表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
チート勇者も楽じゃない。。  作者: 小仲酔太
第4章 煙の彼方に忍ぶ謎
79/160

第23話 ワイングラスと花の香り

【前回のあらすじ】

 マギーを犯人と断定するオルガノに代わり事件を解決することを宣言するレナ。一方、ハニカの部屋ではメルーがアレーナのブーツを発見。広間に戻ると、レナがオルガノにビンタしていたのだった。


 「何する気よ!マギーを眠らせる必要なんて無いでしょ!!」


 私は思わずオルガノにビンタしていた。流石に限界だったのだ。話は少し前に遡る。


 「そういえばそろそろハニカの部屋に行ったゼルダさんたちが戻ってくるのでは?」


 だらけた姿勢のオルガノがふと思い出す。確かにあれからそれなりの時間が経っていた。


 「さて、ハニカをシャウラだと断定する証拠があると良いけど」


 そんなことを考えていると、オルガノが恐ろしいことを口にしたのだった。


 「あ、容疑者の前で証拠品並べたくないな。眠らせるか」


 「はあっ!?」


 私はその言葉に耳を疑う。


 「いや、暗殺者の可能性のある人物の持ち物だよ?容疑者がそれを使って僕らを危険な目に遭わせる可能性もある。ここに刑事は僕一人しかいないんだ。眠らせるくらいのことはさせてもらうよ」


 「そんな必要ないでしょ。あたしたちもいるんだからただ遠ざけていれば済む話じゃない」


 「いや、これは譲れないな。この麻酔薬で気を失わせるだけだし、気持ち悪さは残るだけで問題はないんだから」


 彼は鞄から茶色い小瓶を取り出す。


 「薬ニャ!?嫌ニャ!何か苦そうニャ!!」


 マギーは即座に拒絶する。子供みたいな理由だが、私も眠らせるわけにはいかないと思う。


 「マギーはハニカと会ったとき花のような香りを嗅いでいる。何か手がかりに気付くことがあるかも知れないじゃない?」


 「それだけ分かっていれば十分だろう?僕たちだけで香りを判別できる。起きていても眠っていても変わらないさ」


 マギーの前へ行こうとするオルガノの右腕を掴み制止する。彼の腕はかなり細かった。


 「何をするんだい?」


 「こっちの台詞よ。マギーには起きていてもらうわ」


 「何故そうもこの女の肩を持つ!殺人犯かもしれない女だぞ?ずっと君たちに嘘をつき続けている女だぞ!!僕は容疑者を眠らせる。邪魔をするなら君たちも縛らせてもらうよ?」


 彼の言葉に私もルーミもむっとする。離れたところでララも目を見開いている。


 「そんなことさせません!!マギーはそんなこと絶対にしません!!」


 ルーミがオルガノの前に躍り出て、ばっと両手を上げる。


 「どきなさい、ルーミさん。どきなさい!!」


 彼はルーミを左手で突き飛ばす。尻餅をつく彼女にマギーが駆け寄ろうとする。その足をオルガノが引っ掛け、彼女を転ばせる。


 「いいからさっさと薬を飲め、このアマ!!」


 いよいよオルガノは口も悪くなり、強引にでもマギーを眠らせようとする。そこまですることなのか?


 マギーはバランスを保とうとしてその場に座り込んだような姿勢になる。彼は右手に持っていた小瓶を左手に持ちかえ……。


 流れるようなその動きを、私は咄嗟に止めたのだった。


 ぱーん!!





 「ねえ、これどういう状況なの?」


 戻ってきたユカリが尋ねる。倒れ込んだルーミ、縛られたマギー、私のビンタに唖然としているオルガノ。どう説明したものだろうか。


 ルーミの元にはララが駆け寄る。ルーミは泣きそうなのをこらえながらララに抱きついた。しっかりしてても9歳の少女。いきなり暴力的になったオルガノに、かなり恐怖していた。


 「オルガノが無理矢理マギーを眠らせようとしたのよ。ハニカの持ち物に近付けるのは危険だと言ってね」


 「随分強引ね。その必要はないと思うけど。何か起こっても刑事が傍にいるんだし、何とか出来るでしょ?」


 ユカリのその言葉に、オルガノはぴくりと反応する。


 「何とか出来る……か。そうやって刑事じゃないやつらは簡単に油断する。そして何か起きたらすぐ止められなかった刑事のせいだと捲し立てる。そんなの、もうたくさんなんだよ」


 彼は肩を竦める。


 「それが刑事と言うものでしょ?町の平和を守る仕事なんだから」


 「無理を言わないでくれよ。刑事にも出来ることと出来ないことがあるんだ。僕に町の平和なんて重たいものは背負えない。精々逃げたこそ泥を見つけるのが関の山なんだよ」


 どうやら彼は彼なりに、自らの職務に押し潰されそうになっているようだ。だが、それでルーミを突き飛ばしたりマギーを眠らせようとしたことを正当化されては困る。


 「ならせめて、ただマギーを思って立ち上がったルーミちゃんだけは怖がらせたりしないでよね」


 ルーミはララに頭を撫でられながらも、未だ肩を震わせている。オルガノもようやくそれに気付き、すぐに俯いてしまった。


 「すまない、少しどうかしていたようだ。ここは折れるよ」


 「……それだけ?」


 私は尚も厳しく当たる。オルガノはルーミに近付くと膝立ちになった。


 「ルーミさん、怖がらせてごめんなさい。君をこんなに怖がらせて、やはり僕は刑事失格だね」


 「うぅ……。刑事さん、すみません、大丈夫です。もう、マギーを悪く言うのはやめてください。まだ、証拠はないですから」


 「……ああ、全くもってその通りだ。容疑者だと思ってはいるが、何一つ証拠はない」


 オルガノは立ち上がり、今度はマギーの前に座る。


 「マギーさん、すまない。僕はどうかしていた。今までの非礼を詫びよう。縄を解くことは出来ないが、せめて謝罪させて欲しい」


 オルガノの態度の変貌にマギーは戸惑っている。とりあえず今はこれでよしとしよう。


 『やはり僕は刑事失格だね』


 彼は普段からそんなことを思っていたのだろうか。もしかしたら刑事としての劣等感と、殺人事件現場に刑事が自分一人だけという重圧から、必要以上に自分を追い込みすぎていたのかもしれない。


 私は彼の肩に手を置いた。


 「さあ、まだ事件は解決してないわよ。ユカリさん、ハニカの部屋では何か見つかったの?」


 「え?……うん。出てきたよ、ハニカとシャウラを繋げる証拠。それから彼女の鞄も持ってきた」


 ファムが鞄をどんと床に置く。その横にゼルダが畳まれたコートを置く。ユカリの後ろから出てきたメルーは、誇らしげに手に持ったものを掲げた。


 「じゃーん!!これが証拠です。私が見つけた毛皮のブーツです!私が見つけたんですよ!!」


 「ゼルダちゃん、これってアデル君が言ってたアレーナのブーツ?」


 「はい、間違いありません。特徴的なデザインと靴底まで覆われた毛、アレーナの集落にのみ伝わる伝統的なブーツです」


 「それじゃ決まりね。良かったわ。どこにあったのかしら」


 「私が見つけたんですよ!私が!!」


 やけにそれを強調するメルーは置いておいて、ユカリに視線を向ける。


 「押し入れの中の布団の下よ。調べなかったの?」


 「おかしいわね。押し入れの中なら私たちも……。私が調べた押し入れは布団じゃなかったわね。布団の方は誰だったかしら?」


 「ねえ、私が……」


 「まあこれでハニカがシャウラだと断定できたわけだけど、それより彼女が殺された理由を調べなきゃね。まずこれからかしら」


 ユカリは手にワイングラスを持っていた。私も確認した花の香りのするワイン。今も渇ききらずにグラスの底に残っていた。


 「オルガノさん、マギーにワインの香りを確認してもらうけどいいわね?」


 「ああ、貴重な情報だ。是非嗅いでみて欲しい」


 私は頷き、マギーの前にワイングラスを差し出す。


 「どうかしら?」


 マギーは怪訝な顔つきでワイングラスを眺めると、さらに鼻を近付けて確認する。


 「おかしいニャ。確かにこの匂いもしたんだけど、懐かしい匂いが消えてるのニャ」


 「懐かしい匂い?」


 「マギーがハニカに会ったときにしていた匂いニャ」


 「でもワインの匂いもしたのよね?ハニカ自身の匂いと混ざってそう感じたのかしら」


 「違うと思うニャ。ハニカはハニカで別の匂いだったニャ。もっとこの匂いよりもはっきりと花の匂いだったニャ。そういえば……」


 マギーは思い出すように視線を上に向けながら言う。


 「このワインの匂いなら茶屋で会ったブラコからしていたニャ」


 その発言にゼルダが驚く。


 「えっ!?私全然気が付きませんでした。ブラコさん、きつめの香水付けてませんでした?」


 「そうだったけど、近付いたときに少しだけこの匂いもしたのニャ。間違いないニャ」


 そういえばマギーだけ茶屋でブラコと至近距離で会話していた。その後はバートンとキールが付きっきりだったから、ゼルダはマギーほどブラコに接近していない。


 念のためバートンにも尋ねてみる。オプリアンも嗅覚は発達している。


 「ああ、この匂いなら知っている。ブラコからしていた」


 これでブラコがこのワインを飲んでいたことは確定だろう。問題は……。


 「マギーがハニカから感じた懐かしい花の匂い……ね。もしかしてそれって」


 ユカリがそう呟く。私はそれに続く。


 「ポエトロに知らず知らず漂っていた、奇跡の花の匂い……かしら?」


 「なるほど、つまり深夜マギーがハニカと会ったときにはもう、奇跡の花が彼女に使用された後だった、とでも言うのかい?生きている相手に?」


 オルガノが口を挟む。


 「さあ、使用した後だとは言い切れないんじゃない?彼女は暗殺者。逆に偽装するために花を隠し持っていたのかも」


 ユカリが反論するが、どれもこれも憶測ばかり。今は確かなことは何も言えない。それより。


 「ねえ、鞄の中身を詳しく調べてみない?今は分からないことを考えていても仕方ないわ」


 私の提案に、ゼルダが頷く。


 「それでは中身を出しますね」


 鞄を開く。私も部屋で軽く中は確かめていた。入っていたのは着替えと食料、お金の入った袋、化粧道具の入った小さなポーチ……。


 「今から考えてみれば、これ暗殺者の荷物だったのよね。武器とかは入っていないのかしら」


 「シャウラの主な武器は針だけど、それは常に隠し持っていたんじゃないかしら」


 その言葉にオルガノが反応する。


 「針か。風呂場にはハニカのものと思われる浴衣が残されていた。それくらいなら見落としたかもしれないな」


 「ねえ、これ何かしら?」


 ユカリが彼女の化粧道具の中に空の小瓶を見つける。香水の瓶のようだ。彼女は早速蓋を開けてみた。


 「あっ!?その匂いニャ!!」


 突然マギーが大声を上げた。


 「間違いないニャ!懐かしい花の匂いニャ!!」

レナは怒っていても冷静ですね。荒ぶるオルガノを見てただ恐れ怒るだけでなく、何故そうしたのかまで考えられる余裕。テオン君も恐らくそこに気付けるでしょう。この二人は人を許せる強さを持っています。


さて、次回更新は3/31です。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
7fx2fj94k3jzaqwl2la93kf5cg2g_4u5_p0_b4_1
ESN大賞
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ