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チート勇者も楽じゃない。。  作者: 小仲酔太
第3章 旅は道連れ、よは明けやらで
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第9話 失われた都と伝説の踊り子

【前回のあらすじ】

 難民を匿っている教会で、彼らを保護するヒルダたちとアウルム帝国に送り返そうとするプルース三兄妹との口論が勃発。テオンたちは帝国の奴隷狩りや人種差別に抵抗し、難民の護送を請け負ったのだった……。

ーーー翌朝


 「すみません皆さん。最近捕まえたオプリアンなら間に合うかもと思って商人さんに掛け合ってみたのですが、もう帝国に向けて出発してしまって手遅れだそうで……」


 がっくりと項垂れた様子で教会地下の宿泊室を訪れたのは、プルース三兄妹の末っ子リットだ。あのあと、既に引き渡したヒューマン以外の難民についても返してもらえないか、依頼人に掛け合ってくれたそうだ。結果は駄目だったらしいが。


 「そう……。残念だけど、追い掛けてまで取り返す義理はあたしたちにはないわ。後味は悪いかもしれないけど諦めましょう」


 レナが僕の肩をポンと叩く。


 「それに、この町で捕まったという方々は多分それほど酷いことにはなりませんよ」


 そう言うのは羊人間(クリオス)のメルーだ。この部屋で保護された二人の難民、羊人間(クリオス)のメルーと牛人間(ミノタウロス)のバートンはアウルム帝国で奴隷として働いていたらしい。


 「私たちオプリアンは帝国では大抵農作業に従事させられます。確かに職業選択の自由は完全にはありませんが、最低限度の文化的な生活は送れるようになっていますし、体力に優れた私たちにはそれほど過酷な労働でもありません。食事も美味しいですし有給休暇もあります。慣れてしまえば食いっぱぐれない良好な職場です」


 彼らから聞かされる話は前世で抱いていた奴隷のイメージとは少し違っていた。ちなみにオプリアンーーオプリアンスロープは牛や馬、ラクダなど所謂有蹄類から進化した人類の総称だ。


 「でもヒューマンから差別を受けたりとかは?」


 「そうですね。ヒューマンに会うことがあれば気持ちの良いことにはならないでしょう。しかしそこは住み分けがされていて、お互い滅多に会わないので大した問題ではないのです。私たちはね……」


 「私たち?」


 「帝国の奴隷には種類があります。農作業に従事するもの、軽工業に従事するもの、製造業の工場に勤務するもの……。そしてヒューマンに仕えるものです」


 「仕える……というのは」


 「文字通りです。召し使いとして、兵士として、そして愛玩奴隷として。ライカンスロープやアイルーロス、クネリアンなどはこの形が多いようで、悲惨な生活を強いられると聞きます」


 なるほど……。それに比べたらまだ自分たちはましだと……。


 「しかもヒューマンの領域にいるから俺らよりはるかに逃げづらい。ミミさん、よく逃げてこれたな」


 確かに、それなら兎人間(クネリアン)のミミは過酷なところから逃げてきたということに……。


 「いえ……私たちはまだ奴隷として売られる前でしたので……。奴隷狩りに集落を滅ぼされ、売り物として捕まっていたのですが、兵士をしていたライカンスロープのジェイクさんに助けてもらって、敵襲の騒ぎに乗じて……」


 「そうだったのか……。集落を……」


 「ええ。私は元々メラン王国領のクネリアンの集落にいたんです。平和に暮らしていたのに、突然……うっ」


 部屋にはしばらくミミのすすり泣く声が響いた。ララとルーミが背中をさすり頭を抱き締めている。それにしてもわざわざ隣国まで来て奴隷狩りなど……。


 「ひでえことしやがる……」


 空気が重い。そこへ教会のシスターがお茶やお菓子を持ってきてくれた。


 「もうこれからは大丈夫だニャ。マギーたちが奴らの手の届かないところまで送ってあげるのニャ」


 マギーが笑顔でミミにお菓子を渡す。昼マギーの柔らかな笑顔には場を和ませ心の傷を癒してくれる温かみがある。


 「ありがとうマギーさん。ゼルダちゃんみたい……」


 「ゼルダちゃん?誰ニャ?」


 「あ、ゼルダちゃんは私と一緒に逃げてきたアローペークスの女の子です。小さいのにしっかりしてて、笑顔がとっても可愛いんですよ。クレーネまでは一緒だったのですが、冒険者の方に追われたときに私たちで町の外に逃がしたんです」


 「あ……あのときの」


 リットには心当たりがあるようで気まずそうにしている。


 「しっかりしてるのはマギーじゃなくてルーミちゃんだよね」


 「マギーだってしっかりしてるときはしっかりしてるのニャ」


 「確かに夜マギーはしっかりしてるけどあまり笑ってくれないよ」


 「そんニャぁ」


 笑い声が起こる。やっぱり温かい。


 「皆さん」


 ミミが一転真剣な面持ちになる。


 「送ってくださる手前こんなお願いまでするのは失礼かとは存じますが、道中寄っていただきたいところがあるんです」


 「寄る?場所によるわね。どこ?」


 「ここから西にある大岩です。以前ペトラという都市があった廃墟なんですが……ゼルダちゃんの故郷なんです。ゼルダちゃんが無事に逃げ切れたとすれば、多分そこに……」


 「私からもお願い致しますわ。私たちは彼女を逃がして盾になったオプリアンのお二人を、無惨にも痛め付けて捕まえてしまいました。これが罪滅ぼしになるとは思いませんが、どうかゼルダちゃんを助けてあげてください!」


 リットは床に頭をつけてまで頼み込んでいた。


 「リットちゃん、頭を上げて!大丈夫よ、引き受けるわ!あくまで寄るだけで見つけてあげられる保証なんてないけど」


 ミミとリットはレナに有り難うと繰り返していた。ミミだけでなくリットも余程気にしていたのだろう。


 「ペトラ……どこかで聞いたことが……」


 ルーミが頭を悩ませている。どこかで聞き覚えがあるのだろうか。そこにシスターから助け船が出された。


 「ルーミさんは踊り子志望なのよね。なら伝説の踊り子サーミアの話で聞いたんじゃないかしら」


 「サーミア……それです!!伝説の踊り子サーミア!ベリーダンスの始祖様!その人が踊りを学んだのが、儀式舞踊を行っていたという砂漠のオアシス都市ペトラでした!」


 ルーミが興奮してまくしたてる。ベリーダンスの祖、サーミアが踊りを学んだ地。つまり踊り子たちにとって聖地のようなところか。


 「でも今は廃墟だと……まさかそこも……?」


 「……はい。5年前にアルタイルによる大規模な襲撃があって……」


 都市をひとつ滅ぼすほどの奴隷狩り集団……。アルタイルとは相当に凶悪な組織だということか。


 「まったく……ひでえことしやがる」


 バートンの野太い声がずしんと部屋一帯に降りたのだった。





 その日の夕方、昼寝をした僕らはメルー、バートン、ミミを連れていよいよクレーネを出発した。オアシスの辺りは夜になるとむしろ温かく、西に向かえば向かうほど寒さは厳しくなる。毛皮のコートで身を包みながら僕らは一路西へと向かった。


 西に向かえば帝国が近くなる。その分アルタイルの襲撃にも気を付けなければならなかった。ララの警戒網は常に展開されている。それに加えミミも聴覚の優れた耳をレーダーのように動かして、微かな音にも注意を払う。


 そんな神経質な旅が3日ほど続いた。


 「あれは何なのニャ?また蜃気楼かニャ?」


 クレーネを出て3度目の日が昇る。その照らす先に岩の楼閣が見える。近付くほどにそれは高さを増し、幻ではないことを空に向かって高らかに主張していた。


 「間違いありません。ペトラの大岩です!」


 ミミが嬉しそうに声をあげる。


 「テオン!岩の近くの洞穴(ほらあな)に人の気配がある!!3人くらい。敵!?」


 「3人!!ああ、3人とも無事だったんですね。実はゼルダちゃんのほかに、クネリアンのファムとマールも一緒に逃げていたんです。言い忘れてましたね!」


 「でも本当に彼女たちかどうか保証はないわ。警戒に越したことは……」


 真剣な面持ちになったレナをミミが制してウインクする。


 「簡単に確認する手段がありますよ!」


 そう言うとミミは屈んで手を突くと、右足の裏全体でだんと音をならす。その後爪先で地面をとんとんとリズミカルに叩き出した。兎はだんと足で音を鳴らして仲間に危険を伝えるらしいが、クネリアンはそれを利用したモールス信号みたいなことが出来るのだろうか。


 やがて微かにたんと音が聞こえる。僕には聞こえないがミミにはその後のとんとんという信号音も聞こえているのだろうか。


 ミミは振り返るとぱあっと明るく笑った。


 「ゼルダちゃんです!!皆無事だそうです!!良かった。皆さん有り難うございました!」


 「良かったね、ミミさん!」


 「日も昇ってきたしマギーたちも洞穴に行くニャ!」


 マギーとミミは岩の方へと駆け出していってしまった。僕は改めて大岩を見る。近くで見ると非常に大きい。建物にしたら5、6階はあるだろうか。全体的な真っ赤な岩だが、表面を風で削られたのか所々縞模様になっている。美しい岩だった。


 岩の周りを取り囲むように石造りの壁がちぐはぐな向きで並んでいる。大分砂に埋もれているが、元は家屋が並んでいたのだろうか。一際大きな聖堂のような建物も見える。片隅に祭壇のようなところがある。ステージのようになっており今も手入れされているようだ。


 岩を信仰し、踊りを捧げて暮らす人々の面影が砂の向こうに感じられて、寂寞の思いに浸る。つい5年前まではここも……。


 「テオン!早くー!!」


 ララが洞穴から手を振っている。大岩の北側に大きく迫り出した一枚岩があり、その下にぽっかりと洞穴ができていた。





 洞穴の中ではミミがゼルダに抱きついて泣き喚いていた。


 「良かった!ゼルダちゃん無事で良かったよ~」


 ゼルダは小さな顔に似合わぬ大きな狐耳を付けた、小柄なアローペークス少女だった。年はルーミと同じくらいだろうか。金髪に真っ白な肌が薄暗い洞穴で光り輝いているようだ。


 「私も心配したんですよ!何度探しに戻ろうと思ったか……」


 洞穴にいた二人のクネリアンの一人、灰色の耳に銀髪の美少年がこちらを向く。


 「皆さん有り難うございました。砂漠の聖都ペトラ、最後の長老ゼルダ様に代わりお礼申し上げます」


 「いえいえ、そんな……え!?」


 その場にいた何人かが声を揃える。


 「「「長老!?」」」

今回で投稿開始から丁度1ヶ月です。初めから読んでくださっている方っていらっしゃるのでしょうか。


ずっと応援してくださっている方も、今日興味を持ってクリックしてくださった方も、私の小説を読んでいただいて本当にありがとうございます。楽しく書かせていただいております。皆様も楽しんでいただけると幸いです。


また、手動投稿を始めてみました。これまで通り21時までには上がっているようにしますので、これからもご愛顧いただけると嬉しいです。よろしくお願い致します。


P.S. この回で1000PV達成しました。ありがとうございます。

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