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チート勇者も楽じゃない。。  作者: 小仲酔太
第4章 煙の彼方に忍ぶ謎
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第14話 湯殿に響くは平手の音

【前回のあらすじ】

 温泉宿「かれん」2日目。テオンは女将の話でキューとアリアの足掛かりを得る。アデルたちがシャウラを探して森を捜索する傍ら、温泉に入ったララたちが女湯で男の死体を発見してしまう……。

―――死体発見の少し前


 「えっ?ユバさんじゃないの?」


 「あっはっは。そんなに驚くことかい?あたしゃフバ。ユバの双子の姉さ。昼間はあたし、日が沈んでからはユバ、交代で番頭をしているのさ」


 「テオンったら。顔はそっくりだけど気配が全然違うじゃん」


 「分かんないよ!」


 気配察知を持つララは、フバのことをユバと呼んだ僕をけたけたと笑い飛ばす。


 「じゃあ私こっちだから」


 「あ、うん」


 ララが赤い暖簾を潜っていく。


 「可愛い彼女ちゃんだね。でも他にもお客さんいるから、覗くんじゃないよ?」


 「彼女じゃありませんよ。言われなくても覗きはしません」


 僕はそのまま男湯の青い暖簾を潜る。鼻につく硫黄の臭い。これが温泉の力の秘密だと分かってはいるが、この臭いは苦手だ。あまり鼻で息をしないようにしながら浴衣を脱ぐ。


 中にはオルガノが先に入っていた。浴室に入るとすぐ声を掛けてくる。


 「やあ、テオン君。お先に頂戴してますよ」


 オルガノはそう言って穏やかに笑う。関所の守衛は彼のことを敏腕刑事と言っていた。もっと怖い人を想像していたのだが、昨日から僕が見ている限り、彼は終始穏やかな微笑を浮かべて柔和な雰囲気に包まれていた。


 「オルガノさんって敏腕刑事って呼ばれているんですよね?その割りに威圧感とか無いんですね」


 僕はストレートに聞いてみる。


 「ははは、そうだねえ。僕はあまり肉弾戦とかは得意じゃないから。今もアデル君や君たちに戦闘面では頼ろうと思っているよ」


 「それでも敏腕刑事になれるんですね」


 僕は湯船に入り、オルガノの隣に座った。


 「買い被りさ。寧ろ不当な評価だと思っているよ。凶悪犯の確保なんて真っ平御免さ」


 本当にイメージと違う。というか何故これで敏腕なんだ?


 「僕が得意なのはね、潜伏している犯人を見つけることなんだ。君の仲間のララちゃんも使えるそうだね、気配察知。僕はそのお陰で検挙率だけはいいんだ」


 「検挙率?」


 「犯罪者を捕まえて実際に刑事事件の犯人として起訴した数さ。たくさん捕まえた人が評価される、それが今の刑事局の方針なんだ」


 「たくさん捕まえたならやっぱり凄いんじゃ……」


 「いやいや、僕が捕まえているのは万引き犯とかひったくりとかばかりなんだ。それでも犯罪は犯罪、殺人や強盗と同じ扱いでカウントするんだよ。刑事局ではとにかく検挙率の高い刑事が評価される。実力なんて関係なく、ね」


 オルガノはどこか評価されていることに不服そうだった。


 「上の奴らが見ているのは数字だけ、本質を見ていないんだ。検挙率の良い僕を評価して、凶悪犯の確保に向かわせる。僕の苦手分野だと言うのに。逆に凶悪犯確保に熱く燃えている同僚は検挙率の低さで見下されている」


 何となく彼の言わんとしていることが分かってきた。


 「確かに凶悪犯ばかりを追いかけていれば検挙率稼ぎは出来ない。だけど彼を嗤う者の中には、僕と同じように凶悪犯を見逃して軽犯罪ばかり検挙している者もいるんだ。このまま数字ばかり追いかけていたら、刑事局は駄目になってしまう。僕はそう思っているんだよ」


 「でもオルガノさんはその数字主義のお陰で評価されているのでは?」


 「はは、そうさ。僕は寧ろ楽に旨い蜜を吸わせて貰っている側だ。全く、嫌になるよ」


 嫌になる……か。それは刑事局に対してだろうか。それとも自分に対してだろうか。多分、その両方なんだろうな……。オルガノの悲しそうな顔が目に焼き付いていく。


 「僕はそろそろ上がるよ。あとはごゆっくり」


 そう言ってオルガノさんが立ち上がった、そのときだった。


 「「「きゃーーーーっ!!!!」」」


 女湯から悲鳴が聞こえてきたのは。





 「ララっ!!」


 僕は軽くタオルを巻いただけの格好で女湯の赤い暖簾を潜っていた。今の悲鳴はただ事じゃない。


 「あ、お兄さん!!」


 フバの声が後ろから聞こえたが、振り返る余裕はなかった。浴室のドア越しに数人の影が見える。僕はドアの向こうに声をかけた。


 「ララ!何があった?大丈夫か?」


 「テオン!?あ、待ってルーミちゃん!!」


 そのとき浴室のドアが開いて裸のルーミが駆けてきた。


 「テオンさん!助けて!!」


 ルーミが抱きつく。ドアの向こうにはマギーにララ、ミミ、ユカリが見えた。誰も身体を隠す余裕なんてなかった。皆一糸纏わぬ姿……。


 「あ…………。ご、ごめ……」


 僕は思わず固まってしまった。視線は逸らせなかった。


 「ダメーーっ!!」


 ララが僕の顔目掛けてタオルを投げつけてきた。目の前が真っ暗になり、ルーミの飛び込んできた勢いでふらつく。そのまま尻餅をつく。


 「テオン、大変だニャ!誰か、誰かが死んでるのニャ!!」


 マギーは全く気にすることなく騒いでいる。ララとミミは身体を隠しながらしゃがみこんでいる。


 「あ、オルガノさんも宿に残ってたよね。あたし呼んでくるわ!!」


 ユカリは隠すどころかそのままの格好で暖簾の外へ向かう。もはや女湯は混乱状態だった。


 「あ、オルガノさんいた!ちょっとこっち来て……」


 「きゃっ!?ユカリさん、何という格好で……ふしだらっ!!」


 ぱーん。後ろから乾いた音が響く。オルガノがユカリに平手打ち?いや待て何だ今の口調……。どうなってるんだ??


 「あんたたち、いいから落ち着きなさい。ほらタオルで身体隠して!!」


 ようやくやって来たフバが皆にバスタオルを配り、その場は一旦落ち着きを取り戻した。


 「はあ、はあ。テオン?」


 ララの声が僕に飛ぶ。その声はぞっとする冷たさを含んでいた。


 「馬鹿!!」


 尻餅の体勢から胸に蹴りを入れられ、僕はその場に仰向けに倒れた。腰のタオルを押し上げる感覚が恥ずかしかった。





 「えー、ここは私が調べます。皆さんは浴衣を着てしばらく湯殿で待っていてください」


 オルガノがそう言って誰もいなくなった女湯へと入っていく。僕は一度男湯の脱衣所に戻って着替え、暖簾の外の皆のところへと戻った。


 やがてララたちも暖簾から出てくる。ララはむくれて目も合わせてくれない。ルーミは真っ赤になってマギーの後ろに隠れていた。


 「テオンって結構大胆なんだね。まさか堂々と女湯の中まで覗きに来るなんて」


 ミミがからかうように言う。


 「ごめんなさい、テオンさん。私、あんなはしたない真似を……。怖くなって、それで……」


 「ルーミは悪くないニャ。悪いのは全部テオンニャ。裸んぼのルーミに抱きつかれて大きくしていたテオンニャ」


 マギーがけたけたと笑いながらルーミの頭を撫でる。


 「ロリコン……」


 ララの冷たい声が刺さる。いや、決してルーミにだけ興奮したわけでは……。そんな否定が頭に浮かんだが、言ってどうなるものでもない。僕は黙るしかなかった。


 その後、オルガノとフバに軽く身体検査をされ、僕らは宿の広間へと戻った。そこには声を聞き付けて戻ってきたバウアーがバートンやポットたちとともに待機していた。


 「ああ、テオンさんたちよくお戻りに。オルガノさんから軽く話は聞きました。まさかこの宿で殺人事件が起こるなんて。本当に申し訳ございませんでした」


 女将のカレンが頭を下げる。慌てて頭を上げさせ、僕はレナやアデルたちを呼び戻そうと提案をする。これが殺人事件ならばどこかに犯人が潜んでいるということ。今は出来るだけ纏まって行動した方がいいだろう。


 「それならおれも行こう。キールやケインも心配だからな」


 バウアーが立ち上がる。


 「私も行く」


 ララがむすっとした顔のままこちらへ来る。


 「ん?お前ら、何かあったのか?」


 「「なんでもない!!」」


 ララは顔を背けたまま僕と声を揃えた。





 レナたちはララの気配察知のお陰ですぐに見つかった。皆先程の悲鳴を聞いていたようで、警戒した様子で一塊になっていた。何故かレナだけ異様に疲れた様子だったのは気のせいだろうか。


 「気のせいじゃないわよ。もう散々力を吸い取られたわ」


 「えっ!?吸い取られた?何に?何を?」


 ララが警戒して周りを見回す。


 「リア充どもに生気を、よ」


 レナはじととこちらを見る。


 「あなたたちもあたしの敵だわ。覚悟しておくことね」


 死んだ魚のような目がぎょろっと動いて僕とララの浴衣を捉える。鎧は必要ないだろうと思い、二人とも着替えないで出てきたのだった。


 「んで、キールとケインはどこなんだよ」


 バウアーがララに声をかける。


 「ああ、今凄い速さでこっちに向かってきてます。そろそろですよ」


 そう言い終わるが早いか、近くの茂みから二人が飛び出してきた。


 「あ、バウアー!やべえやつを怒らせちまった!!あとは頼……」

 がああっ!!


 キールの言葉に被せて山猫型の魔物が飛び出してくる。


 「頼むじゃ……ねえよっ!!」


 バウアーは咄嗟に長剣を抜くと、右足を大きく踏み込んで左から横薙ぎに、そのまま手首を返し左足を引き付けながら下から斬り上げ、さらに左足を後ろに引いて斬り落とす。


 その剣は猫の喉元を裂き、腸を抉り、腰を砕いた。流れるような連続技。一瞬の決着だった。


 「お!バウアーも特訓の成果が出たってところだな。テオンみてえだったぜ!!」


 キールとケインがにこやかにグーサインを出していた。





 山狩りに出ていた全員と合流できた僕らは宿に戻る。近づくと広間から口喧嘩が聞こえてきた。


 「ただいま戻りました……これは?」


 広間ではフバとユバの姉妹が何やら口論をしていた。


 「何で女湯に男を入れたんだよ、フバ!!」


 「あんたから引き継いだ後にはあんな男入ってないよ!あんたが見た1番風呂の客ってのが出てきたところは見てないしね。そいつが実はあの男だったんじゃないのか?ユバ!!」


 「何だって?赤紫の髪の女だ、見間違えるわけないだろ。いい加減なことを!!」


 「いいや、そもそもあたしゃそんな客1度も見てないよ。夢でも見てたんじゃないのかい?」


 同じ顔の二人が同じように表情を歪めて言い合っている。今にも取っ組み合いの喧嘩が始まりそうな勢いだ。


 「「いい加減な仕事しやがって!!」」


 はあ……。どうやらこの事件も簡単に解決してはくれないみたいだ。

遂にやっちゃいましたね、テオン君……。堂々と正面から女湯へ。この罪は追々ララやマギーにちくちくしてもらうことにして、問題は殺人事件でございます。


詳細は次回オルガノから説明がありますが、今回ももちろん、皆様にも推理できるように手がかりを残しながら進めて行こうと思います。そのまま読み進めていただいても、じっくり考えながらでも、どちらでも大丈夫でございます。


次回更新は3/13です。


P.S.この回でPV4,000を突破致しました。皆様どうも有り難うございます。ここから事件の全容、そして世界の様相も明らかになって参りますので、どうぞこれからも宜しくお願い致します。


さらにUAも1500突破です。有り難うございます。

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