第13話 花園の守り人
【前回のあらすじ】
ポエトロの町の冒険者たちとテオンの援護に来たレナたち。一方テオンはアリスの独り言から姫騎士、魔法の鐘、呪いなどの情報を引き出していた。奥に逃げる仲間を庇うアリスと飲んだくれモルトの魔術と魔法の対決が今始まる!!
ーーーポエトロの冒険者ギルド
「タオ!テオンが怪我したって本当か!?」
ギルドの扉をばたんと押し開けてデミが飛び込む。あとからギルド職員のカイル、そしてユズキとタラも入ってくる。
「な!?何事ですか!テオンさんが怪我!?間に合わなかったの……?って、デミさんじゃないですか。遅かったですね」
「何を悠長な!?テオンは?ここに運び込まれたって聞いたよ?」
「あれ……デミさん?」
「あら?ララちゃん!どうしたの、その怪我!?」
「何!?ララ?どうしてララがここに?」
「うーん、カイル?これはどういうことなのでしょう?」
「マスター。すみません、事情がよく分からずにひとまず指定された人を探しただけなのですが、アルト村の方が怪我を負ったと伝えたところ怪我人はテオン様に違いないと」
「ああ、事情は分かりました。カイルはもう職務に戻って結構です。デミさん、テオンさんは怪我をされてはいません。レミさんとギルドにいらしていたときに、重傷を負ったララさんが運び込まれてきたのです。彼女は既にユクトルが治療してくれました。今は安静にさせてあげてください」
「ああ、そうなのか。ララ、大変だったな。でもどうしてお前が……。まさか村に何か!?」
「いえ。テオンが心配になって私が勝手に後を付けてきたんです。ごめんなさい」
「いや……そうか。それでその怪我は?」
「それについては私から説明しましょう。彼女に怪我を追わせたのはここ数日怪しい動きを見せている謎の集団です。彼らは今森を荒らし、町に災いをもたらそうとしています。だから緊急事態としてあなたを呼んだのです」
タオはちらりとユズキとタラの方を見てから続ける。
「あなたにはこれから秘密の作戦に協力して欲しいのですが、何分町の秘密に関わることなので少し奥の部屋でお話しできますか?」
「分かったわ。ユズキとタラはここで待ってて頂戴」
「おう」「へいでやす」
こうしてタオとデミはギルドの奥の応接室で話し始めた。
「それで?あの二人には聞かせられない秘密って何?まさかまたルーミがらみじゃないでしょうね」
「ふふ。あなたの娘を私の甥に嫁がせて欲しいってのは今は関係あるようでありません」
「あるようで?」
「私はこの町の秘密に関わるある役目を帯びています。その後継者が必要なのです」
「それを私の娘に継がせたいって?ダメよ。ルーミは私の後を継いで幻のアイドルになるんだから」
「ええ、それは構いません。私もギルドマスターと兼ねてる……というか表向きにはできない役目なので普通は兼任なのです」
「あらそうなの。で、その役目って?」
「花園の守り人」
「……花園の?」
「その名の通り、町に伝わる伝説の花園……その管理人です。今、奇跡の花は私が育てているのです」
「うそ!?あれは実在したの?」
「効果までは分かりません。私はただその花を含めた花園の薬草たちを、枯らさないように、絶やさないように守ってきただけですので」
「その役目をルーミに?」
「今はまだ譲りませんよ。今必要なのは、この機密事項に触れてもよく、かつ私以上に戦える冒険者なのです」
「その条件に当てはまるのがあたし?……な、なぜあたしはその機密に触れていいのかしら?」
「いいえ、まだあなたは機密に触れてはならない人間です」
「ねえ、それはどういう意味?」
「私たちの親族になりなさい。許嫁の親なら目を瞑ることができます。さもなくば、私はあなたを拘束ないし処刑しなければなりません」
「タオ……呪うわよ?」
「いいですよ。どんな呪いも私には効きませんので」
タオとデミはにっこりにっこり笑いながら握手を交わしたのだった。
ーーー地下洞窟
「心苦しいが全力で押し通らせてもらおう。吹き付ける熱風!!」
"ここは通しません。魔王様のために!!"
元酔っ払いの冒険者は杖に溜めた魔力を熱の塊に変換し、周りの空気を巻き込んで突風を起こした。対峙するアリスは地面から蔓状の植物を召喚し壁を作る。
「あんな魔法、見たことねえ!」
シルビィは至近距離で繰り広げられる魔術戦に驚愕していた。熱風は真っ直ぐにアリスに向かい、壁になった植物を乾燥させ火を付け、風で煽って炎上させる。
「炎属性に対して植物で対抗するとは。このまま焼き払わせてもらいましょうか」
"これはいい火ですね。では存分に利用させてもらいましょう"
アリスはさらに火元の周りに薪のようなものを召喚する。炎はいよいよ激しく燃え上がり、蔓の壁は炎の壁になった。
「何だと!私の魔法を利用された?あの者、相当やりますね」
男は熱風を止める。
「ちっ。鎮火は任せろ!氷塊!」
男勝りな女冒険者が呪文を唱え、魔方陣から氷の塊が飛んでいく。氷は薪を崩し、火元を冷やす。徐々に炎は小さくなるが、その向こうには更に蔦の壁が形成されていた。
「くっ。どうやら逃げられたようですね。また私の熱風で壁を焼き払っておきましょう。少し時間がかかりそうです。傷を負った者は今のうちにユクトルに治してもらうといいでしょう」
こうして僕らは元酔っ払いーーモルトが壁を焼き払う間に情報共有を行った。ヨルダが索敵スキルで敵の動きを追っている。レナにアラートボールを使わないのかと聞いてみたら、それは黙っていろと言われて頭を叩かれた。そのままカムフラージュで勝手に飛び出したことを怒られた。
「そうか。敵の名前はアリシア盗賊団でさっきの女はアリス。その狙いは奇跡の花の呪いの力を使って魔法の鐘とやらを作ること、か。それも魔王のため、と……。それにしても奴らの言葉が分かるとは僥倖だな。そのことはまだ敵方に知られない方が良いだろう」
「それでヨルダ、敵の様子は?」
「うむ。どうやら一通り集まって奥の一番広い空間に逃げ込んだ模様。人数は15人。真上に町の人がいるからポエトロの真下まで来てしまったようだ」
「それじゃ天井を崩すと町が崩壊するってこと?」
「うーむ、連中がそれに気付いているかは分かりかねるな。どうやら部屋の入り口に何かを仕掛けているようだ。油断のならない者たちよ。盗賊たちの力は今までの者たち以上。ここからが本番だな」
やはり罠を仕掛けてくるか。前世のことが頭を過る。今度は不覚を取らないようにしなければ。
「よし、壁はすべて取り払いました。用意はよろしいですか?」
「ああ!」「おう!」
こうして僕らはアリシア盗賊団の総力が待ち構えるポエトロ地下の空洞へと向かったのだった。
"何!?もう壁を突破してきたのですか?総員構え!"
部屋の奥からわざとらしい声が聞こえる。ヨルダの索敵でとっくに構えていることは分かっていた。部屋に入ってすぐの床には見えにくいように細い糸が張り巡らされ、地面も不自然にてかっている。また沼のようになっているだろう。
「それじゃまずこの地面をなんとかすっか」「はーい」
「「凍った大地!!」」
グレイシアのシルビィとティルダが魔法を展開すると、地面が一面凍った。土属性の魔法を封じる効果もあるらしい。
"おっと、こっちの手の内はばれちまってるようですな"
"それじゃこっちはどうかな?"
今度は上から尖った岩が落ちてくる。
「上は私にお任せください。突風!」
一陣の風がモルトの杖から飛び出し、その軌道を自在に変えられ全ての岩を凪ぎ払っていく。
"ひゅーっ。やるじゃねえか"
"今のうちに!"
曲剣を構えた盗賊何人かが地面に技を叩き込む。強烈な一撃が凍った地面にひびを入れて割っていく。
それを合図に僕とエミル、ドルトンが先陣を切って部屋の中へと突っ込む。地面の沼化は既に解除されていた。正面にいた3人が立ち塞がる。
同時にシルビィとティルダが左から、ヨルダとデュオが右から回る。リュカはレナと後方を警戒し、ユクトルとモルトは中央で魔術戦を展開する布陣だ。
テオンたち11人対アリシア盗賊団15人の総力戦の火蓋が今、切って落とされたのだった。
"やっぱりあの魔術師を先に討ち取りてえよな"
一人の盗賊が詠唱の構えをしているモルトに向かってナイフを数本投げる。
モルトは瞬時にナイフを鑑定する。
「あのナイフ、麻痺毒が塗られているようです。巻き添えを食わぬようお気をつけください。突風」
そう言いながら易々と魔法で跳ね返す。ナイフはそのまま敵の方へと跳ね返る。
"な!?"
ナイフを投げた盗賊はさっと伏せてかわすが、後ろにいた盗賊二人に直撃する。
"うおっ!" "いぎゃっ!"
"ヘーハチ!トーゴロー!すまねえ、俺のせいで……"
ナイフには強力な麻痺毒が塗られており、二人は一瞬で動けなくなり倒れた。
"くそ。二人の仇!"
「今度は近接戦か?俺が相手をしよう」
麻痺ナイフを両手に構えて飛び掛かる盗賊に、ユクトルがメイスで応戦する。ナイフを弾き盗賊の頭目掛けて打撃が迫る。
「小火!」
間一髪かわして間合いを取った盗賊の足元に、モルトの炎属性魔法が飛ぶ。
"くそ。こっちはお嬢たちに任せた方が良さそうだ"
盗賊は真上に麻痺ナイフを数本投げる。ユクトルとモルトが上に意識を持っていかれた瞬間に、盗賊は二人の後ろにいるレナとリュカの方へ駆け出す。
「させるか!」
モルトがナイフを風で防いでいる間にユクトルが魔法で盗賊の足止めをしようとするが……。
「魔力弾」
アリスの隣に立っていた黒いフードの呪術師が数発の魔法を放ってくる。ユクトルは詠唱を中断し、メイスで魔力弾を相殺する。
「うん?あいつはこの間町で色々聞いて回っていたやつか?てことはこっちの言葉が分かるんだな」
アリスもこちらに目を据えながら、魔力を込めた手を地面にかざして集中している。
「私たちの相手はどうやらあの二人のようですね」