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チート勇者も楽じゃない。。  作者: 小仲酔太
第7章 黄昏に燃える光
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第13話 邂逅

【前回のあらすじ】

 メランの地下にやって来たキールたち。そこに広がっていたのは、慌ただしく声の飛ぶ怪しい市場だった。そこを調べていたユカリは、突如やって来た王子に怪しまれ、捕らえられてしまったのだった。

 小型の銃を鈍器のように使って目の前の兎を殴り、さらに近くの縦穴から落ちてきたばかりの芋虫を魔力弾で撃ち抜く。これはハサンの伝で貰った新たな魔道具。帝国の銃を小型化した最新版だ。


 「レナさん、本当にお強かったんですね……。僕、もう腕が上がりません。敵の攻撃を防ぐのが精一杯で……」


 弱気になっているハサンの背後、ムカデの魔物が襲いかかる。咄嗟に銃を向け、とんとんっと撃ち込む。本当にこの武器は使いやすい。それにしても……。


 「もう!戦っても戦ってもきりがないわ!!さっさと迷路の方へ行きましょ!!」


 しびれを切らして駆け出す。私たちには地図があるが、それでもこれを抜けるのは至難の技。魔物たちが迷路を抜けて武器庫に辿り着く可能性は低いのだ。


 「そうですね。僕も賛成です。てか早く魔物から逃げたい……」


 「全く、そんな小心者じゃ武器商人なんてやっていけねえぞ?」


 「仕方ないじゃないですか。これでも僕はエリモ砂漠の魔物を相手に鍛えてきたんですから、剣の腕にも自信あったんですよ?それでもこんなに苦労する魔物たちを、あんなに簡単に倒しちゃうあなた方がおかしいんです!」


 少しずつ迷路の方へと移動しながら、押し寄せる血眼の魔物たちをブラコが一掃する。彼の銃さばきもなかなかのものだった。何より魔力弾の錬成がめちゃめちゃ早い。


 「そうねぇ。あたしたちも相当強い方にはいると思うけど、世の中もっと上がいるものよ」


 今もこの地上で戦っているはずの、常軌を逸した田舎の青年を思う。彼の強さを一度目にしてしまえば、私などまだまだだと思わせられる。


 現時点でテオンより強い者もメラン王国にはたくさんいる。しかし、彼の伸び代を考えれば、あのアストを凌ぐほどだろう。その経験を今積んでいるのだ。生きて帰れるのならば……だが。


 「ああ、もう。心配はやめやめ。あたしはあたしの任務を遂行する。そして……」


 クエストを完了させたら、このまま地上に参戦する。それが私の狙いだった。


 私は軍ではあくまで研究員。戦場には出られない。彼を守ることができない。だからこそ、あの王子にこの取引を持ちかけた。


 彼らに協力する代わりに、少しのわがままを見逃してもらう。それだけのリスクを冒す価値が彼にはあるのだ。


 「ほら、お姉さん。先行っちまうぜ」


 ブラコは既に迷路の最初の角に立っていた。


 「ごめん、少し考え事してた。今行くわ」


 足元から土を掘って飛び掛かってきた虫の魔物を横目で倒し、私もブラコ、ハサンの後に続いて迷路へと飛び込んだのだった。





 壁から染み出した水がどこかに集まって、地下の空間にちょろちょろと音を立てていた。その音は複雑に反響し、自分達の居場所を分からなくさせる。


 一体どれだけ歩いただろうか。天然の洞窟をそのまま利用した通路は歩きにくく、所々滑りやすくなっていて、細心の注意を払いながらゆっくり歩を進めていく。


 そんな道中にも、狂化した魔物は時々襲いかかってきた。


 「やはり迷路の中にもだいぶ入り込んでしまっているわね。これじゃ、何体か火薬庫まで辿り着いていてもおかしくないわ。急がなきゃ……」


 「そうはいっても、こう暗くて歩きにくかったら危ないですよ。これ以上は急げません……あ痛っ!」


 「あら、ごめんなさい。早く歩いてくれないから、つい足を踏んじゃうわー……きゃっ!今胸触ったでしょ、変態!!」


 「そ、そんなに詰めるからですよ。僕、あなたみたいな高圧的な人はタイプじゃないので安心してください」


 「何をー!!商売人にあるまじき失礼さね!次魔物が襲ってきたらあんた差し出して逃げるわよ。あ、そこの角を左ね」


 わーきゃー喚きながらも、私たちは着実に前へと進んでいた。地図によれば、目的の火薬庫はちょうどここの真下くらいだ。


 「このまま下に穴掘っていけば、着けるんじゃねえか?」


 「こんなに深いところ、穴なんか無理よ。地形は変えられないの、常識でしょ?」


 「ああ、そりゃそうか……」


 「え?そうなんですか?」


 「女神様が作った大地なのよ。あとから積もった砂や土ならまだしも、こういう深い地下は大地の加護があるから変更はできないの。特上スキルで一時的な穴を開けられる人はいるみたいだけどね」


 このことは研究者の間では確かに常識だったが、普通に生活していたら意識しないことなのかもしれない。


 「でも砂漠では普通に地面を掘って水を出したりしてましたよ?」


 「ああ、エリモ砂漠は特別堆積物が多いからね。そういうところは、そもそも川のあったところに土や砂が積もっていたのよ。あの砂を全部どければ、掘ることの出来ない大地も出てくるわ」


 ふと砂漠での一件を思い出す。私は実際に砂と大地の境目を見た。彼のスキルの暴走で、表層の砂がすべて消えた。そんな強力な力でも、大地を削ることは出来なかったのだ。


 「まあ近道は出来ないにして、あと少しってのは変わらねえんだろ?魔物もさっきから見かけなくなってきたし、さっさと武器庫まで行こうぜ」


 「そうねー、まだ半分くらいだからあと少しとはいかないけど、心配してた事態はまだ起きてなさそうよね」


 「は!?まだ半分なんですか?ふえぇ、もう足が痛くて歩けないですよぅ……」


 「やっぱ、掘るか!うちのスライムなら出来るっしょ!!」


 「待って待って、出来るわけないでしょ!そのポケット開けないでよ、絶対よ!!あんたのとち狂ったスライムなんか相手にしてらんないわよ!!」


 「ああ!?とち狂ったって何だてめぇ、俺の可愛いスライムに舐めた口聞いてんじゃ……また魔物だ。伏せろ、俺がやる」


 激昂したかと思えば一転、冷静にハサンの背後に湧いたサソリを撃ち抜く。そのテンポの良さに思わずくすりと笑う。何だか彼とは気が合いそうな気さえしてくる。


 「レナさんとブラコさんって結構いいコンビですね。実はお似合いだったり……」


 「お似合いじゃねぇ!」「お似合いじゃないわよ!」


 ……見事にハモった。


 「くくく、あはははっ。お二人と一緒ならどんな敵が出たって大丈夫な気がしてきましたよ。さ、あと半分が何ですか!さっさと進みましょーっ!!」


 元気よく歩き出すハサン。さっきより大きな歩幅で足をだし……。


 つるん。「うわわっ!!」


 濡れた岩で足を滑らせていた。





 かつ。足音が響く。さっきまで自然の洞窟だった通路は、ここから人工的な手を加えられた石の廊下に変わっていた。暗闇の中に白い道。まだ迷路の中には違いないが、明らかに様相が変わったのだ。


 「これ……どうなってるんですか?」


 「何だか魔法研究所に似てるわね。火薬庫が近いってことかしら」


 「こんな感じの道が続いてるとしたら、ちょっと思ってる火薬庫とは違うかもな。古代の兵器が眠ってるっていうから、もっとカビ臭いところだと思ってたぜ」


 白い壁には複雑な模様が踊り、それが自然の岩を切り出して作られたものだと分かる。穴を掘ることも出来ないはずの大地、その中でも特に深いこの場所に、どうやってこのような壁を張ることが出来るのか。


 「本当に謎だらけの場所ね。あ、そこの階段を下ったら広いところに出るわ」


 「ああ、歩きやすくていいですね。この床、今の王都の技術で作れるでしょうか」


 「それは無理……かと思ったけど、あの地下の連中なら出来るのかしら」


 「いやあ、ここまで精密に削り出すのは無理じゃねえかな。こういうのはキュアノス国のミュルメークスが得意にしてたはずだ。あいつらにここを見せれば出来るかも知れねえぞ」


 「キュアノス国!?ブラコさん、キュアノス国と交流があるんですか?」


 「まあな。あの国の品物にはコアな需要があるから、1つ流通ルートを確保してある。地上からだとなかなか行きづらいとこだからな。お前もあの国と商売したくなったら俺に言え。安くしとくぞ」


 「本当ですか!?……いや、何か足下見られそうですね」


 「はははっ。一緒にクエスト乗り越えた仲になりゃ、そんなことは

しないさ。ちょっとしか見ねえから安心しな」


 「ちょっとは見るんじゃないですかあ!!」


 相変わらず騒がしく歩いていた、そのとき。


 ざわっ……。


 「しっ!!何か聞こえなかった?」


 「え?」「あぁ。何か居やがる」


 歩を止めて耳をすませる。この床は足音が響きやすい。やがて、かつかつと音が聞こえてきた。


 「あっ!見てください、広いところに出ますよ!!」


 「やっとゴールだー!タケル君のご先祖様、とんでもない迷路作っちゃったねー」


 「悪い人を通さないようにだって。でもぼく、めいろは好きだから平気だよ」


 聞こえてきたのは無邪気な少女と、子供の声。3、4人はいるだろうか。思わず出掛かった言葉を、何とかブラコの耳元に抑えて漏らす。


 「ちょっと、何でここに人が来るのよ。ここは絶対の機密でしょ?」


 「ああ、ただの子供じゃねえだろう。関係者か?」


 「資料には何も書いてないわ。メラン側の人間じゃない。警戒あるのみね」


 「でも、ただの子供ですよ?」


 「ただの子供がどうやってこんなところまで来るのよ。とにかく火薬庫に近づかせるわけにはいかないわ。隠れてる場合じゃないっ!!」


 私は咄嗟に身体を踊り出させ、銃を構える。ブラコもほぼ同時に動いた。


 「止まりなさい、あなたたち!ここに何の用!!」


 「うひゃああっ!!な、何ですか一体……」


 「下がれシェリル、あれはティップの兵たちが持ってた武器だ!」


 背の高い色黒の少女が前に出る。武器になるような物は持っていなさそうだが、少なくとも戦闘慣れはしているだろう。


 「えっ!じゃあ、カクト地方からこんなところまで来たってこと?」


 緊張感のない声。蒼い髪の少女が目を輝かせてこちらを見ている。


 「アオイ、タケルを守ってさっきの角まで戻れ!!シェリルは早く杖を構えろ」


 「え?う、うん!!」「まっかさーれたッ!!」


 「油断するなよ!相当強いぞ、あのおばさん」


 「誰がおばさんよ!!」


 火気厳禁の火薬庫の前で、もう一つの戦いの火蓋が切って落とされる。あの小娘、絶対許さないわ!!

明けましておめでとうございます。

昨年はたくさんの人にこの物語を読んでいただき、本当にありがとうございました。

本年もどうぞよろしくお願いいたします。

      令和弐年一月一日 小仲酔太

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