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チート勇者も楽じゃない。。  作者: 小仲酔太
第7章 黄昏に燃える光
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第17話 敵将

【前回のあらすじ】

 神話級の巨大な亀の魔物アスピドケローネと戦うテオンたち。アストが重傷を負うピンチだったが、ヴェルトの結界にイリーナの猛攻で形成逆転。パーティの力を噛み締め、テオンは再び立ち上がった。



【この章のあらすじ】

 主人公テオンは勇者に脈々と受け継がれる『光の力』を持つ少年。世界を知るために村を旅立って無事に王都へ着き、その高いレベルを見込まれて隣国アウルム帝国との戦争に参加することとなった。


 開戦直後に大量のゴーレム兵を消滅させたテオンだったが、帝国は控えていた狂化魔物を放出。巨大な亀の魔物の登場、味方の騎士の狂化と、戦争の局面はいよいよ厳しくなってくる。


 テオンが戦っていた亀は神話級の魔物『アスピドケローネ』に進化し、英雄アストと共に戦うも苦戦。そこに集う『竜頭龍尾』のメンバーたち。イリーナの拳が亀を止め、ヴェルトは最強の結界『円環特異破魔方陣』を展開。今、逆転の用意が整った!!

 「うん!テオン、やっちゃってよ!!暗い空気を全部ぶっ飛ばして、またド派手にどっかーんってさ!!」


 ララのその言葉に、僕は完全に自信を取り戻していた。神話級の亀の魔物にアストまでも重傷を負い絶望していたが、仲間の援護で遂に勝ち目が出てきた。


 僕のこの光の力で亀を倒す。それがようやく具体的にイメージできるようになってきた。


 『為すべきことを見据えよ』


 それは少し前に敵として対峙した男、レオールの言葉。


 大丈夫、今なら見据えられる。


 イリーナの拳で膝をついた巨大な亀の足。ララが毒矢で開けた甲羅の隙間の風穴。その奥で何重にも張られた気の障壁。その小さな綻びを確実に射抜くのだ。


 『え!ちょ、テオン、何する気!?それはいくらなんでも危険なんじゃ……』


 (いや、少しでも確率が上がるなら、それくらいはやるべきだ)


 僕はぐっと足に力をため、巨大な壁……もとい亀に向かって駆け出したのだった。





―――その少し前……。


 走り急ぐ人々。飛び交う怒号。放置された荷車に積まれた資材。倒れたテントを簡易的に起こして、その中に怪我人を乱雑に詰め込む兵士。怪我人の多くの身には矢傷。流れる血で辺りはどす黒く汚れていた。


 反対のテントには同じように人が寄せ集まって倒れている。その身体は泥がついている程度で綺麗なものだ。しかし皆一様にうずくまり、絶望に暮れている。


 混沌とした戦地の只中を、早馬が駆ける。まさかモービル時代の戦争で古来の馬……馬の魔物イークワインを調教したカバーという家畜魔物なのだが、こいつに頼ることになるとは。


 前線から帰ってきた伝令が私――ラッドと、その後ろから苛立ちを露わにどすどすと歩く将軍ベルトルトの前で止まる。


 「ベルトルト将軍、報告いたします。先刻、先頭部隊の1班から3班がメラン軍と接敵!!弓矢に対し銃で応戦していますが、かなり苦戦しているということです」


 全く馬鹿げている。銃は魔力の玉を弓では到達不可能な速度で打ち出す近代兵器。それを以てして苦戦させられているなんて……!!


 「分かった。それよりあのテントは何だ?」


 「はっ、負傷者が出ているのですが……治療がままならず……」


 「そっちではない、こっちの怪我人のいない方のテントだ」


 よく見ると怪我こそないが、テントに集められている者たちには共通点があった。まさか……。


 「あ、こちらはですね。その……あの謎の範囲攻撃で義手義足を奪われた兵たちでして……」


 「ああ、そういうことか……」


 帝国はこの度、先の戦争で手足を失った兵士も多数起用していた。出発のときには皆今でも国の役に立てることを誇らしげに、晴れ晴れと歩いていた。


 それが今となっては生ける屍。皆一様に生気を失っていた。


 それもこれも、あの新星テオンとかいう謎の少年によるものだという。


 「まったく厄介だな……。未だに詳しい報告はないが、被害のほどは想定を遥かに超えている。やはり先手を打つしかないだろうな」


 「ではやはり……」


 「疑わしきは消すのみだ。この事態の元凶だけは決して取り逃がしてはならん。小僧だろうが確実に仕留める。これは最優先事項だ」


 テオン・アルタイル……。レオールから聞いたときには耳を疑った。あのティップを退け、その右腕マイクを死体も残さず消滅させた少年。


 その攻撃範囲はとにかく広く、街ひとつを軽く飲み込むほど。その技が放たれたあとは大地が大きく抉れていたという。


 「ラッド、第1部隊の指揮はお前に任せる。メラン軍と戦闘中の班には、極力時間稼ぎをしろとだけ伝えろ」


 「兄上は?」


 「直接小僧を叩きにいく」


 「正気ですか!?相手の技はランク5相当だと言われています。危険ですよ!!」


 「ランク4の私では無理だと?ランクが5だろうが相手は小僧だ。私の力は心を乱す。大丈夫だ。お前は軍の采配に集中しろ」


 将軍が1人で戦地をうろつくというのはまずあり得ないだろう。しかしベルトルトの場合はそれが認められている。それはその力の特異性ゆえ。


 今は将などやっているが、兄は元々単独行動を好む一匹狼だった。


 「はあ。相手は少年1人ではありません。決して侮ることのなきよう……。あ、彼を連れていきませんか?彼なら兄上と一緒に居ても問題ないでしょう」


 「そうなのか。ならば心強い。すぐに手配せよ」


 ほう、あの兄が素直に援軍を受け入れるとは。やはりあの男は面白い。


 「はっ。それでは先に第3部隊の方へ回ってください。少年と会敵する前には合流できるように向かわせますので」


 彼は頷き、カバーに股がる。向かうは南東、まだ接敵していない我が軍第3部隊。対するはメランの冒険者どもの烏合の衆。その中にきらりと光る忌々しき新星テオンだ。


 ぱしん、と手綱を振るい、あっという間にその背中が小さくなっていく。


 さて、私の方は第一部隊か……。


 「あ、第1部隊もピンチなんじゃん。俺どうすればいいの?」





―――転じてここは『竜頭龍尾』前衛、アデルサイド。


 「アストさんもレンさんも、帰ってこないですね……」


 荒野の魔物を相手取りながら、ハロルドを見る。彼も手にした片手剣を振り抜き、アルマジロのような甲羅の魔物を切り裂いていた。


 戦争といえど、戦地にはいつも通りに魔物が生活している。大抵はこの異様な空気に怯えて隠れているが、気の立っているものや守るもののある魔物は怯まず襲いかかってくる。


 それを片っ端から倒し、後続の道を開くのが僕ら前衛の今の役目だった。


 「もうじき帝国軍が見えてくる頃なんだけどね。どうも後ろに現れた魔物は一筋縄じゃいかないようだ」


 魔物……というかここから見ても山のようなその巨大な化物は、先ほど強烈な光を放っていた。アストの参戦で何か状況が変わったのだろうが、あまり良くはないかもしれない。


 「ハロルドの兄貴、見えやした!帝国軍っす!!」


 大盾を構えて戦闘を歩く若きタンク役、ベンが声を上げる。地平線の向こう、丈の長い下草の向こうに人が動く影が見える。


 「うわっ、と、と……」


 遠くに目をやっていたら、急に感触の変わった地面に足を取られてしまう。転んで手をついたその地面は、気持ちが良いほどふかふかと柔らかかった。


 「あ、ここから畑っすね。よく耕された良い土っすよ」


 ベンが土をぱらぱらといじる。彼は元々農民の出なのだそうだ。その割には血の気が多いが。


 「しかし戦うには向きませんね。剣や弓を使う僕らの戦い方では、踏ん張りの効かないここでは本来の力を発揮できません。ここまで誘き出されたと考えてもいいかもしれません」


 周りを見てみると、同じような地面がこの先一面に広がっていた。どうやら収穫の終わった農業地帯の端っこらしい。


 「敵はこっちに向かっているのか?ベン」


 「へい。ちゃあんと隊列を組んで、正規の軍隊っぽいっすね。この地面でも戦えるよう訓練してんじゃないっすか?」


 「いや、帝国には銃という遠距離武器があるからな。多少不安定な足場でも関係ないんだろう。これは厄介かもしれないな……」


 考えながらハロルドの足が止まる。地の利のない場所にのこのこ出ていくわけにはいかない。


 しかし、誘い出したいのなら何かしらカムフラージュでもして疑いすら持たせないようにするものだが……。


 「あれ?帝国軍、止まりました?」


 ゆらゆらと行軍していた大群の影は、まだかなり距離があるうちに動きを止めたのだ。銃を構える素振りがないところを見ると、向こうもまだ射程外だろう。


 横を見ると、メランの冒険者は皆、畑の手前で足を止めていた。1列に揃ったお互いの前線。やはりこのラインに誘き寄せるのが目的だったのではないか……。


 「ハロルドさん、嫌な予感がします。一旦退きませんか?」


 「アデル、良い判断だ。そうだな、それもありだ。だがしかし、逆にそれが狙いということも考えられる。あ、隣の『水鏡の蓮(ミラージュロータス)』は下がったな。じゃあやっぱり俺らも……、いや、やはりそういう判断はアストが帰ってきてからじゃないと」


 なんてことだ。ハロルドがこんなに優柔不断だったとは。確かにアストに後を任された重圧はかなりの物なんだろうが、流石にこれは……。


 と、そのときだった。


 「どけどけどけどけーいっ!!」


 敵軍の間を縫って馬に乗った鎧姿の男が飛び出てくる。


 「ハロルドの兄貴!ありゃ、開戦のときにでっかく映ってた将軍じゃねえですか!?」


 「まさか猛将ベルトルトか?何でこんなところに……。本隊はずっと北でぶつかってるんじゃないのか?」


 前線を抜けた敵将は、護衛もなしにどんどんとこちらへ近付いてくる。彼は10年前の戦争でも一番槍として名を挙げ、メランでも有名になった男だ。


 生き残って軍の将になっても、その武勇は変わらず、ということか。


 「あいつ、まっすぐこっちに向かって来てますぜ!!」


 ベンが大盾を構える。ハロルドはさっとその横に立ち、剣先をベルトルトに向けて牽制の声を上げた。


 「や、やい!!その勇姿、帝国軍の将ベルトルト殿と見受けるるる。この戦時中に何用か!?止まらぬと斬るぞ!!」


 裏返りつつ噛みつつの啖呵は辛うじて彼の耳にも届き、馬は少し手前で止まった。


 「いかにも私はベルトルト・シュレジンガー。光の元凶を討つべく単身乗り込んできた。殺されたくなければ道を開けろ!!」


 そう叫びながら、長い馬上槍を構える。先端に穴が空いているのを見るに、刺突だけでなく銃のような魔力弾にも気を付けなければならないだろう。


 長剣を構えながらハロルドが口を開くのを待ったが、どうにもその気配はない。圧されてしまったようだ。


 仕方ない、出過ぎた真似だがここは僕が。


 「光の元凶?知らねえな。だがメランの冒険者たるもの、武器を向けられて黙って道を譲るわけにはいかねえよ!!」


 威勢よく言い放ったのはベン。先を越されてしまった。


 「おっと、先に言われてしまったな」


 一拍遅れてハロルドも剣と盾を構える。


 「敵将の首を取るチャンス、みすみす逃して『竜頭龍尾』を名乗れるものか!!行くぞ、矛盾撞着(コントラストライク)!!」

あつまれどうぶつの森、始めて3週間でカブが単調減少するレアケースに当たり、見事に大損しました。

どうも、小仲酔太です。


気を取り直して小説の方ですが、前回「さあ逆転だ」と言いながら、いきなり不穏な空気ですね。

テオン君の存在もばっちりばれちゃってるし、こりゃやばいですね。


ベルトルト将軍、ひとりで突っ込むのは伊達じゃないですからね。強いですよ。

対して、ハロルド!ちゃんと先輩しろよハロルド!


次回はレナサイドから、題して「秘策」!!


やっぱりカブ価は下がってから上がるものですよね。

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