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チート勇者も楽じゃない。。  作者: 小仲酔太
第4章 煙の彼方に忍ぶ謎
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第9話 手掛かり求めて温泉宿

【前回のあらすじ】

 ユカリの推理が犯人ブラコを追い詰める。そして遂に彼のポケットからキールの財布が発見されたのだった。テオン一行はバウアーたちと共に、ブラコをキラーザの町まで連行するのだった。

 茶屋から西へ1時間ほど……。日もだいぶ傾き、僕らは順調にキラーザへの道を進んでいた。右手は徐々に盛り上がって荒れた山となり、やがて崖の壁が続くようになった。かつて谷川に流れ込んでいた支流の削った跡だ。


 「見て見て!山の崖に貝殻が埋まってるのニャ!!」


 「本当だ!昔はこの道、本当に水の底にあったんですね」


 マギーとルーミが崖を物色しながらはしゃいでいる。


 「ああ、それだけじゃねえ。川の前は海の底だったって話だ。だからこの山では岩塩も取れるんだぜ!」


 得意気に蘊蓄(うんちく)を垂れているのはキールだ。茶屋で騒いでいた姿とは対照的な知的な語りぶりに、僕らは驚いていた。


 「まるで夜になるとクールになるマギーみたい」


 レナの言葉に今度はバウアーが驚く。


 「あの娘がクールにだって!?キールが実は頭良いってのと同じくらいあり得ねえ」


 「あの二人、案外気があったりしてね」


 キールに犯人と疑われたマギーも、キールの怒声に終始怯えていたルーミも、すっかり仲直りして彼と打ち解けている。器が広いのか良くも悪くも子供っぽいのか。微笑ましい限りだ。


 「お、見えてきましたよ師匠」


 「そうだな、メルー君。ようやく南の関所だ」


 先頭を歩くユカリとメルーが立ち止まる。二人はすっかり師弟関係が馴染んでいた。


 彼らの視線の先には、崖の切れ目とそこを塞ぐように建てられた関所が見えた。赤っぽい石を積み上げた壁の真ん中に、重厚な黒塗りの扉がそびえ立っている。その扉はぴったりと閉じられていた。


 関所の前の衛兵――キラーザでは守衛と呼ばれるらしいが、彼らにレナが話しかける。


 「守衛さん、キラーザの町に寄りたいのだけれど、冒険者カードで通れるかしら?」


 「やあ旅のお方。キラーザまでよくぞお越しいただいた。しかし残念ながら現在町は封鎖中だ。おかしな事件が立て続けに起こったもんでね」


 「おかしな事件?」


 「実は町長の親戚に次々と毒を盛られてな。命は助かったんだが、かなり危なかったんだ。それが片付くまでは関所を開けるなというご命令だ」


 何ということか。僕らが財布盗難で頭を悩ませている間に、こんな大事件が町で起こっていようとは……。


 「それ、いつまで掛かりそうなのよ?」


 ユカリが守衛に詰め寄る。


 「実はもうそんなに掛からないだろうってのが上の判断なんだ。事件を計画した奴らは捕まったしな。町長の町の運営をよく思っていなかった勢力がいたのさ」


 「何だ、犯人は捕まってるの。それじゃあ解決したも同然じゃない」


 「いやいや、実はそいつらは計画しただけで、実行犯は別にいるってんだよ。特殊な毒が使われていたから恐らく本当だ。今はそいつらを追っているところなのさ」


 それにしてもこの守衛、「実は」と言って機密っぽいことをべらべら喋ってくれるな。口調もどんどん崩れてきている。こんながばがばセキュリティで大丈夫なのか?


 「それがもう少しというところなのね。具体的にはいつ通れるようになるの?」


 「ああ。2、3日で解除されると思うぜ。実はこの町に来ていた冒険者がその毒を使う奴を知っていてな。手伝ってくれたんだ。1度は追い付いて戦闘までしたらしいんだが、あと少しのところで逃げられちまって」


 「逃げられちゃダメじゃない!」


 「いやいや。まあそれなりに犯人も手傷を負ったらしいから、そう遠くには逃げていないはずさ。腕利きの刑事が事に当たっているし、もう少しには違いない」


 守衛はふんと鼻を鳴らしてどや顔をする。自分のことではなかろうに。


 「それにしても困ったわね。2、3日もこの盗人と野宿なんてあたしは嫌よ?」


 「ええ、僕もそう思います。逃げられるリスクも上がる。守衛さん」


 「何だい、少年?」


 「実は僕ら、近くの茶屋で窃盗事件に遭遇して、その犯人を連行してきているんです」


 僕の言葉に合わせてバートンがブラコを突き出す。彼は守衛にふてぶてしい顔を向けて「よお」と笑いかける。


 「この男が窃盗犯か。お茶らけて遊んでいたのかと思ったよ」


 「こいつだけでも引き渡せませんかね?」


 「ああ、いいだろう。上に聞いてみなきゃ分からんがな。この関所にも一時的な牢屋はある。しばらくここで預かって、きっと町の刑事局まで連れていくと約束しよう」


 刑事局とは町の事件や防犯を扱う役所だ。事件の裁判なんかもここで行われ、罪人の罰を決定する。刑事とはつまりその役所に勤める役人の総称だ。刑事と守衛によってキラーザの治安は守られているのだ。


 守衛は横にいた無口な守衛にブラコのことを話す。彼は頷くと関所の詰め所のようなところへ歩いていった。


 「今聞いてもらってるからちょっと待っていてな。ところで旅人さん方、そんな大所帯で一体何をしに?」


 お喋りな方の守衛が僕らに話しかける。改めて振り返ると、僕らはユカリとバウアー一行を加えて17人に膨れていた。無論、ブラコは除いてである。確かにこの大人数で旅をしているとなると、何の集団なのかと気になるところだ。


 「あたしたちは砂漠に逃れてきた難民をキラーザに護送しているところよ。その途中で同じくそこに向かっていた人たちと合流してね」


 「なるほど護送か。それは大変だな」


 「私たちはその道中で人探しをしています。トットという人をご存知ないですか?」


 ポットとリットが前に出てきて守衛に尋ねる。二人の目的は兄探しだ。


 「マギーたちも人を探してるんだったニャ。キューとアリアの情報求ムのニャ」


 マギーが思い出したように尋ねる。手には貝殻やらよく分からない石やらが握られている。マギーとルーミの目的は王都へ行って、マギーの師匠アリアを探すことだ。アリアはキューの情報を追ってポエトロを発ったのだった。


 「あ、私はサーミアさんが今どこにいるのかも知りたいです。ゼルダさんの夢のためにも、私の修行のためにも」


 サーミア。ゼルダの夢である聖都ペトラの復活に必要な「月の踊り」を継承しているかもしれない人物だ。ベリーダンスの祖でもあり、踊り子であるルーミの憧れの的だ。


 「なるほど、皆さん旅は共にすれど、目的はそれぞれ異なっているということか。しかし私はただの守衛。皆さんの力にはなれそうもないな、すまん」


 お喋りな守衛は申し訳なさそうに頭を下げる。


 「いえいえ、頭を上げてください。いきなり聞いた私たちが悪かったんです」


 ルーミが守衛の頭を上げさせる。


 「お嬢さん、小さいのにしっかりしたもんだ。その優しさを忘れないようにな。ところで旅人さん方、もしかしたらあの人なら何か知っているかもしれんぞ?」


 「あの人……?」


 「カレンさんと言って、ここいらで出回る噂話なら大体知ってる噂好きの姉さんだ。この先の温泉宿の女将をしているから、宿も取れるし話も聞けるし、一石二鳥だな」


 守衛は笑う。しかし温泉宿とは。僕らはキラーザに着いたあと、温泉宿に寄ろうと話していた。何故なら。


 「その温泉宿ってもしかして、アデルってやつがいるかもって言ってたところかニャ?」


 「そうかもしれないわね。キラーザの外れの火山の麓って言ってたかしら」


 道の先を見てみると徐々に坂がきつくなり、やがて山に向かっていた。山の所々からは湯気らしきものも見えている。


 「アデル?何だい、旅人さん方はアデルさんの知り合いかい?」


 マギーが出した名前に反応したのは、今度は守衛の方だった。


 「アデルさんっていやあ、さっき話した毒の犯人を追ってくれている冒険者の名前だ。そういえばカレンさんの宿を拠点にしてるって言ってたな」


 「ニャんと!!」「これは驚きですね」


 マギーとルーミが驚く中。


 「旅先で犯人探しですか。ふふっ、アデルらしいわね」


 ゼルダは納得がいくという感じで笑っていた。


 「あ!ゼルダちゃん、アデルさんの名前が出てなんだか嬉しそう!!」


 ララがからかうと、ゼルダはみるみる紅くなっていく。


 「だ、だからそんなんじゃありません!!」


 「私、嬉しそうって言っただけだよ?宿屋に留まっていてくれたらいいって話だったもんね。どうしてそんなに赤くなってるのー?」


 「う、うぅ……。ララさん意地悪です」


 「とりあえず目的地は決まったな。カレンさんに話を聞き、温泉宿に泊めてもらって、アデルとも再会か。これは宿に向かうしかねえだろ!」


 ポットが高らかに宣言する。


 そこへ詰め所に確認に行っていた無口な衛兵が帰ってきた。


 「うむ、その盗人の身柄は問題なくこちらで預かれることになった。その男のことは私たちに任せ、皆様方はゆっくり温泉で体を休めるが良かろう。気を付けていくのだぞ!」

 

 「ええ、色々とありがとう。よろしく頼む」


 こうして僕らは衛兵にブラコを任せ、温泉宿へ向けて歩き出したのだった。





―――温泉宿「かれん」


 「ちっ、あいつまでここの客だったのかよ。ぬかったぜ」


 そう思いながらも優雅に寛ぎながらグラスを傾ける。あたいはさそりの毒の使い手、エリモ砂漠で遊牧を生業とする集落アレーナの異端児だ。


 11歳で集落を飛び出し、この毒の扱いを売り物にしてどうにか生きてきた。最近になってようやく名が通り出した頃、あいつが目の前に現れたのだ。


 アデル……。昔から正義感の強い奴だった。さそりの毒を使って魔物をいたぶっていたあたいに、何度となく突っかかってきた。人より少し年が上だからって偉ぶって、同じ集落の仲間であるあたいに剣を振り上げてる方がよっぼど悪いだろう。


 昔からあたいはあいつが嫌いだったが、とうとうあたいの稼業まで潰しに来やがった。アレーナの恥さらしだ?知ったこっちゃないね。人間生きていなきゃ意味がねえ。


 あたいにはアレーナの暮らしは向いていなかった。それだけの話だ。あいつらはあいつらで今もお気楽に暮らしてんだろ?ならアデルも一緒に家畜に餌やってりゃ良いじゃねえか。まったく……。


 「あたいはあたいの色で生きていく。ここで捕まってたまるかよ」


 窓の向こうに立ち込める湯気が、傾き始めた陽を受けて七色に輝いていた。

さて、いよいよ大きな事件の方も動き始めましたね。キラーザの町でもテオンたちは厄介ごとに巻き込まれていくようです。


そして何より温泉宿。もはや定番シーンとなったお風呂回ですが、本作でもきっちり踏襲させていただきます。噂好きの女将、アデルとの再会、一晩の宿、お約束の温泉、そしてこれから始まるサスペンスの現場……。作者的には一石五鳥のロケーションで御座います。


それでは今後の展開もどうぞお楽しみくださいませ。次回更新は3/3です。ひな祭りだ!

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