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チート勇者も楽じゃない。。  作者: 小仲酔太
第2章 ポエトロの町と花園伝説
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第15話 癒しの天使と迷いの霧

【前回のあらすじ】

 絶体絶命のテオンたち。そこに現れたのは幻のアイドル、デミ!彼女はエミルたちのパーティ「花園の妖精」の元リーダーだった。華麗に舞い躍りながらアリスをひとりで追い詰める。しかしそのとき、奇跡の花を持った盗賊が任務完了を告げるのだった。



 "ゴンベー、待ち詫びましたよ"


 "はっ。アリス様、任務完了にございます。奇跡の花こと四つ葉の白詰草3輪、確保いたしました"


 アリスの足元にゴンベーと呼ばれた小柄な盗賊が現れた。それはまるで土の中を移動して飛び出たかのように見えた。


 「あれ!?あの子……」


 レナが驚きの声を上げる。ばっと彼女が見た方を目で追うと、リュカの近くにロープで縛られた盗賊がいた。あれは……ヘーハチと呼ばれた雑魚盗賊?他の場所で麻痺毒にやられてなかったか?ヘーハチが倒れた場所を見ると、そこには同様に動けなくなっているトーゴローひとりしかいなかった。


 アリスとデミの戦闘にみんなが気を取られている間に、ゴンベーは拘束から抜け出しヘーハチと入れ替わったのか。地中を自由に移動できるのならばそれも可能だろう。そして自由に花園の探索を行っていた……。


 アリス自身もまた時間稼ぎに過ぎなかったと言うことか。


 「くっ。戦闘に夢中になってみすみす奇跡の花を奪われるとは……」


 ヨルダが悔しそうに拳を握る。僕らは茨の拘束こそ解けているが、未だ満足に動ける状態になかった。茨の棘に麻痺の効果があったらしい。


 "まずはこちらを"


 ゴンベーがアリスに奇跡の花を1輪渡す。


 「おっと、あんたあたしに今ナイフ突きつけられてんの忘れてない?勝手なことは……あれ?うそ!?あたし動けない!」


 デミは驚愕の表情を浮かべて固まっている。ゴンベーが現れて一瞬気がそれたときに何かされたらしい。


 デミを意にも介さずにアリスは花を受けとると、そのままぱくっと食らいついた。その途端アリスが淡い光に包まれた。やがて光が収まると、彼女はぱちぱちと目をしばたき辺りを見回した。


 "これは……やはり私たちは呪われていたのですね。あの方の言う通りだった"


 "では計画通りに"


 "そうですね、ここにはもう用はありませんから帰りましょうか。ゴンベーは先に行っていなさい"


 そう言って身動きのできない僕らを眺める。ゆっくりと部屋の中央、トーゴローのところまで移動してその傍らに跪く。両手を組んで祈りのポーズを取った。


 あれは……。


 どこからともなくアリスに光が降り注ぎ、その足元には光り輝く金色の魔方陣が描かれ、彼女の身体はふわりと宙に浮いた。光の粒が魔方陣からぽわと立ち上ると、彼女の周りを踊るように回り、やがてその背で天使の羽を象っていく。


 『回復魔法を展開する様子はさながら天使のよう……』


 あれはそう。何度も見てきたアリスの広範囲回復魔術だった。やがて光の波動が部屋全体に駆け抜けて、その場にいるもの全員の怪我や状態異常を治癒していく。展開されたのは治癒魔術ではなく回復魔術。同時に体力も回復していくのだった。


 "それでは皆様ごきげんよう。もし生き残ったのならまた会いましょう……何言ってるか分からないのでしょうけど"


 アリスはふふっと笑うとぱちんと指を鳴らした。今度はアリシア盗賊団員だけが光りだし、ふわと浮かんでそのまま洞窟の出口に向かって飛んでいった。


 あれはアリシアと同じ魔術……。


 「な!?今のは何です!天使ですよ!浮きましたよ!飛んでいって……はっ!逃げられました~ぁ!!」


 モルトが目を回して倒れる。気づけば全員動けるようになっていたが、突然の光景に何もできず呆然としてしまっていた。僕らはこうしてアリシア盗賊団に奇跡の花を奪われ、まんまと逃げられてしまったのだった。





 あれからしばらく、僕らはその部屋でじっとしていた。全員体力はすっかり回復していたが、誰もすぐには動こうとしなかったのだ。


 今日の戦い、僕は何もできなかった。実はあと少しでアリスに斬りかかれる距離まで近づいていた。エミルたちが呪術師ジャガーに剣を突きつけていたとき、僕もアリスに剣先を向けていた。


 そこからはただ唖然とするばかりだった。大薔薇に捕らわれ、デミの動きに目を奪われ、アリスの回復魔術に見惚れた。その間に奴らは奇跡の花を奪って、まんまと逃げおおせた。


 何も……できなかった。それがひどく堪えていた。


 「皆さんお疲れのようですね」


 その部屋に新しく誰かが入ってきた。身体を起こして見るとポエトロの冒険者ギルドマスター、タオ・ブレイトルだった。後ろにはスケッチブックを持った女の子が付いてきていた。


 「あ、タオ!それにルリィちゃん!……ごめん、奇跡の花守れなかった。花園の場所も知られちゃったよ」


 「デミ。いえ、皆さんご無事なようで何よりでした。ユクトル、治療の方はもう終わったのですか?」


 「いえ、実は……」


 ユクトルがここで起こったことを詳しくタオに報告していく。ヨルダも不甲斐なさそうにタオに説明している。


 「そう。土の中を移動する魔導師が……。これだけの手練れを出し抜いた敵方が一枚上手だったということですね。皆さんに責任はございません。気を落とさないでくださいまし」


 「しかし生き残ったらという言葉が気にかかりますね」


 気を持ち直したモルトが首を捻っている。


 「花園の存在もその場所も外部のものに知られてしまい、これからもさらに何かをしようとしているような口ぶり。今までのように隠すだけではもう、花園は守れないのかも知れませんね……」


 タオはそう言いながらこつこつと歩く。


 「まずはあなた方にはお礼とお詫びを言わないといけません」


 タオはリュカの前で足を止めた。座り込んで落ち込んでいたリュカが顔を上げる。


 「此度の件、あなた方から大変な犠牲を出してしまいました。本当に申し訳ありませんでした」


 「いや、タオ殿。花園を守る代わりにここに住まわせてもらっていたのに、守りきれなかった。こちらこそごめんなさい。私には一族を守る方が優先、私の責任で逃がしました」


 リュカが答える。リュカの一族が花園を守る役目を負っていた?


 「ええ、元々それは無理のない範囲でという話でした。迷いの霧を破る相手です。あなた方が自分達の種の存続を優先させるのは当然です」


 「あのー」


 すぐ傍にいたレナが口を挟む。僕同様この話には付いていけてないようだ。


 「タオさん、詳しく教えてもらえませんか?このリュカさんは何者なのかというところから。ライカンスロープではないんでしょう?」


 「レナさん。そうですね。今回の件に早めに対処できたのはあなたのお陰です。あなたにもお礼を。有り難うございました」


 「あの……何のことかしら?」


 「あなたが報告してくれたヘルハウンドの群れ……。正しくはムーンハウンドというヘルハウンドの亜種なのですが、彼らの長がこのリュカさんなのです」


 !?……ということは、リュカは獣人ではなく魔物?


 「ええ、レナさん。あの夜、あなた方に襲いかかってしまったことをお詫びします。私があのときの群れを率いていた。あのときは気が立っていたが、あなたが最小限の犠牲で我々を正気に戻してくれました」


 「リュカさんたちムーンハウンドの一族はこの洞窟を根城にし、この上の森で生活していました。リュカさんには幻影を見せる不思議な力があり、普段はこの森に人が迷い込まないようにしてもらっていました」


 「昔、幻を作って人々を困らせていた私を退治しに来たタオさんとヨルダさんが、私の力を認めてくださって、命を見逃してくれた。タオさんも私もここに人来て欲しくなかった。森の外に霧の幻を作って、霧に触れたものの視覚を操作して町へ行くようにした」


 「となるとこの森の迷いの霧はリュカ殿が……。まさか貴殿が森の守護者!?」


 「森の守護者と呼ばれる強い者は知っている。それは私ではないです。人の姿をとっているのも今だけ。迷いの霧と同時に人型はできない。幻ですから。


 あの日、奴らは霧に触れたが数が多すぎて誘導しきれなかった。焦った私は戦士たちを向かわせたのだが、あのアリスというものに一瞬で殺されてしまった。私はひとまず一族を避難させたのだが、普通に暮らしていた者や激昂して戦いを挑んだ戦士たちの家族が多くやられた。何とか森を抜け出したところにレナさんたちがいたのです」


 「そう。そうともしらず酷い仕打ちを……」


 「いやいや、レナさんは謝ることない!仕掛けたのは我々です。だけどあなたの方が強かった。強きものが弱きものを食べるのは自然の摂理です」


 流石に野生の中で生きる者の言葉は違うな。しかしやはり申し訳ない気持ちが募る。自然の摂理の前では、この気持ちは所詮僕らの我が儘な物でしかないのだろうか。


 「洞窟の外で盛りあがった土を見ました。あなた方のお墓……ですよね」


 ずっと黙っていたルリィと呼ばれた子が口を開く。確かシルビィとティルダのパーティメンバーだと言っていた。


 「ああ、外の広場のやつか。私は皆を安全な場所に連れていったあとすぐに森に戻りました。1日経っていたが広場には戦士たちの亡骸がそのまま残されていましたから、私が土に還しました。そのとき人間の女の子が襲われてるのを見た」


 それからララを助けて町まで逃げてきたのか。その後僕が敵討ちに飛び出して、1時間少しでタオが集めた冒険者が僕らを助けに来ている。確かに奇跡的な対応の早さだったと言える。


 そういえばリュカが土の小山に砂を掛けているのを見た。あれが彼らの弔いなのだろう。あとで僕もやろうか。


 「あれ?デミはどうしてこの部屋の上から来たの?」


 何気なく聞いてしまう。デミは一瞬目を泳がせたのち、タオを見る。花園の秘密に関わることらしい。


 「そうね。花園の場所を外部の者に知られてしまった以上、そこを守れる町の冒険者たちには知ってもらっておいても良いでしょう。レナさんも王都に報告はしない条件で教えても構いません。ですがテオンさんは……」


 「あたしがいいなら彼にも見せてあげてください。大丈夫、秘密は守れる子ですよ」


 「そうですか。それでは……」


 タオは覚悟を決めたように上を見上げて言った。


 「皆さんを秘密の花園ブルムンタウンに招待致します」

本章の戦闘はもう終わりです。テオン君全然活躍できませんでしたね。


忘れそうになりますが、この小説は一応テオン君が俺TUEEEEする物語です。次回は頑張れ!


ちなみにEEEEいいですよね。靴の幅(足囲)の。私は結構足の小さい方なのですが、ゆったりしてないとすぐ足を痛めてしまうんです。


第2章は次回で終了です。

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