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チート勇者も楽じゃない。。  作者: 小仲酔太
第1章 アルト村の新英雄
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第7話 エナナと赤いリボン

挿絵(By みてみん)

【前回のあらすじ】

 村を出ていくことになったテオンは、村人に王都へ行くことになったことを話す。広場ではアムとディンが決闘の構え。そこへ村一番の狩人ハイルが傷だらけになって転がり込んできたのだった……。

 「村長大変だ!森に化け物が!ユズキが!」


 村の広場に飛び込んできたハイルの傷を見るなり、宿屋のクラが駆け寄った。目を閉じて手をかざす。彼女の周りに優しい光が集まってきた。やがてハイルの傷から流れ出していた血が止まり、表面に光のオーラが貼り付く。


 「とりあえず止血と消毒はしたよ。次は傷口を洗うから動かないでね」


 ララが持ってきた水桶に先程の光を注ぎ、その水を傷口にかけていく。ハイルは痛みに顔をしかめながらも村長に事情を説明していく。


 「つまり調査していた洞窟の奥には謎の化け物が封印されていて、おまえとユズキが近寄った途端に動き出したのじゃな。ユズキの状態は分かるか?」


 「俺が逃げ出したときにはまだ大きな傷はなかった。先に攻撃を食らっちまった俺を逃がしてくれたんだ、村に増援を頼んでこいって」


 「怪物の特徴は?」


 「巨大な人型の姿をしていた。攻撃手段は専ら拳で殴るのみ。動きも鈍重でかわすのは容易だが、受けるのは無理だ。とんでもない馬鹿力だった。俺の怪我も一度不意打ちを食らっただけのもんだ」


 「お前さんともあろうものが一撃でじゃと?増援はどれくらい必要そうだ?」


 「ああ、村長には来てほしい。それからジグと……あと二人は手練れがいるだろう。とにかく表面が硬くてダメージを与えられているのかが分からない。火力重視で頼む。あと、ユズキも怪我してるかも知れねえ。クラ、頼めるか?」


 「はいよ。そりゃ急がないとね。ほら傷も塞いだよ。ひとまず今日1日くらいは安静にしてな」


 こうしてユズキ救出隊のメンバーの選出が行われた。選ばれたのは村長、ジグ、サラ、クラ、トウだ。各々戦闘用の鎧などを身に着けて広場へ戻ってきた。


 村長は鉄と革を合わせた使い込まれた鎧を装備し、愛用の杖を担いで戻ってきた。ジグは簡素なレザーアーマーに鉄製のウォーハンマーを持っている。鍛冶だけでなくハンマーの腕も一流らしい。クラは防御をあげるローブと魔法杖を装備してきていた。


 そして仕立て屋サラ。村でも一、二を争う美女でクラの妹だ。驚くべきことに僕の父親ジグと同い年の34歳。華奢な彼女が火力重視のメンバー入りとは驚きである。彼女は鉄の胸当てなどの軽量装備のみで拳闘士の出で立ちだった。


 最後にトウ。森方面の門番をしており道案内役を兼ねている。22歳の若さを感じさせない老成した雰囲気を湛える重戦士だ。鉄鎧を着て大振りの槍を背負い、手にはショートボウを構えている。平地での槍捌きもさることながら、森での細かい立ち回りもかなりのものだと聞いたことがある。


 事態が事態だ、流石に皆動きが早い。


 「ではハナ、村の守りは頼んだぞ」


 「ええ、お父さん。行ってらっしゃい」


 「待てよ村長、俺も行くぞ」


 「な、なら俺も!」


 出発しようとする村長に迫ったのは、既に剣と鎧を装備していたアムとディンだ。勝負の途中で水を差された二人は行く気満々だった。


 「そういうことはハナより強くなってからじゃ。今日はハナを手伝ってやれ」


 え!?ハナ、二人より強いのか。アムとディンも驚く様子はない。見るからに落ち込む二人を残し、ユズキ救出隊が出発したのだった。





 「ユズキ、大丈夫かな」


 ハナが心配そうに一行の出ていった森への門を見つめている。


 「きっと大丈夫だよ」


 「この森にあの5人が勝てない魔物なんているわけないだろ」


 アムとララがハナを元気づける。


 「やっぱり待ってるだけなんて性に合わねえ、俺は行く!」


 ディンが唐突に叫ぶ。


 「ダメよ!村長に待っててって言われたでしょ!」


 「いいや、待ってたってどうせ出来ることはないんだ。大丈夫、足手まといにはならないさ」


 ディンは言い出したら聞かないところがある。迷ってる段階ならいざ知らず、これはもう止めてもしょうがない。止めようとするハナをアムが制す。


 「そういうことなら俺も行く。ユズキは、一応俺の父親だから」


 え!?


 「そういやそうだったな。それなら尚更じっとしちゃいられないだろ」


 「ああ。どっちが先にユズキを助けるか、勝負だ!!」


 「ちょっと、待ってったら!……もう」


 呆れるハナを残し、アムとディンは森の方へ行ってしまった。二人も相当に強いのだし、心配はないだろう。


 「何か大変なことになっちゃったわね」


 レナが村長の家から出てきた。今までずっと部屋にいたようだ。何やら細かい文字がたくさん書かれた紙を手にしている。後ろからはハイルも出てきた。安静にするついでにレベル測定されてたのか。流石レナだ。


 「さっき出てったの、アム君とディン君よね?村長たちに合流すれば問題はないんでしょうけど、あの二人、危険よ」


 「え?でも二人ともそれなりに強いと思うんだけど」


 「……冗談でしょ?」


 レナの辛辣な言葉にハナの顔が曇る。何を根拠に、と僕も言いかけたが、むしろ根拠を持っているのは昨日彼らの力を測定したばかりのレナだ。


 だっ。


 ララがどこかへ駆け出す。気になったが、レナが再び口を開いたのでそちらに注意を戻す。


 「今ハイルさんを測定してね、ついでにさっきの傷の具合から化け物の攻撃力を逆算してみたのよ。一発打撃を食らっただけらしいからね。特に攻撃を補助するスキルがないと仮定して、敵のSTRは……」


 ごくり。STRはいわば筋力。物理的な攻撃とその防御にも影響するステータスらしい。確か僕のSTRは40代後半だが。


 「およそ5000よ」


 ぶふぉっ!!次元が……違う!!


 「あ、それだけじゃ分かりにくいわよね。比較対象としてハイルさんのSTRが120、村長は以前測ったので140くらいね」


 あ、こっちも凄かった。


 「ハイルさんは咄嗟の衝撃吸収や受け身の技術などもあるから、軽装備でも何とかなったけど、それがなければ重装備でも即死級よ。アム君とディン君じゃ話にならない。早く止めないと大変なことになるわ!!」


 「すぐ連れ戻してこよう!!」


 僕は思わず口に出していた。


 「でも私たちが行ったって……」


 「戦うわけじゃない。連れ戻すだけだ」


 「そ、そうね!そうなればすぐ行きましょう!!」


 僕とハナは大慌てで動き出すが。


 「ハナさんはここに残っててもらえますか?」


 「え?」


 レナがハナを止めた。


 「今、村の守りはかつてないほど低下しています。ステータス的に村の防衛の要はハナさんですから、村長の言う通りあなたは守りに徹して、ここは他の者に任せてください」


 「私が……防衛の要?」


 「はい。ハナさんがいれば大抵の事には対処できるでしょう。二人の捜索は……テオン君、ララちゃん、そして私で行きます」


 ハナの実力はレナも保証するほどということか。当の本人は納得のいかなさそうな顔をしているが、村全員のステータスを把握しているレナに反論できるものはいない。


 「ま……待ってください!」


 そこで声を上げたのは意外にも引っ込み思案のエナナだった。家にこもっていたと思ったが、飛び出してきたらしい。


 「どうしてテオン君なんですか!?あ、危ないです!!」


 彼女は眼を白黒させながら必死に叫んでいた。


 「あら、彼のことが心配?」


 「だ、だって……。アムさんとディンさんが危ないのに、さらに歳下のテオン君じゃ……」


 「大丈夫よ。テオン君は2人より強いもの」


 「どうしてそんなこと分かるんですか!!測定失敗したって言ってたのに……」


 あ!そういえばそういうことにしたんだっけ。しかしレナは動じる素振りも見せずにエナナに近づいていく。


 「途中までは測定できていたの。それは確実よ。それとね……」


 そのままエナナの耳元まで口を近づけ、こそっと耳打ちをする。見る見るエナナの顔が赤くなり、俯いてしまった。そのまま僕のところへやって来て。


 「テオン君……。気を付けてね」


 それだけ言うとまた家に走って帰ってしまった。僕はただ茫然とその背中を眺めていた。


 「ほらテオン君、ぼーっとしてないで早く準備してきて!アム君とディン君を救えるかどうかは時間の問題よ」


 僕ははっとして動き出す。突然指名されたララも戸惑っているだろう……と思ったのだが。


 「テオン、早くしてよね!」


 ララは既に完全防備だった。そういえばさっきどこかへ駆け出していたのだった。そのときにはもう森に行く気でいたのか。手には僕の愛用の鎧まで抱えている。


 「さあ、ララちゃんの二人のお兄さんを見つけるわよ!」


 「ちょ、レナさんそれは秘密!」


 えっ……!?


 「あ、そうだったっけ?ごめーん」


 きりっとしていたレナの顔が一瞬で崩れる。さっきまでの頼りになりそうなお姉さんオーラはどこへやら、いつもの残念感が戻る。


 アムやララの気になる秘密についてはひとまず置いておこう。こうしているうちにもアムとディンは死地に近づいているんだ。しかし幼馴染の二人について、こうも知らないことがあったとは。


 「と、とにかく一刻も早く二人を連れ戻すぞ!!」


 僕は急いで鎧を付け終わると、気持ちを切り替えて森の中へと入っていった。





―――エナナの自宅


 エナナは窓の端から森へ入っていくテオンたちを見送っていた。手には赤いリボンが握られている。


 「テオン君……。どうか、無事に帰って来て。もう、私を一人にしないで」


 6歳で母親を亡くした彼女は泣いてばかりだった。見かねたエルモがアルト村への引っ越しを決めた。それでも塞ぎ込みがちな彼女に、頻りに話しかけてきたのが7歳のテオンだった。彼も母親を亡くしていた。


 テオンのおかげで徐々に村での生活に慣れていったエナナ。しかし傷はまだ癒えきっていない。大切な人に先立たれる恐怖に、今も怯えているのだった。そしてあの日も……。


 2年前、「消滅の光」から3日、テオンは村に帰ってこなかった。あの日渡せなかったかごに付けたリボンを、部屋で一人握りしめて泣いた。また一人になってしまうと思った。


 でも、テオンは帰ってきた……。


 レナの声が甦る。


 『好きな男を信じて待つのも、いい女の嗜みよ……』


 エナナは今日もリボンに精一杯の祈りを込める。


 「待ってるからね……。テオン君……!!」

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