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チート勇者も楽じゃない。。  作者: 小仲酔太
第3章 旅は道連れ、よは明けやらで
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第18話 光明

【前回のあらすじ】

 ララに迫るティップとマイク。ララの弓を警戒する彼らはテオンを人質にする。そこで奇襲を掛けようとしたテオンだったが失敗し、ララが麻痺弾の餌食に。焦るテオンは……。

 光が漏れる。身体全体が光る。膨らんでいく。広がっていく。この感覚は……やばい!でももう、止められない……!!


 光の力が暴走しそうになったそのとき、その声は聞こえた。


 『ダメ!落ち着いて、冷静になって!それ以上は……』


 声は直接頭に響いていた。この感覚には覚えがある。あれは……この力を手にしたときだ。




ーーー前世


 『何を泣いている、青年』


 その声は突如頭に響いたのだった。あれはどこかの町の宿屋だった。何でだったかよく思い出せないが、僕は枕に顔を埋めて声を殺して泣いていたんだ。


 『勇者にならなければ、好きな人に嫌われたまま……だと?随分ちぐはぐなものを天秤にかけているのだな』


 ああ、そうだ。姫様に嫌われたんだ……。彼女は一人で町を出ていってしまった。僕には追いかけることは出来なかった。そんな資格もなかったんだ。


 『私は歴代の勇者の手を渡ってきた光だ。お前の力になりに来たのだが、好きな人をどうこうできるかは分からんな』


 声はよく分からないことを言っていたが、勇者候補が覚醒するとき、その力は何者かに授けられるのだと聞いていた。この声がその何者かだというのだろうか。


 『この力は他のものとは格が違う。勇者として世界を魔王から救い、なお余りあるものをお前にもたらすだろう。その分背負うものも多い。青年よ、お前は何を欲する』


 (勇者たりうる力を。世界を救う力を。彼女をもう一度振り向かせられるほどの力を)


 『ふふ。お前は変わっているな。良かろう……世界の半分を、お前にやろう』


 (世界の半分……?)


 『気にせずとも良い。これまでも勇者となった者たちに言ってきた、所謂おまじないのようなものだ。では健闘を祈るぞ』




ーーー現在


 『君…………。君っ!!』


 (ん……)


 『こんなときに何ボーッとしてるの?』


 目の前には広がりゆく光。もう僕には止められない。再び悲劇が起こってしまうのだ。


 『ねえ、僕の声聞こえてるでしょ!!』


 (お前は……何者だ?)


 あのときの声と、確かに同じところから聞こえている気がする。だけど、その口調というのか声色というのか、全く別人の声のようだった。


 『僕?僕は……ええと、誰だろ?君?』


 (え?)


 『そうそう、僕は多分君だった者だよ。だけど今は違うかな。光?自分は光だっていう感じがする』


 僕だった者……。つまりロイとしての意識が覚醒する前、前世の記憶を思い出すこともなくアルト村で育っていた元のテオンの人格……ということだろうか。それが……光?あのときの声と同じことを言っているのか?


 『あ、その前世の名前はあまり思い浮かべない方がいいかも。君はテオン。いいね?そうすると僕はなんだろう?ねえ、適当に名前をつけてよ』


 (名前?お前に?)


 『そう。僕は元テオンだけど今は君がテオンだし、僕ももう元のテオンじゃないから。というか僕のことをテオンって呼んじゃうと良くないことになるんだよ。よく分からないけど』


 何を言っているんだ、こいつは……。


 『とにかく名前だよ。適当でいいから』


 (じゃ、じゃあ光だからライト……とか?)


 『ライト……か。何だか背筋が寒くなる名前だね。僕には名前を知られちゃいけないとか、どこかにノートを隠し持ってるとか』


 (どういうこと?)


 『あ、いや何でもないよ。どうも光になってから知らない記憶に触れることが多いんだけど、意味の分からないものばかりなんだ。とにかく僕はライト、か。うん、いいんじゃないかな。よろしくね、テオン』


 目に見えはしないが、声がニコッと笑う幻覚が見えたような気がした。頭の中に知らない人が住み着いたような妙な感覚だ。謎の声に授けられた力と、それを携えた転生……。二つの不思議現象は今、ライトという像を頭の中に結ぶに至ったということだろうか。


 『おっと、そんな悠長にしている暇はなかったね。この暴走を何とかしなくちゃ』


 ああ、そうだった。今はまさにこの光の力が暴走している真っ最中だった。まさかこれまでのことは僕の現実逃避から生まれた妄想だったり……。


 『失礼な。僕は妄想じゃないし、力は暴走している最中(・・)ではないよ。この光の景色は君の心証風景にすぎないし、僕との会話も時間経過を伴うものではないからね。力はこれから暴走しようとしているんだよ』


 (心証……時間経過……何だって?)


 『まだ何とか出来るってことだよ。暴走させたくないんでしょ?』


 ライトは明るい声で言い切る。まだ何とか出来る……。その言葉に、僕は急速に現実に引き戻されるような感覚を覚えた。あの日出来なかった光の制御を、今度こそ成し遂げる。


 『今度は僕も、付いてるからね!!』


 いつの間にか焦りも消えて冷静になっていた。




 右手に熱が集まっている。高密度の魔力が今にも飛び出しそうに暴れている。余裕がないのは変わらない。


 『このまま解き放たれたらララまで巻き込まれちゃう。君の今の熟練度では、抑え込むことも範囲を最低限にすることも無理だ。だけど指向性を持たせることは出来るよ。光の玉の半分だけ作るイメージで、せめて敵の方に向けよう。ララのピンチを救う切り札には違いないからね』


 ライトが的確に指示を出す。前より光を制御するイメージも沸かせやすくなっている。後ろ手に縛られているため感覚で制御するしかないが、これなら何とかなるだろう。暴れ狂う魔力を慎重に動かして半球を作っていく。


 改めて周りの状況を確認する。真正面にはティップ。その足元にはララ、ポット、リットが倒れている。僕とトットは船の荷台にうつ伏せで倒れたまま。マイクは右前方で、今荷台から降りようとしている。


 宿屋は左の方。ゼルダたちも正面よりは左寄りにいるはずだ。正面遠方には動きを止めたアルタイル本隊、すこし右に逸れたところには流砂に埋もれた者たち。


 光を下に向かわないように前に向ければ二人だけに照射できる。広範囲に光が及んでも、左に向けなければ少なくとも味方は巻き込まない。光によって敵がどうなるのかは正直よく分からない。消えてしまうのか、どこかに移動させるのか……。


 構わない。これは戦いなのだ。やらなければやられる。何より仲間を……ララを巻き込むよりは遥かにましだ。


 『暴発する!!早くもっと固めて!!』


 全意識を手に集中する。半球は膨らんでいく魔力によって若干押されている。暴走が始まってから今まで実際一瞬の出来事だ。制御するにも限りがある。だけど……。


 (もう誰かを失うのはごめんだ……!!)


 かっ!!ぴかーっ……!!


 この日、この世界に2年ぶりの「消滅の光」が発生した。目の前が真っ白に染まり、右前の男を飲み込み、正面の男を飲み込み、尚も前方に広く広がって、砂漠の一角を白く染めていった。




ーーーゼルダサイド


 「い、今の光は……?」


 「これは……だいぶ前に西の方で観測された消滅の光に似ていますね……。は!ゼルダ様、ご無事ですか!?」


 「え……ええ。光はどうやらララさんがいる方からアルタイルの本隊に向けて飛んできたようですね。もしかしてララさんのスキル……とか?」


 「スキルですか……?あ、テオンさんが光のスキルを使っていらっしゃいました。ここまで大きなものではありませんが……。隠していた本当の力とかでしょうか?」


 「そうですか。それにしても強力な力ですね。あれほどいた敵が乗り物ごとすっかり無くなってしまった……」


 「まさに天罰というものです。思い知ったか、アルタイルの奴らめ!」


 「ファム!!……そのようなことを言うものではありません。これは……最早そんな生易しいものではありませんよ。テオンさんたちは恐らく、敢えてこの力のことを私たちに言わなかったのでしょう」


 「申し訳ありません、ゼルダ様……。しかし、それはどういうことでしょうか」


 「過ぎた力は災い以外の何物でもないということです」


 ゼルダは大きく抉れた砂漠の大地を見て唇を噛む。彼女たちのすぐ近くまで及んだ光は、砂漠の表層の砂をも消して地形ごと変えていた。流砂の罠を仕掛けた場所は、砂に埋もれる前のオアシスがあった地層までが剥き出しになっている。


 「あの光にもし私たちが飲まれていれば……きっと…………」


 ゼルダはそっと目を伏せそれ以上の明言を拒む。ファムは初めて思い至ったその可能性に、さっと血の気を失い、改めて何もなくなった光の通り道を見るのだった。




ーーーテオンサイド


 どさっ。


 僕は敵船の荷台から砂地に転がり落ちていた。膨張した光の勢いに圧されて広がった半球は、荷台の床面を少し削っていたのだ。そこから僕が向いていた方向に向かって、光は円錐形に広く広がりながら、しかし確かに前方だけに向かって真っ直ぐ前に伸びていった。


 制御は……成功したのだろうか。


 『今の君に出来るベストだったと思うよ』


 脳内でライトが肯定する。首を捻ると僕と同様に砂地に転がる3つの影が見える。こっちに足を向けた二人と、黒いセミロングの髪を砂に広げるララ。


 ああ、良かった。光は3人には届いていないようだ。


 逆に右上にいたはずのマイクの姿はどこにもなかった。暴走して広がった光に真っ先に飲み込まれた彼は、あの日のハウンドたちのように一瞬でどこかへ消え去ってしまったのだった。


 さっきまで敵として憎みすらした相手だったが、この光に飲み込まれてしまっては償わせることもできない。煮えきらない思いが胸に渦巻くのを感じた。


 だが、ゆっくり黙祷を捧げる時間はない。未だ緊張を解いていい状況にはなっていなかったのだ。


 「くっ……!おいおい、何なんだよ今のは!!」


 ララたちのすぐそば、もう一人残った影が怒声を上げる。


 「あいつらは……?マイクは……?おい!てめえ、一体何をしやがった!!」


 周りを見回しても状況を掴めないまま怒りと恐怖で狂ったように叫んでいるのは、さっきまで確かに僕の正面にいて、光の通り道のど真ん中に立っていた黒幕の男、ティップだった。


 『ベストな結果とは……ならなかったみたいだね』

遂に登場ライト君。新世界の神ではないです。


気になる言動が多いですが、取り敢えずは災難続きのテオン君の味方となるべく現れた救世主です。


次回の投稿は2/9です。

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