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チート勇者も楽じゃない。。  作者: 小仲酔太
第2章 ポエトロの町と花園伝説
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第10話 盗賊たちのアジト

【前回のあらすじ】

 ユズキたちに町を案内するデミのもとにギルドの職員がやって来る。ようやく事態を把握するユズキたち。一方、テオンは前世、ロイの記憶を思い返していた。ミール騎士団の強者たちと魔王討伐隊として旅に出たロイたち。その前に情報屋を名乗る謎の男が現れて……。

 「アリシア盗賊団のこと知りたくないか、王女様?」


 元ブラン王都の瓦礫に囲まれて、姫様の動きはピタリと止まっていた。大きく目を見開き唇を半開きにして、何も返すことができずに立ち竦んでいた。


 話を聞くと、イデオはアリシア盗賊団のアジトを探しているらしい。それがこの先のモンスネブラの洞窟の奥にあるだろうと言うところまでは分かったが、魔物が強くて近寄れないらしい。


 「あんたらはこの先に行きたいし、勇者の力を覚醒させる修行もしたい。俺は一人ではこの先に行けないが、この先の地理情報や修行場所の心当たりもある。そして、そちらの王女様は俺の情報を捨て置けない。なあ、俺を連れていってはくれないか?」


 「お前は相当肝が座っているな。悪い話じゃないし案内を頼むのはやぶさかではない。だが俺たちはお前のことをほとんど知らないのに、お前は俺たちのことを調べ済みだってのが気に食わん」


 「まあまあ。これから知っていこうぜ、お互いに」


 イデオは人懐っこく笑って見せた。さっきまでの油断ならない空気が一気にほどけた。どうやらルシウスの警戒に対してイデオの方も何かしら気構えていたらしい。いよいよただ者ではないと感じた。


 こうして魔王討伐隊に怪しい男がついてくるようになったのだ。僕は終始警戒したままだったが、他の兵士たちとはすぐに打ち解けていた。かなり広く世界を旅しているらしく、大陸の端々までよく知っていたため、彼の旅話は尽きることがなかった。





 イデオの案内で僕らはモンスネブラの麓まで順調に進んでいた。


 「そうそう。ここを東に行った辺りに冒険者たちがよく修行している渓谷があるんだ。足元の悪い中でホワイトボアの相手をするってのは相当骨が折れるらしいが、それを経た奴らは大抵の場所なら戦えるようになるらしい。足腰はやっぱり一番大切だからな」


 イデオの情報で僕らは進路を少し右に反らし、渓谷手前の山の麓で野営をした。あれから姫様は物思いに耽ることが多くなった。やはり盗賊たちが気になっているのだろう。


 魔王も、姫様の敵であるアリシア盗賊団も、絶対に僕が倒してやる。姫様の憂いを僕が振り払ってやる。決意を新たにしながらも食事の用意を済ませ、見張りに立つ姫様を呼びに行く。沈みゆく夕陽を眺める姫様の横顔はとても儚げで美しかった。


 運命の歯車が狂ったのは翌日、修行の場である渓谷に着いたときだった。修行を始めた僕らを残し、イデオは護衛の兵士を一人付けて辺りの偵察に行った。この近くに盗賊団のアジト候補地があったのだ。


 昼頃、修行中の僕らにその知らせが飛び込んできた。


 「盗賊団のアジト、発見しました!」


 「!?すぐ行く!」


 「姫様!!お待ちください!!」


 止めようとするが姫様はすごい勢いで飛び出してしまった。僕も慌てて追いかける。


 「お止めください!スフィアさん」


 アリスが姫様の腕を掴んで止める。追い付いた僕も姫様の前に回る。


 「ロイ、すまない。だが行かせてくれないか?目の前に仇敵がいる。奴らはいつまでもここにいるとは限らない。それに……」


 姫様が僕の胸に手を当ててぐいと近づく。この上目遣いはずるい。


 「これは私に課せられた試練なのではないかと思うのだ。今奴らが現れたことには意味があるのだ。


 勇者なら奴らを放っておかない。今行かねば私は彼に近づけない」


 ……姫様の目は確かに僕を向いていた。だが捉えているのはいつも勇者だった。彼女は勇者になりたいと言ったことはなかった。勇者のようになりたい。勇者に近づきたい。姫様はいつもそう言った。


 僕は少し目を閉じた。勇者になるための試練。それは僕にとっても必要なものだ。勇者の力の覚醒を求めて修行を重ねても、待っているだけではそのときは訪れない。そういう予感は僕にもあった。


 「姫様……行きましょうか」


 「!?ロイさんまで何を!スフィアさん、今はここで修行するときです。不要な戦いを仕掛けてお二人に何かあったらどうするのです!」


 「アリスは僕らが負けると言いたいのか?」


 「そういうことではありません!!余計なリスクは回避すべきだと言っているのです」


 ……そうか。そういうことだったのだ。


 「勇者なら……救いたいものを前にして自分の身のリスクなど考えない。すべてを救ってこそ勇者だ」


 「ロイ……。やはりお前は勇者だな。ならば私はお前を守る騎士となろう。お前が力に覚醒し魔王を倒すその日まで、私は必ずお前を守ると誓おう。


 アリス、お前にも来て欲しい。お前の回復魔術で私たちを助けてくれ」


 アリスは溜め息をつくと観念して手を離した。


 「もう、死にに行くような人たちに掛ける魔術なんて無いですからね!」





 結局僕らは全員でアジトの前まで来ていた。イデオも一度外に出てきていた。約10人ずつ3組に分かれて突入する。僕と姫様は二番目の組で突入した。


 アジトの入り口は天然の洞窟になっていた。足場も悪く暗い道を慎重に進む。一本道だった。先に突入したルシウス、イデオたちの声はまだ聞こえない。かなり先まで行っているのだろうか。


 そんなことを考えていたその時だった。急に眠気が襲ってきたのだ。気付けば辺りには妙なもやが出ていた。足元がふらつく。その途端足が宙に浮いた。地面が消えたのだ。後続に危険を伝えるためせめて声を上げなければ。そう思ったが少しも声を出すことができなくなっていた。体も痺れ始めている。


 こうして僕らは状態異常をたっぷり付与されて落とし穴に落とされたのだった。僕は落ちながら意識が薄れていくのを感じていた。





 ようやく意識がはっきりし出したとき、僕らは全員同じ部屋に閉じ込められていた。石造りのその部屋は窓も扉もない。気持ち息苦しかった。


 「ようロイ。やっと気がついたか」


 ルシウスが覗き込んでいる。1組目で突入した兵士たちが、僕同様に眠っている2組目の兵士たちを揺さぶっている。その奥には3組目の兵士たちも寝かされていた。


 「どうやらここは毒ガス室のようだな。早く脱出口を見つけなきゃ、いつ殺されるか分かんねえぞ」


 壁に手をついて何やら調べていたイデオが振り向き様に言う。


 「隠し通路か何かがあるとは思うんだが」


 「壁を破壊したりは出来ないのでしょうか?」


 「さっき試したが、俺の剣技でもびくともしなかった。魔術で強化もされているらしい。破壊は難しいだろうな」


 その後しばらく調べ回ったが、出口を見つけることは出来なかった。そのうち全員が意識を取り戻した。最後に目を覚ましたアリスがのんきに「おはよう」と伸びをする。


 状況を全員に伝えたところで、やはり壁を破壊してみようと言う話になる。隠し扉を開くには盗賊が持っている特別な道具が必要なのかもしれないとアリスが言ったからだった。


 全員で片側の壁に並んで立ち、武器を構えて突進技を繰り出す。タイミングを揃えて何人かで一ヶ所に攻撃を集中させる。


 「放て!!」


 ルシウスの合図で全員が駆け出す。そのとき。


 バタンっ!!


 「いったーーーい!!」


 アリスが盛大に転んだ。彼女のメイスが地面に当たって跳ね返り宙を待っている。


 ウィン!


 同時に隠し扉が開いたのだ。見るとアリスのメイスが当たった床のタイルが下がっている。隠しボタンになっていたようだった。


 「アリスでかした!」


 すぐさまルシウスとイデオが駆け寄り、壁に開いた空間を覗き込む。敵の気配はない。


 「俺から行こう」


 剣を構えてルシウスが進む。そのすぐ後をイデオが付いていく。


 「姫様、行きましょう」


 僕も姫様の手をとって後に続く。


 「あ、置いていかないで下さい!」


 アリスも付いてくる。


 「我々も続くぞ!」


 他の兵士たちも動き出す。しかし……。


 バタンっ!!


 付いてきた兵士が二人ほど通ったところで、隠し扉は閉じてしまった。


 「何っ!?」


 アリスが引き返して扉をどんどんと叩くがびくともしない。僕たちはどうやら分断されてしまったようだ。





 「やっと出てきたか」


 そのとき隠し通路の先から声がした。ばたばたと足音がして盗賊が10人ほど現れた。全員頭に赤いターバン、腰に何かの獣の毛皮を巻き、手には曲がった剣を持っている。


 「貴様ら、アリシア盗賊団か?何のつもりだ!」


 姫様が剣を構えて前に出る。僕も剣を構えるが、イデオの動きが気になっていた。彼はルシウスの背中に隠れるようにして立っていた。


 「いやあ、散々だったな。まさか巻き添えであの部屋に落ちるなんて。安全装置が働かなければ一緒にお陀仏だ。罠の設計をしたやつに感謝するんだな」


 「安全装置?何のことだ」


 「ああ?気づいてんだろ?あの部屋は毒ガス部屋だ。普通なら落ちた瞬間にみんな殺せるように出来てんだよ。


 だが仲間は別だ。俺たちの仲間が部屋にいるときは毒ガスは出ない。言ってる意味分かるよなあ?」


 「それはまさか……。俺たちの中に盗賊が紛れ込んでいると言っているのか!」


 「安全装置も緊急脱出扉も作動条件は部屋の中に盗賊団関係者がいること。魔術によって感知するから誤作動はねえ」


 だから隠し扉からその人物が部屋から出たことで扉が閉じた……。


 「そうさ、あんたらの中に、俺たちの仲間もいるんだよ!!」

今は過去編をロイの断片的な記憶として語っていますので、所々飛んでいたり分かりにくい展開になってしまっているかと思います。まだ明らかに出来ない部分があるため、仕方なくこのような構成になっています。


そのうち番外編か他の連載小説として詳しくやることもあるかもしれませんが、今はひとまずこれで我慢していただけると有り難いです。


次回はテオン君に戻ります。

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