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チート勇者も楽じゃない。。  作者: 小仲酔太
第7章 黄昏に燃える光
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第16話 円環

【前回のあらすじ】

 監獄に囚われたユカリは、『メラン大火』の罪で服役中のイグニスと出会う。噛み合わない会話の中、今テオンがいる戦場の地下に巨大な爆弾『ムラクモ』が埋まっていることを知ったのだった。



【この章のあらすじ】

 主人公テオンは勇者に脈々と受け継がれる『光の力』を持つ少年。世界を知るために村を旅立って無事に王都へ着き、その高いレベルを見込まれて隣のアウルム帝国との戦争に参加することとなった。


 開戦直後に大量のゴーレム兵を消滅させたテオンだったが、帝国は控えていた狂化魔物を放出。巨大な亀の魔物の登場、味方の騎士の狂化と、戦争の局面はいよいよ厳しくなってくる。


 テオンが戦っていた亀は神話級の魔物『アスピドケローネ』に進化し、英雄アストと共に戦うも苦戦。そこに集う『竜頭龍尾』のメンバーたち。イリーナの拳が亀を止め、ヴェルトは最強の結界『円環特異破魔方陣』を展開。今、逆転の用意が整った!!

 「さて、そろそろ起動するぞい!!すべては円環の(ことわり)の元に!円環特異破魔方陣!!トーラスエクソシズムシンギュラリティ


 仁王立ちで魔法陣を起動するヴェルト。王都の花形パーティ『竜頭龍尾』の最年長であり、普段はトーラス教という聞いたことのない宗教を語る白髪の好々爺だ。


 ごつい大剣を背負う姿はまさに肉弾戦タイプ。しかしパーティの仲間たちは皆、彼の防御力にこそ熱い信頼を置いていた。


 結界の中には10人。


 結界の主ヴェルトに大怪我をしたアスト。彼を治癒するベラ。それを心配そうに見ているウリとララ。その後ろには王国の騎士団長アメリアが座り込み、その姉レンが慰める。一番外側に立つのはアメリアの部下のブライアン、無口な魔法使いウィスプ、そして僕。


 外では進化した巨大な亀の魔物と、『竜頭龍尾』のリーダーであるイリーナが1対1の戦いを繰り広げていた。


 僕、ララ、アストの3人が手も足も出なかった神話級の魔物の甲羅の上で、彼女は余裕の笑みを浮かべながら楽しそうに戦っている。


 「君、本当タフだねー。亀なのに動きも速いし、こんなにワクワクする魔物なんてドラゴン以来だよー!」


 『昇龍』の2つ名を持つS級冒険者イリーナは、自身の拳だけで亀の動きを完全に封じている。僕らを苦しめた突進攻撃も、アストの両足を奪った光線も、出す暇もなく上から文字通り叩き伏せられる。


 「イリーナさん、本当すごい……」


 ララが憧れの視線で彼女の戦いを見つめている。蛇のような尻尾が彼女の背後から襲いかかるたびに「あっ」と声をあげるが、心配無用とばかりにひらりとかわして甲羅から飛び降りる。


 イリーナの着地点にすかさず亀の頭が向き、あの光線が飛ぶ。しかしそれが発射される頃には、既に彼女は甲羅の上。


 「おおっと、こっちに狙いを変えやがった!」


 亀は開いた口をそのままこちらに向け、あの極太の光を放ってくる。僕は思わず腕で顔を覆う。強烈な光が弾けて辺りが真っ白に染まるが。


 「何じゃ、防いでも眩しいもんは眩しいのう……」


 ヴェルトの呑気な声に恐る恐る顔を上げてみると、『竜頭龍尾』の皆は誰も怖がることなく前を見つめていた。


 「ど、どうなってるの……?」


 ララが細い声で尋ねる。


 「トーラスっちゅうのはドーナツみたいな形のことを言うのじゃ。渦巻く円は時空を歪め、あらゆる攻撃を受け流す。今、この結界の中はいわばドーナツの穴。そこにあってそこにない空間。特異点となっておるのじゃ」


 得意気に語るヴェルトの言葉はちょっとよく意味が分からなかったが。


 「亀の光線はこの中には当たらないってこと?」


 「そういうことじゃ」


 その程度でいいなら、まあ分かったことにしよう。

 

 「くっそ……最初から間合いを詰められてりゃ、俺もこんな無様晒さずに済んだんだがな。おいベラ、治癒はまだ終わらねえのか?」


 アストが悔しそうに問いかける。


 「何言ってんのよバカ!あんだけ血を流してたら普通死んでるか気を失ってるわよ。何まだ戦う気でいるの!!」


 青い光を発しながら傷を癒していくベラ。しかし失った両足まで戻るわけではない。軽く言ってはいるが、もしかしたら彼はもう戦えないのでは……。ふとベラの顔を見ると、彼女は唇を噛んでいた。


 アストの剣技は本当に鮮やかだった。進化前の亀が相手だったが、力押ししかできなかった僕らを助け、その弱点を確実に見つけ相手を踊らせて剣を突き立てていく。また一緒に戦って教えを乞いたいと思っていた。


 「さて、お主らいつまでイリーナ1人に戦わせる気じゃ?このままじゃいいとこ全部持っていかれるぞ?」


 「そうね。私も援護に来たからには活躍させてもらうわよ。アメリア、あなたは少し休んでいなさい」


 そう言って立ち上がったのはレンだ。腰に提げた刀が揺れる。あれは僕の父ジグが作ったものらしい。


 「俺も、いつまでも腐っているわけには行かねえ。テオン、行こうぜ!」


 ブライアンに手を引かれ、僕も頷いて立ち上がる。


 「あ、テオン。あなた魔力切れ中でしょ?これ飲んでおきなさい」


 ベラが投げて寄越したのは赤色の液体だった。魔力を回復できるアイテムなのだろうか。パキンとガラスの口を折って飲み干す。


 「回復には時間がかかるけど、あなたならその間剣でも戦えるんだから問題ないわよね」


 「あ、私も行く!矢はもうあと4本だけだけど、剣ならまだまだいけるよ」


 ララが立ち上がる。それを見てウリが絶望的な顔になる。


 「あ、ウリちゃんは休んでていいよ。私、こう見えてやられっぱなしは我慢できない性格なの」


 「う、うぅ……。心苦しいけど、おらじゃもう足手まといにしかならねえだ。ララさん、気を付けてな」


 「うん!よーしリベンジ戦、行くよー!!」


 ララがそのまま結界の外に出ようとすると……。


 「待て待て!出るならここからじゃ。時空の狭間に閉じ込められちまうぞ?」


 結界に出入り口を開けていたヴェルトが、慌ててララを止めるのだった。





 「ぐおおおおっ!!!!」


 外に出ると、いきなり耳を亀の怒号が襲う。この音もある種の攻撃として、結界に防がれていたのかもしれない。


 「足を止めちゃだめよ。まずは撹乱しながら甲羅に登るわ!」


 レンの指示で僕らは駆け出す。亀の右側へ回り込むレン。さっと抜いた彼女の刀が妖しく光る。その光に気付いた亀が彼女を向く。


 「今のうちに反対側へ!レン姉さんなら大丈夫!!」


 ララがさっと左へ回り込む。光線が真っ直ぐレンに飛んでいくが……。


 「甘いッ!!」


 すぱっ!!


 ……切れた。亀の発射した光線が、レンに向かっていった光線が、彼女に当たる前に途切れて霧散した。彼女の刀は切り落とした位置で残心を示している。


 「えっ?……えっ!?」


 「ふふっ。私に落とせない攻撃は無いの。たとえ神話級の亀さんでもね?」


 「さっすが!ね、レン姉さんが気を引いてくれているうちに、一気に距離を詰めよ!!」


 Sランクの冒険者アストが足を犠牲に何とかかわした光線を、Cランク冒険者のレンが軽々切り伏せた。その事実になかなか頭が付いていかない。


 だがとにかく、あの手も足も出なかった亀に一矢報いるチャンスには違いなかった。


 「まじかよ……。隊長の姉さんやべぇ!姐さんやべえ!!」


 ブライアンが興奮してる。それを横目に亀の間合いに入る。多分ここまで近付けば、いつあの蛇のような尻尾が飛んできてもおかしくない。突進なら一瞬だ。亀の足に力がこもらないか常に気を払う。


 「あー!僕とランデブーしてるってのに、他の女に目移りしちゃいけないんだ~!!」


 呑気な声が間延びして、ずどんっ!と衝撃音が駆ける。亀の足が踏ん張り損ねて、後ろ足の片膝が折れた。


 進化して小柄になったとはいえ、なおこの巨体だ。膝に手傷を負わせればその機動力を落とせる。そう思って剣を構えたのだが……。


 「ああ~、待って!今近付かないでよーお」


 どかん!!


 また亀の背中から衝撃音。一度体勢を崩した上に重なる衝撃で、最早踏ん張ることはできなかった。どしーんと腹を地面に打ち付ける音が響く。


 ぐらぐらと振動が地面を伝っていく。それは紛れもなく地震だった。僕とララはタイミングを合わせて跳ねてやり過ごすが、ブライアンは足を取られてバランスを崩してしまっていた。


 「あのまま膝に突っ込んでたらぺちゃんこだったね。イリーナさんすごーい!!」


 ぺちゃんこ……ふと想像してぞっとしながらも、すぐに気持ちを切り替える。足を崩しても間合いの中なのは変わらない。案の定、蛇のような尻尾がこっちを狙っていた。


 「あ、あれ、狙い俺だな」


 地面に手を着きながらも、ブライアンは冷静に腕を構える。地面から土が盛り上がり、即席の岩の大盾が出来上がるや否や、そこへ正確に尻尾が突き刺さる。


 「ぐっ……うわあっ!!」


 その威力は凄まじく、盾を砕いて彼の体を宙に浮かせる。


 「へへ。大丈夫大丈夫、傷は受けてねえよ。お前らは気にせず攻撃してくれ!」


 ほっ。彼の無事を確認し、ぐっと足に力を込めて駆け出す。この機を逃しては戦士の名折れ。僕もレベルだけの見かけ倒しになってしまう。


 進化して伸び縮みこそしなくなったものの、しなやかに動く鱗張りの尻尾は依然弱点のはず……。ブライアンを突いて未だ構えに戻らない尻尾に剣で切りつける。


 細かく並んだ鱗の隙間に刃が入り、確かな手応えが手に残る。大丈夫、切れる!!


 「ここだ!!」


 横からララの声が飛ぶ。さっきまで剣を握っていたが、一瞬で弓に持ち変え既に矢を放っていた。それは甲羅の隙間に真っ直ぐ突き刺さり、その奥の気の緩みを正確に捉える。


 「よし!今のも毒矢だからさらに戦いやすくなるよ!!」


 「ナイスだね、ララちゃん。さあ、一気に行くよー!どすこーい!!」


 再び強い衝撃。地面に寝そべってまともに動けない亀は、その足や尻尾をばたつかせる。


 あれだけ恐怖の権化になっていた神話級の魔物とやらは、今ではすっかりまな板の上の亀だった。


 付け入る隙など見当たらないと思っていた濃密な魔力の防御壁も、今ではその隙間をバッチリ見て取れる。それは進化前よりは遥かに小さな隙間だが、今なら絶対に見逃さないと断言できる。


 完全に優勢になっていた。


 「はっはっは!!どうやらまた良い目が巡ってきたようじゃな」


 後ろからヴェルトが叫んでいる。良い目……間違いない。さっきまではどうやっても勝てないと思っていた。しかしその流れはあっという間に変わった。


 ……いや、変えたんだ。イリーナとヴェルトが援護に来て、明るい声を掛け合った。いつも通りの空気を作った。結界のおかげで後顧の憂いもない。


 これが王都一の冒険者パーティの力!!


 「ララ!僕、今なら一気に勝てそうな気がする」


 いつの間にか魔力もだいぶ回復していた。


 『うん、今ならある程度の光は出せると思うよ』


 ライトのお墨付きも出た。


 胸が熱い。体の内で魔力がたぎっているのが分かる。ララがこくと頷いて、腕を空に突き上げる。


 「うん!テオン、やっちゃってよ!!暗い空気を全部ぶっ飛ばして、またド派手にどっかーんってさ!!」

お久しぶりです、小仲酔太です。

皆様、いかがお過ごしでしょうか。


この頃は良くない流れが続いていますね。目に見えないウイルスに人間社会の根幹が揺るがされている、そんな感じです。

気に入らないとは思っても、今はじっと堪え忍ぶとき。皆で声を掛け合い、命を守るために私たち一人一人が最善の行動を取らなければですね。


今は辛く苦しいですが、作中のヴェルト風に言ってしまえば『流れは必ず巡り変わるもの』。必ずまた外で思いっきり疲れを癒せるときが来ます。


明るい未来を見据えて、皆で励まし合い応援し合って、良い目、引き寄せましょう。

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