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チート勇者も楽じゃない。。  作者: 小仲酔太
第3章 旅は道連れ、よは明けやらで
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第13話 死者を弔う鎮魂の歌

【前回のあらすじ】

 ペルーの宿屋に到着したテオンたち。女主人ネクベトの情報力に驚きながらも安心して一休みすることに。テオンは光の力をある程度使えるようになり、特訓の成果を噛み締めていた……。


 「そうかい……ペトラを復活させようと……」


 ネクベトはゼルダの話を聞きうんうんと頷いている。翌朝、僕らは宿の広間に集まっていた。今後どうしていくかしっかり話し合うためだ。ネクベトは10年前までペトラにいたらしく同席していた。こちらも彼女の情報力に期待している。


 「そのために儀式をしようと思うんです。太陽の踊りだけに簡略化した形式的なものではなく、省略なしの完全な儀式を」


 「あたしが若い頃はまだ簡略化はされてなかったから、力になってやれることもあるかもしれないねえ」


 「なんと!!まさか完全版をご存知の方がいらっしゃるとは!確か30年前には若者の儀式離れから廃止されていたとありましたが……」


 「ああ。そのとき若者だったのが今50歳前後のあたしらの世代だね。金にならない儀式なんかより商売に精を出そうって、皆で長老に掴みかかってさ。ありゃ酷いもんだったよ。結果守護の力は弱まって都は滅んじまった。おかげであんたたちにまで苦労をかけるね」


 ネクベトは頭を下げる。


 「そんな、頭を上げてください!!ネクベトさんのせいではありませんし、誰のせいでもありません。都が繁栄しているときには儀式は必要とされなかったというだけのことです。歴史の必然とも言えましょう。


 それにアルタイルの襲撃さえなければ、儀式の復活が可能な最低限の知識は伝承されていたのです。だからこそ私たちは希望を捨てなくて済んでいる。必ず儀式を復活させてみせますよ!」


 ゼルダはネクベトの手を握ってそう宣言する。その小さな背中はとても逞しく見えた。彼女なら成し遂げられると信じられた。


 「そういえば、ネクベトさんが長老になればいいのでは?ゼルダさんが長老というのは何だか……」


 僕の隣に座っていたララがぼそっと呟く。


 「あはは。そうか、確かにゼルダちゃんが長老ってことになるんだね。長老は何も最年長がなるってだけじゃない。魔力の高いアローペークスがなるものさ。あたしには無理だよ。順当にいっても20年後にはゼルダちゃんが長老になっていただろうさ」


 なるほど……。やはり長老ゼルダは変わらないのか。長老はレナの膝の上にちょこんと座っていた。真面目な話の最中に申し訳ないが、この絵可愛すぎる……。この世界では魔力が高い人ほど長く生きるという法則がある。確かに魔力が高い種族が長老になるのは必然だ。


 「そうだ。月の踊りの継承者には心当たりがあるよ」


 「えっ!?」


 「昔旅人がペトラで踊りの修行をしていたことがあってね。儀式を見てその芸術性に感動したとか言ってさ。月の踊りを覚えてからそれをアレンジして売り物にしていたのさ」


 「なんと!?神聖な月の踊りを見世物にですと!!けしからん方ですね」


 「こらファム、そんな言い方をするものではありません。私たちの頼みの綱となるかもしれないお人ですよ」


 「あはは。まあ気持ちは分からなくもないけどね。儀式を蔑ろにしたあたしらが言えることじゃないかもね。その旅人はかなり有名になったらしいから、生きてりゃ足取りを掴むのは可能だろう。サーミアって踊り子を知っているかい?」


 この言葉に真っ先に反応したのはルーミだった。彼女はララとは反対側で僕の腕に抱きついている。


 「サーミアさんですか!?あの伝説の踊り子の!!」


 「ルーミちゃん、知ってるの?」


 「クレーネの教会でシスターが教えてくれたじゃないですか。ベリーダンスの祖で伝説の踊り子とも言われた、踊り子界のカリスマですよ!」


 この興奮したルーミには見覚えがある。確かに教会を発つ前にそんな話が出ていた気がしないでもない。


 「まさかベリーダンスの元になったのが……?」


 「月の踊りさ」


 「なるほどね。サーミアさんが元の踊りを覚えていれば、こっちは解決か」


 「マギーは大地の歌って方が気になるニャ!そっちは心当たりないのかニャ?」


 マギーがふと顔をあげる。僕の後ろから首に抱きつくようにしてうとうとしていたのだが、そこはさすが歌い手というべきか。


 というか僕の格好明らかにおかしいんだけど。右隣にララ、左腕にルーミ、後ろからマギー。三方を女の子に囲まれていて身動きが取れない。何で誰も突っ込まないの?


 「大地の歌なら心配ないよ」


 ネクベトが豊満な胸を張る。


 「何なら今から歌ってみようか?」


 「「「え!?」」」





 僕らは宿の屋上に来ていた。宿の地上部分は階段を囲むだけの小さな小屋だと思っていたが、その屋上には小さなステージらしきものが拵えてあった。


 「あたしはね、よくここで歌を歌うんだ。大地の歌を継承したのはもう30年以上前だし、既に後継に伝えてあたしは歌い手を引退しているけどね」


 ネクベトは話しながらステージに上がる。周りを飛んでいた鳥の魔物たちも集まってくる。敵意は全くなかった。


 「儀式の歌と踊りにはそれぞれが意味を持っているんだ。太陽の踊りは豊穣の祈り、月の踊りは子孫繁栄、そして……」


 彼女はふと目を閉じる。しんとした静寂の砂漠に澄んだ空気が広がる。


 「大地の歌は鎮魂。死の大地で眠りについた者たちに、せめてもの安らぎと天への導きを祈るのさ」


 そう言ってネクベトは静かに歌い出す。澄んだ歌声が砂の大地に響きわたる。心が安らぐ音律だ。


 この数日悲しい話ばかりを聞いていた。ゼブラたちの都が滅ぼされ、ミミたちの集落が滅ぼされ、クレーネの町も襲撃を受けた。隣の帝国では戦争が起きている。どれだけの尊い命が失われたのだろう。


 僕らも命を奪った。アルタイルからの追っ手を、最低限とはいえ二人殺している。戦いの中でのことだとはいえ、砂漠のただ中に死者を放り出して逃げてきた。アルタイルは憎いが、彼らも生きた人間だ。何を思って奴隷狩りをしているのだろう。そんなことをふと考えてしまったのだった。


 「綺麗な歌ニャぁ~」


 気付けば歌は終わっていた。集まっていた魔物たちが思い思いに飛び去っていく。マギーがうっとりとした表情になっている。本職が認めるほどネクベトの歌は見事だった。


 「あたしたち人間は生き残るためにどうしたって戦わなくちゃならないときがある。嫌になるねえ。この砂漠じゃただでさえ生きるのに必死だってのに、何が悲しくて生き延びた命を奪い合わなきゃならないのか。あんたたちも命は大切にしなくちゃいけないよ」


 ネクベトはそう言って寂しげに笑う。


 「はは。しんみりしちゃったね。中に戻ろう。そろそろ眠いだろう」





 部屋に戻った僕らはネクベトの言う通り眠りにつくことにした。僕もしばらくベッドに入って目を閉じていたが、何だか眠れる気がしなかった。疲れているのは確かだが、心が落ち着かないのだ。起き出して宿の中をふらふらとするうち、先程の広間にやって来たのだった。


 「あれ、レナさん?どうしたんですか?」


 「あら、テオン君。どうかしたわけじゃないんだけどね、眠れなくて」


 レナは広間の長椅子に座ってコーヒーを飲んでいた。眠れないときにコーヒーというのはおかしな気もするが、実はレナはコーヒー党らしいのでそっとしておこう。


 「僕もです。ネクベトさんの歌を聞いて、初めてアルタイルに殺された人たちに思いを巡らせた気がします」


 「アルタイルかあ。今までエリモ砂漠がこんなことになってるなんて、知りもしなかった。王都の軍部に所属する人間として恥ずかしい限りだわ。報告したら国は動いてくれるかしら」


 「そっか。これは国際問題ですもんね。何とかしてもらわなくちゃ」


 「宿に着いてすぐ報告書は書いたわ。こういうのは忘れないうちにやっとかないとね。あとは上次第だけど……」


 レナが溜め息をつく。憂い顔が美しい。今までお気楽な姿ばかりを見てきたので、こういう真面目モードを目にするのは新鮮だ。実は強い道具魔術師だったり、Aランク冒険者だったり、この旅でレナの意外な一面を色々見てきた。残念美人という印象も少し変わってきた気がする。


 「こればっかりは考えてても仕方ないわね」


 レナはくいっとコーヒーカップを傾けた。そのまま立ち上がり僕の方へ歩いてくる。目の前まで来ると僕の頬にいきなり手を添えてきた。


 「ところでテオン君、最近随分モテモテなんじゃない?」


 突然にやつき、顔を近付けてくる。


 「そんなんじゃないですよ。てかレナさん、近い……」


 僕はレナの手を払い除け、そっぽを向く。


 「赤くなっちゃって、可愛い。ねえ、お姉さんの気分転換に、付き合ってくれないかしら?」


 「な!?」


 レナが色っぽく上目遣いになる。残念とは言ったが彼女は間違いなく美人だ。長い睫毛が縁取る切れ長めの大きな目が僕の顔を覗いてくる。白い手で自らのボディーラインを強調するようになぞる。スレンダーだが大人の魅力を満足に湛えたその身体は、15歳の少年を昂らせるのに十分な色気を振り撒いていた。


 「レナさん、急におかしいよ?どうしてこんな……」


 「レナって呼んで?」


 「え?」


 「レナって呼んで?その方が、お姉さん嬉しい……」


 徐々に顔が近くなる。顔が熱い。相当赤くなっているだろう。


 「くく……あは、あっはは」


 そのとき急に笑い出した。


 「本当テオン君可愛いー!!冗談よ冗談!あっはっは。いやー、最近あたしの影薄いなーと思っててさ。ま、いい気分転換になったよ、ごめんねー」


 くそ……。どうやら気分転換にからかわれただけらしい……。


 「あ、でもレナって呼んで欲しいのは本当かな。何かレナさんって呼ばれるのは距離感じるし……すごい歳上扱いされてるようで何かイヤ」


 そう言ってレナは部屋に戻っていった。頬を染めた後遣り場を失った血の気が頭に上っていた。いつかやり返してやる……。荒れ狂う心臓は落ち着く様子を微塵も見せなかった。


 どたどたどた。


 そのとき、ネクベトが慌てて走ってきた。


 「あ、一人見つけた!大変よ!!」


 息を切らしながらも叫ぶ。遂に事態が動き出したようだ。


 「アルタイルが動き出したわ!大人数で、すごい早さでこっちに向かってるって!!」

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