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チート勇者も楽じゃない。。  作者: 小仲酔太
第2章 ポエトロの町と花園伝説
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第4話 森の異変

【前回のあらすじ】

 夜営中のテオン一行はヘルハウンドの群れに襲われてしまうが、ユズキとレナがこれを撃退。道具魔術師としてのレナの強さを目の当たりにしたのだった。その様子を離れて伺っていた謎の人物。一行はなおもポエトロの町へ向かう。

ーーー翌朝


 ヘルハウンドの群れの襲撃から一夜明け、再び静けさを取り戻していたアルトの小道に柔らかな朝日が差し込み始めた。


 僕は初めて見たレナの戦闘への興奮やら、いつヘルハウンドたちが戻ってくるかも分からないという警戒やらで、あれから一睡もできなかった。


 兵士としての経験もあるはずで、これくらいのことで休息を取れなくなる弱卒では無かったと思うのだが、こういう神経の図太さというか慣れというのは、ロイの精神ではなくテオンの肉体に宿っているのかもしれない。


 「ふわ~ぁ、よく寝たわぁ~。。」


 こういう神経の図太さというか慣れというのはレナの健やかな肉体に十分に宿っているようだ。


 レナは既にいつもの深緑のスーツに着替えている。眠そうに伸びをする姿とは裏腹に、きっちり準備を済ませていた。


 「お、レナさんおはよう!流石準備早いな」


 ユズキ、タラ、デュオも既に起きて目覚ましの体操を始めている。爽やかな朝の風景だ。


 「まああたしのスーツは目覚まし代わりだからね」


 スーツを着さえすれば眠くなくなるのだろうか?妙な言い方に首を傾げ他の反応を窺って男三人の方を見ると、彼らも訝しげな表情になっていた。


 「ん?ああ、あたしの服は魔道具なのよ。指定した時間になるとスーツになったりパジャマになったりするの。スーツ姿だとある程度の状態異常耐性があるから眠気を醒ましてくれるのよ。ふわぁ~ぁ。。」


 なるほど便利な……って眠気醒ませていないのでは?


 「ほへー!本当魔道具ってすごいでやすねぇ。そもそもそんな上等なお召し物アルトの村じゃまずないってのに、着替えなくてもいい夢の機能まで!」


 「てか俺らはそもそもこの服しかねえんだから着替えの必要はないだろ」


 「そういえば、あなたたちはその服一枚だけなの?」


 以前話したが、僕らの衣服は獣の毛皮に穴を開けた程度の簡易なものだ。村にいた頃はこの格好が当たり前で気にならなかったが、レナが着ているスーツは前世でも一部の国の役人が着ていただけの上等な制服だ。この世界の衣服レベル自体が低いわけではないとなると……。


 「多分、その格好で町に行くとめちゃめちゃ浮くわよ」


 ……ですよね。


 「俺たちはこれでいいさ。新しい服を着て村に帰ったら、この服を作ったサラがうるさいんだ。あいつ変なところで嫉妬深いからな。

 そもそも荷車を町まで運ぶだけだ。町の中で支障があるなら門の前で引き返すよ」


 「そう……。アルト村の衣服がいつまでも貧相なのはそんな理由があったのね。お土産には気を付けるわ」


 「でも、テオンには何か新しい服を見繕ってもらえないか?しばらく村には帰らないんだ。王都までの往復くらいおしゃれを楽しんでみろよ」


 「え……。あ、うん……」


 新しい服か。この格好で町に行くのは正直恥ずかしい気がしてきた。今まで当たり前だと思っていても、ちょっとしたきっかけで考え方は変わるものだ。


 うん。ふんどしに毛皮一枚被るだけとか、衣服と言えるわけがない。


 相変わらずユズキには隠したままだが、しばらく村に帰らないどころか僕はもうアルト村には戻れない。断る理由はないだろう。


 ふと昨夜のヘルハウンドを思い出す。彼らの毛皮はハウンドよりずっと上等そうだった。艶のある黒の毛並みはさぞ品のある衣服になるだろう。群れの半分以上は逃げていったが、それでも相当の数のヘルハウンドを倒している。その死骸は昨夜のうちにレナが魔道具に収納していた。


 「できれば昨日のヘルハウンドの毛皮で服を仕立ててもらいたいな。ポエトロの町に仕立て屋さんはあります?」


 「そりゃたくさんあるわよ。魔物の毛皮で仕立てた革製品はブルム地方の特産でもあるからね!」


 「やっぱりヘルハウンドならハウンドより儲かるんだろうな」


 「いやいや、ポエトロの町で扱うのはほとんどハウンドかリトルボアの革よ?ヘルハウンドの毛皮は高級品として扱われるけど、滅多に出回らないの。かなりレアな魔物のはずなのよ」


 「なんだって?あんなにぞろぞろと出てきたのにか?」


 「普段はブルムの森の奥でひっそりと暮らしているって話だわ。あの群れの数は、ひとつの縄張りにいるすべての群れが集まってるくらいじゃないかしら」


 昨夜のヘルハウンドたちを改めて思い出す。確か手傷を負ったものが多かった。また、途中で加勢したものたちは初め攻撃に加わらずにアラートボールの結界の外で待機していた。普段は戦闘に参加しないものたちなのかもしれない。魔物の雌雄や年齢などは分からないが、群れの中の女子供や老人ということだろうか。


 「もしかして、彼らの住み処に何かあって群れ全体で逃げてきた……とか?」


 レナもユズキも頷いている。僕と同じ考えに至っていたらしい。


 「手負いなのは気になっていたんだ。何か訳有りなのだろうな。どの道本来住み処でないところであの数のヘルハウンドが現れ、半分に減らしたとはいえ多数逃がしている。町に着いたら報告すべきだろう」


 「今は時間がないから面倒事はごめんなんだけど……。やっぱり見過ごしちゃダメよね」


 レナはため息混じりに言う。話しながらも彼女は既にテントの片付けを終えていた。テントカプセルの起動をしたら、ある程度の距離にいれば離れていてもテントを収納できるらしい。レナの目配せに合わせて二つのテントが小さな魔道具に吸われていく様子は、相変わらず魔法のようだった。


 「みんな、忘れ物はないかしら」


 「あ、レナさん!この怪物仕舞い忘れてますよ!」


 ユズキがゴーレムの積まれた荷車を指す。確かにどんなものでも小さく持ち運べるレナの魔道具があれば、この荷車いらなかったのではないか。


 「あんな重いもの、運べるわけないでしょ?収納用魔道具は空間を圧縮するだけで重さは減らせないの。テントとベッドで既に結構重いんだから」


 「ちぇ」


 「さ、楽はしないで働きなさい!出発よ!」


 「しゃーねえ。ってあれ?この荷車、昨日より重くないか?」


 「そりゃそうでしょ。昨夜の犬たちも乗ってるんだから」


 「いつの間に!!」





 こうして再び移動が始まった。


 2日目は相変わらず景色は草原と森ばかりで変化がない。見かける魔物も草原のアルトヘアや森から飛び出てきたリトルボアくらいのものだ。昨夜のことがあるから気を抜くことはできないが、平和なうちに日は高く昇っていった。


 そんな一行の後方、こっそりアルト村を抜け出しテオンたちを追いかけていたララは……。


 「これは一体どういうことなの?森の魔物たちが一斉に移動してる……」


 アルトの小道から大きく逸れて、ブルムの森とモエニア山地の境界辺りまで来ていた。すぐそばから水のせせらぎが聞こえる。山と森の境界線をなしている谷川の音だ。


 「これは下草を刈った痕、つまり人が通った痕跡よね。昨夜のヘルハウンドの群れはこの辺りから逃げてきていた。あの騒ぎは人為的なもの?何の目的でこんなところまで……」


 そしてララは独り、森の調査を始めるのだった。





 2日目の夜も落ち着いて夜営の準備をした。途中出会ったアルトヘアと森に少し入ったところに群生していたきのこ類、そしていくらか持ってきていた野菜で簡単なシチューを作る。今度はレナの魔道具の力は借りず、ユズキとタラに教わりながら僕が作った。


 自分では満足いくものだったが、タラからは野菜の切り方とか火の通りが甘いとか、色々と小言を言われてしまった。前世もあるから初めての料理ではないはずなのだが……。


 その晩は交代で見張りを立てながら眠った。結界があるとはいえ安心してはならないのは常識だ。何故昨日そうしなかったかと聞かれると。


 「普段はあたし独り旅だし」「寝てても敵には気づくだろ」


 とのことだ。初心者に優しくないインストラクターだ。





 何事もなく夜は明け、旅が始まって3日目の昼。ずっと左手に見えていた草原は徐々に低い灌木が目立ち始め、高い木がぽつぽつと生え、次第に森との境目が分かりづらくなっていた。


 「それじゃあアストさんの剣の師匠がユズキさんってこと?」


 「そうそう。あのときアストが俺に剣を習いたいって言って以来みんな弟子になりたがってよ」


 だらだらと話しながら歩いているうちに、水の跳ねる音が聞こえてきた。木々の間から覗き見えたのは広大な水だった。


 「おおっ!魚がいるでやす!水鳥系の魔物も集まっていやすね。あれが海でやすか?」


 「ああ、あれはまだ海じゃなくて大河よ。フロス川っていうの」


 「川!?川でやすか?でも対岸見えないでやすよ?」


 「この辺りの水がほとんどこの川に集まって、このまま南西に下って海に出るのよ。見た目より流れが早いし危険な魔物も多いから、中に入って泳いだりしちゃダメよ」


 「あれ?この川ってポエトロの町の後に越えるんじゃありませんでした?」


 「よく覚えてたわね。このまま川沿いにまずは町に入るの。町の端に橋がかかってるのよ。はしだけにね!」


 …………。


 つまりもう町に着くということか。いやあ、長い道のりだった。


 「ちょっと!せめて反応くらいしてよ!」





 川に沿って歩き出すことほんの一時間程度、小道は緩い坂となって川から離れ小高い丘に続いていた。その丘の上にいくらかの建物が建っている。川は丘の向こう側へくるりと回り込んで見えなくなっている。


 「あれが芸術の町ポエトロ……」


 町の建物の壁は薄い緑色で草原の中では目立たないものだが、屋根は黄色や桃色など派手な色になっている。遠くから見ればさながら花畑のようであった。


 「さあ、ラストスパートよ!」


 レナが弾むような足取りで坂を登り出す。僕らは重い荷車を重い足取りで坂に向ける。タラが必死の形相で汗を垂らしている一方、デュオは顔色を変えることもなく黙々と押していた。

 お正月中は随分執筆ペースが落ちて、昨日は投稿できませんでした。今日も推敲まで間に合わず先に投稿してから修正しました。


 内容は固まっていてもいざ文章にすると難しいですね。


 第二章もそろそろ大きく展開が動きますが、まだ書き始めてないので明日中には投稿できないかもしれません。あらかじめご了承くださいませ。

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