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チート勇者も楽じゃない。。  作者: 小仲酔太
第2章 ポエトロの町と花園伝説
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第5話 芸術の町ポエトロ

【前回のあらすじ】

 テオン一行は倒したヘルハウンドを回収して引き続きアルトの小道を進む。突き当たったフロス川沿いに、遂に芸術の町ポエトロが見えてきたのだった。一方その頃、こっそり後をつけていたララは森の異変に気づいて一人調査を開始するのだった。

 「ふぃー。。やっと、やっと着いたでやす~」


 荒い息を上げながらタラがその場に倒れ込む。テオンたち一行はようやく荷車を坂の上まで運び終え、ポエトロの町の東門の前まで辿り着いたのだった。


 花のアーチをモチーフにした華やかな門の向こうに色鮮やかな建物や綺麗に整えられた街路樹が並び、レンガ造りの道路が真っ直ぐ町の真ん中の噴水に向かっている。噴水の周りで歌っている吟遊詩人の声がここまで聞こえてくる。一目見て心踊る町並みが覗いていた。


 「それじゃ、あなたたちはここでお留守番ね」


 「えっ!?」


 「その服で浮いちゃうの嫌だから門の脇で待ってるって言ってたじゃない?」


 言われてユズキとタラが自分の姿を見る。目の前の光景と余りにかけ離れた自分達の出で立ちに肩を落とす。門の脇に立つ衛兵ですら既に訝しげな視線をこちらに向けている。


 「じゃあテオン君、荷車の端にある箱を持ってちょうだい!さっさと犬の報告して服作りにいくわよ!」


 「あ、はい。ユズキ、タラ、ごめん。なんかお土産探してくるから……」


 「あ、ああ。いや、お構い無く。ヘルハウンドの毛皮を数匹分既に取ってある。土産ならそれで十分だ」


 明らかに覇気のない声。何か良いのがあったら持ってこよう。


 レナは既に門を潜って手招きしている。衛兵は緊張した面持ちでレナと僕らを見比べている。さっきレナが何か見せていたようだが一体どうしたというのだろうか。僕はそそくさと縮こまりながらレナの後についていった。





 「町の観光もしたいでしょうけど、今は時間がないからさっさと冒険者ギルドまで行くわよ!」


 きょろきょろしながら歩く僕をレナがせっつく。色鮮やかなレンガで彩られた町並みはどこを見ても絵画のようで、周囲の山々の青と相まってそれは美しかった。


 レナは町に入ってすぐ右の道に曲がっていた。そちらを見るとすぐに大きな建物が目に入る。石レンガ造りの質素な見た目だが、植木鉢に色とりどりの花が生けられ綺麗に飾り付けられている。華やかかつ上品な見た目になっていた。


 両開きの大きな門を開けると中は仄暗くなっており、壁に掛けられた蝋燭が怪しい雰囲気を醸し出している。外見が華やかでも、冒険者ギルドが荒くれものの溜まり場だという印象はこの世界でも変わらなかった。


 「テオン君は冒険者ギルドに来るのは初めてよね?そんなにきょろきょろしてちゃ絡まれるわよ」


 確かに僕が建物に入ったとき、値踏みするような視線が一斉に向いてきた。だが後ろからレナが入ってきてその雰囲気ががらりと変わった。明らかに男たちがざわついている。レナは黙っていれば相当の美人なのだ。もう僕なんて彼らの眼中には入らないだろう。


 「おいおい、どんな田舎者かと思ったらとんでもない美人連れてんじゃねえか。ありゃなんだ?奴隷か?」


 「剣持ってるけどひょろっこいし護衛させるには頼り無さすぎるだろ」


 「あの姉さんにぃ冒険者の厳しさってやつをぅ教えてやらねぇえとなぁ」


 「ば、馬鹿!あのお方を知らねえのか!あの別嬪さんは王都から来たAランク道具魔術師のレナさんだよ!お前瞬殺されっぞ!」


 「ひぃぃ、あれが伝説の!?」


 …………レナがすごいのと僕がめちゃめちゃ舐められていることは分かった。一人になったら面倒事に巻き込まれる気しかしないな……。


 「ほらテオン君行くわよ。あたしたちが用があるのはクエスト依頼カウンターよ。ごろつきどもじゃないわ」


 ぼーっとしていたらレナに手を取られた。すたすたと受付カウンターの左の方へと歩いていく。受付カウンターには左から依頼、完了報告、受注と書かれている。市民が魔物の関わる相談を持ち込み、ギルドでクエストが発行され、冒険者が受注し解決するというのは前世と同じなのだろうか。


 「こんにちは、レナさん。本日はどのようなご用件でしょうか」


 「ちょっとアルトの小道に珍しい魔物が出てね。依頼というわけではないけれど報告しておこうと思ったの。テオン君、箱」


 ヘルハウンドの入った箱をカウンターに乗せる。レナが手早く、他の冒険者に見えないように中身を取り出して見せる。


 「ま、マスターを呼んで参ります!」


 受付嬢は慌てて奥へと引っ込んでいった。どうやらなかなかの大事だったようだ。面倒くさそうにレナが肩をすくめて見せた。





ーーーその頃ユズキたちは


 「うーん、やっぱり20年経つと町の様子も変わるもんだなあ」


 「これは井戸でやすか?おしゃれでやすねー」


 「それは噴水ってんだ。そこで水浴びすると気持ちいいぞ」


 「水浴びですか。いいでやすねー」


 「いや冗談だからな?本当にやるなよ?歌にされて笑い者にされるぞ?」


 楽しそうな町の門前で大人しく待っていることなんてできず、中まで入ってきていた。門番の衛兵はレナの連れだと言うとすんなり入れてくれた。ちなみにデュオは一人荷車の番に残っている。寡黙だが頼りになるこの男は幼馴染みとしてうっかり者のタラを支えてきた。彼は一人ざわつく心で町の方を眺めていた。





 「それにしても凄い人でやすねー」


 ユズキとタラは吟遊詩人が歌っていた噴水の広場から南に延びる商店通りに入ってきていた。二人の格好に道行く人々の視線が集まっているのだが、特に気にする素振りはない。それどころではないほどはしゃいでいた。


 「ユズキさん!見たことのない食べ物がたくさんでやす!魚が一杯でやす!……砂糖!塩!調味料がこんなに!!」


 「おお!なんと美しい衣!あの首の長いセーターも素晴らしい!何より美しい女性がたくさん!最高だ!」


 そんな二人のもとに近づいてくる影があった。


 「変な格好の二人組がいるって聞いて来てみれば……」


 「おお!こちらにも美しい女性が……ってデミ!?」


 「ええっ!デミさんって10年前に村を出てったあのデミさんっすか!?」





ーーー再びテオンのいる冒険者ギルド


 ギルドマスターを呼びに行っていた受付嬢が帰ってきた。


 「お待たせしました。レナさん、奥の部屋でマスターがお待ちです。…………あっ、お連れの方はこちらでお待ちを」


 「あらそう。それじゃテオン君、ちょっと待っててね」


 「あ、はい」


 こんなところで一人になるとか嫌な予感しかしないんですが……。


 「おい、お前。レナさんの護衛かなんかか?」


 「え?」


 案の定、ギルドの隅にいた冒険者の男がいきなり話しかけてきた。


 「一人前に剣なんか持ちやがって。お前腕は立つのか?」


 「私なんて大したものじゃありませんので……」


 「ふぅん。そんなんでレナさんの護衛なんか務まるわけねえだろうが!俺がお前の腕を見てやるからかかってこいよ!」


 男の得物は使い込まれた長剣。装備は機動性重視の軽鎧だがその毛皮は先日見たヘルハウンドのものだった。鍛え上げられた肉体や油断のない立ち姿から、自分と同等かそれ以上の使い手だろうと推測する。


 「剣の修行はしてきましたがまだまだ若輩者、あなたには及ばないとは思いますが胸を借りさせていただきます」


 まずいかなあとは思いながらも、手は剣の柄にかかり重心は低くなり後に下げた左足に力がこもる。


 「おい、あいつ喧嘩買いやがったぞ」「こりゃ面白そうだ」と辺りがざわつき出す。受付のお姉さんがおろおろしている。


 「へっ、いい構えだ。あんたからでいいぜ?」


 男は構えを緩めて挑発する。緩んだ右側に攻撃を繰り出すべく体を押し出す。だがこれはフェイク。つまらなさそうに捌こうとした男の剣を下から弾いて間合いを詰める。


 驚いた男はそのまま横凪ぎの動作に移るが、その動きの起こりを捉え、手を返してその手元を突く。先日村長にやられた技だ。相手はあっさり剣を取り落とした。


 「なっ!そ、そんな……」


 「おい、今あいつ何かしたか?」「相手の攻撃を発動前に止めやがったのか?何の技だ?」「聞き取れなかった……いや、口は開いていなかった。まさか無詠唱!?」


 さっきまで下卑た笑いを浮かべて見ていた周りの者たちも、今の立ち合いに驚き一層ざわついていた。その驚き方に少し違和感を覚えるが、剣を落とした男が動き出したので直ぐに注意を男に集中させた。


 男は剣を拾い上げながら口を開く。


 「いやあ参った。見掛けであんたを侮っちまったが、あんたの戦闘技術は確かだ。さっきは謙遜していたようだが俺よりあんたの方がよっぽど強い。俺の名前はエミル。よろしくな」


 「え?ああ、よろしく。僕はテオンだ。アルト村から来た」


 「アルト村!?そうか、道理で強いわけだ。とするとさっきのもやっぱり無詠唱の技だったのか?」


 「無詠唱?それはよく分からないが、相手の手元に突きを入れるのはうちの村長の得意技なんだ」


 「そういえばアストさんも村には詠唱の文化がそもそもないって言ってたっけ」


 やっぱりアストは有名人らしい。昔キューが語っていたのを思い出す。長剣使いのアスト。そういえばギルドにいる冒険者の多くが長剣を装備している。彼が流行らせたのだろうか。





 エミルとは初対面ながらなかなか会話が弾んだ。最初に絡まれたときにはどうしようかと思ったものだが、話してみれば気さくで人懐っこい人だった。笑顔がどことなくエナナに似ている気がする。


 ばたんっ……!!


 そのとき突然ギルドの扉が勢いよく開かれた。


 「誰か!誰か治癒魔法士(ヒーラー)はいないか!重傷人だ!」


 そう叫んだ男の頭からはなんと犬の耳が生えていた。あれはもしかすると前世のお伽噺に出てきた亜人という者だろうか?


 しかし驚いたのはむしろ彼の後ろから運ばれてきた重傷人の少女だった。頭から血を流した彼女の顔はよく見えなかったが、そのポエトロの町には似つかわしくない格好には見覚えがある。駆け寄って顔を確認する。


 「な!どうして……。どうして、ララっ……!!」

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ESN大賞
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