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チート勇者も楽じゃない。。  作者: 小仲酔太
第7章 黄昏に燃える光
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第19話 慮外

【前回のあらすじ】

 テオンの力の正体は古代スキル『滅』だった。それがもたらす悲運を危惧し、レナは火薬庫から巨大爆弾『ムラクモ』を持ち出そうとしていた。その安全装置がテオンの力で消滅したことも知らずに……。



【この章のあらすじ】

 主人公テオンは勇者に脈々と受け継がれる『光の力』を持つ少年。世界を知るために村を旅立って無事に王都へ着き、その高いレベルを見込まれて隣国アウルム帝国との戦争に参加することとなった。


 開戦直後に大量のゴーレム兵を消滅させたテオンだったが、帝国は控えていた狂化魔物を放出。狂化した巨大な亀の魔物は神話級の『アスピドケローネ』に進化し、英雄アストをも追い詰めていく。絶望的な状況に『竜頭龍尾』の仲間たちと立ち向かう!!


 一方、メラン王国の地下で何らかの調査をしていたユカリは、王国のパーシー王子に怪しまれ監獄に入れられてしまう。そのとき、王子がマギーに何か耳打ちしていたのだった。

―――キールサイド。ここはメラン王都、中央広場。


 マーガレット・ガル。


 今、俺の横にいるアイルーロスの娘の名だ。普段はマギーと呼ばれているし、本人もそう自称している。


 ところで、猫から進化した種族であるアイルーロスは、古来からひとつの王族を中心とした王国を築いていた。その名もグルーブ王国、またの名を「黄昏の国」。


 圧倒的な武力で他勢力を退けながらも、征服や侵略には興味を示さず、ただ自分たちの縄張りの中で静かに単一種族の国家を栄えさせていたのだ。


 しかし、古の大戦で多くの戦士を失い、さらに気候変動で飢饉が続いて国力が低下。次第に隣国の「黒の王国」に吸収されていった。それが今のメラン王国の前身、クロノ王国である。


 グルーブ王国の王族はその後、アイルーロスたちをまとめる自治区、アイルーロス領の領主として、今日(こんにち)まで血を繋げている。今の領主の名はヤマブキ・アイルーロス。


 すなわち、その家名は対外的には種族名と同じ「アイルーロス」なのだが……。


 『ガル氏族といえば遥か古代から続くアイルーロスの王族の名だ』


 それは王都の酒場のマスター、グラートの発言だ。彼は大陸中のすべての情報を知っていると言っていた。そして、その言葉をマギーは「そうだ」と肯定した。


 王都までともに旅をし、ともに笑い、ともに戦ったこの愛嬌たっぷりの娘は、実はアイルーロスの王族の末裔なのかもしれない。


 今、彼女はずっと俺の横でぶつぶつと何かを呟いている。


 「マギー、大丈夫か?」


 「え?う、うん。大丈夫だニャ。何でも……」


 「あのとき……。地下でユカリが捕まったとき、やっぱり王子に何か言われてたんだろ?」


 地下で会ったパーシー王子、パーシー・C・メランはこの国の第2王子であり、かなりの切れ者で若いながらも既に国政に携わる逸材だという噂だった。その王子は酒場でマギーの家のことを盗み聞いている。


 うろ覚えではあるが、彼がマギーに耳打ちしたのはやはり本当だったと思う。そのときに何か変なことを言われたのではないかと思ったわけだ。


 「ニャニャっ!!そんなことないニャ!あれ?スンスン……。キールって嘘の匂い分かったりするニャ?」


 そういえば、嗅覚の優れた種族は匂いで嘘が見抜けるらしい。脇を上げて必死に自分の匂いを嗅いでいるのは自白と見て良いだろう。


 「ああ、鼻は効かないが今の嘘はバッチリ匂ってたな」


 「そうかニャ。気付かれちゃったら仕方ないニャ。実は、求愛されたニャ」


 …………………………は?


 「求愛されたニャ」


 「そ、そうか」


 いや、そうかじゃねえよ!何その急展開!?え?王子から求愛?一目惚れですってか?そんなわけ……、いや、マギーも元王族だし、政略的な?何だそれ、ふざけんな!いや、別にふざけちゃ……。


 「キール、急に変な匂いになったニャ」


 「いや、そりゃ動揺するだろ!?その、ほ、本当なのか?」


 「ほんとニャ。『ずっと君を待ってたんだ』って言ってたニャ」


 「そんな、王子が初対面の女にいきなりなんてそんなことあるわけ……、ん?」


 ずっと君を待ってた……だけ?


 「なあ、マギー。王子に言われたのって、『待ってた』だけか?」


 「そうニャ。一瞬だったからきっとそれだけしか言えなかったのニャ」


 いやいやいやいや、それだけで求愛とか、それはないだろ!


 「多分それ、早とちりだぞ?」


 「ニャ!?そうなのかニャ?なんだ、ずっと考え込んで損したニャ。じゃあやっぱり、マギーの歌の評判を聞いただけだったのかニャ?」


 何!その線もあったのか……。いや、ねえな。キラーザの温泉宿ではすごい歌を披露したらしいが、それが王子の耳に届いてるとは思えない。


 てか俺、あのときのマギーの本気の歌、聞き逃したんだよな。どこかでまた歌ってくれないだろうか。


 しかし、『ずっと待ってた』ってのに引っかかる。真意はなんにせよ、パーシー王子はマギーのことをずっと前から知ってたってことだ。となると、やはり家絡みでアイルーロス領との間に何か……。





 「あれ?あの2人、マギーとキールじゃねえか?おーい!!」


 ふと知った声がして立ち止まる。目の前には巨大な石碑に向かって熱心に祈りを捧げる住人たち。その中に石碑には目もくれずこちらを見つめている人影が3つ。


 「あら?お二人は壁の方に向かわれたと聞きましたが……」


 「ポット!リット!2人こそ、フィリップのお店にお留守番してたんじゃなかったのニャ?」


 「いやあ、やっぱり黄昏の碑ってのがどんなものか気になってね」


 黄昏の碑は、今日の午前中に見に行った中央広場に建つ巨大な石碑だ。テオンの無事を気にしていた俺らを見かねて、マリーとブレゲ親方が連れてきてくれた場所。


 俺たちは別にここに戻ってくるつもりだったわけではない。酒場に通じる階段とは違う道で地下から戻ってきたら、たまたまこの広場の目と鼻の先だったのだ。


 「えらく長い散歩だったね、お二人さん。城門に登っちまって慮外者にでも間違われたかい?」


 ポットたちの陰に隠れていたブレゲがにやにやと小突いてくる。


 「慮外者ニャ?」


 「無礼者ってことだ。まあ予想外なんて意味もあるがね」


 「それなら王子が慮外だったニャ」


 ちょっと待て待て!無礼者の意味もある言葉を王子に使っちゃまずいだろ!!


 「そ!そ、それで!?ポットとリットはあの碑のことはもう聞いたのか?」


 「そうそう。それで、あの碑に戦死者の名前が刻まれるってのは本当なのか?」


 どうやらまだ説明の途中だったようだ。


 あの黄昏の碑には王国軍として登録された者が戦死したとき、その名が記されることになる。それは悲しい話ではあるが、生死が分からないまま会えなくなるよりはずっとましなのだそうだ。


 そういえば、『黄昏の碑』という名前は、アイルーロス領のかつての国名の異名「黄昏の国」と何か関係があるのだろうか。


 「ああ、そうだ。先々代の王の魔道具と女神様の祝福でね。この碑に名前が刻まれること、そのものが供養であり魂の救済になるのさ」


 あれ?マリーの説明と少し違う気がするな。でも、確かにそうだよな。正しく死を悲しむこと。それこそが魂の救済になると、昔どこかで聞いた気がする。


 石碑というのも意味があるのかもしれない。この国の国教である女神教の総本山、聖都ペトラでは大岩を御神体にしていたと聞く。あの石碑も元は岩。戦いの守り神としても崇められているのだろう。


 「先々代の魔法の才能はずば抜けていてね。特に大規模な魔法構築に関しては王国一だと噂になっていたものさ」


 しみじみと語るブレゲの遠い目は、石碑の向こうにそびえ立つ王城を捉えていた。先々代というとあのパーシー王子の祖父にあたるわけか。


 覚えず、俺は拳を握りしめていたのだった。これじゃ慮外者と思われても仕方ないな。





 「ああああぁぁぁぁぁぁ…………!!!!」


 広場に一際大きな唸り声が響く。見れば、石碑から少し離れたところにいる老婆が、天を仰いで手を広げていた。


 他にも、同じように悲しむ人がどっと出てきた。戦争に何か大きな動きがあったのだろうか。


 「ううっ……」


 すぐ後ろでも声がする。


 こんなに遠く離れていては字など読めないだろうと思っていたが、同じような距離で石碑を見つめる目がたくさんあることから、本当に読めているようだ。これも先々代の魔法とやらだろうか。


 「折角……、折角騎士になれたのに、憧れの部隊に入れたと喜んでいたのに、どうして……」


 後ろの女性が膝から崩れる。どうやら戦地に赴いた騎士の母親らしい。


 いたたまれなくなったのか、マギーが俺の腕に縋ってきた。俺も気まずくなって俯く。しかし、彼女の嘆きから耳を背けることができないでいる。


 「隊長さん、あんた優秀なんだろ?どうしてうちの子を守ってあげられなかったんだい……。どうして!!アメリアさん……」


 その名が出た途端、ブレゲがぴくりと反応した。


 「おい、お前たち。少しここを離れるぞ」


 彼女が耳打ちし、俺らは広場の端まで場所を移す。


 「何か、知ってる名前でも出たのかニャ?」


 マギーが小声で尋ねる。泣き叫ぶ悲鳴はまだやまない。至るところでこだまし、悲しみが悲しみを呼び、広場は言いようもない悲嘆に覆われ始めていた。


 「やっぱり、何か、残酷だと思うな。俺は……」


 つい、そんなことを呟いてしまう。


 「おいおい、王族の魔法をそんな風に貶すのは不敬ってもんだよ。今泣き叫んでいるのは知った顔だから、分からなくはないけどね」


 やはり、ブレゲの知り合いの話だったらしい。


 「私が冒険者だった頃に面倒見ていた姉妹がいてね。姉の方は同じ冒険者になったんだが、妹の方はならず者の稼業が合わなくて騎士になったんだよ」


 「まさか、その妹さんのお母さんがさっきの……?」


 「いやいや、姉妹には親はいなくてね。私が引き取って育てたんだ」


 「じゃあ、さっきのアメリアって人のことか?」


 ポットが頭を掻きながら聞く。リットはまだ広場の方を見ていた。


 「ああ。真面目な子でね。やんちゃな姉とよく喧嘩していたが、あの子が騎士になってからは姉妹は疎遠になっちまって。騎士ってのは宿舎で生活するから、家族とは会えなくなるのさ」


 つまり、戦死した騎士の家族は、長らく会えなかった家族の最期を石碑の文字だけで知らされたわけだ。


 「だが、風の噂で彼女が隊長にまで登りつめたことは聞いていた。強く厳しく、そして美しい騎士の鑑だとね」


 「それで、さっきの人の息子は彼女に憧れて部下になった騎士だった、と」


 「なあ、それってつまりアメリアも危ないってことか?」


 唇を噛むブレゲ。そうか、石碑から離れたのはアメリアの死を知るのが怖くなったから……。


 下を向く彼女にリットが近付く。


 「ブレゲさん。アメリアさんの本名を教えてもらえませんか?私、石碑に祈ってきます」


 「……頼めるかい?彼女の名はアメリア・クリストス。いや、隠し名は表示されないから、アメリア・C・メランだ」


 !!?聞き覚えのあるその名に、俺もマギーも思わず目を見開いていた。

次回、第20話『焦燥』


アキレスはレナの元へ

レナはテオンの元へ

ベルトルトもテオンの元へ


集結していく危険因子。その収束は『滅』に向かってしまうのか。


よろしくお願いします。

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