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チート勇者も楽じゃない。。  作者: 小仲酔太
第1章 アルト村の新英雄
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第6話 レナの溜息

挿絵(By みてみん)

【前回のあらすじ】

 「消滅の光」の真相を聞いた村長は、テオンに村を出ていくよう言い渡す。それはテオンが今後そのことを思い詰めることなく、いざというときにスキルを使いこなすための強さを身に付けさせるためだった。

―――レベル測定部屋


 こんこん。


 部屋の扉がノックされる。


 「レナさん、いますか?テオン、いる?」


 どうやらララがなかなか戻ってこないテオンを心配して様子を見に来たようだ。私はさっとドアに駆け寄ると少しだけ開ける。


 「ララちゃんね?ごめん、ちょっと取り込み中なの。みんなにも大分遅くなるって伝えてくれる?」


 「あ、はい……分かりました。あとレナさん、ごはんの用意が出来ましたよ」


 「あら、ありがとう。でもちょっと離れられないのよね」


 別に離れられないということはない。だがどうしても二人の様子が気になる。テオンのステータスは村人たちには内緒ということだから、尤もらしい理由を付けて彼女を追い払わなければならないのだが……。


 「テオン君は今、村長と大事なお話をしているの。悪いんだけど3人分のごはんを持ってきてくれない?」


 「大事な……話ですか。分かりました。ごはんすぐ持ってきますね」


 そう言ってララは出ていく。ステータスのことは言っていないし、嘘もついていない。だけど、測定のあとの大事な話って限られてくるわよね。テオンが私のスカウトを受けた。そんな噂が広まるかもしれないが、まあ私にとっては都合がいい話だ。


 私は再び机に戻ると、村のみんなのステータスを眺める。テオンのステータスはやはり異常だ。だが他にも気になる人がいる。例えばさっきのララ……。それにまだ測定できていない猛者もいる。今は森に調査に出ているというユズキとハイル。


 特にハイルは村長に次ぐ実力の持ち主らしいが、前任のジョドーから引き継いで以来測定できていない。私の最優先ターゲットの一人だ。


 「こんなに遠くなければ毎年でもスカウトしに来るのになあ」


 静かな部屋で一人、溜め息をつく。外では興奮したララやその友人たちの声が響いていた。





 テオンと村長が隣の部屋に行ってそれなりの時間が経った。ララが持ってきてくれた2人のごはんが冷たくなっている。私の分はとっくに空だ。


 レベル測定を行っていた部屋では、しんと静まり返った装置たちが片付けられることもなく並んでいた。外はもうじき暗闇。特に夜を照らす明かりもないこの村では、もう就寝の時間だった。


 いつもはこの村の未発展ぶりに悪態をつきながら硬いベッドで眠りに就いていたが、今日ばかりは違っていた。


 「テオン君……。あなたなんて辛い思いを……。ずびび」


 そう。さっきまで隣の部屋で続いていたテオンの打ち明け話に、ずっと聞き耳を立てていたのだ。いくら隣の部屋とはいえ、木の扉1枚隔てただけでは普通にしていたって聞こえてきてしまうというものだ。


 まあ、ばっちり木の扉に耳を押し当てて一言一句漏らさず聞いていたのだが。


 「テオン君は、やはりあのスキルの意味を知りたがるでしょうね」


 紙に写し取った未知の古代文字。いくら暴走していたとはいえ、周囲の生物をすべて消し去るスキルなんて聞いたことがない。


 光の力とテオンは言っていたが、レナは光魔法と言うものを知っている。あれは周囲を照らしたり敵の目を惑わせたりするくらいで、攻撃に使えるようなものではないのだ。


 「光というからには聖なる力なんでしょうけど」


 改めてテオンのステータスボードに視線を落とす。驚愕のステータス。


 レベル: 30

 職業: 剣士

 スキル: ■

 HP: 421

 MP: 127

 STR: 42

 VIT: 61

 INT: 56

 AGI: 48


 ……突っ込みどころが多すぎる。レベルはもちろんのこと、未発見の古代スキルだとか、剣士のくせにVITとINT――所謂精神ステータスが高すぎるとか。そして、このステータスを誰にも見せるなだとか……。


 私の任務は何もただ色んな人のレベルを測ってくることではない。王国の軍隊を補強するのに足る人材の発掘、未知のスキルの発見、ステータス増強の仕組みの解明……。


 データを取るということはひとつの目的を達成するためだけのものではあり得ない。見方を変えればいくらでも発見をもたらしてくれる。そして……。


 「なんて、もったいない……」


 レベリング方法しかり、古代スキルの習得方法しかり、精神ステータスの増強方法しかり。テオンのステータスは実例と共に発表すればまさに情報(たから)の宝庫であった。あのような神ステータスを持つ者は10年に1人くらい報告される。誰が呼び出したのかは知らないが、チート能力者と呼ばれるような者たちだ。


 王国は今チートのステータスの解明に傾注している。何しろ常人の何倍もの戦力になるのだ。チート軍団の結成、それが王国軍部の夢であった。


 「でも……」


 私が今まで会ったことのあるチート能力者は、癒しの聖女しかり業炎の破壊者しかり、皆どこか暗い影を感じさせた。何か常人以上に辛いことを経験した影。恐らく二人ほどではないにしろ、テオンが背負った影は同じ部類のものだろう。


 「チートの条件……。まさか博士の言う通り……」


 既に噂話には上っていた。心に過剰なストレスを抱えたものにのみ宿る強大な影。それこそがチート能力を目覚めさせる鍵なのだと。チート能力を持つものが凄惨な運命を辿るようになっているという反論もあるが。


 どちらにせよ、テオンの身にはこれからもいくつもの悲劇が待っているのだろうか。私はそんな予感を追い出そうと深く溜め息をついた。


 「今日何度目の溜め息なのよ。幸せ逃げるわぁ」


 せめて彼に宿った光のスキルが、これからは彼の未来を明るく照らしてくれるようにと祈るのだった。





 ごとっ。


 考えているうちに村長とテオンが動き出した。私はさっと椅子に戻る。月明かりが窓から差し込んでテオンのステータスボードを照らしていた。


 「レナさん、灯りをありがとう。これはいいものですな」


 そういえば村長に持ってきていたランタンを貸していたのだった。ランタンを受けとるとすぐさま灯りを消した。今日はもう仕事を切り上げて寝るつもりだった。


 「レナさん、お話が……」


 「あたしと一緒に旅に出たいんでしょ?いいわよ」


 「聞いてたんですか?」


 「さ、さっき村長が言ってたじゃない!連れていってもらうとかなんとか」


 私は分かりやすく動揺してしまったが、その表情や冷や汗は暗闇が隠してくれていた。テオンが気にした素振りはない。


 「お願い……します」


 「まあ今夜はもう遅いしね。その話はまた明日にしましょ!ララちゃんがごはんを持ってきてくれたのよ」


 「そうですな。詳しい話はまた明日ということで。ララにも明日お礼を言わねばな」


 「うん、いただきます」


 2人は冷めてしまったごはんを美味しそうに食べる。この村に来るたびに思うが、村人全員が家族のような絆で結ばれている。この村は本当に温かい。


 「そういえばテオン君。あなた、明日びっくりするわよ!」


 「え……?どうして?」


 「初めてのレベル測定はね、レベルシステムへの登録でもあるのよ!」


 「登録?」


 「つまりね、明日からようやくレベルシステムの補助が受けられるのよ!」


 村長が「あっ!」と声をあげる。どうやら失念していたらしい。


 「ということは今までの強さは単に……」


 「そう。今まではレベル補正なし、純粋な能力値のみのステータスだったのよ」


 「レベル補正?能力値?」


 「純粋な能力値ってのはレベルシステム適用前の強さね。それにレベル補正――レベルに補正倍率を掛けた数が加えられるの。レベル補正は数値には既に反映されているけど、肉体に還元されるのは夜のうちなの」


 村長は手元の資料でテオンのレベル補正値を計算していた。補正倍率は職業で決まり、テオンの補正倍率はおそらく0.5で補正値は15。村長はこの数字が加えられる前のテオンの強さを知っている。


 「わし、明日になったらテオンに負けるかもしれんのう」


 「そんなに!?」


 村長はそんなことを言いながら、少し嬉しそうにしていた。


 何はともあれ、テオンのわくわくした表情を見てひと安心する。暗い部屋を明るく照らす月明かりが、心配ないわと優しくテオンを包み込んでいる気がした。





―――翌朝


 「いいのね、テオン君」


 「はい。お願いします、レナさん」


 昨夜の部屋に村長とテオン、そして私が集まっていた。私がテオンを連れて村を発つ話は結構すんなりと決まった。出発は明日。今夜は別れを惜しんだ村の人たちが御馳走を振る舞ってくれることになった。


 外では今日もステータスの披露大会が催されていた。テオンのステータスについては、村の皆には測れなかったと言うことにした。実際スキルに関しては一度王都に行って調べなければ解読できない。


 「やっぱり王都には行くんだ……」


 ララが浮かない顔で肩を落とす。エナナは家から出てきてもいない。


 「黙れ17レベル!お前より俺の方が強いって証明されただろ!」


 「うるせえ!サボり門番のディンの癖に!数字で強さが分かるかよ!」


 アムとディンは昨夜から口論していたらしいが、遂に直接対決となったらしい。二人とも剣を構えている。


 周りの大人たちもそれを楽しそうに見ている。テオンの父のジグが八百屋のエルモと何か話をしている。エルモはエナナの父で、8年前に隣町から引っ越したという陽気なおじさんだ。……ってあの二人、賭けの話してない?


 溜め息混じりに視線を移すとハナがおろおろしながら二人を見ていた。ハナは2人から言い寄られているらしい。どちらかを応援するというだけでも角が立つというものだ。


 「ハナ!お前はどっちに賭けるんだ?」


 ニコニコ顔のジグがハナの肩に腕を回しながら話しかけた。迷惑な大人ね……。アムとディンもちらちらとハナの様子を窺っている。


 「ほら始めるよ!レディー……ファイッ!!」


 レフェリーは仕立て屋のサラだ。宿屋のクラの妹で、つまりアムとララの叔母にあたる。サラの掛け声で両者同時に地面を蹴ったそのときだった。


 「村長大変だ!!森に化け物が!ユズキが!」


 血相を変えて広場に飛び込んできたのは、全身傷だらけになった村一番の狩人、ハイルだった。

いきなり出てきたステータス表示ですが、話の都合上詳しい解説はのちほどとさせていただきます。

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