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チート勇者も楽じゃない。。  作者: 小仲酔太
第3章 旅は道連れ、よは明けやらで
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第10話 アルタイル参上!!

【前回のあらすじ】

 教会に保護されたヒューマン以外の難民を連れて、クレーネの西にある大岩に向けて出発したテオンたち。かつてペトラという都があったそこで、小柄なアローペークスの少女ゼルダと出会ったのだった。

 「皆さん有り難うございました。砂漠の聖都ペトラ、最後の長老ゼルダ様に代わりお礼申し上げます」


 「「「長老!?」」」


 見た目は9歳のルーミと同じくらいの少女であるゼルダを、僕より年上だろう銀髪のクネリアンが長老と呼んだ。僕らは揃って驚きの声を上げる。


 「やめてください、ファム。私は長老ではあれどそう呼ばれるような歳じゃありませんから」


 「長老ではあるんですね……」


 ゼルダはきりっとした顔でルーミを見る。


 「私はここ、聖都ペトラの生き残りです。今残っているのはかつて巫女だった私と戦士だったファムのみ。しかし私は必ずこの都を復活させて見せます。だから……生き残った二人のうちで歳上の私が長老として必ず」


 ぎゅっと拳を握りしめる。


 「ゼルダさん……ファムさんより歳上なんですか?」


 「私が17歳でゼルダ様が22歳です」


 「「「22歳!?」」」


 また一同仰天する。ミミがくすくす笑っている。


 「でもゼルダちゃんって呼んでいいんだよね!!」


 ミミは気にせずゼルダに抱きついている。道中に詳しく自己紹介したのだが、ミミは14歳でゼルダよりはるかに年下だ。その割りに発育が良いのでゼルダと並んでいたら分からなくなる。マギーとルーミもそんな関係だし、この洞穴では年齢がちぐはぐだ。


 改めて自己紹介し合う。バートン35歳、元奴隷の牛人間(ミノタウロス)、メルー28歳、元奴隷の羊人間(クリオス)。ゼルダ22歳、ペトラの巫女。ファム17歳、ペトラの戦士。マール17歳、ミミ14歳。マールとミミは遊牧をしていたクネリアンの集落の生き残りだった。


 「私たちは5年前、聖都を滅ぼされてからこの洞穴を拠点にして、ペトラ復興に必要な儀式を調べていました。そのときはまだ生き残りが10人以上はいたのですが、ひと月前にクレーネから帰る途中で再びアルタイルの襲撃を受けたのです。彼らの狙いは愛玩奴隷にするための珍しい種族を捕らえることでした。


 私はアローペークスの中でも特に珍しい、大人になっても子供のような姿の希少民族。故に仲間たちは私を守るために戦って……。珍しい銀髪のクネリアンであるファムと一緒に捕まって……。


 そこでミミとマールに会いました。牢屋のような荷車で帝国へ運ばれる間、ずっと励ましてくれて。私の夢を応援してくれて……。そして戦争の騒ぎに乗じて心ある兵士の方に逃がしていただいたのです。


 私は助けられたこの命全霊をかけて、行き場をなくしたすべての砂漠の民のために、大岩に守護された聖都ペトラを必ず復興させてみせます!」


 ゼルダの決意は洞穴中に響いた。洞穴にいる全ての者の心に響いた。


 「すべての砂漠の民のため……か。若いのにその志のなんと立派なことか!」


 「ええ。私感動しました。出来る限りの協力はさせてもらいましょう!」


 バートンもメルーも燃え上がっていた。短い付き合いだが熱い男たちのようだ。


 「それで?ペトラ復興に必要な儀式って何?」


 レナが水を飲みながら尋ねる。彼女の年齢は未だ不詳だがメルーの28よりは下だろうか。


 「聖都ペトラは大岩に歌と踊りを捧げることで、加護を授かり守護の力を賜ってきたのです。その始まりは大地に浮かぶ太陽と月……。そして私たちアローペークスの巫女には太陽の踊りが伝わっています」


 「踊り……ですか?」


 これにはルーミも大きく乗り出す。


 「ということは、月の踊りもあるということですか?」


 「はい。月の踊りと大地の歌。それらは聖都に住むヒューマンの踊り子とアレクトリデウスの歌い手に伝わっていたはずでした」


 「え……?でも生き残っていたのは……」


 「はい。既にそれらを伝えられた者は……。ですが調べるうちに彼女たちの日記が見つかったのです」


 「日記!?じゃあそれを読めば儀式が……?」


 「ふふ、それならいいんですけどね。その歌と踊りは聖都の秘術。そう簡単に残すようなことはしません。文字で残っていたって再現できるものではないですけどね」


 「そんな……」


 「でも確かにこの日記は希望です。ここには……」


 そのとき……。


 ビーッ!ビーッ!ビーッ!ビーッ!


 聞き覚えのあるけたたましい警戒音。ララの持つアラートボールが敵を感知したのだった。アラートボールはレナが持っていたときは魔物に反応するだけだったが、感知範囲が広すぎるララの場合は少し違う。ララが敵と判断しうる存在に限り反応する。すなわち敵意のある魔物か、または……。


 「アルタイルです!!アウルム帝国出身の一定以上の戦闘力を持つヒューマンですが……恐らく」


 「距離は?」


 「まだ5000Mメトロほど。この速度ならまだ少し時間あるけど走るよりは速い。それにここに真っ直ぐ向かってきます!」


 「ここがばれたと?」


 「とにかく迎撃体制よ。この洞穴はどこかに通じてる?」


 「はい。奥に進めば大岩の北東に出ます」


 「丁度良いわ!そのまま北東へ進むわよ!」


 「「はい!!」」


 洞穴を進み外の様子を探る。太陽がほとんど真上に出ていた。かなり過酷だがそうも言っていられない。だが途中で熱にやられて動けなくなったら命取りだ。


 ターバンに水をかけて頭を冷やしながら進むことにする。何もしないよりはましだろう。


 「あたしたちの移動に合わせて奴らの移動の向きが変わった!奴らの中に気配察知できる人が一人いるみたい」

 

 ララが叫ぶ。


 「ララちゃんみたいに気配を察知する力を持っているのかしら。それじゃあ普通に逃げるのは無理ね」


 「僕らで足止めしよう!一番の狙いは恐らくゼルダさんだ。ゼルダさんとファムさんはこのまま北東へ!ララがいれば敵が動きを変えても先回りできる」


 「それでいきましょう。マールさんはゼルダさんに付いていってください。ミミさんは私たちと一緒に。いざというときはまた足を鳴らして連絡を取れます」


 こうして僕らはゼルダと行く組とアルタイルを迎え撃つ組に分かれた。迎え撃つのは僕とララ、レナにマギー、バートンだ。敵の数は4人らしい。十分だ。





 「けっ!厄介な気配が道を遮ってると思えば……女子供ばかりじゃねえか!」


 「俺たちの邪魔をするんなら容赦しねえぞ?ヒューマンには興味ねえがなあ」


 「あの猫獣人は結構可愛いじゃねえか。高く売れそうだな」


 奴らが現れた。アルタイルの者たちは全員黄色のスカーフを首に巻き、轟音を鳴らす1人乗りの乗り物に乗っている。前世の2輪自動車のようだがタイヤがない。魔力で浮いて走っているようだ。


 「我々はアルタイル、ただの狩猟団体だ。邪魔するようならお主らも帝国に来てもらうぞ」


 他の三人を率いているらしいリーダー格の男が名乗りを上げる。彼らにとって奴隷狩りはただの狩猟行為というわけか。


 「ここはメラン王国領です。好き勝手は許しませんよ」


 「いいや、この砂漠は帝国領だ。メラン王国の侵入を許してしまっているが代々ここは帝国が治めている。お前たちは不法入国者だ。我々に従え!」


 僕に国際的な問題はてんで分からないが、レナが心底面倒くさそうな顔をしている。これ以上触れるのはやめておこう。


 「とにかくここは通さない。覚悟はいいか!」


 僕は剣を構え腰を落とす。あのタイプの乗り物は突進力は脅威だが、小回りは苦手だ。ただ運転するだけなら問題はなかろうが、戦いの中でというなら話は別だ。近い間合いで細かく動いて攻撃するのがいいだろう。逆に距離を取られると一方的にやられかねない。


 敵が武器を抜いたのを見て駆け出す。


 「いくぞ!!」


 他の者も一斉に動き出す。


 ララがまず先制攻撃を仕掛ける。ハイル譲りの弓の腕はディンには及ばないが、遮るもののない砂漠で的を外すようなことはない。リーダーの横にいた若い男をさっくりと射抜く。


 「おい何だよ、今の!弓矢の威力じゃねえぞ!」


 「お前ら気を付けろ、ただ者じゃないぞこいつら」


 敵が構える武器は金属製の筒のようなものだ。どうするつもりか知らないがこちらに筒の先を向けている。


 「気を付けろ。あの筒は無属性の魔力弾を飛ばしてくるぞ」


 バートンが砂に手を突いて土魔法を発動する。砂がみるみる集まって壁ができる。さらにもうひとつ大きな塊を作り、それを投げつけた。マギーも壁の裏に移動しながらナイフを投げる。


 かん。どん。


 二人の攻撃は敵に辿り着く前に弾かれた。どうやら魔法で障壁が張られていたらしい。


 「他のやつは弓兵(アーチャー)ほどじゃねえ。先に撃ち取るぞ!」


 奴らの筒が火を吹き、無数の弾が飛んでくる。接近していた僕を掠めるが、細かく動いていれば当たることはない。ララたちはバートンの作った砂壁に身を潜めている。そのまま先頭のリーダーの車両に飛び乗る。


 「貴様!化け物か!」


 「どうやってあいつは防護壁を越えた!?」


 敵はかなり混乱している。ひとまずこの指揮官を落とせばかなり楽になるだろう。


 リーダーは驚いて剣を抜くがもう遅い。剣を持つ手ごと切り落とす。そのまま顔面に蹴りを入れ、筒を取り上げてから乗り物の外に放り出す。


 残りの3人を見ると怯えきった表情をしていた。お前らもこれまで相当のことをしてきただろうに……。奴らは焦った様子で乗り物を動かし始める。次の狙いはリーダーの後ろに隠れていた男だが、自分で動いてくれるのなら都合が良い。


 「ひとまず撤退!撤退!」


 散り散りに逃げていく奴ら。ララがもう1射放ち、僕が狙っていた男をぱたりと撃ち落とす。


 「気配察知持ちは落としたよ!」


 指揮官は砂の上でもがいている。残る二人もララの弓の射程を出ていない。ゼルダの故郷を滅ぼした敵、このまま逃がすわけはない。そう思っていたのだが……。


 「よし、逃げるぞ!」


 僕は自分の考えに反して退却を選択していた。まるで勝手に口が動き出したようだった……。

大人になっても子供のような姿の狐耳の希少民族。ゼルダのモデルは砂漠に生息する最小のイヌ科動物フェネックです。小学生の時の国語の教科書に載ってて、可愛いその姿にメロメロになってたのは私だけではないはず……。というわけでアローペークスの小人族みたいな設定で堂々登場です。


そんな可愛い種族を滅ぼすなんて、アルタイル許すまじ!!


さらっと出てきたアレクトリデウスについてはテオンもまだ正体を知りません。そのうち会うことになるので、モデルが何の動物なのか一緒に考えてみて下さい。調べたら分かりますが。

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