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チート勇者も楽じゃない。。  作者: 小仲酔太
第4章 煙の彼方に忍ぶ謎
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第8話 名探偵ユカリちゃん

【前回のあらすじ】

 容疑者を絞るために知恵を出し合うテオンたち。ふと謎の痕跡にルーミが気付き、ララが魔道具の補助で気配察知を展開。遂に犯人の手がかりを掴み、ユカリが事件の解決を宣言したのだった!


 「分かったわ!この事件……ユカリちゃんが頂いた!!」


 ユカリが高らかに叫ぶ。


 「え、もうですか!?」


 リットが驚く。


 「犯人だけでなく、ちゃんとその手段や決定的な証拠まで見つけたんでしょうね?」


 レナが詰め寄る。今の言い方、レナには犯人の目星はついているということか。


 「もちろんよ。決定的な証拠はこれからだけど、要は財布が見つかれば良いんでしょ?細かいことは気にすることないよ。さて……」


 ユカリは座敷に上がり、顎をさすりながら俯きがちにゆっくりと歩く。


 「ええ~、皆さん。今までの手掛かりと~私の推理によるとですね……犯人は~この中にいます!」


 いちいち間延びした言い方で勿体つけて喋る。


 『くすくす……』


 僕の頭の中でライトがひとり笑っているが、他に笑ったものはいない。


 『いや、スキルの知識に似たような言い方の探偵がいるんだよ』


 ……だそうだ。もしかしたらユカリの故郷の推理小説のキャラなのかもしれない。


 「……それは何?」


 レナが呆れた様子で尋ねる。


 「い、一度やってみたかったのよ。本当こういうの通じないのがもどかしいわー。何でもない、こっちの話よ」


 「それで犯人は誰なんだよ、おい!」


 キールが叫び声を上げる。この状況で小芝居を挟まれるのは心臓に悪い。


 「ごめん、遊びはここまでにするわ。でも、あなたはもう少し心に遊びがあった方がいいわよ」


 「えっと……私が曖昧な魔物の気配を感じ取ったところで分かったんですよね?」


 ララが先を促す。


 「そうそう。気配察知では位置を特定できなかったのよね。あたしはスキルによって隠されてるんだろうと思ったんだけど」


 レナも加勢する。つまり今はスキルで姿を隠している魔物の仕業ということだろうか。


 「そうね。確かにそれで犯人が何であんなことをしたのかが分かったのよ」


 「あんなこと?」


 「そう。証拠隠滅のためにお茶をこぼしたってこと」


 お茶をこぼした?それって……。茶屋中の視線がブラコに集まる。


 「ほう、つまり嬢ちゃんは俺を犯人だと思ったわけか」





 「じゃあまずあの水の垂れた跡の説明から始めるわね。あれは間違いなくララちゃんが察知した水の魔物が通った跡よ。スライムが生息している湿地帯の地面なんかに、似たような這った跡があるわ」


 「スライム?」


 ミミが首を傾げる。


 スライムとは湿地帯や沼地、浅い池などに生息する全身ゲル状の魔物だ。生命力は強いが知能が低く人に害をなすことはほとんどない。


 体組成のほとんどが水のため、乾燥した地域では生きられない。砂漠に暮らしているミミやゼルダが知らなくても仕方がなかった。


 「うん。恐らくあれはスライムが這った跡だろうね。スライム単独じゃ盗みを働くなんてことは考えられないけど、魔物使いのごく単純な命令なら聞けるらしいわ」


 「へえ、そうなのか」


 ブラコは初めて知った風に答える。しかしユカリの言う通り彼が犯人なら、彼こそがスライムに命令をした魔物使いと言うことだ。


 「まあその魔物が何なのかは大した問題じゃないわ。問題はその跡が途中で途切れたということ」


 「マギーが拭いちゃったのニャ」


 「そう。犯人はわざとお茶をこぼして床に残った水の跡をかき消した。お茶を拭けば一緒に魔物の跡も消してくれるってことね」


 「でもそれじゃお茶がこぼれたところまでしか拭けないのニャ。その先はどこへ行ったのニャ?」


 「だから犯人は床以外の通り道を用意したのよ。あなた、お茶をこぼしたときどうしてこっちを向いていたの?」


 「そりゃ君たちの話を聞いていたんじゃないか。華やかな女の子たちの談義に耳を傾けない男なんていないだろ?」


 ブラコはあっけらかんと言う。


 「いいえ、それにはちゃんと目的があったのよ。あなたはこちらを向き足を投げ出していた。スライムはその足を上ってあなたの元へ帰還した。その後足元からお茶をこぼせば当然、這った跡は手前から消していける」


 「確かにそれなら床の跡は消えるな。だけど俺の服が濡れているはずだろう?」


 「自分の服なんていつでも自然に拭けるでしょ。跡といっても少量の水なんだから」


 「ふう。聞いてる限りじゃただの言い掛かりにしか聞こえないな」


 「それでもいいよ。手段があったことさえ言えれば良いんだから」


 「犯人が俺だと言う根拠は他にあるってことか?」


 「勿論」


 ユカリは得意気に笑うと、ブラコの前まで歩いていった。


 「あなたの右ポケットに入ってる財布、見せてくれるかしら?」





 「財布?財布が何だって言うんだ?いくら財布を盗ったからって、それを隠したまま自分の財布を見せりゃ何の問題もねえじゃねえか」


 「そうね。問題ないなら見せて?」


 ユカリは尚も動じず財布を見せての一点張りだ。ブラコはそんなこと無駄だと言うが、見せる気配は一向にない。


 「じゃあちょっと失礼するね」


 そう言うとユカリはいきなりブラコの右のポケットを上から叩いた。ぽんと乾いた音が鳴る。


 「何を確認したかったのかは知らねえが、財布の代わりにスライムが入ってると思ったのなら残念だったな」


 ブラコはそう言うが、どこかぎこちない。恐らく今、彼にとって喜ばしくない状況になったのだ。


 「そうか。まさかそんな簡単な方法で追い詰められるとは失念してたわ」


 レナが呟く。ルーミが不思議そうにレナを見て尋ねる。


 「どういうことですか?」


 「ブラコが会計するところ、見えたんだけどね。彼、財布を出さなかったのよ」


 「はあ……?」


 そういえばそうだった。僕もその様子を見ていた。ポケットから銀貨をそのまま取り出して支払い、お釣りもそのまま受け取っていた。それをどうしたのかは見ていなかったが、財布を取り出していないということはそのまま財布に突っ込んだのだろうか?


 「彼が財布を持っているのなら今見せれば良かった。無いのなら無いと言えば良かったのよ。もし彼が財布を持たず硬貨を裸で持つのだとすれば問題はない。その場合……」


 「受け取ったお釣りがそのままポケットに入っているから、音が鳴るのか!」


 僕は思わず叫んでいた。


 「テオン君、正解よ。今ので音が鳴らないということはお釣りはちゃんと財布の中に入っているか、あのポケットが収納の魔道具になっている……」


 レナの解説で遂にキールがブラコに突っ掛かる。バウアーももう彼の後ろ襟を掴んでいない。


 「おいてめえ!そのポケットの中身見せろや!!」


 そのまま手をポケットの中に突っ込む。


 「なんだこれ!中がめちゃめちゃ広くなってやがる!!」


 「な!?貴様、勝手に!!」


 ブラコはキールの手から逃れようとするが、既に彼の後ろに回り込んでいたバートンが羽交い締めにして拘束する。


 「お、何か見つけた!」


 キールが手を引き抜くと、そこには茶色い革財布が握られていた。


 「あった!俺の財布だ!!」


 「キール、お前の冒険者カードは入ってるか?」


 バウアーの言葉にキールは財布からすっとカードを引き抜き、にっと笑う。カードにはキール・サルートの文字がしっかりと刻まれていた。


 「決定的な証拠ね。観念しなさい」


 レナの言葉にブラコは舌打ちをする。


 「これにて一件落着ね。盗難事件なんて、この名探偵ユカリちゃんの手に掛かれば楽勝よ!!」


 ユカリのピースサインがブラコの眼前に突き付けられた。





ーーーキラーザの町へ向かう道


 その後ロープで縛られたブラコの身柄は、僕らがキラーザの守衛に引き渡すことになった。ようやく会計を済ませ、僕らは茶屋を出たのだった。事件の間会計のことをすっかり忘れていたレナは、あらからがっくりと肩を落として歩いている。


 茶屋の店員はユカリに頻りに感謝していた。財布の盗難くらいで大袈裟とも思ったのだが。


 「あんなに怖い人の財布があのまま見つからなかったらと思うと、私たちにまでどんな難癖をつけられたものかと……」


 犯人のブラコよりも被害者のキールの方が恐れられていたようだ。まあ仕方がないかなと思う。今も怯えたままのルーミがポットに抱きつきながら歩いている。


 ……と、いうのも。


 「貴様、俺の財布盗んでおいてハズレとはどういうことだ!!」


 「そのままだよ。盗んだ金で砂漠を越えようと思ってたのに、あの額じゃポエトロどころかクレーネまでも持ちゃしねえ。どのみちペルーの宿屋辺りでもう一度盗みを狙わなきゃいけなかった」


 「ふてぶてしい野郎だな、おい!俺の財布は世界を股に掛けるんだよ!働きながら旅する真面目な冒険者のための財布なんだよ!!」


 先程からキールとブラコはずっと言い合っている。


 ブラコの連行は力の強いバートンがやってくれているのだが、バウアーたちもキラーザに向かっているらしく、茶屋からずっと連れ立って歩いているのだった。


 「キール、もういいだろ。お前がそうやって声を張り上げてると、ルーミちゃんがずっとびくびくしてるんだよ」


 「あ!?何でだよ!!俺はただこいつと喋ってるだけだろ?怖がる方が悪い」


 「お前はルーミちゃんに感謝のひとつもねえのかよ!ルーミちゃんがスライムの這った跡を見つけたんだぞ?」


 「あ!?そうだったか?よく覚えてねえや」


 ケインの言葉にもキールの反応は薄い。ずっと頭に血が昇りっぱなしで、周りのことは全然見えてなかったらしい。


 「そうだぞキール。ルーミちゃんにはちゃんとお礼を言っておけ」


 「そうか。バウアーが言うならそうしよう」


 彼はバウアーの言うことだけはちゃんと聞くようだ。二人が同じ冒険者パーティで本当に良かった。


 「で、ルーミってのはどいつだ?」


 キール、一緒に行動するには間違いなく骨の折れる男だ。


 「そこの怯えてる子だよ。ちゃんと怖がらせてごめんも言うんだぞ」


 「ああ。お前がルーミか?怖がらせて悪いな。だがこれぐらい平気にならなきゃ生きていけねえぞ?」


 「そうじゃねえだろキール!あともうありがとうを忘れてるよ!!」


 「あ、そうか」


 キールは頭を掻きながら口を開く。


 「ルーミ、それとユカリ……財布見つけてくれてありがとな!!」


 彼の満面の笑みに、気付けばルーミの表情も和らいでいた。

これで第4章ひとつめの事件解決ですね。まだまだ本章は続きます。何しろ章題の「煙」がまだ全然出てきていませんからね。


ミステリー調にするとどうしても一つ一つのシーンを長くなりますね。下手したら30話くらいまでいっちゃいそうで怖いです。


どうかこの先もお付き合いくださいませ。次回更新は3/1です


P.S.この回でUA1000人達成しました。本当に皆様読んでいただいて有り難う御座います。今後とも精進して参りますので、どうぞよろしくお願い致します。

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