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チート勇者も楽じゃない。。  作者: 小仲酔太
第1章 アルト村の新英雄
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第2話 レベルシステム

挿絵(By みてみん)

【前回のあらすじ】

 魔王に負けた勇者候補のロイは、アルト村の少年テオンとして転生してしまった。絶体絶命のピンチを光の力で切り抜けるが、光が暴走してしまう。それ以来、光の力に頼らないよう剣の腕を鍛え続けるのだった。

 僕――テオンが前世の記憶と力を取り戻したときに暴走した光は「消滅の光」と呼ばれていた。あの日から2年、僕はずっと村の中で剣の修行に励んでいる。


 あのとき、暴走した光の力は僕の想像を遥かに越えていた。前世で光の力を使っていた記憶はまだ朧気だが、「消滅の光」など起こしていないと思う。


 全ての命を無に帰す力。その強大さはいっそ禍々しさすら感じさせるほどだった。光の力を使いこなすには、まずその力に頼らなくても戦える強さが必要だった。


 「テオン~、チェリーパイ焼けたよ~!そろそろ休憩しよ~!!」


 幼馴染のララが宿屋の窓から乗り出して手を振っている。彼女は僕の一つ上、16歳の女の子だ。僕は剣を振る腕を止め、ララに手を振り返す。日が昇ってから何も食べずにずっと素振りをしていた。ぐぅとお腹が鳴る。彼女の言う通り少し腹拵えをしよう。


 「今日はとても上手く焼けたのよ!もう母さんにも負けないんだから」


 ララはえへんと胸を張る。彼女の母クラは村唯一の宿屋の女将で、母親のいない僕の面倒も見てくれた。つまり僕にとっても母のような人だ。テオンにとってのおふくろの味といえばクラの味なのだ。


 「あのララがクラに並び立とうなんて、大きく出すぎなんじゃないか?」


 僕はそう言いながら席に着く。ララの料理の腕は控えめに言って壊滅的だ。食べられるかどうかがまず怪しい。しかし、不思議なことにチェリーパイだけはちゃんとチェリーパイになるのだ。


 宿屋の食卓には村長のアルテとその末娘のユウが先に座っていた。村長の妻、つまりユウの母親も既に他界している。彼女も僕と同じくクラの料理を食べて育ったのだ。


 「いやいや、本当に美味いぞララ」


 村長が満面の笑みでパイを頬張っている。


 「あ!村長、テオンが来るまで待っててって言ったのに……。まあいいか、ユウちゃんはどう?美味しい?」


 尋ねられたユウは黙ったまま頷く。彼女が口を開くことはあまりない。彼女は絶大な魔力を宿す巫女である。もう11歳になるが、その見た目は5歳くらいで知能の発達も遅れていた。


 巫女としての魔力は人間としての成長を阻害するらしく、成長が遅ければ遅いほど優秀な巫女なのだそうだ。


 彼女は巫女であることに加えて病気がちだったため、ほとんど村長の屋敷に引きこもっている。クラの料理も大抵はララが屋敷まで届けていた。彼女が宿屋まで来ることは滅多にない。


 「村長とユウがそこまで言うなら楽しみだな。いただきます、ララ」


 僕はパイにかじりつきながら村長を見る。村長は60歳を超えてなお村最強の戦士だ。いざというときの守りの要なんだと、父ちゃんが笑いながら語っていた。


 「村長、これ食べたらまた相手してくださいよ」


 「かっかっ。そうじゃの〜、わしも偶には体を動かさねばの。良かろう」


 村長は先にパイを平らげ、杖をついて立ち上がる。僕も急いでパイを口に突っ込む。


 「ちょっと!チェリーパイの感想は!!」


 後ろでララが叫んでいるが、僕は気にせず村長の背中を追いかけた。





 村長は広場に出ると振り返り、何気なく手にしていた杖を構える。老体とはいえ特に足腰に不安があるわけでもない彼が普段から杖をついているのは、それが彼の得意武器だからである。


 背丈の八割ほどもある長い杖を両手で持ち、杖の先端を右下に向ける。返し技に特化した構えだ。


 僕も銅の剣を構える。13歳になったあの日にプレゼントされた剣だ。片手で扱える直剣。重さが少し物足りないものの、二年間振り続けたその剣は今ではすっかり手に馴染んでいる。


 左手をそっと右手首に添え、重心を落として剣先を左に向け剣身を横にして構える。僕が前世の頃から得意としていた形だ。


 足にぐっと力を込めて飛び出す。剣先をさらに後ろに引いて溜める。間合いに入る直前に右足を強く踏み込む。


 村長の杖が僅かに持ち上がった。下から払い上げる気だろう。踏み込んだ足で勢いを殺し、そのまま大きく左に飛ぶ。左足で着地すると同時に地面を蹴り、身体を右前に倒して回転しながら大きく剣を振り抜こうとする。


 かっ。


 村長の杖は小さく動き、剣を振り抜く直前の僕の手元を突いていた。そのまますっと後ろに退き、左半身になりながら横薙ぎに僕の右胴を打つ。


 カンっ!!


 鋭い一撃に木製の鎧が軽い音をあげた。しかし、音とは裏腹に意外に重いその攻撃は、僕の身体を大きく吹き飛ばした。


 「ぐっ……!!」


 「ほれ、すぐに次の手に出んかい」


 村長は余裕の笑みで歩み寄ってくる。すぐさま立ち上がると、今度は右上段に振りかぶり突進する。


 やはり小さな動きで対応しようとする村長。このまま切りかかれば、また手元か胴に突きを食らって反撃されるだろう。普段ならここでまた足で角度を変えるのだが……。


 「ほう、そのまま来るか」


 まずは懐に入るのが先。この勢いを今度は殺さない。僕の胸目掛けて飛んできた突きを身体の捻りでかわす。杖はその動きを追って僕の身体ごと押さえに来る。


 読み通り……!!


 そのまま左手で杖を掴む。突いたあとのこの動きなら掴むことができる。そのまま剣を横薙ぎに……。


 「甘いわッ!」


 村長は杖を掴まれたままその先を僕の股に差し込むと、大きく退きながらそのまま僕を投げ飛ばした。かわした動作で踏ん張りが弱くなったところをしてやられた。


 「くそ、あと少し……おっと」


 大きく宙を舞った身体を空中で整えて着地し、すぐに飛び退る。直後、着地した地面を村長の杖が抉る。


 「今だ!!」


 叩きつけた直後の杖を左足で押さえつけ、そのまま跳躍して飛びかかる。剣を上段に取ろうとする動きに対して、村長は咄嗟に杖の後ろを持ち上げる。しかしこの振りかぶりはフェイント。手元の上がった村長の胴目掛けて突きを繰り出した。





 「いやはや、参った!!」


 そう言った村長の左手は突き出した僕の右手を掴んでいる。剣は半身になって躱していた。


 「参ったって……躱してるじゃないですか」


 「いや本当に当たってたら、わし痛いし」


 かっかっと笑う。実際に剣は刃も付いているし刺さりでもしたら大事おおごとなのだが、村長は当たり前のように防具もなしに捌いてみせた。


 「やっぱり敵わないなあ」


 「いや、実戦経験もほとんどないのにここまで戦えるのは凄いことじゃて」


 確かに僕ーーテオンが村の外に出たのはあの日以来一度もない。だが前世では魔王とも戦ったことのある立派な戦士だ。これでも勇者まであと少しというところまで行ったのだ。


 ここまで敵わないのはやはり悔しい。それほど村長は強かった。


 「なんでそんなに早く反応できるんですか?」


 「かっかっ、年の功じゃて。経験を積めば積むだけ強くなる。じじいが若造より強いなんて当たり前じゃろ」


 そうなのだ。この世界では怪我でもしない限り、歳を重ねたものほど強い。前世では考えられないほどに。


 前世でも経験を積めば強くなるのは当たり前のことだった。熟練の技は効果的にダメージを与え、相手の技を防ぐ術も磨かれていく。肉体も鍛えれば強くなるし敵を倒すほどに強靭になる。


 だが、今世ではそれだけではないのだ。


 この世界には「レベルシステム」が存在している。前世でもレベルやステータス、スキルという概念はあったが、そのような曖昧なものではない。


 いくら経験を積もうと、身体は歳と共に衰える。熟練の老人に若者が打ち勝つことだって珍しくはない。しかしこの世界では違った。歳を重ねても、鍛え上げた強さはそのまま維持された。それがレベルシステムというものだった。


 我が国メラン王国がレベルの仕組みを解明して開発したらしく、筋力や反射神経といった能力がレベルに応じて補助される。そのおかげで強さはレベルに準じるもの、という考えが実現され、王国の年功序列制度を確固たるものにしたのだった。


 他にも現在の強さを数値で確認したりスキルを一覧で表示したりできる、様々な装置があるらしい。


 まあ、折角そんな装置があっても、この長閑(のどか)な村では大して活用されていないのだが。


 「村長のレベルっていくつくらいなんですか?」


 「さあ、長らく測っておらんし必要もないからの。最後に確認したときは80くらいだったか」


 なんてもったいない......。


 「そういえばテオンは来月成人じゃったの。今年はレベル鑑定士が村に来るのが遅れてよかった。運が良ければいよいよ初めてのレベル測定じゃな」


 レベル鑑定士とはその名の通りレベルやステータスを測定する職業だ。メラン王国では、装置のないこの村のような所に来てレベルやステータスを測ってくれる出張サービスがあるのだ。


 「そうか!僕は何レベルくらいなのでしょう?」


 「レベルは基本魔物と戦ってあげるものじゃし、あまり期待せぬ方が良いじゃろう。じゃが、テオンの強さはわしが保証する。ステータスだけなら並みの戦士のレベル20くらいに相当するほどになっておるじゃろう」


 「レベル20か。村長より60も低いんですね」


 「それを覆してわしに参ったと言わせたのは至難の業じゃて。さて、ユウを連れて家に帰るかの」


 王都から来る鑑定士は強い人材がいたらスカウトする仕事も請け負っているため、兵力増強のために定期的に全国に派遣されるらしい。だがこんな辺鄙な村に来てくれるのは精々3年に1度だ。その度に村長に言い寄ってレベルを測定しようとするが、ずっと断られている。


 僕は初めてのレベル測定に心を踊らせるのだった。





―――そして当日


 やって来たのは紫がかった長髪をなびかせる、美しい女性だった。ぴしっとした深緑のスーツに身を包んだすらりとした立ち姿。いかにも仕事の出来そうな雰囲気で佇む彼女は間違いなく才色兼備。村の男全員を虜にしてもおかしくない美貌だった。


 その騒がしささえなければ......。


 「こんにちは、アルト村の皆!平和にやってる?今日こそはあなたたちの村長、貰い受けるわよ!!」


 高らかな声と共に始まったレベル測定。やがて、一際騒がしい声が村に響くのだった。


 「成人したてでレベル30~!?」

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