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チート勇者も楽じゃない。。  作者: 小仲酔太
第7章 黄昏に燃える光
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第18話 秘策

【前回のあらすじ】

 テオンたちがアスピドケローネと対峙しているその頃、ゴーレムを消し去られた帝国側は激しく混乱していた。いよいよテオン討伐のため動き出した敵将ベルトルトが、前衛のアデルたちと接触する!!



【この章のあらすじ】

 主人公テオンは勇者に脈々と受け継がれる『光の力』を持つ少年。世界を知るために村を旅立って無事に王都へ着き、その高いレベルを見込まれて隣国アウルム帝国との戦争に参加することとなった。


 開戦直後に大量のゴーレム兵を消滅させたテオンだったが、帝国は控えていた狂化魔物を放出。狂化した巨大な亀の魔物は神話級の『アスピドケローネ』に進化し、英雄アストをも追い詰めていく。絶望的な状況に『竜頭龍尾』の仲間たちと立ち向かう!!


 一方、戦場の地下ではレナが軍を離れて密かに動いていた。そこは『火薬庫』と呼ばれる古代遺跡の倉庫。ここには超強力な爆弾である『ムラクモ』が眠っているというが……。

 かちゃかちゃ……ガチャッ!!


 「開いた!」


 ぎーっ……。


 過去の負の異物を厳重に押し留めていた重い扉が開いていく。ここはいま戦場となっているバルト地方の地下、火薬庫だ。


 今は武器庫や格納庫とも呼ばれるが、元々は失われた技術の1つ「火薬」の貯蔵庫だった。


 現在、火薬といえば魔道具のことを指す。火の魔力を凝縮したカプセル状の薬で、飲むと一時的に魔力が火属性になるのだ。しかし古代の「火薬」はそれそのものが爆発する粉だった。


 クエスト『火薬庫に雨傘を』。王都の裏ギルドから任されたこの依頼の目的は、今はもう製造できない古代の「火薬」を保護すること。火気厳禁、湿気も厳禁という扱いにくい遺物を、(きた)る日のために守らなくてはならない。


 火薬庫の扉には何重にも高度な封印が施されている。そのほとんどは今でも魔法部隊で使われている魔法錠だが、問題は最後の南京錠だった。


 「まさか今どき物理的な構造の南京錠を見るとは思わなかったぜ。スライムを寄せ付けないようになってるから、俺だけじゃどうにもならなかったな」


 ブラコが外れた錠をまじまじと見る。


 「ま、魔法錠も物理錠も、道具魔術師(アイテムマジシャン)のレナ様にかかればこんなもんよ!!」


 気分の良くなった私は、勢いよく扉を左右に開け放つ。それなりに重い扉だったが私のステータスなら大概苦労はない。


 「うわっ、ごほっごほっ……。ちょ、何これ、埃っぽ……」


 「そりゃ、そうですよ。10年間放置されてたんですよね。埃くらい溜まってますって……」


 ハサンが後ろから恐る恐る覗き込む。彼は砂漠育ちの商人。確かにエリモ砂漠の砂埃と比べれば大したことはない。


 「じゃ、任務の方は二人で頼むぜ。俺はこいつら見張ってるから」


 「ええ。任せたわ」


 捕らえた女子供の見張りを買って出たブラコを残し、私とハサンで火薬庫へと入っていく。


 その様子をただ一人起きたまま眺める少女。


 火薬庫の前でばったり出会った少女たちと子供。シェリル、パール、アオイ、タケルは皆ぐっすり眠っている。私の魔道具で眠ってもらったのだ。ただ一人、魔道具の効かなかったクラリスを除いて。


 「あーあ、入っちゃった。その倉庫には近づいちゃダメなのに!ダ〜メ〜な〜の〜に〜!!」


 「うるせえぞ、嬢ちゃん。良い子はおねんねってママに言われてるだろ!!」


 「私、眠くないもん」


 不機嫌そうに口を尖らせる。


 「ブラコ、女の子には優しくよ?さっきあげた人形で遊んであげなさい」


 最後に念押しして火薬庫の奥へと入っていく。


 「人形ってお前……。これ呪いの藁人形じゃねえか!!」





 「さすが王都の武器商人たちが一目置く武器庫ですね。この槍もこっちの大砲も一級品ですよ。でも本当に魔力を注入する珠がない。不思議ですね!本当に魔力がなくても撃てる大砲があったんだ!!」


 ハサンが興奮して部屋中を駆け回っている。


 「気を付けなさいよ。この中には扱いが難しすぎてちょっと触ると大爆発するようなのもあるんだから」


 「ええっ!!そういうことは早く言ってくださいよ……」


 急におっかなびっくりになった彼を横目に、火薬をインベントリに仕舞いながら目当ての兵器を探していく。


 「大砲に……ここからは機関銃ってやつね。どれも火薬の製造ができなくなった今では無用の長物だわ。これが全てイグニスの火炎魔法くらい高威力の兵器だと思うとぞっとするわね」


 「イグニスって、あの『豪炎の破壊者』ですか?」


 「そう。まあ私は『豪炎の支配者』の方がしっくりくるんだけど」


 「あ、『メラン大火』の前はそう呼ばれてたんでしたっけ。それにしてもそんなに強かったんですか?その人の火炎魔法は」


 その言葉にカチンとしたが、もう9年も前の話なのだから無理もないか。9年前……といってももう少しで10年になるのだが、イグニスはその年の春の戦争で大手柄を立てるも、その冬には監獄送りになってしまった。


 「彼は強かったわよ。元英雄だからね。今でもアストは彼のことを師匠と呼んでいるわ」


 「そんなに凄い人だったんですか。そんな人が犯罪に手を染めるなんて、恐ろしいことがあったものですね」


 「そっ、それは違うわ!彼は決してわざと大火事を引き起こしたわけじゃ……」


 いや、今更否定しても仕方ないか。


 「え?そうなんですか?じゃあその人は事故で10年も監獄にいるって言うんですか?」


 『暴走だとしても俺の仕業には違いねえ……。俺は炭にしちまったものを元には戻せねえんだよ。知ってるか?遺された奴らにとって、恨む相手がいる方がまだ楽なんだぜ。だから、俺はさ……』


 あのときの彼の言葉。今でもはっきり覚えている。それを間違っていると言い切れなかった、あの日の私の弱さも。


 強いて言うなら、私はあれを能力の代償だと思っている。強すぎる力には、必ず呪いとも言うべき災いが付いてくる。


 イグニスの火炎はただの魔法ではない。最高ランクのスキルと言われる古代スキルの1つ、『火』だ。古代スキルを持っている者でまともな人生を送れている人を私は知らない。


 同じく古代スキル『癒』を持つ聖女様は女神教に抱き込まれて大聖堂に籠もりきり。『火』のイグニスは牢獄の中だ。


 『火』の前任者の記録も読んだことがある。一国の王だったが、力の暴走で火山が刺激され、溶岩が彼の国を丸ごと飲みこんだらしい。


 古代スキルは悲劇の運命を引き連れてくる。そして……。


 アルト村の純朴な少年テオン。ただの鍛冶屋の息子だった彼の引き起こした『消滅の光』も、既に歴史的な大厄災と言われ始めている。あれもやはり古代スキルの暴走だ。


 彼のスキルを表す古代文字について、王都についてすぐジョドー博士に調べてもらった。あの古代文字が表していたのは……。


 『滅』


 それは光とか明とか希望に満ちた文字ではなく、ただ純粋に物を消す『滅』の力。


 そんな字がもたらす悲劇の運命なんて、どれほど残酷なものになるというのか。


 「そう、何が何でも止めるのよ。テオン君をイグニスの二の舞にはさせないんだから」


 その為のこの秘策。使えるものは何でも使う。


 「あ、レナさんやっと戻ってきた。薄暗い武器庫の中で急に黙られたら怖いじゃないですか。やめてくださいよ」


 「あら、ごめんなさい。さ、手を止めないで使えそうなもの探すわよ」


 この火薬庫には『ムラクモ』という巨大な爆弾がある。一基で町一つ消し飛ばした凶悪な爆弾で、2つしか生産されなかった幻の兵器の片割れだ。


 正直、それを使えば敵も味方もなく吹き飛ぶだろう。だがテオンの元にはあのヴェルトがいるらしい。テオンの自滅さえなければ安全は保証されている。


 「使えそうな兵器はすべて持っていく。この最強の収納袋インベントリと私のSTR値があれば、一人で一国を滅ぼせるほどの兵器を運べるんだから!!」





―――一方、アデルサイド


 ガキンっ!!


 ベンの大盾が敵将ベルトルトの槍を弾く。その隙にハロルドが距離を詰めて剣を振るう。ベルトルトはそれを馬上で難なくかわし、大きく横薙ぎに槍を振り回す。


 ハロルドは敢えなく1歩引き、強かに大盾を殴られたベンはバランスを崩す。


 そこにすかさず僕――アデルも斬り込む。さらに小柄な体格で馬の腹の下を潜り抜けると、驚いた馬が前脚を大きく上げ、当然ベルトルトもバランスを崩す……と思ったが。


 「落ち着けカバー。おっと、これくらいで私を崩したと思うなよ」


 だんだんっ!!彼は冷静に槍の先端から魔力弾を撃つ。


 猛将と呼ばれるだけあって、3人がかりでも足を止めていられるのが奇跡のような強さだった。


 一旦、間合いを取ってお互いに睨み合う。するとそこへ……。


 「ベルトルト様。報告に上がりました」


 どこからともなく男が現れる。


 「何だあいつ、状況分かってんのか?」


 ベンが前に出ようとすると、だん!と魔力弾が撃ち込まれる。くそ、迂闊には近付けないようだ。


 「申せ」


 「はっ、あの男から消滅の光についての詳細報告です。あの光の魔力に触れた、ゴーレム等の魔導制御技術を用いたすべての機械が消滅したようです」


 「どうやってだ?」


 「間違いなくスキルの力だと……」


 「そうか。女神の使徒め、出鱈目が過ぎるな。それで?」


 「消滅したものは14000台の魔導機械兵(ゴーレム)の他にも、今回の作戦のために編成した操縦士部隊の義手や義足、そして医療物資等の搬送に用いていたモービルまで及んだようです」


 敵前にもかかわらず淡々と筒抜けの報告を続ける2人。


 「魔導技術が使われていれば、兵器かどうかはお構いなしということか」


 「はい。そして彼が言うには、もう一つ確認すべきものがあるようで」


 「何だ?敵を待たせてるんだ、勿体ぶるな」


 「何でも地下の遺跡にあの『ムラクモ』が隠されており、その安全装置が……」


 「魔導技術なのか!?」


 「はい」


 一瞬ベルトルトの目が見開くが、また冷徹な顔つきに戻る。槍の先端は全く揺らがない。


 「あれが誤爆するとどうなる?」


 「遺跡は地下シェルターの中ですから、持ち出されない限りは被害は最小限で済むかと。ただ念の為に彼が確認に向かっています。万が一の心配もないでしょう」


 遺跡……火薬庫か。あそこにはレナが向かったはず。そして、あの人の読み通りなら『ムラクモ』も彼女が回収している頃だろう。


 帝国兵が今から向かっても、火薬庫の迷路を抜ける間に彼女は離脱できる。何も問題はない。


 「あの男……アキレスとやらはそんなに信用してよいのか?強いだけでは何ともならんぞ?」


 は!?アキレス……!?


 あいつ、え?あいつじゃ迷路とか関係ないじゃん。え?ちょっ、やばくね?レナやられるんじゃね?


 ……落ち着け。整理しよう。


 レナはようやく組織に取り込めそうな大駒だ。アキレスも仲間だが、彼は恐らく彼女を知らない。やばい。


 一方、僕は?最優先はこの敵将をテオンに近付けさせないこと。それすら無理難題。ここを離れて連絡しているうちに、こいつは確実にテオンの元に向かってしまう。やばい。


 ……駄目だ。僕にはどうにもできない。何とかして、イデオさん!!

アデルのいう「組織」とは何なのか。

テオンの「光の力」が『滅』とはどういうことなのか。

レナとアキレスは出会ってしまうのか。


次回、第19話『慮外』

ユカリが捕まったときに一緒にいたマギーとキールも、既に地上に戻っているようですよ。

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