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チート勇者も楽じゃない。。  作者: 小仲酔太
第3章 旅は道連れ、よは明けやらで
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第8話 アウルム帝国の奴隷狩り

【前回のあらすじ】

 オアシスの町クレーネに入ろうとしたテオンたちだったが、アルタイルという言葉に反応する兵士たち。買い出しの途中助けた兎耳の少女を追いかけていた奴隷狩り集団の名前もアルタイルだった……。

 「私たちは戦争の混乱に乗じて逃げ出しました、奴隷商から……。それでもしつこく追ってくる奴らがいました。奴隷狩り集団、アルタイル……」


 「えっ、アルタイルって!」


 ララが声を上げる。門番は今この町がその言葉に過敏になっていると言っていた。


 「はい。この間町に襲撃してきた人たちです」


 「えっ、奴隷狩りが町に襲撃!?」


 「え!?ご存知ありませんでした?」


 「ごめん、僕らはついさっきこの町に着いたばかりなんだ」


 「そうでしたか。では元々アルタイルを追ってらした方とか……?」


 ミミはララの反応に引っ掛かっていたようだ。僕とララは顔を見合わせる。


 「実は僕とララのファミリーネームがアルタイルなんだ」


 僕は正直に答えることにした。その途端ミミの顔が凍りつき青ざめていく。


 「まさかお二人がアルタイルの総元締め!?ギャングファミリー一家の若旦那!!」


 おっと何か色々飛躍したぞ……?確かに関係者と思われるかもしれないとは思ったが、ギャングファミリーって……。


 「いやいやそんなんじゃないよ!全く!私たちはただの冒険者と村人だから!」


 ララが精一杯説明する。ポエトロギルドでつい3日前にアルト村に因んで考えただけだというところまで説明して、ようやく納得してくれたようだ。


 そうこうしているうちに教会に着いた。この世界にも宗教があったことすら知らなかったが、難民を受け入れてくれるところだし前世の教会ほど厳しくはなさそうだ。気を楽にして入る。


 「ふざけるな!!この子達はあたしたちが保護したの。あんたらに引き渡す道理はない!」


 「あん!?この町には難民を保護する余裕なんてないって言ってんだろ?こちとら町民から依頼受けて来てんだよ」


 「あたしたちも町長からの依頼で保護してんのよ。それに他の冒険者がすぐに違う町へ送ってくから、難民を預けてるのは今だけだって言ってるでしょ?」


 扉を開けた途端、礼拝堂から大喧嘩の怒号が耳に飛び込んでくる。


 教会の中には何人か難民がいた。子供もいる。皆怖がって部屋の片隅に固まって震えている。それを庇うようにヒルダとドリーが立ち塞がる。対するのは赤茶の髪のポニーテール少女と、同じく赤茶の髪をゆるふわに巻いてる少女だ。


 激しく口論するドリーとポニーテール。ヒルダとゆるふわヘアーは無言で睨み合っていた。突如開いた扉にも注意を払うことなく続けている。


 はあ。後ろから溜め息が聞こえた。夜マギーがすたすたと教会の中まで歩いていく。


 「やめるニャ、お前ら!子供たちが怖がってるニャ。それにもう夜だ。近所迷惑になるだろう」


 いやこの状況でご近所さんに気を配る余裕はないのでは……と思ったが、二人とも案外素直に静かになった。


 「マギーさん、すみません、つい」


 「マギーまで来てるのかよ。悪かった。確かに夜は静かにしなきゃな。冷静に話し合おう」


 おっと、相手のポニーテールもマギーを知っているらしい。


 落ち着いて話してみると、どうやら赤茶髪の二人はどうやらポエトロの町から遠征してきた冒険者、つまり僕らと同じ立場だった。


 「プルース三兄妹って呼ばれているんです。三つ子の魂のメンバーで、それぞれが3人のリーダーのお弟子さんなんです」


 三つ子の魂ってヨルダたち!?それに三人……?


 ミミを追いかけていた男を思い出す。頭にターバンを巻いていたから髪の色はよく覚えていないが、武器は珍しくも棍棒。そしてヨルダは棍棒使い。まさか……。


 「ひとまず自己紹介しとくか。あたしがユクトルの弟子ポット。こっちがモルトの弟子で妹のリット」


 「よろしくです」


 「そして俺がそいつらの兄でヨルダの弟子、トットだ」


 後ろから不機嫌そうな声がして振り向くと、案の定そこにはむすっとした棍棒の男が立っていた。トットは怯えるミミには目もくれずポットたちの方へ行き、どかっと椅子に座った。ひとまず話し合いに応じる姿勢らしい。


 「全く人騒がせニャ。子供もこんなに怯えて……。もう大丈夫ニャよ」


 マギーが難民の子供に近づく。すると……。


 「うっさい獣人、あっち行け!!」


 なんとその子はマギーに罵声を浴びせたのだった。





 「するとあなた方は町の商人に難民を、特に獣人を引き渡す依頼を受けていたんですね。そしてヒルダさんたちと僕らは町長から難民を保護しキラーザに護送するよう依頼された」


 話し合いは僕が中心となって進めることになった。マギーは子供の言葉に余程ショックを受けたのか、さっきから沈んでいる。


 アウルム帝国では獣人ーーというのは差別用語でヒューマン以外の人類と言うらしいーーが奴隷として扱われていた。故に子供たちも自然とヒューマン以外を下に見るようになったのだろう。


 難民に関しては複雑な事情がありそうだった。少し前に魔国からの遠征軍がアウルム帝国に攻め入ったらしく、逃げてきた人たちがこの町に辿り着くようになったらしい。中には奴隷や奴隷にされそうになっていた者もいて、それを追ってきた奴隷狩りが町に攻めてきたという。


 それに対して町長は急ぎ別の町へ移すことにしたのだが、その前に帝国とパイプのある商人が自主的に難民たちを送り返そうとしたらしい。


 「それってつまり、引き渡したヒューマン以外の人は……」


 「まあそういうことだろうな」


 ポットは何とも無げに言い放つ。彼らは実質奴隷狩りの片棒を担いだようなものだった。


 「アウルム帝国ではどうだか知らないが、この国ではヒューマン以外も人間だニャ。私らが来た以上、少なくともまだ引き渡していないヒューマン以外の者だけは保護してキラーザへ連れていく。いいかニャ?」


 マギーがポットに詰め寄る。その迫力は鬼気迫っていた。


 「ああ、それでいい。あたしらはヒューマンだけ商人に引き渡してアウルム帝国へ連れていってもらおう」


 「だが俺らも依頼人にそのクネーリやその仲間について報告しちまってるぜ?何て説明するんだよ」


 「処遇が決まって町を出ていくことになった、と言えば依頼人の方はそれ以上言えないだろう。町長の意向と異なっている以上大義名分は最早ない」


 こうしてプルース三兄妹はヒューマン以外から手を引くことで一応落着した。それにしてもヒューマン以外は奴隷か……。この世界の闇を垣間見たようだ。





 そのうちレナも教会に帰ってきて、実際にヒューマン以外の護送を頼まれていたことを聞く。勝手に解釈して話し合いをしていたことは伏せておこう。


 保護された難民は礼拝堂にいた数人のほかにさらに二人、奥の部屋に匿われていた。牛人間と羊人間らしい。そこにミミを連れてレナ、ルーミ、ララが向かった。僕はというと、マギーと一緒にオアシスの泉に来ていたのだった。


 「はあ……。私もアウルム帝国に連れていかれたら奴隷にされるのかニャ」


 「そんなことはさせないよ。僕らはメラン王国の住人だ。連れていかせないし、連れていかれたら取り戻しに行く」


 「ふっ。隣国へか?それこそ止めてくれ、自殺行為だ。でも……ありがとニャ」


 マギーは星を見上げながら笑顔をこぼす。そういえば夜マギーが笑ったところは初めて見た気がする。


 「いつまでもくよくよしてるのは私らしくないニャ。水浴びでもするニャ。お前も付き合え!」


 そう言ってマギーは着ていた服を脱いで下着姿になり泉に飛び込んだ。普段は砂漠用の服や毛皮のコートを着ているから気づかなかったが、真っ白の肌は透き通るように綺麗だった。ほっそりと引き締まった背中のラインを辿ると、下着に空いた穴から黒い尻尾が飛び出している。すらりと長い手足で水を跳ね上げさせる仕草に、思わず見惚れてしまう……。


 「付き合えって言ったニャ!」


 水の中から伸びた真っ白な腕がいつの間にか僕の手首をいつの間にか掴んでいた。そのまま水に引きずり込まれる。水は少し温かかった。


 「うわっ!」


 服を脱ぐ暇もなく全身ずぶ濡れになってしまった。


 「ぐずぐずしているからニャ……ふふ」


 妖艶に笑う。ボブカットの黒髪が揺れる。月明かりに照らされて濡れた髪がきらきらと煌めく。


 「テオン……」


 マギーが手足を絡み付かせるように抱き付いてくる。


 「お前、良い匂いがするニャ……」


 マギーの鼻が首筋を擦りゆっくりと上がってくる。ひんやりとした指が左頬に宛てがわれる。ぐいと背伸びしたマギーの唇が僕の唇に迫って……。


 『姫様っ……!!』


 がばっと身体を離す。危うく流されるところだった。


 「ほう……。どんどん女をたらし込んでいくから節操なしかと思っていたが、意外と硬派であったか……。見直したニャ」


 ふふと笑って水から上がる。見ればマギーの白い肢体は少し赤みを帯びていた。僕も顔が、いや全身が熱い。


 「……はあ」


 試されていただけだったのか、それとも本気だったのかよく分からないが、ぴょこぴょこと跳ねるマギーの尻尾は可愛かった。


 「くしゅん!……寒いニャ」





 「全く……服着たままオアシスに落ちるとか馬鹿なの?」


 呆れたレナは熱風の出る魔道具でマギーの髪を乾かしていた。僕らは教会の地下の仮眠室に来ていた。


 「あたしは咄嗟に上の布だけ脱いだから下着だけで済んだけどニャ。服に足を引っ掛けて盛大にオアシスに飛び込むテオンは見物だったニャ」


 マギーのやつ、適当なこと言いやがって……。


 「ふうん、あたしを放っておいて楽しそうね」


 ララが口を尖らせる。


 宿泊用の部屋は難民たちが使っており、僕らはこの部屋で一晩休めることになったらしい。町長は高い宿を紹介していたらしいが、ミミを届けるついでにシスターにお願いしたら快諾してくれたのだった。


 「ということはテオンさん、マギーの下着姿を見たんですか!」


 ルーミが突っかかってくる。見たことのないくらいに怒っているが、怒っても可愛いので怖くはない。


 「ごめんって。でも疚しいことは何も……」


 「見たんですね」


 ぐいとルーミの顔が近付く。前言撤回、やっぱり怖い。


 「テオンさんのエッチ!」


 ぱんっ!!


 マギーがくすくすと笑っていた。

オアシスの町クレーネの語源は泉という意味のギリシャ語クレーネーです。何だか少し前からこの後書き欄がギリシャ語紹介コーナーみたいになっていますね……。


泉のあるオアシスの町で兎獣人クネーリと会う話ということで、クレーネのクネーリというタイトル案もありました。決して駄洒落を言いたいがためのエピソードではありませんよ。ええ決して←前科あり

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