 気持ちは分かるがそこまで落ち込むことだろうか。呪いの薬はハニカ自身が持っていた可能性が高い。他にも色々と気になることがあった。上々の成果だったと思う。


 「参ったね。こっちのコートも特に何も残されていないし、ここで何か物証が出てこないと先に進めないよ」


 彼の溜め息にユカリがそんなことないと軽く言う。


 「多分犯人はあいつでしょ?それじゃあ次は……」


 「え!?ユカリさん、まさかもう犯人が分かったんですか!?」


 ルーミが驚く。私もおおよそ見当は付いているが……。


 「まだ手段とか証拠とかはないけどね。だから……」


 そこでユカリはララを見た。そしてミミとマギーにも視線を送る。


 「事件発覚時のこと、もう一度確認しましょ?」


 ユカリのいう犯人は恐らく私が思っているのと同じ人物だろう。だとすれば気になるのはやはり。


 「そういうことね。遺体発見はユカリちゃんとミミちゃん、ルーミちゃんに、ララちゃんとマギーだったわね。詳しく聞いてなかったけど、どんな感じだったの?」


 「あたしはルーミちゃん、ミミちゃんとお風呂に入ってたわ。詳しく聞きたい?」


 ユカリは急に艶かしい顔になる。


 「ルーミちゃんったら大胆にあんなことを叫んで、だから私が……」


 「わぁーっ!!ユカリさん、いきなり何の話をしてるんですか!?事件に関係ない話はいいじゃないですか!!」


 ルーミが唐突に彼女の話を遮る。オルガノが首を傾げる。


 「事件に関係ないと思っても、もし気になったことがあったら何でも教えてくれ。何が事件の鍵になるか分からないからね」


 「そうよねー!やっぱり事件解決のためには思い出せること全部話さないとねー!!」


 「ダメですーっ!!ユカリさん怒りますよ!これは本当に事件とは何にも関係がないんです!早く次に行ってください……」


 彼女は相当取り乱していた。ユカリは楽しそうに笑っている。一体温泉で何があったと言うのよ……。


 「その話はあとで聞くとして、そのときは遺体に気付かなかったの?」


 ルーミが一瞬きっとこちらを睨み付ける。気にせずユカリが再び答える。


 「ええ、温泉に立ち込めた湯気であまり見通せなかったからね。誰かがいるようには見えたけど、死体だとは思わなかったのよ」


 「ふむ。つまりマギーさんのときよりは見えていたのか。どうやって遺体に気付いたんだい?」


 「そういえば何ででしたっけ?」


 ルーミが眉間に皺を寄せる。どうやら遺体発見のショックで記憶が曖昧になっているらしい。


 「あっ!!??」


 声が上がる。叫んだのはララだった。


 「私だ!私がみんなに気を付けてって言って、それで奥にご遺体が……」


 「ララさんが最初に見つけたのかい?」


 「あ、そうでした!気配があるからお風呂から出なきゃって……」


 「なるほど。気配察知があったから湯気の向こうでも気付けたんだね」


 オルガノは納得した様子で頷く。しかし。


 「あ、違うんです」


 ララが否定する。


 「私、あのとき魔物の気配を感じた気がして……。そう!魔物!!魔物の気配を感じたのでみんなをお湯から上がらせたんです。そしたら奥にも人がいるからってルーミちゃんが声を掛けようとして」


 ルーミが驚く。


 「あれ?私でしたっけ?」


 「ええ、ララちゃんの言う通りよ」


 「待て待て。僕は君たちから、女湯に入っていたら奥にいる遺体に気付いた、としか聞いていなかったよ?」


 オルガノの抗議の声にユカリが軽く頭を下げる。


 「悪かったわね。少し気が動転していたのよ。発見したあと私はあなたに頬をひっぱたかれて不機嫌だったし」


 ん?ユカリがオルガノに叩かれた?なぜ?

 降って湧いた謎は置いておいて、今はその魔物の気配だろう。


 「ララちゃん、その魔物の気配って具体的に何だったの?」


 「すみません、何だったのかはよく覚えていないんです。凄く薄い気配……そして隠れているような感じだったんです」


 「隠れている?」


 「待ってくれ。その気配と言うのは現場……女湯でしたのかい?」


 「はい」


 「それはあり得ないよ。僕も直後に現場に駆けつけたんだ。そこでは何の気配もなかったはずだよ?」


 オルガノがそう言うのは分かるが、それでも私はララの言うことを信じていた。彼女の気配察知は恐らくオルガノのものより遥かに性能が良い。被害者の違和感に気付いていたように。


 「ララちゃんが気付いてオルガノ刑事が気付かなかった。スキルで隠れていたと考えるのが自然ね」


 「な!?ララさんは隠蔽スキルを見破れると言うのかい?」


 「オルガノ刑事、ララちゃんは私の再測定の前から遺体の偽装の可能性に気付いていた。そうでしょう?」


 オルガノはぎゅっと口を結んだ。


 「まさか……そんなことが。本当に君は気配察知でそこまで気付いたと言うのかい?」


 「いえ、レナさんの魔道具を使ったことがあるからだと思うんですけど」


 ララの言葉に彼はきっとこちらを向く。


 「ララちゃんが言っているのはアラートボールのことよ。これを持ってるときに、彼女は収納空間に隠れていた魔物に気付いたことがあるの」


 「何てことだ。収納空間に入ったらもう気配は追えないんじゃなかったのか。……分かった、信じよう。事件現場には隠れている魔物の気配があったんだね?」


 ララは黙って頷く。もしそうなら一気に事件の解決が見えてくる。オルガノは衝撃を受けてはいたが、その顔はどこか明るく見えた。


 「レナさん、彼女ともう一度現場を調査して貰えますか?今度は魔道具も使って徹底的に」


 「ええ、任されたわ。ララちゃん、行きましょう!」


 「はい!!」


 こうして私たちは再び女湯に向かうことになったのだった。





 「事件が解決したら、また温泉に入りてえな」


 ポットが呟く。


 「お姉様正気ですか?事件があった直後で、また同じお湯に入ろうとは私はとても……」


 リットは気味が悪いと思っているようだ。無理もない。実際に死体が浮いていたお湯なのだ。


 結局現場の調査には、ララ、ポット、リット、そして私の4人で向かうことになった。何かあったとき二人では危ないだろうというゼルダの判断だった。


 ララはアラートボールを握りしめている。気合い半分、恐れ半分といった様子だ。


 「凄腕の暗殺者に勝った魔物なのですよね。これから探すのは」


 リットが不安そうに漏らす。


 「怖じ気づいたのか?広間で待っていても良かったんだぜ?」


 「平気です。私も冒険者ですから。それに……レナさんの予想ではお姉様だけでは太刀打ちできない魔物なのでしょう?」


 そう、私には大体隠れている魔物の見当も付いている。だとしたら魔法の使える者がいた方がいい。


 「あまり戦っているところを見たことはないけど、リットはあのモルトさんの弟子なのよね?」


 モルト・プレミオール。ポエトロの町1番の魔導師だ。リットが彼の弟子だということは道中何となく聞いていたが、これまではテオンたちが魔物の相手をしていたため戦うのを見るのは初めてなのだ。


 「師匠譲りの魔法の腕、しっかり見せて差し上げますわ」


 彼女は可愛らしいスティック状の武器を握りしめる。魔法の威力を上げるロッドなのだそうだ。メルヘンな桃色のデザインがリットによく似合っていた。


 「入りますね」


 ララが先陣を切って湯殿に入る。リラックスするための場所にこんなに緊張して入ることも珍しい。


 「ん……いる。こんなところから感じる」


 入り口入ってすぐのところでララが気配を感じ取った。アラートボールの効果で範囲を拡大されたララの感知範囲はこの旅館を覆い尽くすほど。


 寧ろ隠れているからこそ、ここまで気付かれなかったとも言えるのだ。


 「やはりいるんですね。魔物が」


 「うん、女湯の方。浴室の中だと思う」


 ララはどんどん進み、浴室の戸を開ける。事件現場でもある浴室は既にお湯が抜かれ、湯気もそれほど立ち込めていない。がらんと見渡せる室内に、魔物らしき影はなかった。


 「一体どこに……」


 ポットが警戒してハンマーを握りしめる。治癒魔法士見習いだと聞いていたが、かなりのパワータイプらしい。


 「あれだ……。多分あの排水溝の奥。だけどそれ以上は気配が掠れてよく分からない」


 「大丈夫よ。そこまで分かれば多分行ける。結界モード、お願いね!」


 ララは私が教えた通りにアラートボールの上半分を回す。アラートボールには敵感知の他に結界を張る効果がある。威嚇効果により魔物の侵入を防ぎ、結界内部にいる魔物には微量のダメージを与えられるのだ。


 私が使っても隠れている魔物に効果はないだろう。しかしアラートボールのダメージ範囲は感知範囲と一致する。つまりララなら……。


 かちっ。しゅいーーん!!


 アラートボールから結界が展開される。これで魔物はじっと隠れてはいられないはず。


 「!?」


 ララの目が一瞬見開く。反応があったようだ。ボットとリットが身構える。やがて。


 にゅるん。


 排水口から音もなく赤い影が覗くのだった。


 

今年度最後の投稿となりました。この話でちょうど80話、16進数でも50話です。きりがいいですね!


いよいよ真のボス登場というところですが、肝心の主人公がいませんね……?彼は一体今何をしているのでしょうか。


明日はいよいよ新元号の発表。そして平成最後の一ヶ月が始まりますね。何より新学期。新たな生活が始まる人も、去年と同じ朝を迎える人も、新しい気分で明るい4月を迎えましょう。


来年度も『チート勇者も楽じゃない。。』をどうぞよろしくお願い致します!次回更新は4/2です。

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