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チート勇者も楽じゃない。。  作者: 小仲酔太
第7章 黄昏に燃える光
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第21話 凶兆

【前回のあらすじ】

 アデルと敵将ベルトルトの戦いの最中、巨大爆弾『ムラクモ』が火薬庫から持ち出されたことが判明。さらにテオンの魔力が急激に高まる。焦ったベルトルトはスキル「暗澹冥濛」を発動したのだった。


【この章のあらすじ】

 主人公テオンは勇者に脈々と受け継がれる『光の力』を持つ少年。世界を知るために村を旅立って無事に王都へ着き、その高いレベルを見込まれて隣国アウルム帝国との戦争に参加することとなった。


 開戦直後に大量のゴーレム兵を消滅させたテオンだったが、帝国は控えていた狂化魔物を放出。狂化した巨大な亀の魔物は神話級の『アスピドケローネ』に進化し、英雄アストをも追い詰めていく。絶望的な状況に『竜頭龍尾』の仲間たちと立ち向かう!!


 一方、帝国側はテオンの光の力で巨大爆弾『ムラクモ』の安全装置が消滅した可能性を危惧。敵将ベルトルトは直接テオンの元へ、そして帝国に協力しているアキは、爆弾を持ち出したレナを追っているのだった。

―――『暗澹冥濛』発動の少し前、テオンサイド


 僕らがこの神話級の巨大亀と対峙してどれほど経ったか。いや、実のところそれほどは経っていないのだろう。だが、短い間に色々とありすぎた。


 帝国の研究者デイビッドが開発した魔物を狂化させる笛、パピーバーク。その影響で狂化していた亀の魔物は、戦いの最中に進化し僕らを苦しめた。


 巨大な体躯に似合わぬ素早い突進に、膨大な魔力を収束させた高威力の光線。その光線は僕とララを庇ったアストの両足を奪った。


 正直、もう駄目だと思った。


 そこに駆け付けたのはパーティリーダーのイリーナ。アストと同じくSランクの冒険者だ。その拳は完全に亀の足を止め、その間に僕らはヴェルトが展開した結界に避難し、体勢を立て直すことができた。


 パーティの皆は、神話級の魔物を前にしながらもいつも通り声を掛け合い、心理面から支え合っていた。それがあっという間に戦闘の流れを変えたことに、僕は大いに感動していた。


 そう、感動した。奮い立てられたのだ。


 自信を取り戻した僕は、再び結界の外へと出て亀と対峙している。今度こそ、光の力でこの亀を倒す!その決意を胸に。


 『ねえ、テオン。本当にやるつもり?いくらなんでも危険だよ。君にはまだ早いと思う』


 頭の中でライトが心配そうにしている。僕のスキル、勇者に代々受け継がれてきたこの光の力は、とてもお喋りなのだ。


 (お節介はいいよ。どうしたらあの亀に近づけるか一緒に考えて。僕もさすがに無策で突っ込むのは危険だと思うからさ)


 そう応えると、ライトは大きくため息を付いた……ように感じた。


 亀の甲羅の上では、イリーナが相変わらず拳打を繰り出し、その足を止めている。亀は尻尾でも攻撃できるが、そちらはメラン騎士のブライが惹きつけてくれている。


 僕の横ではララが弓を引き、甲羅の隙間の同じ傷口に何本も矢を命中させている。あの矢の先端にはパーティメンバーのウリが作った、魔力の防護壁を弱める毒が塗りこまれているのだ。


 今、僕にできること。それは弱まった気の障壁を突破して必殺の一撃を喰らわせること。決める、絶対に!


 「あれ?おかしいな。段々と拳の効きが悪くなってきている気がする」


 ふとイリーナが漏らす。


 「とりま、一発!」


 どーん。


 彼女の拳は相変わらずものすごい衝撃を起こし、伏せた亀の身体を伝って地面まで揺れている。


 しかし、確かに揺れは先ほどより弱くなっていた。


 「テオン、気のせいかな?イリーナさんが拳を振り上げた瞬間、亀の気が緩んでいる気がするの」


 『ララちゃん流石!どうやら亀さん、殴られる瞬間に全身の魔力をイリーナがいる辺りに集中させているみたい』


 (そ、そんなことできるのか?)


 『さっきまではそんなことしてなかったからね。戦いながら適応したんだよ』


 「うーん、魔力障壁を一瞬だけ分厚くして、しかも物理防御に特化させてるみたいだなー。これ以上はあまり足を止めていられないかも」


 イリーナもライトと似たようなことを言う。魔物のくせに、器用なことをする。しかし、これはチャンスかもしれない。


 「物理防御に特化しているってことは、魔力には弱くなってるってことじゃない?」


 彼女の拳打に合わせて、僕が亀の身体の反対側から攻撃すればいい。まさに今こそ狙い目なのだ。


 「イリーナさん、もう一発、亀の左肩辺りにお願いします!ララ、援護して!!」


 「うん、任された!!」


 亀の巨大な身体には何重にも障壁が張られている。イリーナの拳を防いでいるのは体表面の障壁だけ。内側、体内の障壁を破らないことにはダメージを与えられない。


 イリーナが大きく拳を振り上げるタイミングに合わせ、一気に亀の後ろ右足へ近寄る。障壁が薄くなる一瞬を見極め、全身に光の魔力を纏って傷口に突進する。


 ひゅん、ひゅん!


 さらに2本の矢が肩口をすり抜けて亀を襲う。1本は外側の障壁を崩し、もう一本はさらに奥深くへと刺さる。流石、ララ!


 『本当に亀の体内に入っちゃった。それで、どうするの?』


 (決まってる。毒矢で弱ったこの隙に、一気に内側の障壁を破る!)


 右の掌に魔力を集める。やがて眩しいほどに光が溢れ出し、どんどん手が熱くなってくる。


 「喰らえーーーー!!!!」


 ぴかっ!!


 強烈な光が迸り、障壁のわずかに薄い部分を圧迫していく。


 「うわっ、眩しいー!甲羅の隙間からも光が漏れてる。ちょっと綺麗かも」


 イリーナの緩い声がする。


 「ぐああああぁぁぁぁ…………!!」


 遅れて亀が唸る。拳に備えていたところに、想定外の魔力攻撃を喰らったのだ。状況はよく飲み込めていないだろう。


 このまま、全部光で飲み込んでやる!!





 『あれ、おかしいな……』


 (どうした、ライト?)


 『さっきの魔力障壁ならこの出力でも十分押しきれたと思ったんだけど……。もう対応されちゃったみたい』


 しゅーん。魔力が尽き、光が弱まって消えてしまう。


 「ふしゅーーー!!」


 ここまで誇らしげな鼻息が聞こえる。


 くらっ……。


 少し目眩がする。辛うじて回復した魔力をほとんど使ってしまった。もう意識を保つのがやっとだった。


 『そっか。進化前に何度か受けた光を覚えてたんだ。参ったな……』


 しかし、ここで決めなければもうチャンスはない。そんな気がする。脳裏に両足を失ったアストが過り、身体が震える。


 「まだまだーーっ!!」


 『待って、テオン!!何するつもり!?』


 (残ってる魔力すべて使ってでも、こいつを倒す!!)


 『いやいや、今のでほとんど使い切ったって。今度こそ意識失うだけだよ?そしたら亀の体内に取り残されちゃう……。


 ジッ、ジジジ…………。


 そうじゃ、やめておくがよい。私も体内に異物が残るのは嫌じゃからな』


 ん?今ライトの声で誰か別の人が喋ったような。てか私の体内って……。


 (お前、誰だ!?)


 『ほう、すぐに気付くものじゃな。私は玄武の娘。今お前が入り込んでいるアスピドケローネじゃ』


 (は!?ライトは?あいつをどうしたんだよ!?)


 何が起こっているんだ?頭の中で語気が荒くなる。


 『さあ、知らぬな。身体の中に異質な魔力が紛れ込んで来たから追い出そうとしたら、何やら会話が聞こえてきたんでな。ちょっと私も混ざってみたのじゃ』


 しかし、亀が入り込んできてからライトの声が聞こえない。あいつは無事なのか?


 いや、ライトは光のスキルそのもの。力を使おうとすれば自ずとまた話せるはず。やることは変わらない。


 (追い出されるのはお前だ!今度こそ消し去ってやるからな!!)


 全身の魔力を絞り出すイメージを描き、それを再度右手に集中させる。


 ……ん?


 違和感。いつもと何かが違う。何か、こう、自分の魔力が蓄えられている部屋に、隠し扉を見つけたような、何か……。


 『…め……。今……ったら…………。…つも……僕……えてる…………分…で…………』


 『ん?今何か言ったか?まあよい。さっきのでほとんど魔力を使い切ったのだろう?無理をせずさっさと私の中から出てい……、な、なんだこれは!?』


 その隠し扉に気付いた途端、ぐんと自分の魔力が上がったのを感じる。いや、この魔力の感じは覚えている。これはまるで2年前の……。


 それでもいい。魔力が残っているなら、この亀を倒せるなら何でもいい。どうせ全力でも勝てなかった。光にも対応されている。


 何をしても足りないということはないのだ!


 『くっ、この魔力……。まさかこの者、チートの領域に手を出して……、うっ…………』


 亀の意識が弾き飛ばされる。よし、これなら。


 右手に収束した高密度の魔力が、徐々に外側まで漏れ出す。光が溢れ出して……。


 『遅かった。もう止められない、なら制御するしか』


 ライトの声が戻ってきた気配に安心し、意識を亀の気に集中する。


 内側の気の障壁がさっきよりも分厚くなっている。かなり警戒しているらしい。しかし、心なしか外側の障壁まで頑強になっている気がする。


 既に体内に入っているのだから、外側はあまり関係ないだろうに。


 ぴかーっ!!


 溢れ出る光が徐々に大きくなり、先ほどより強烈な魔力が迸る。


 ぐらん…………。


 そして目の前が真っ黒に塗り潰される。


 え?黒?


 いつもの光の力なら、視界は真っ白になるはずなのに……。


 その瞬間、ふっと身体が宙に浮いた。視界は相変わらず真っ暗なままで感覚でしかないが、咄嗟に下らしい方向に四肢を伸ばす。


 どさっ。


 「げほっ」


 地面らしきものにぶつかった。感覚だけでなく本当に身体が落ちたらしい。


 「な、何?ど、どうなって……」


 辺りは闇。すべて闇。何も見えない。何も分からない。何も、何も……。


 「テオン!!」


 不意に誰かに腕を掴まれる。今のはララの声。引っ張られる方向にただただ付いていく。


 「ヴェルトさん、ララです。テオンも一緒です。結界を開けて!」


 「お、おお。無事か。今開ける」


 狼狽えたヴェルトの声。彼もこの暗闇の中にいるのだろう。ララは気配察知で周りの様子が見えているのだろうか。


 「聞こえた。ここら辺だね?」


 「ヴェルト、私もいるわ。お願い」


 イリーナとレンの声。


 「私が引っ張る!」


 ララの手が離れ、どさどさっと人が入ってくる気配がする。


 真っ暗な結界の中、休んでいたアストが口を開く。


 「暗闇の術、ベルトルトが来たな」


 「なるほど。はっ!ブライは?あいつは戻っていないのか?」


 アメリアが焦る。


 「隊長、俺ならここに。地面を通じて気配を探れるので」


 「そうか、良かった。ベルトルトは辺りすべてを暗闇にし、満足に動きが取れなくなった相手を一方的に屠る。だが結界の中なら安全だ。奴が過ぎ去るのを待とう」


 つまり気配の分かるララが手を引いてくれなかったら、僕は敵の思い通りにやられてたのか。


 「いや、安全とは言えないかもな……」


 アストが不安そうに呟く。声の響き方から下を向いているようだ。


 「でも直前にテオンが亀を倒してくれて、本当に良かった〜!」


 「!?亀、倒せてた?」


 「うん!……!?」


 「いやー、まさか倒されるとはね」


 突然の声。


 それは亀を狂化させた張本人、デイビッドの声だった。

何とか9月分も書けました。1週間振りの小仲酔太です。


亀さん、真っ暗闇のうちに消えちゃった。

この世界には四神(玄武、青龍、白虎、朱雀)それぞれの子が魔物として存在しているのですが、

その1角が知らぬ間に退場してしまいました。


タイトルにも入っている「チート能力」について何か知っていそうだったんですけどね。テオン君自身はほとんど気にかけることなく終わってしまいました。他の四神チルドレンに期待してください。


次回、第22話『来襲』


また来月、よろしくお願いいたします。

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