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チート勇者も楽じゃない。。  作者: 小仲酔太
第3章 旅は道連れ、よは明けやらで
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第2話 寝坊助には平手打ちを

【前回のあらすじ】

 アリシア盗賊団との一悶着を終えポエトロの町に帰ってきたテオンたちは、デミの提案で宴を開き、デミの娘ルーミと吟遊詩人のマーガレットは歌と踊りを披露した。その裏で奇跡の花を奪った呪術師ジャガーは謎の男たちと密会しており……。

ーーー翌昼、デミの家


 ……テオン。


 …………ちょっとテオン?


 誰かが僕を呼ぶ声がする。まどろみの中朧気に返事をする。うまく声が出ない。仕方がないので手を上げて応える……。


 あんっ……!!


 ……ん?何だか甘い声が聞こえた。そういう声は前世と合わせてもまだハナのものしか聞いたことはない。だが妄想で姫様の嬌声ならたっぷりと……。


 意識がはっきりしてくると共に、上げようとした手のひらに柔らかな感触を感じる。温かい。これは……。


 「ちょっとテオン!!いい加減起きてよ!」


 ぱちん!!


 「うわああっ!!…………ララ?」


 驚いてがばっと身体を起こす。どうやら床に寝転がっていたようだ。頬がひりひりとする。平手打ちでも食らったらしい。


 傍らには恥ずかしそうに胸を押さえて真っ赤になっているララがいた。頬を膨らませてこっちを睨み付ける目がどこか艶かしく感じた。


 「おはよう……どうしたの?」


 「…………。あ、うん。おはよう……。そうよね、寝てたんだから悪気はないよね。ごめん、ぶったの私。ごめん」


 ???


 状況に付いていけず首をかしげ、とりあえず周りを見る。ギルドの床ではない。かなり広い家のようだ。床も綺麗に掃除されており手入れが行き届いている。特に華美な装飾もない質素な部屋だが、一枚だけ壁に絵が飾られていた。それはステージで激しく踊る一人の踊り子を描いたものだった。


 床には僕とララの他にユズキ、タラ、リュカが雑魚寝していた。といってもリュカは人型ではなく元の大柄なムーンハウンドの姿になっており、そのもふもふの黒い身体を枕にして皆寝ていたのだった。


 ララは落ち着きなく視線を彷徨わせている。僕も傍目から見れば同じようにきょろきょろして見えたのだろうか。ララは瞳が大きいからよく目立つ。やがてその目が僕の股間に一瞬留まる。まあ寝起きだし、疚しいことはない。恥ずかしいだけだ。


 「いや!不潔!」


 ぱちん!!


 また平手打ちをもらってしまった。





 「おはよう、テオン君!起きて早々大胆ね、昼間からこんな皆の前で……。若いって良いわあ」


 デミが部屋に入ってくる。ゆったりとした黄色のワンピースをふわっと着て腰の位置でベルトを締めている部屋着姿は、アルト村の服を上品にしたような落ち着きがあった。布製なので毛皮よりも薄く、少し身体のラインが透けている。思わず目を逸らしてしまった。


 「おはようございます、テオンさん、ララさん」


 デミの後ろから昨夜素晴らしい舞いを披露したルーミがやってくる。白いオフショルダーのワンピースをひらひらさせて、ぺこっと頭を下げる。


 デミはすたすたとこちらに近付くと、ユズキとタラを叩き起こす。


 「駄目よ、こんなに日が高くなるまで寝てちゃ。テオン君は昨日初めてお酒飲んだんだっけ?落ち着いてたから気付かなかったけど、意外と飲みすぎてた?」


 「え?いや、飲み過ぎではないと思うんですけど、疲れてはいたのかな……」


 昨夜、ギルドでの盛大な宴のあと、宿のない僕らはデミさんの家に泊めてもらったのだった。タラと二人でユズキを担いで来た。デュオは変身の解けてしまったリュカを、レナは寝てしまったララを運んでいた。


 「あ、デミ、泊めてもらってありがとう」


 「そんなんいいのよ。さ、ご飯ができてるから食べちゃって」





 デミの作ってくれた朝御飯……もとい昼御飯はパン、焼きハム、目玉焼き、野菜たっぷりのコンソメスープとなかなか豪勢なもので、前世で街にいた頃を少し思い出した。これにコーヒーが付いていたら完璧だ。


 食卓を囲むのはララとタラ、そして昨日会ったルーミとマギーことマーガレットだった。デミ、ユズキ、人型に戻ったリュカ、そしてどこかに出掛けていたレナは別のテーブルで食べている。


 昨日のやり取りを思い返す。ルーミの舞いが終わったあと、僕とララのところにレナが来た。


 「全く、テオン君のせいで随分時間を無駄にしちゃったわ。勝手な行動を取られると困るわよ」


 「あ……ごめんなさい、レナさん」


 「でもテオン、傷付いたあたしを見て怒って飛び出したんでしょ?あれ、ちょっと嬉しかったな……」


 「ララちゃん、そこでテオン君を甘やかさない!今後あたしの許可なく危険な行動に出たら、罰を受けてもらいます」


 「はい……」


 そこへルーミとマギーを連れた長身の吟遊詩人がやって来た。


 「初めましてレナさん、そのお仲間さん。わたくし、この町で吟遊詩人をしておりますポール・ヴィクトルと申します。よく噴水の周りで歌っております。お見知りおきを」


 「ええ、よろしく。レナ・グリシーナと申します。スキル鑑定士として王都から参りました」


 レナのフルネーム、レナ・グリシーナって言うんだ。何気に初耳だな……。


 「こちらテオンとララです」


 紹介されて僕らもポールと握手を交わす。


 「お二人ともよろしく。こちら先ほどデミさんが紹介されていましたが改めて、デミさんの娘さんのルーミ・グラース、そして私のパーティメンバーでもある吟遊詩人マーガレット・ガルです」


 「あの、よろしくお願いします」


 「よろしくニャ。マギーでいいニャ」


 ルーミとマギーが挨拶をする。マギーはよく見ると猫の耳が頭の上でぴょこぴょこしている。ステージ上では帽子を被っていたから分からなかった。


 「へえー!マギーちゃんアイルーロスだったのね!ヒューマン以外の吟遊詩人は熟練度の伸びがイマイチって聞くけど、あなたの演奏は素晴らしかったわ!」


 猫の獣人はアイルーロスっていうのか。ライカンスロープやアイルーロスの他にも獣人っているのだろうか。いつかまとめて聞いておきたい。


 「えへへ、ありがとニャ。実はあんまり速くは弾けないからスローテンポな曲しか出来ないことは内緒ニャ」


 隠し事のできない性格らしい。内緒にできていないことなど意にも介さずニコニコしている。


 「それでですね、レナさんには折り入ってお願いがございまして」


 ポールが本題を切り出す。


 「この二人に王都までお供させて頂きたいのです」


 「ええっ!!」


 そういうわけで、僕とレナの王都行きにまず二人の同行が決まったのだが。


 「なら私もお供させて!」


 「ララちゃんまで!まあここまで来た時点で察しはついてたけど……」


 「レナさんお願い!!」


 「ララちゃんの索敵能力は欲しい。でもテオン君とただ一緒に行きたいってだけじゃ連れていけないわよ?」


 「テオン、村に戻る気ないんでしょ?」


 「え!!」


 今度は僕も驚かされた。そのことは隠して出てきたはずだったのだが……。


 「レナさんも、テオンのことで何か隠してるでしょ?」


 「うぐ。さあて何のことかしら?」


 「私は絶対に付いていくわよ。お供できなくたって、一人で付いていく。あんな……あんなテオン、放っておけるわけないでしょ!」


 そんな無茶苦茶な……。そんなお願いの仕方でレナが頷くわけが……。


 「分かったわ、ララちゃんの覚悟を買いましょう」


 良いのか……。レナは何か満足げにララを見ていた。気付けばルーミが頬を染めて僕とララを交互に見ていた。マギーもにやにやしていた。何だか僕だけ置いてけぼりの気分だったが、ここは空気を読んで俯いておいた。何だか顔が熱かった。


 ポエトロの町からはユズキたちとは別れる予定だった。この先はレナとの二人旅だと思ったのだが、一晩のうちにさらに3人の少女が同行することが決まったのだった。





 「そういえばテオン君!」


 デミたちと食事をしているレナが唐突に声を張り上げる。


 「昨日も言ったけど覚えてる?仕立て屋さんにお願いしていたテオン君の服が今日の夜できるらしいから、明日の朝には出発ね!今日中に冒険者登録と、他にやり残したことがあったら済ませといてね!」


 そういえばそんなことも言ってたっけな。服を作る間待つのなら、時間を無駄にした云々は怒られる筋合いはなかったのでは……。


 「いよいよ明日旅に出るんですね。テオンさん、ララさん、よろしくお願いします。えへへ、どきどきするなあ」


 ルーミは礼儀正しい子だが年相応の子供らしさもある。初めて外に出る興奮でうずうずしているのが見てて可愛い。これは癒されるなあ……。 


 「マギーも楽しみニャ。王都にゃマギーの師匠がいるんニャ」


 「師匠?ポールさんじゃなくて?」


 「アリアっていうニャ。アリアは人を探しているニャ。魔物に襲われていたマギーを助けてくれたニャ。そして歌を教えてくれたのニャ」


 「へえ!それでマギーは吟遊詩人になったのね!アリアさんは王都にいるの?」


 「分からないニャ。王都に手がかりがあるかもって旅に出ちゃったのニャ。


 男ニャ!結局吟遊詩人は恋をしなきゃ歌えないのニャ。アリアの歌は凄かったニャ。昨日のララと同じ目をして歌うのニャ!もう歌の中に炎がこうボーッと……!」


 「えーと……それで?」


 マギーは思ったことをすぐに口に出してしまうようだ。おかげで話題があちらこちらに行ってしまう。ルーミがそれを補って整理して話してくれた。


 「アリアさんの思い人は近くの村に腰を落ち着けていたそうなのですが、一昨年の春頃だったか、アリアさんが遠征先でそれらしき姿を見たんだそうです。それ以来彼の足取りを追っていて、3ヶ月ほど前に王都へ行くと言って、パーティを抜けて旅立ったんです」


 「マギーは捨てられたのニャぁ~。全然リュートの弾けないマギーを見捨てて行っちゃったのニャぁ~」


 「違うでしょマギー。アリアはそんな人じゃないし、マギーはお歌がとっても上手じゃない。アリアはそれでも恋の情熱を止められなかった。昨日のララさんみたいにね」


 毎度引き合いに出されるララは恥ずかしそうにあははと笑っている。それにしてもルーミはまるでマギーのお姉さんのようだ。ルーミ9歳、マギー18歳……。昨日聞いた年齢は実は逆だったのでは……。


 「その男の人はさぞ素敵な方なのね。何て名前なの?」


 「キューっていうニャ」


 !!


 僕の心臓は急転、どくんと跳ね上がった。

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