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チート勇者も楽じゃない。。  作者: 小仲酔太
第7章 黄昏に燃える光
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第20話 焦燥

【前回のあらすじ】

 黄昏の碑の前でテオンたちの無事を祈る仲間たち。そこで、ブレゲが安否を気にする騎士隊長の本名がアメリア・C・メランだと判明。それはユカリを逮捕したパーシー王子と同じ家名であった。



【この章のあらすじ】

 主人公テオンは勇者に脈々と受け継がれる『光の力』を持つ少年。世界を知るために村を旅立って無事に王都へ着き、その高いレベルを見込まれて隣国アウルム帝国との戦争に参加することとなった。


 開戦直後に大量のゴーレム兵を消滅させたテオンだったが、帝国は控えていた狂化魔物を放出。狂化した巨大な亀の魔物は神話級の『アスピドケローネ』に進化し、英雄アストをも追い詰めていく。絶望的な状況に『竜頭龍尾』の仲間たちと立ち向かう!!


 一方、帝国側はテオンの光の力で巨大爆弾『ムラクモ』の安全装置が消滅した可能性を危惧。敵将ベルトルトは直接テオンの元へ、そして帝国に協力しているアキは、レナがいる『火薬庫』へと向かっていた。

 「ここが火薬庫……」


 埃っぽい暗がりを慎重に進む。ここは戦場地下、古代遺跡『バルトの火薬庫』。かつて災厄をもたらした巨大爆弾『ムラクモ』の隠し場所でもある。


 戦争開始直後に発生した光の柱によって、ゴーレム兵だけでなくその爆弾の安全装置まで消滅したかもしれない。そうなると如何に強固に作られた『火薬庫』の中とて、戦いの衝撃で暴発しかねない。


 それを防ぐため、もしもの場合は俺の力で『ムラクモ』を持ち出すつもりでいた。


 「誰か入りやがったな……?真新しい足跡、埃を払った痕、不自然な空きスペースもある。兵器を持ち出してるかもしれねえ」


 俺は実のところ『ムラクモ』の保管場所までは詳しく知らなかった。見ればそれとは分かるのだが、持ち出されたとなるとすぐに断言することはできない。


 「お待たせしました……。はあ、はあ……」


 後続の部隊がようやく駆けつける。俺は手短に侵入者と『ムラクモ』盗難の可能性を伝える。


 「まだ奴らは中に潜んでいるかもしれないし、奪った爆弾を持って地上の戦闘に向かったかもしれない。とにかく保管場所を知ってるやつに確認させろ。くれぐれも慎重にな」


 部隊の指揮官にそれだけ話し、俺は地上を見上げる。


 「うーん、あいつに聞けばすぐ分かるんだろうけど、そんな時間ねえしな。洞窟の出口、総当たりで行くか」


 「あいつ、ですか?誰か一人聞きに行かせましょうか?」


 「いや、それより地図をくれ。ちょっと行ってくる」


 俺の最大の武器は透過能力による機動力。複雑な洞窟内での追いかけっこで俺に敵うやつはいない。


 「待ってろ、爆弾泥棒。ルーラ!!」


 ………ぶふっ、頭はぶたねえけどな。


 1つ目の出口の位置を確認した俺は、洞窟内での禁句を高らかに叫びながら勢いよく床を蹴った。





―――帝国軍が火薬庫の異変に気付いてしばらく、アデルサイド


 「やるな、小僧」


 帝国独自の銃を仕込んだ大型の馬上槍。それを難なく振り回してベルトルトが僕を睨む。僕なら片手で持つにもやっとだろうに、あの重そうな槍で射撃まで精密なのだから手に負えない。


 僕の横ではハロルドが既に横たわっている。命は取り留めているようだが、長年使い込んできたであろう相棒の盾は、無惨にもそのど真ん中に風穴を開けられていた。


 「くそ、よくもハロルドのアニキを!!」


 ベンが大盾を構えて突撃しようとする。


 「大人しくしていればよいものを」


 そういうなり、ベルトルトはベンの踏ん張った足元に一発、さらに大盾の端に一発。それでバランスを崩し盾からはみ出た彼の(もも)(あばら)、肩にトントントンと魔力弾を放つ。


 「う、うぐ……」


 やはり彼のレベルではとても太刀打ちできない。しかし、その勇気で生み出された隙は無駄にはしない。


 一気に距離を詰めて長剣を振りかぶる。狙いは奴が跨がる馬型の魔物、カバーの方だ。


 「ヒヒーーーン!!」


 馬の方もさすが魔物というべきか、ただ従順なだけではなく乗っている人間を落とす勢いで跳んでかわす。


 しかし敵は落ちない。激しく飛び跳ねる馬の背から横薙ぎに槍を振るってくる。咄嗟に跳びすさる。


 だん、だん。


 さらにそこに銃弾が打ち込まれる。それを長剣ですべて払い落とす。少しも気が抜けない。テオンたちと出会って剣の腕を上げていなければ、今頃僕の身体も穴だらけだ。


 「ふん、残念だったな。貴様の腕はなかなかのものだが、一人でこのカバーの足を止めることはできぬぞ?」


 「そう思うならやってみろ。すれ違った頃には馬の腹はぽっかり開いているぞ」


 「ならば先に貴様の剣を折るのみよ」


 まずいな。剣の腕は確かに上がったが、愛用の長剣がいつまでも魔力弾を弾けるとは限らない。既にぼろぼろと歯こぼれしている。来る戦いの前には新調せねばなるまい。


 ふわっ……!


 突如、目の前に人影が飛び出る。明らかに地面から。


 「お、いたいた。ベルトルトの旦那!」


 な、アキレス!!ちょうど良かった、早く彼にレナのことを伝えなくては……。


 「おおアキレ……アキ!待っていた。『ムラクモ』は無事だったか?」


 そうだった……。アキレスは今、救世主アキとして帝国に顔を売っている最中。ここで迂闊に僕が話しかけるわけにはいかない。


 今でこそこの女神教と黄金教の小競り合い(・・・・・)大事(おおごと)になってきているが、僕らの最大目標は来る大戦争。その成功のためには救世主アキの役割は不可欠なのだ。


 彼はベルトルトに近づき、こそっと何かを報告する。敵将の目がギョロっと見開く。どうやらレナは無事に『ムラクモ』を持ち出せたようだ。


 帝国側は知る由もないだろうが、アリスト博士のインベントリが完成した今、あれは『火薬庫』にあるより袋の中にある方が遥かに安全なのだ。


 「こそ泥に心当たりはないのか?」


 「まあメランの手の者でしょう。だとしたら持ち帰るか、この戦場のどこかに投下するか……」


 うーん、そこは微妙だな。作戦通りなら真っ直ぐメラン王都に帰ってるはずだが、今彼女はテオンにご執心だ。勝手なことはしなければいいが……。


 「投下するとすれば、北の方の軍人どもは避難しにくいだろう。だがこっちの冒険者どもならばらけているし、最悪捨て駒にすることも考えられる。となると……」


 「とにかく旦那、俺は引き続き盗っ人たちを探す。まだ地中を移動中かもしれないからな」


 そういうとアキレスは再び地面の中へとすり抜けていった。


 「無駄話は終わったのか?ベルトルト将軍」


 「ああ、悪いが疾くと通り抜けさせてもらうぞ?急がねば貴様の冒険者仲間も危ういやもしれぬのだ」


 心配の振りなど小賢しい。お前の狙いは光の力を持ったテオンだろうに。


 「そんな……戯言に、惑わされるかよ……」


 気づけば意識を取り戻したハロルドがふらふらと立ち上がっていた。


 「アデル君、やっぱり君も凄いんだな。レベルじゃ測れない強さを持ってる。盾なしでここまで敵将を引き止められるとは……」


 そう言いながら、彼はベンの大盾を拾う。普段の盾とは全然重さが違うだろうに、よく片手で持ち上げられるな。


 「なかなかしぶといな。いい加減しつこいぞ!」


 「可愛い後輩が後ろで頑張ってるんでね。意地でも通さないよ」


 「見たところそこの小さな小僧も後輩だろう?先に倒れていたら先輩の意地も形なしだな」


 ああ、確かに。でもそんなことは最早どうでもいい。彼は再び立った。


 「いいんだよ。矛盾こそ俺の原点だ。守ると言って攻める。攻めると言って守る。力は及ばずとも、倒れようとも、逃げたり隠れたりはしない!矛盾撞着(コントラストライク)!!」


 高らかに技名を叫ぶ。それはサポートシステムの恩恵を載せ、レベルシステムを超えた強力な一撃となって敵に迫る。


 「スキルか?いや、違うな。それが貴様らの女神の恩恵か。片腹痛い」


 かーん!


 ハロルドの渾身の一撃は、鼻で笑うベルトルトのひと薙ぎに弾き飛ばされた。


 「女神の使徒よ、貴様らが母なる加護に甘えているうちは我らには敵わぬ。まだこの小僧の方が自立しているぞ?」


 まあ、僕の剣技はサポートシステムの技の枠を逸脱し、自らの技術として昇華させた。いわゆる「型破り」という一つの境地である。


 アストに憧れ、テオンに魅せられ、そしてあの人の役に立つためにここまで……。


 弾かれたハロルドの大盾の影から飛び出し、水平に斬り込む。


 一瞬、意表を突かれたベルトルトの顔が歪む。彼の槍が引き戻されるより早く、長剣がその首元に迫り……。





 「ベルトルト様、ご報告に……。ベルトルト様!?」


 三度、彼の元に伝令が来る。振り抜いた剣をすぐに構え直し、次の状況に備える。驚いた伝令が慌てて彼に駆け寄る。


 びりびり……。


 手に痺れが残る。見れば愛用の長剣は半ばから先を失っていた。


 「案ずるな。そう簡単に俺の首はやらん。やらんが……」


 きっ、と振り返った彼の顔には明らかに焦燥の色が浮かんでいた。


 「小僧、その顔覚えておくぞ」


 怒りを伴う低い声が腹の底に響く。


 剣が何故折られたのかは見当がつかないが、念の為に首元に防御魔法でも掛けていたのかもしれない。何にせよ、剣を折られたからにはもう僕に敵将を止める術はなかった。


 「それで、報告とはなんだ?」


 ベルトルトの声に伝令がはっとして焦りを思い出す。


 「はっ!一大事にございます。監視対象、光の元凶がアスピドケローネの体内に侵入しました」


 光の元凶……、テオンか!体内に侵入、ってどういうことだ?アスピドケローネって、あの巨大亀のことだよな。


 「アスピドケローネの防護壁が破られ、体内への侵入を許しました。そのまま攻撃を試みたようですが一度失敗し、敵は窮鼠の状態。スキルが暴走する危険があります」


 「光の元凶はスキル暴走の危険あり。あの亀もデイビッドのパピーバークを受けている。死が近づけば狂化の影響に抗えなくなるだろう。どちらにせよ……」


 考え込むベルトルト。


 「まずいな。もしあの安全装置なしの爆弾が近くにあれば、どちらの衝撃でも暴発しうる。いや、光のあの規模のスキルだ、その暴走ですら国一つ丸呑みにするほどかもしれぬ」


 テオンはあの『消滅の光』の元凶だしな。しかもあれからかなり成長しているだろう。あながち外れた予測じゃない……、ん?『安全装置なしの』爆弾?


 「兎角、魔力の高まりを感じたら要注意だ。最悪の自体も考えられ……」


 きーん……!!


 突然激しい耳鳴りが襲う。これは間違いなく、膨大な魔力が収束している証。暴走か?爆発か?何が起きているんだ!?


 「くそ、もう始まりやがった!!お前は後ろの部隊を下がらせろ。私は行く。視界を奪うが……戻れるな?」


 「は。将軍、ご武運を」


 最早彼は僕らに目もくれない。カバーを亀の方へ向けると手綱を引いて駆け始めた。


 「あ!ま、待て!!」


 ハロルドとともに急いで追いかけようとするが……。


 「少しでも時間が稼げればいい、発動する。時よ止まれ、闇に飲まれて。『暗澹冥濛(あんたんめいもう)』!!」


 その途端、彼の言葉通り視界が奪われる。突然の真っ暗闇の中、僕はもう一歩たりとも動くことができなかった。

投稿が遅くなってしまい申し訳ありませんでした。

今年ほど忙しい8月はなかなかないんじゃないでしょうか。


外にも行けないこの時期に、皆さんのおうちのお供を提供できたら良かったのですが、なぜか私はステイホームしてても寧ろ例年より忙しいんですよね。何でだろう?


さて、ようやく8月分のお話を投稿できたわけですが、もうすぐに9月ですからね。頑張って次の話も書いていこうと思います。


次回『凶兆』。お待たせしました、テオン君サイドです!

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