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チート勇者も楽じゃない。。  作者: 小仲酔太
第3章 旅は道連れ、よは明けやらで
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第12話 ペルーの宿屋と女主人

【前回のあらすじ】

 ゼルダたちと岩影で休むテオンが夢に見たのは、前世で行った魔族狩りだった。一方、クレーネの町ではプルース三兄妹の依頼人である商人ティップが、良からぬ行動を始めていたのだった……。


ーーー5日後


 僕らはアルタイルの襲撃を退けた後、順調に北東へと歩を進めていた。上空には鳥型の魔物が飛んでいるが敵意はないらしい。澄んだ空を悠々と飛ぶ姿は開放的で羨ましくすら感じられた。


 「やっと見えてきた。あれが砂漠の入り口、ペルーの宿屋ね!」


 いつの間にか先頭を歩いていたレナが立ち止まる。石造りの小さな建物はとても大人数で泊まれるようには思えなかったが、入ってみるとそれは地下に通じる階段を覆っていただけだと気付く。下りてみるとそこはかなり広い宿だった。


 「驚きの広さニャ。これならこの人数でもゆっくりできそうニャ」


 到着したのはすっかり日も暮れた夜だったが、宿の中はほどほどに暖かい。砂漠の地中は快適な温度に保たれているのだ。


 「やあ、ようこそいらっしゃい。待ってたよ、あんたたち」


 宿屋の女主人がレナとゼルダに声をかけている。二人の知り合いだろうか。


 「あんたはテオンって言ったかしら。女の子達からかなり頼りにされているってことは、見た目に依らず大人びてるのかしら?」


 何!?何故僕のことを……!思わず僕は警戒する。


 「あはは。そんなに警戒しなくてもいいじゃないか。あたしはここの店主ネクベト。ちょっとした情報通ってだけさ」


 「情報通……?」


 見るとレナとゼルダはくすくすと笑っている。


 「びっくりするわよね!あたしも初めての時はかなりビクンとしちゃったわ」


 「ネクベトさんは砂漠で起きたことなら何でも知っているのです」


 「何でもは知らないさ。鳥たちが見たことだけ。あたしは鳥の声を聞くことが出来るの。さて、可愛い男の子にばかり構ってもいられないわ。部屋の準備は出来てるけど、泊まりでいいかしら?」


 「ええ。追っ手が掛かるかもしれないけど、出来るなら2日はゆっくりしたいわ」


 「アルタイルの連中ならまだこっちに向かってはいないそうよ」


 「アルタイルの様子が分かるんですか!?」


 「情報通だからね!」


 ネクベトはウインクをして見せる。40代くらいだろうか。可愛らしいおばちゃんという感じだ。何でも見通してしまいそうな目が優しく微笑む。


 「それじゃ何か動きがあったらすぐに伝えるわね。男4人女7人ね。4人部屋3つ取ってあるから好きに使ってね」


 こうして非常にスムーズなチェックインを終え、僕らは三部屋に分かれた。部屋割りは次のような感じだ。


 バートン、メルー、ファム、テオン。

 レナ、ゼルダ、マール。

 マギー、ララ、ミミ、ルーミ。


 僕らは久し振りの広い部屋で、しばし身体を休めるのだった。ミミの騒ぐ声が聞こえる。彼女はゼルダと合流してからよく笑うようになった。初めて会ったときは不安と緊張で堅くなっていたが、こっちが素なのだろう。


 若い女の子が集まれば騒がしくなるのは仕方のないことだ。寧ろ打ち解けていることを喜ぶべきなのだろう。……ってあれ?あいつら二つ隣の部屋じゃなかったか?




 

ーーーララたちの部屋


 「久し振りのベッドだー!!」


 ミミが勢いよくダイブする。


 「ミミ、少し落ち着くニャ」


 「マギーは夜モードだとノリ悪い!つまんないー!」


 「しー!ミミさん声が大きいです。隣の部屋に聞こえてしまいますよ」


 「ふふ。ミミは随分元気になったね。最初に会ったときとは別人みたい」


 「え、そう?」


 こくこくと皆頷く。えへへと頭を掻くミミ。しばらく談笑に浸る。


 「そうだ!ララちゃん、ずっと聞きたいと思ってたんだー」


 ミミはずいっとララに顔を寄せる。彼女は女子だけで話せるときを待っていたのだった。


 「ララちゃんはテオン君と付き合ってるの?」


 「え!!」


 ララは不意打ちに思いっきり赤面してしまう。


 「どうもそこまでの関係ではないようです」


 ルーミが口を挟む。


 「でもララちゃんはテオン君のこと好きなんだよね?」


 「うぅ~……」


 ララは真っ赤になって俯く。しばらくしてこくんと頷く。ミミがにまーっとする。その耳はしかしルーミとマギーの方も向いていた。ミミは僅かに心臓が跳ねる音も聞き逃さない。


 「ふーん、テオン君そんなに良い男なんだ!」


 「ちょ!どうして私たちまで見てるんですか?」


 「へへー。ララちゃんは二人に遠慮して踏み込めない感じ?」


 「えっ!いやそういうわけじゃ……ってマギーもなの?」


 「私は別にそういうんじゃないニャ。ただ……いい加減相手は欲しいと思うニャ。それがテオンなら……」


 仄かに赤くなる。


 「昼間の私はかなり意識してると思うニャ。恋に恋してるってやつだとは思うニャが、その……悪くはないと思うニャ」


 「そんな……マギーじゃ分が悪いかも」


 ララが目に見えて落ち込む。


 「えー!それどういうこと?テオン君はマギーちゃんが好きなの?」


 「ううん、でもテオンは……年上が好きだよ。落ち着いた人が」


 「え、そうなんですか?」


 ルーミが肩を落とす。逆にマギーはさらに食いつく。


 「誰かそういう人がいたのかニャ?元カノとか」


 「いや……うん。村にいるハナって言うお淑やかなお姉さん。昔から好きだったみたい」


 「その人とは付き合ってるの?」


 「ううん。ハナには付き合ってた人がいて、まだ忘れられていないみたいだから」


 「ニャー、今度はそっちに男かー」


 「ミミ、マギーの真似をするニャ。そのハナが元カレと復縁することはないのニャ?」


 「実は……その人は村では行方不明扱いだったの。だから皆で忘れさせようとしてたんだけど……」


 ララはマギーを見る。


 「この旅でその行方が分かるかもしれないから……」


 「どう言うことニャ?」


 「マギーの師匠のアリアさんが好きだった人、キューって言うのよね。アルト村にいた……」


 「ニャ!?まさか……」


 「ハナとキューね、5年前から付き合ってたの」


 「それじゃあ、アリアは失恋……いやいや、それよりも行方不明だったキューが最近目撃されて、テオンは一緒に探そうと言ってくれたニャ。それって……」


 「テオンさんにとっては、好きな人の待ち人を探してるってことですか……」


 「どうしてそんなことするニャ?見つからない方が……」


 「でもキューはテオンとも仲良かったから、見つかるなら嬉しいよ」


 「ねえねえ!整理して良い?マギーの師匠のアリアさんが好きなのがキューって人で?キューと付き合ってたのがハナって人で?ハナのことをテオン君が好きで?そのテオン君のことが好きなのが……この部屋に3人?」


 「私は別に好きって訳じゃないニャ」「私もそういうわけじゃ……」


 「もー、どうなってるの!修羅場どころじゃないじゃん!」


 「ミミ、このことは絶対秘密だよ?」


 「分かってるって……あ!私たち普通に話しちゃってるけど、これくらいの声ならクネリアンの耳には、壁越しでも部屋を挟んでも聞こえちゃうよ」


 「「えーっ!!!」」


 女子部屋の恋愛話に隣室のゼルダとマールは真っ赤になり、レナに百合を疑われたのはまた別の話。


 一方、もうひとりのクネリアン、ファムには女子トークは聞こえていなかった。彼は今、テオンと一緒に戦闘訓練をしていたのだった。





 かんっ!!ずざざ。


 ファムは僕の剣を受け流す。だが衝撃を逃がしきれず砂地を滑る。僕とファムは宿屋のすぐ傍で剣を打ち合っていた。ただし僕は剣を左手で握っている。


 「テオン殿は両利きだったのですか?左でもそれほど強いとは……」


 「いや、一応左手でも剣を振る鍛練を積んでいたんだ。まだ2年だから右手ほどじゃないんだけど」


 その右手には光る玉が握られている。いや、実際は光を球状に収束させて右手に留めているのだ。僕は光の力を右手でしか使えない。これは前世から同じ。故に記憶が戻って以来、剣を両手で扱えるように練習していたのだった。


 エリモ砂漠に入ってから本格的に始めた光の力の制御も、ある程度出来るようになってきた。まだビー玉ほどの大きさにしかならないが、これを発散させないように維持できれば、少なくとも暴走させることはなくなるだろう。


 修行はゼルダたちと合流してからも欠かさず行っていた。その様子を見に来たファムと、いつからか打ち合い稽古をするようになっていた。彼は堅苦しい物言いとは裏腹に気さくな男だった。光を維持しながら剣で戦う。これはかなりいい修行になるのだ。


 「ん?我々の気配に反応した魔物がいるようです」


 「あ……そっか。いつもと違って今は魔物が活発に動く夜だもんね」


 僕らの前に現れたのは蛇の魔物、サンドサーペントだ。普段は砂に潜んでいる大型の蛇であり、横向きに移動する特有の動きは本気を出せば人の足より速く動く。その飛び跳ねるような螺旋の動きは美しくすらある。


 「魔物の前後から挟み撃ちしましょう」


 ファムは定石通りに動く。


 「いや、ここは僕に任せて」


 僕は敢えて横から間合いを詰める。蛇は鎌首をこちらにひねり、少し警戒して間合いを取った。そして一気にこちらへと身体を投げ出す。首は反動をつけるように後ろに反っている。


 「今だ!!」


 右手に閉じ込めた魔力を少しだけ開くイメージ。僕は玉の形に収束させていた光を少し伸ばした。そのまま前へ腕を伸ばす……。


 すぱっ。


 蛇の胴体は真っ二つに切れていた。光のナイフ。前世で作った光の剣ほどではないが、その切れ味は流石の一言だ。勢いをつけて迫ってきた首も左手の剣で打ち落とす。やはり両手を使えるようにして正解だ。


 「ふう……」


 「嘘……信じられん……。サンドサーペントは刃を通さない堅い皮革が特徴なのだが」


 「まあ、刃じゃないからね」


 僕はにこっと笑って右手に視線を落とす。光のナイフを再び玉に戻す。大丈夫、使えている。まだ放出するのは怖いが、光による切断ができれば色々と幅が広がるだろう。特訓の確かな成果を噛み締めるのだった。


 「あんたたち、もう部屋に戻りな。夜も更けたし砂嵐も迫ってるよ!」


 ネクベトが扉を開けて僕らを呼ぶ。誰にも見られずに出てきたつもりだったが、やはりばればれらしい。中に入ると温かいスープが二人分、湯気をあげて待っていた。

宿屋に着くまでの5日の間に、徐々にくだけていくミミやファムとテオンが打ち解ける話とかも考えていたのですが、話を進める方を優先して全カットしました。ご要望があれば番外編として書くかもしれません。

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