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チート勇者も楽じゃない。。  作者: 小仲酔太
第3章 旅は道連れ、よは明けやらで
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第1話 深夜の宴

【第2章のあらすじ】

 アルト村を旅立ち、最寄りの町ポエトロに立ち寄ったテオンたち。前世で因縁のあるアリシア盗賊団とアリスに出会う。彼らは町に伝わる奇跡の花を奪って逃げていったのだった。テオンの旅はまだ始まったばかりである……。

ーーー深夜、とある場所


 「ふうー、いやあ間に合わないかと思いましたよ」


 黒いフードの男がどっかりと椅子に座る。真っ暗な部屋には上品な円卓がひとつ置かれており、その中央に揺らめく蝋燭の炎が男の顔を不気味に照らしている。


 「よう、ジャガー。たかが採集クエストで相当苦労したみたいだな。Fラン冒険者か?」


 「イデオさん、そりゃ酷いですよ。ただの薬草とどんな呪いも解く伝説の花を一緒にされちゃあ堪りませんな」


 黒いフードの男ーージャガーが不満げに言う。悪かったと詫びながらイデオと呼ばれた男がジャガーに煙草を渡す。目の前の蝋燭で火をつけ、辺りに強い臭いの煙が漂う。


 「ごほっごほっ。相変わらず臭え煙草だな。まあいい、やっと揃ったんだ。さっさと話を始めよう。ジャガー、首尾は?」


 「こっちは順調ですよ。あれはイデオさんの情報通りの代物でした。いやはやかなり強力な権限を持っている」


 「なるほど。イデオ、あっちの方は?」


 「おう。いい感じに仕向けといたぜ。あんたには面倒かけるが、まあ元は取れるんだろ?ティップ」


 「もちろんだ。じゃなきゃこんな話乗らねえさ。それに……」


 ティップと呼ばれた色黒の男は足を組み直してから続けた。


 「奴らをただで逃がした覚えはねえさ」


 暗闇に集った男たちは尚も企みを深めていく。深夜の密会を知るものは誰もいない……私たちを除いては。


 テントの影に潜む影が二つ。いや、影のひとつも落としちゃいない。私たちは今、透明人間なのだから。


 『おいユカリ、もっと近付けねえのかよ』


 『うるさいな。煙を焚かれちゃ、鼻息でばれる可能性があるって言ってるでしょ?話が聞ければ上々よ。我慢しなさい、アキレス』


 誰にも気付かれてはならない密偵……いやあこういうのワクワクするよね!楽しいったらありゃしない。まあばれたら本当にヤバイから無茶はできないけどね。


 それにしても呪いを解く花かぁ。また私の知らないところで厄介なもんが見つかったもんだわ。


 一体これから何が起ころうとしているのやら……。




ーーー場面は戻りポエトロギルド


 「えーっ!!エミルってエナナの兄ちゃんだったの!?」


 僕らは今ポエトロのギルドで宴の真っ最中だ。この2年日の入りと共に寝るような生活をしていたから、こういうのは新鮮で僕もかなりはしゃいでいる。


 成人して初めての宴ではクラに飲まないよう言われてしまったから、今夜が初めての酒だった。といっても前世で散々飲んだものだ。久しぶりの酔いの感覚に心地よく揺られながら、エミルとドルトンに絡んでいたのだった。


 「あれ?テオンそれ知らなかったのか?エミルがアルト村から来た奴と飛び出したって言うから、てっきりそのことは話したもんだと思ってたよ」


 「あー、そういえば話さなかったなあ。8年前におふくろが死んじまってよ。エナナが思い出の場所を見るたびに泣き出しちゃうから、親父がエナナを連れてアルト村に引っ越したんだ。


 もちろん俺も呼ばれたけどな。その時にはデミさんと作ったこの花園の妖精(ガーデンフェアリー)もそれなりに大きくなってて、この町に残ることにしたんだ」


 「なあ、エナナちゃんは元気か?もう14歳だろ?かなり育ったんじゃねえか?エミルの母ちゃん、めちゃめちゃ大きかったからなー」


 「ドルトンは酒が入るとすぐそれだ。この星人め!」


 「星人?まあエナナはかなり発育のいい方だったと思うよ」


 僕は言いながらつい赤くなる。こういう話題は苦手だ。そこへユズキがやって来た。両手にジョッキを握っている。大分出来上がっているらしい。


 「おうおう!発育いいどころじゃねえぞ!エナナの乳はもうそれ芸術品だ!ここいらじゃそうそうお目にかかれない逸品よ!俺ももう少し若かったらグイグイ行ってたところだー……イテテっ!」


 ユズキの耳を思いっきり引っ張ったのはララだ。まだ頭と肩には包帯を巻いているが、顔の血色も良くなりほんのりピンクになっている。大事にならなくて良かった。


 「ぐいぐいじゃないわよ、このバカユズキ!母さんに言いつけるわよ!」


 「別に俺はクラの夫ってわけじゃねえし、どこの女にグイグイしてもいいだろー」


 グイグイするって何だよ……。確かララの実の父親はハイルだ。しかし小さい頃からユズキを父親のように慕ってきたララ。心中複雑だったりするのだろうか。


 「ララも随分可愛くなったし好みだぜ。血の繋がりのない親子ってのもいいよなあ」


 「一遍死んでこい!!」


 ララの拳が強かにユズキの腹に入る。


 「お前、酔っ払いに腹パンはダメって教えただろ……オロロロ」


 わあ、汚い大人だ。文字通り汚い大人だ。

 ここ数日でユズキの印象が駄々下がりだ。出来る感じの独身男性は信用しちゃいけないって、前世で誰かが言ってたな。


 「はーい、エールお待ち!ってそれどころじゃないね。ここは私が片付けておくから、あなたたちはそのまま楽しんでね」


 受付嬢のお姉さんが手早くユズキを掃除する。いや本当に申し訳ない。


 「いやあ本当に綺麗なお姉さんでやすね」


 そこにタラがやって来た。エミルたちと入れ替わりでやってきたようだ。彼らは既にデミと話しに行っていた。元パーティメンバーだと言っていたし、積もる話もあるのだろう。


 「いやね、皆が盗賊団と戦ってるとき、あっしとユズキの旦那はここで待ってたんでやすよ。旦那、デミさんがギルマスさんと奥にいくのを見届けたと思うと、ソッコーで受付のお姉さんに声掛けてたんでやす」


 「またか……あのエロ親父……。私が怪我で寝てる間に」


 ララが頭を抱える。


 「それで?」


 「お姉さん、なんと人妻だったんでやす!それでもしつこく迫ったユズキの旦那の玉蹴り飛ばして、瞬殺だったっす」


 ユズキめ……。アルト村の恥さらしじゃないか。あとで僕からも謝りに行くか。


 「あんなに綺麗な人の旦那さん、どんな人なんだろう?」


 ララがタラに尋ねる。すぐ後ろで当の本人がユズキを引きずっている。直接聞けばいいのに。


 「あ、ララさんは知ってるはずでやすよ。ララさんを治療した治癒魔法士(ヒーラー)の人だって言ってたでやす」


 「ああ!ユクトル!」


 「何でも二年がかりで口説いて、ここでとびきり大きな花束渡してプロポーズしたらしいっす」


 「あら素敵!やるわね、あのおじさん」


 へえ。ユクトルみたいな一途で清い大人になりたいものだ。ギルドの隅でヨルダやタオとしっぽり飲んでいる大きな背中に、尊敬の眼差しを送る。


 「それがつい一月ほど前のことなんでやすが、二人の仲は既に熟年の老夫婦並みだという噂でやす。奇跡の安定感でやす」


 新婚で老夫婦って、それはどうなんだ?


 「素敵……」


 ララの反応を見る限り、それはありらしい。





 「さあて、場も温まってきたし、いよいよダンスショーの開幕よ!」


 デミが大声をあげる。彼女は既にギルド左手にあるステージに登っていた。


 「いよっ!幻のアイドル!」「待ってました」「デミお姉さま素敵ー!!」


 諸々の喝采が飛ぶ。デミはその声を手を上げて制した。


 「ふふっ。ええ、私ももちろん踊るわ。だけど今日は先に見てもらいたい子がいるのよ。本当はもう寝る時間なんだけど折角の機会だから呼んできちゃった。


 10歳にならなきゃ踊り子ギルドには所属できないから、まだ正式な踊り子ではないけれど……その踊りは既に私に並ぶ域!この子にこそ幻のアイドルの称号はふさわしい!本日初披露の天才ダンサー、ルーミよ!!」


 デミが舞台袖へとくるくると退場し幕が上がると、そこには可憐な少女の姿が映し出されていた。影がばっと消え暗闇に消える。次に姿が見えたとき、そこには純白の衣装を纏って優雅に舞う小柄な天女がいた。


 うおおおおおお!!!!


 歓声と拍手が盛大に送られる。これは歓迎の拍手だ。


 やがてぽろんぽろんと弦楽器の音が響き始め、歓声はしんと鳴りやむ。どこからか歌声が響き始め、音に合わせてルーミは淑やかに舞う。ひらひらと揺れる長い羽衣の先の先まで神経の行き届いた丁寧な舞い姿に、ギルド中の視線が釘付けになっていた。幻想的だった。


 その躍りに、僕は再びあの花園を見た。月明かりに照らされ、緩やかな風にさわさわと踊る可憐な花たち。その上品な香りが確かにこのギルドに再び漂い始めた。


 ぽろん。


 歌声が止み、最後の音が響いて、ルーミはぴたりと静止する。細い手指を天に向け、懇願するように仰ぐその姿はまさしく天女のようだった。


 うおおおおおお!!!!


 再び巻き起こる歓声。惜しみ無い拍手が送られた。


 ステージにはさっきまで舞っていたルーミと共に、弦楽器を携えた少女が上がっていた。


 「ふふ。改めて紹介するわ!私の娘にして私を越える舞いの天才ルーミ・グラース!


 そして巧みなリュートの演奏と美しい歌声で幻想的な世界を奏でてくれた、若き吟遊詩人マーガレット・ガル!


 皆には再びあの景色が見えたんじゃないかな?二人の若き天才芸術家に、今一度拍手を!!」


 うおおおおおお!!!!


 最早会場は言われるがまま手を叩く。ボルテージは最高潮だった。ルーミとマーガレットは顔を合わせるとえへへへと笑い合う。微笑ましい光景だった。


 「綺麗だったね……」


 隣を見るとうっとりとした表情でララがステージを見つめている。あの花園を見ていないララにも、あのときの感動が伝わったのだろうか。


 「うん。今の景色こそ、ここポエトロの町の宝なんだね」


 ララがびっくりしたような顔で僕の方を見る。しばらく口を開けて黙っていたかと思うと、急に吹き出した。


 「あははは。テオンってば、急に……急に詩人みたいなこと言うー!あははは……。でも、素敵ね!それ」


 最後にとびきりの笑顔。思わずどきっとしてしまった。


 ステージでは再び上がったデミが真っ赤な衣装で踊っている。さっきとは打って変わって情熱的な舞いだ。観客たちもすっかりステージの前に陣取って声援を送っている。


 僕はララからそっと視線を外して、残っていたエールを一気に飲み干した。

いよいよ始まりました第3章、世界の情勢がうっすら見えてくると思います。おかげでまた設定固めに追われています(笑)

たまに手抜きな設定が出てくるかもしれませんがお許しください。


デミのフルネームが手抜きじゃないかって?いやいやまさかそんなことは。デミグラスソース美味しいですよね。


それからこの章は少しハーレム要素強めとなります。可愛い女の子いっぱい揃えてます。予めご了承くださいませ。

それでは今後とも何卒よろしくお願い致します。

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