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チート勇者も楽じゃない。。  作者: 小仲酔太
第1章 アルト村の新英雄
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第3話 初めてのレベル測定

挿絵(By みてみん)

【前回のあらすじ】

 テオンに転生したロイはアルト村で剣士として修行していた。この世界には強さを数値で表すレベルシステムがある。成人を迎えたテオンは今年初めて受けられるレベル測定に心を躍らせていたのだった。

―――ある日の朝


 「あら、おはよう!テオン君」


 「今日も早速ウサギ狩りか?張り切ってるねえ」


 アルト草原に向かう門には、すっかりお馴染みとなった朝の顔、ハナとディンがいた。


 ハナは僕、テオンの密かな思い人だ。いや、僕、ロイの好きな人は姫様だけなんだよ?でもこのテオン君がずっとハナ姉のこと好きだったっていうからさ。仕方なくだよ。そう、これは浮気じゃない!


 少し赤らむ顔を見せないように、かつ不自然じゃないように挨拶する。


 「おはよう。今日もお昼頃には戻るよ。行ってきます」


 「うふふ、今日も赤いわね。行ってらっしゃい!」


 僕の恋慕はばればれだった。


 彼女は村長の長女で僕より5つ上のお姉さんだ。元々村の子どもたちの先生であり、今は門の傍の小屋で村の食糧管理を任されている。狩りから帰ったら彼女に狩りの成果を報告するのだ。


 小屋の窓口から優しく手を振る彼女に、今日も馴れ馴れしく話しかけているのは門番のディンだ。村一番の狩人ハイルの息子で弓も剣も槍も使える万能戦士。僕より3つ上のイケメンお兄さん。


 正直僕は彼が苦手だ。でも、ハナがここまで明るく笑えるようになったのはディンのおかげだから、悔しいとも思う。彼女はここ2年ずっと塞いでいた。僕は何もしてあげられなかった。いや、それどころか……。


 ぴょんっ!!!


 落ち込みかけた僕の目の前に兎型の魔物――アルトヘアが飛び出してきた。今は狩りに集中しよう。そして強くなることだけを考えよう。





 僕はハナに告げた通り、草原で昼頃まで狩りをしていた。3年前に鑑定士が来たときは昼過ぎだった。これ以上外に出ていると折角の機会を逃してしまうかもしれないので、早めに切り上げて帰路に就く。


 村を出たい僕にとって、このレベル測定は絶好のチャンスだった。レベル鑑定士は強いものを王都の兵士としてスカウトする。王都に行けば、この村では分からないことも分かるかもしれない。もしかしたら元の世界に帰る方法も……。


 確かに僕はまだ魔物と戦えるようになって日は浅い。レベルはあまり高くないだろう。しかし、鑑定士はレベルの他に細かいステータスも測定してくれるらしい。レベルの割りにステータスが高ければ、見込みありとしてスカウトするのだ。


 まずはそのチャンスに賭けてみたいと思うのだった。


 そろそろ村が見える頃だ。辺りは膝上までの草むらで、そこら中からごそごそと物音がする。魔物が潜んでいるのだろう。この辺りもあの日の光の及んだ範囲だった。悉く消滅した魔物たちも、2年の月日を経て大分元通りになっている。


 あの頃はハイルが文句を言っていたっけ。「消滅の光」からしばらくの間、草原の魔物は狩ることができず、難易度の高い森での狩りばかりだと。


 本来であれば僕はハイルのもとについて狩りの基本を教わっているところだったのだが、彼はこの2週間くらい森に調査に出掛けている。何やら怪しいものが見つかったとかで、村長の息子のユズキと共に詳しく調べているらしい。僕は代わりに初めだけ父親のジグと先輩のディンに狩りを習い、あとは我流でやっているのだった。





 村に戻ると、門の前までハナが出てきていた。


 「あ、テオン君やっと帰ってきた。スキル鑑定士のレナさん、もう来てるわよ!」


 「えっ!!」


 どうやら遅かったらしい。スキル鑑定士とは村長が言っていたレベル鑑定士の上位ジョブだ。3年の間に昇格したのか。


 「うちでレベル測定が始まってるわ。さっき始まったばかりだしテオン君は最後の方らしいから大丈夫だと思うけど、なるべく早く向かってね」


 「そっか、ありがとう。はい、アルトヘア7匹ね」


 僕は急いで狩りの成果をハナに報告する。


 「あ、村長がテオン君のこと色々レナさんに話していたから、何か聞かれるかもしれないわ」


 「色々?」


 「成人して1週間なのに一人で狩りに出てることを聞かれて、村長が自分から1本取るような逸材だって」


 「へえ、それでレナさんは何て?」


 「うふふふって笑ってたわ」


 どうやら好感触らしい。僕は希望を胸に村の中央の広場を抜けて村長の屋敷へ走る。屋敷は村で一番大きな建物であり、集会所としての役割も担っている場所だ。


 その前の広場には既に人が集まっていた。


 「よう、テオン!遅かったな。俺たち初測定組は最後だとよ」


 話しかけてきたのは狩人のアムだ。ララの兄でディンと同い年の18歳。アムとディンは前回の測定の時にはまだ成人していなかった。初測定組はアム、ディン、ララ、そして僕だ。


 屋敷の中を覗くと、名前を呼ばれた村人が一人ずつ部屋に入っていく。そして数字や文字が細かく刻まれた板を持って出てくるのだった。その顔は喜びや落胆など様々に浮かべていたが、何故か一様に少し赤かった。特に男。


 「結構かかりそうだね」


 「何ならもう一狩り行っちゃうか?」


 「ダメ!順番が来るまでここで待ってなさいって言われたでしょ!」


 近くにいたララも僕に気付いて話しかけてきた。どうやらここで大分待つことになりそうだ。僕らは自分の順番が回ってくるまでお喋りを続けるのだった。





 高かった日も既に暮れ始め、僕らの番が回ってきた。年齢順に測定していくため、この中でも僕は一番後だ。ディンが呼ばれ、アムが呼ばれ、ララが部屋に入る。彼女が出てきたらいよいよ僕の番だ。


 ディンとアムは同い年で昔から張り合っていた。早速ステータスを見せあって一喜一憂している。


 「げ!お前レベル18かよ!門番してるだけなのになんで俺より1レベル高いんだよ!」


 「まあうっかり村に向かってきちゃった魔物を狩ったりしてるからな」


 「お前、ちゃんと仕事してたんだな。あ、でも体力や敏捷性は俺の方が上だな」


 「やっぱ森で狩りしてるお前は足腰とか鍛えられるんだろうな」


 ディンとアムは18歳でレベル17、8か。二人とも昔から僕より強かったが、前に村長が僕の力はレベル20相当だと言っていたし、ステータスなら勝負できるかもしれない。実はディンだけでなく、アムもハナを巡るライバルなのだ。


 「次で最後ね。テオン君!」


 鑑定士レナの声が部屋の中から響く。いよいよだ。


 僕は部屋に入った。中にはごちゃごちゃした装置がいくつか並んでいる。部屋の中にはレナと立会人の村長がいた。村長は結果の板が出てくる装置の横に座り、うとうとしている。


 「ウフフフフ、待ってたわよ。早速測りましょう!まずは服を脱ぎなさい!」


 「…………え?」


 「え?じゃないわよ早く脱いで」


 測定は裸でないと出来ないらしい。それで部屋から出てきた男たちの顔が赤くなってたのか。


 レナは少々騒がしいがかなり美人な方だ。そんな彼女に強めの語気で服を脱げと言われると、あまり興味のない僕でも少しどきっとした。


 この村の衣服はとても原始的だ。服といっても毛皮や麻布に首や手を出す穴を開けて被るだけ、というと服を作ったサラに怒られるが、狩りには鎧もつけていくので、中の服など凝っても仕方がない。一枚脱ぐだけで即ふんどし一丁だ。


 必要ならば仕方ない。がばっと服を脱ぐとレナが軽く舌なめずりをした。


 「それじゃ、ここに立ってね」


 言われるがまま装置の上に立つ。身体の上にぺたぺたと何か白くて丸いものが貼られていく。少しひんやりとしており、思わず身を震わせる。


 「ふふ、敏感なのね」


 彼女がくすくすと笑う。


 「測定の間は出来るだけじっとしててね。動くのは私が指示したときだけ。いい?」


 この人楽しんでいるんじゃないか?とは思うが、この測定は千載一遇のチャンスだ。僕はその後もレナに言われるがまま、いくつかの測定を終えたのだった。





 「服着て待っててね~!今結果出るから」


 そういって彼女は装置から出てきた板に目を落とす。その数値を手元の紙に書き写そうとして二度見をする。


 「はあ!?成人したてでレベル30~!?」


 「レベル……30ですと!?」


 さっきまで置物と化していた村長も思わず目を覚まして板を覗き込む。


 「30、確かに書いてある……。ステータスも、こりゃレベル35……いや、40相当に近いかもしれん」


 「嘘……魔物と戦うようになって1週間でしょ?一体何をしたの!?」


 「スキルも既に発現しておる。しかしこんな文字は見たことがない……」


 「これは…………古代文字!?限られた人のみが持ついにしえのスキルよ!特殊なスキルだから一般的な文字では書き表せず、ただ一字の古代文字で書かれるの!意味は帰って調べないと分からないけど、これはとんだ掘り出し物だわ!!」


 特殊なスキル?それって……。


 思い当たったのはあのチート能力、光の力。書かれているのは「光」を意味する文字だろうか。


 まさかここで僕のスキルが明らかになってしまうとは思わなかった。レナがスキル鑑定士に昇格した影響だろうか。


 そして戦闘経験に見合わない高いレベル。それはつまり、あの日の……。僕はもう一つ思い当ってしまったその可能性に、思わず青くなったのだった。


 「レナさん、村長……。このステータス、村の皆には秘密にできませんか?僕のレベルも、そのスキルも……、皆には知られたくないというか……」


 僕は恐る恐るそうお願いをする。


 「まさか……」


 村長は思い当たったらしい。あの、悲劇に……。


 「今まで、黙っててごめんなさい」


 「話して……くれるか?」


 僕は頷いて、しかしレナの視線に気づいて戸惑った。


 「少し部屋を変えよう。レナさん、すまんがテオンのお願いを聞いてやってくれ」


 「え、ええ。事情は分からないけどただごとではなさそうね。……って、それじゃスカウトできないじゃない!?」


 「それなんじゃが、もしかしたらテオンを連れて行ってもらうことになるかもしれん」


 村長の言葉に彼女は首を傾げながらもうなずき、秘密を守ると約束してくれた。


 「ありがとう」


 僕は村長と別の部屋に行き、「消滅の光」の日のことを初めて話すのだった。あの光は、正直この村にとっては悲劇でしかない。


 何といっても、あの日消えたのは、草原の魔物たちだけではなかったのだから……。

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