第3話 サンゲーン茶屋
【前回のあらすじ】
ペルーの宿屋を出たテオンたちは谷を越える吊り橋に差し掛かる。恐怖を紛らわすため、リットは推理クイズを出したのだった。考え出したのも束の間、レナはあっという間に答えに辿り着く……。
「犯人分かったわ。1抜けね!」
レナの言葉に一同声を揃える。
「「「嘘っ!!」」」「絶対嘘ニャ」
「ふふん、あたし実は天才なのよね。あとマギーは信じてないでしょ」
「だってレナが分かるわけないのニャ」
「失礼ね!」
レナはマギーの頭をこつんと殴る。
「それにしても驚きました。こんなに早く解かれたのは初めてです」
リットが素直に驚く。一方ポットは。
「実は聞いたことあったんじゃねえの?ポエトロの町ではそこそこ有名なクイズだったからな」
「そうなんですか?」
ルーミが尋ねる。
「何でも昔に活躍した英雄様が残したクイズらしくてな。解いたら伝説の宝の在処が分かるって、しばらく町の掲示板に貼られていたんだ。結局宝なんて嘘だったけどな」
「英雄様?もしかしてミドリ様一行のことですか?」
「そうそう。クイズにも出てくるだろ?」
「へえ!英雄様の名前と同じと思ったけど、まさか本人が出題者とはね。他の名前も変わった名前だし不思議だとは思ったのよ」
英雄ミドリ様?そんな人がいたのか。ルーミもレナも知っているらしいし有名なのだろうか。
「掲示板に貼られていたときは誰が解いたのですか?」
メルーは別のところが気になったようだ。
「ふふ。私たちのお母さまですわ!それもまだ子供の頃に!」
リットがえへんと自慢げに胸を反る。
「子供時代に解かれたのですか。それは負けていられませんね」
「さあ、ちゃんと考えてくださいまし。橋を渡ったら答え合わせにしますわ!!」
それから僕らは橋を渡りながらクイズについて考えていた。おかげで警戒していた橋の真ん中部分も難なく通過できたのだが、そんなことよりもクイズが解けない方が気に入らなかった。
容疑者たちの供述を思い出す。皆ひとりずつ嘘をついているのだから、最後に渡ったと言うアカネと私が犯人だと言うミドリは何が嘘なのかすぐに分かる。問題は……。
「何でアオイとモエギは2つずつ証言しているのですか!!」
ルーミが珍しく声を荒げる。
「場合分けして考えたら良いの?何かに書いて考えなきゃ分かんなくなっちゃう~」
ララも苦戦しているようだ。村では頭の良い方なのだが……。
「時間切れが近付いてきてるのニャ~」
マギーは既に橋を渡りきろうとしていた。
「ちょっと、だからって止まらないでよ!」
レナが通せん坊をするマギーを押して対岸に着く。
「もう少しで分かるところだったのに!」
「今考えれば良いでしょ?まあ夜ならまだしも昼のあんたには解けないでしょうけど」
「何だと!?レナ、マギーのこと馬鹿にしたニャ!大体夜だって知能は変わらないんだから、どうせ分かったふりして黙ってるだけニャ!」
え!あの冷静で頼りになる夜マギーと騒がしいだけの昼マギーの知能が同じ!?まさかの告白に仰天するうちに僕も対岸についてしまった。
「テオン君も時間切れね。こういう推理ものは苦手なのかしら?」
「村では推理クイズなんて無かったから……」
いや、前世では当然あっただろうけど、僕はそういうのは苦手なので縁遠かった。
「あ、ポットさん先行かないで!!」
ポットはあと少しで渡りきるというところで、ルーミを離して先に進んでしまった。
「もう少しだから一人で頑張ってみろ!」
ポットが振り返ってルーミを勇気づける。しかし……。
「あ!!振り向かないでください、橋が揺れる……」
「え、ごめん……。でも振り返らないと後ろの様子見えないし」
そのとき……。
「分かったぁ!!」
いつの間にかルーミたちより後ろを歩いていたミミが大声を上げる。
「きゃあっ!!」
ルーミが驚いてしゃがみこんでしまった。
「ミミ、こんなところで急に大声を出すなよ。びっくりして落ちる人がいたらどうする!」
「えー?そんなんで落ちる人なんていないよー」
ミミの後ろでメルーやマールが青い顔をして横の蔓に捕まっている。後ろを見てみなきゃ分からない、か。そういえばレナはクイズの答えが分かる前に、アカネたちが振り向いたかどうかを気にしていたっけ。
最後に思いもよらぬ危険に見舞われながらも、僕らは何とか橋を渡りきった。気を逸らさせてくれたリットには感謝だが、僕は寧ろクイズの答えが気になって仕方がない。
橋の向こうにはうっすらと道が伸びていた。道と言っても草を刈っただけの簡素なものだが、それが道と分かるほどには緑が増えていた。
道の左側に木製の家が見える。表には幟がはためいており、「サンゲーン」の文字が揺れる。
「おお!あれが茶屋ですね!私は早くあそこに行きたいです」
メルーが興奮してレナを急かす。
「では茶屋でお菓子を食べながら答え発表にしましょうか」
「大賛成ニャー!」「お団子食べたいー!!」
マギーとミミは賛同するや否や既に駆け出している。こうして僕らはここ、サンゲーン茶屋で一服することとなったのだった。
茶屋は大きく戸口の開かれた茅葺き屋根の平屋で、木製家屋だからかアルト村の家に似た雰囲気を感じさせた。表には幟の横に3、4人掛けられる丸太の長椅子があり、店の奥にはさらに広い飲食スペースが設けられていた。
近付くと奥から店員の女性が出てきた。ピンクのワンピースに白い前掛けをつけた格好が茶屋の雰囲気とあべこべな気がするが、僕が世界のことを知らないだけでここではこういうものなのだろうか。
「いらっしゃいませ!どうぞごゆっくりしていってくださいな!!」
店の中はカウンター席と座敷に分かれていた。入って正面のカウンター席には男が一人座ってお茶をすすっている。左手の座敷では女の子が一人で三色の団子を頬張っていた。
僕らは座敷に入った。机を2つ使って13人がぞろっと座る。それだけで店の半分を埋めてしまった。
僕らは思い思いに甘味を注文し、出されたお茶を啜る。半分ほどはお店の看板メニューらしい三色団子を頼んだ。ゼルダがおすすめだと言っていたし、隣の女の子が食べていたのが美味しそうだったのだ。最も楽しみにしていたであろうメルーはあんみつというものを頼んでいた。前世でも聞いたことのない不思議な名前のお菓子だ。
「さて、結局答えが分かったのはあたしとミミだけ?」
レナが得意気に皆の顔を見回す。いよいよ正解発表だ。何だかんだでここまで時間もあったので考えてみたのだが、僕にはやはりこういうのは向かない。
「二人のどちらか……というところまではいったのですが、それ以上は絞れなくて」
ルーミがしょぼんとして言う。いや、考えていただけでも凄いと思う。吊り橋の恐怖を忘れたかった一心というのもあるのかもしれないが、考える余裕もないと思っていたので意外だった。
「ミミが分かったなんておかしいのニャ。きっと嘘なのニャ!」
「マギーはすぐそうやって疑うー。自分が出来ないからって他人も出来ないと決めつけるのは愚か者のすることよ?」
ここぞとばかりにミミが調子付く。だいぶいらっとした。
「じゃああたしとミミでせーので答えを言おうか」
「いーよ!あたしの頭脳がついに証明されるのね!せーの」
「モエギ」「モエギ!!」
「…………おかしいニャ」
マギーがぼそっと疑問を呈する。
「今のは完璧なお膳立てだったニャ!そこはミミが自信満々にレナと違う答えを言うところニャ!おかしいニャ!!」
「マギーは何目線で言ってるの?」
「まあまあ、マギーさん今はミミさんのキャラ付けについては置いておいて、クイズの話をしましょう。お二人とも正解です。犯人はモエギでした」
「やったー!」「当然よ」
ミミは素直に喜ぶ。
「でもどうしてなんですか?私はどうしてもアカネが犯人の可能性を排除できなかったのですが」
ルーミが尋ねる。
「え?アカネ?どうしてアカネが犯人になるの?」
今度はミミが首を傾げた。ミミの中ではアカネは容疑者にも上がらなかったらしい。対するレナはさらに満足げな笑みを深めていく。
「そう、あることに気付かなかったらルーミちゃんみたいになるのよ。それでモエギかアカネってところまで辿り着いたのなら凄いわ!」
「どういうことですか?」
「では答え合わせも兼ねてレナさん、ルーミさんルートの解法を踏まえての解説をお願いできますか?」
「任せなさい!!」
「ニャハハハ!ミミはそこまでは分かってなかったからレナの勝ちニャ!!」
「むー!!正解だったんだからいいじゃん」
ーーーレナの解説
まず容疑者の証言を思い出してね。
アカネ「私1番後ろだったけど、本当に突き落とした人なんて見てないわ」
アオイ「モエギが最初で私は3番目でした」
モエギ「アカネはアオイより後、私より前に渡った」
ミドリ「ごめんなさい、私がやりました」
嘘がひとつずつだから、アカネとミドリはそれぞれ一番後ろっていうのと犯人だっていうのが嘘。犯人は一番後ろか後ろから2番目だから、ミドリが3番目より前になるわね。
次にアオイの2つの発言、「モエギが最初」と「アオイは3番目」を片方ずつ考えるわよ。
モエギが最初なら、モエギはアカネより前に渡ってるからモエギの発言の後半が嘘。だから前半の「アカネはアオイより後」が本当になるわね。ミドリは犯人じゃないし、アオイが犯人ならアカネは突き落とすところを見たはずだから、このときはアカネしか犯人はいないわね。
次にモエギが最初でなくてアオイが3番目のとき。犯人ではないミドリはアオイより前になるから、犯人はアカネかモエギね。このときモエギの発言のどちらかが嘘になると、アカネはアオイとモエギの二人よりも前か後になる。アカネが犯人なら二人より後ろ、モエギが犯人なら二人より前になってどちらも辻褄は合うわね。
4人の供述に矛盾しない並び方は次のパターンよ。
・モエギ、アオイ、ミドリ、アカネ、ユカリ
・アカネかミドリ、アオイ、モエギかユカリ
・ミドリ、モエギ、アオイ、アカネ、ユカリ
このままなら容疑者は二人のどちらか。でも、この解き方にはひとつ大きな見落としがあるわ。見落とさなければ、このクイズはもう少し簡単になるのよ!
この回で覚えておいて欲しいことは、レナは頭が良いということ、マギーは意外にもキャラを気にするということ、そしてクイズの容疑者の名前です。
純粋にクイズを楽しんでもらえたのなら、頭を捻って考えた私はとても嬉しい限りです。
ですが娯楽小説の一部分としてさらりと解説を読むだけでも構いません。展開が進んだ後で見直したらこんなクイズが伏線に!?と驚いてもらうのが目標です。