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チート勇者も楽じゃない。。  作者: 小仲酔太
第7章 黄昏に燃える光
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第12話 地下

【前回のあらすじ】

 戦争に参加したテオンを心配するキールとマギーは、訳知り顔の酒場のマスター、グラートと出会う。彼の店で話を聞く2人。そのとき、突然カウンターの向こうからユカリが現れたのだった。

 「おい、もたもたしてんな!怪我人が山になって待ってんだぞ!!」


 「こんなに高ぇポーション、誰が買うってんだよ!!足元見すぎだ!」


 「火薬が足りねえってんだ!隠し持ってる分全部寄越せ!!」


 激しい怒号が飛び交うのは、古い坑道のような場所だった。土がむき出しの天井から照明がゆらゆらとぶら下がり、慌ただしく行き交う人々に頼りない光を振り撒いている。


 さっきまで俺たちは静かな酒場にいたはずなのだが、ほんの僅かな間にこの地下坑道風の市場に足を踏み入れていたのだった。


 「驚いたか?地上がどれだけ静かだろうと、戦ってるやつは見えないところで戦ってるってことだ。何せ、今は戦争中だからな」


 唖然とする俺とマギーの後ろで、グラートが階段の最後の段を下りる。


 今しがた怒声を張り上げていた小太りの商人が、ふと俺たちに目を向ける。


 「あ、マスター!良かった、あのしつこい記者は無事に巻けたんすね。手が空いてんなら警備係を手伝ってくだせぇ。上の奴らが逃がした魔物が地下にまで入り込んでいるようで……」


 他の商人たちもグラートの登場に気づき、わらわらと近寄ってくる。その後ろから、ユカリがにやりとした顔で姿を現す。


 「ほら『マスター』。やっぱりあなた、ここの連中に頼りにされてるようね。あなたならこの地下市場のことよく知ってるんでしょ?」


 「げっ!さっきの記者!!何でお前が……」


 「あ、しつこい記者ってあたしのこと?失礼しちゃうわね。あたしが記事にするのはスイーツのことだけよ」


 「はあ?何がスイーツだ。この忙しいときに市場を仕切ってるのは誰かだの、掘削権限を持ってるのはどいつだだの、散々聞き回っていたじゃねぇか!!」


 小太りの商人がグラートの後ろに隠れながら叫ぶが。


 「そうか、この嬢ちゃんに俺のことを話したのはお前だな?」


 鋭い眼光が下りてきて、彼はしゅんと小さくなる。


 なぜ俺たちが地下に来ているかというと、話は簡単だ。マスターを怪しんだ俺たちの前に、クレイス修理店にいたはずのユカリが地下を通って現れた。この地下市場の黒幕を追って、酒場のカウンターに飛び出てきたというわけだ。


 この地下市場では、武器商人や薬問屋など、様々な商人が軒を連ねて取引をしている。日の当たらないこんな場所に店を構えているのには、当然理由がある。


 「おや、可愛いお嬢さんだね。どうだい、何か見ていかないかい?」


 「ニャ?私かニャ?」


 マギーが老人に絡まれている。地下に入ったからか、マギーは夜モードのようだ。老商人の店にはぱっと見おしゃれなネックレスなどが並んでいるが……。


 「ほれ、お前さん可愛らしいから特別じゃぞ?実はこんなものが手に入ってな」


 「これは……?」


 「惚れ薬じゃよ。これがあればどんなに高貴な王子様だって射止められるんじゃ。あんたならあのパーシー王子も狙えるかもしれないよ」


 何て怪しいものを売り付けやがる。そう、この市場にはああいう商品が集まっているのだ。


 「親切にどうも。でも私には必要ないニャ」


 ちらっとこちらを見てすっと頬を赤くする。あ、しまった。マギーの方をずっと見ていたことに気付かれた。


 とにかくこの地下市場には、怪しい商品、怪しい情報、そして怪しい者たちが集まっているのだ。


 「で?ユカリちゃん、あんたが聞きたいのはスイーツでいいのか?うちは飲み屋だが、酒に合う甘味ってのも探求中だ。試作品でよければ出すぜ?」


 グラートは明らかに詮索されるのを嫌がっていた。その牽制の話題に、ユカリはごくりと喉を鳴らす。


 「そ、それは気になる……。で、でも生憎今はそんなに暇じゃないの。誰の許可を得てこんなことをしているの?場合によっては潰さなきゃいけないわ」


 「あんたにはそんな権限もあるってことか?俺の未来察知を弾くんだから、そりゃただ者じゃねえんだろうけどな」


 未来察知?ああ、俺とマギーの注文を予め予想して冷蔵庫に用意していたあれか。


 ユカリが店に来たとき、彼は予想が外れたと言ってミルクを冷蔵庫に戻した。だが結局彼女は何も飲まなかった。彼はそのことを結構引きずっている。ただの勘ではなく、何かのスキルなのだろう。


 「未来察知……。そうか、そのスキルなら……つまりあれはそういう……」


 「おいユカリ、何黙りこんでんだよ」


 「ああ、ごめんアキ……あ、キールか。ちょっと考え事をしてただけよ。ねえグラート、この坑道はあなたが掘ったもの?」


 「まさか、どう見ても年季の入った先人の遺物だろうが」


 「でもキール君曰く、あなたは見かけよりずっと年上そうだって」


 「にしても限度があるだろうが。この穴はたまたま見つけたものだ。いい感じに色々繋がってるから利用させてもらってるのさ」


 話を聞きながら、ふと疑問が沸いた。


 「なあユカリ……ちゃん。お前、さっきから坑道を誰が掘ったかなんて気にしてるけど、何か意味があるのか?」


 「え?……まあね。ある筋ではこういう穴は掘れないと言われているのよ。掘れるのは精々3M(メトロ)くらい」


 「……あ?」


 言っている意味が分からなくて、俺はグラートを見た。


 「ああ、そうだ。俺たちもそれには困ってる。穴を広げようと思っても、これ以上は掘れないんだ」


 「まじか。それは……何で?」


 「さあ、俺はそんなこと知らねえよ」


 グラートが肩を竦める。ユカリに目で尋ねると。


 「あ、あたしも詳しくは知らないわ。ま、まあ強いて言うなら、女神様の加護?とかじゃないかしら。大地を守るため……とかなんとか」


 「がはは、女神様か。なるほどな、それなら納得だ。さて、ユカリちゃんからの質問は以上かな?俺は忙しいからこの辺で」


 「待ちなさい!!誰の許可で闇市をやってるのか、まだ聞いてないわ」


 「許可?ここはメラン王国だ。商売人はみんな国王の許可を得てるぜ」


 「冗談。王様がこんな暗い穴まで見てるわけないでしょ」


 「おっと、今のは不敬罪だぞ?城の兵士が聞いてたらどうなるか……」


 「そうね、今あたしが逮捕されればあんたの言うことを信用してあげる」


 待て待て、そんなの俺、黙ってみてられねえぞ?


 「おいユカリ、その辺でいいだろ?クレイス修理店に……」


 戻ろうぜ、そう言おうとしたとき。


 「安心しなよ。父上はそんなことじゃ不敬罪とは言わないから」


 不意に後ろから声がした。


 「ニャ?お前は店にいた男……?」


 階段をこつこつと降りてくる足音。しかしその姿は未だ見えない。


 「グラート、彼女を捕らえてくれないか」


 「俺がか?まあ、あんたの命令じゃ逆らえねえがな」


 あっさりとしたやり取り。しかし彼の言葉が終わる前に、ユカリは彼の太い腕に捕まっていた。


 「な、何すんのよ!不敬罪じゃないって言ったじゃない!!」


 「いやあ、些細な言動を取り上げて捕まえたりはしないけどね。戦争中に地下にまで潜り込んで嗅ぎ回られちゃ、流石にね」


 かつ。男が階段を下りきる。全く目立つようなところのない黒っぽい服。さっきまでどんな格好だったか思い出せなかったのも納得の……。


 いや、それはまやかしだった。印象に残らないのは不自然なほど、上質な生地で仕立てられた黒い「スーツ」。その胸ポケットにはメラン王国の紋章があしらってある。


 上で見たとき、なぜか見慣れない格好だと思った。そんなわけはなかった。スーツはいつも、レナが着ていたのだから。


 「ニャニャ?あいつ、あんな格好だったっけ??」


 マギーが俺と同じく首を傾げる。


 「おお、パーシー王子殿下。こんなところまで来てくださるとは……」


 さっきまでマギーに絡んでいた老商人が、男に恭しく近付く。


 王子……この男が……。身を守るために認識阻害の魔道具でも使っていたのか。しかし何故こんな地下にまで……。護衛とかは要らないのだろうか。


 ユカリがきっとその顔を睨む。おっと、俺も彼女が捕まるのを黙って見ているわけにはいかない。抗議の声を上げたい……が、パーシー王子からはそれをさせない緊張感が放たれていた。


 「まあ、何か悪いことをしたってわけじゃないんだけど、流石に今は僕らも神経質になっていてね。この場所は特に僕らの心臓部と言っていい。せめて戦争が終わるまで、静かにしていてもらえないかな?監獄で……さ」


 「な……監獄?十分、重罪人扱いじゃない!!」


 ユカリの物言いに周りの商人たちの目が厳しくなる。


 「本当はすぐに事情聴取して帰してあげたいけどね、今はちょっとその余裕がないんだ。ごめんね」


 王子はあくまでも柔らかな顔つきで、しかし有無を言わさぬ迫力で微笑む。


 「ま、ま、待てよ!!」


 「ようやく声を上げたか坊主。だが震えてるぞ?まあ悪いようにはしねえからよ」


 そのままグラートに連れていかれるユカリを、俺もマギーもただ見守ることしか出来なかった。


 俺はただ呆然としていた。パーシー王子が立ち去る寸前、マギーにこそっと何かを耳打ちするのを、ぼんやりと頭の片隅で認識していた。





―――同じ頃


 「わあああぁぁぁぁああああっっ!!!!」


 地下空間にぐわんぐわんと響くのは、新人武器商人の情けない叫び声だった。


 「ちょっとハサン、動揺しすぎよ。魔物自体は大した強さじゃないわ」


 声を掛けながら、私も内心焦っていた。


 ここはバルト地方地下、つまり戦場の真下。火薬庫までの地図を見ながらここまで進んできた。この先の迷路のような通路を抜ければ、火薬庫は目と鼻の先というところなのだ。


 そんな場所に魔物がうようよと湧き出した。ここまでは何も出なかったというのに。この火薬庫の武器に万が一もあってはならないのに……。


 「しかし魔物たちが皆、狂化状態ってのが怖えな……」


 ブラコが銃という魔力筒を構えながら、不安げにポケットをさする。彼はテイマー、スライム使いだ。戦闘ではもっぱら彼らを戦わせるのだが。


 「うちの子らが乗っ取られたらクエストどころじゃねえからな」


 ブラコの愛息子、私も殺されかけたあの巨大スライムだ。狂化したらクエストどころか、世界が終わるだろう。


 「何でもいいから、この修羅場絶対突破するわよ!!」

ご無沙汰しております、小仲酔太です。


皆様、大掃除は終わりましたか?私はというと、もうほとんど諦めております。諦めて小説書いております。


何とか年内にこの話を投稿できて、ほっとしております。正月休みを利用して、何とかもう1話投稿したいと思います。できるかな……。


こんなに複雑な話なのに、最近はすっかり月1本ペースになってきてしまいました。仕事が忙しいのは本当に有り難いことなのですが、執筆に全力を注げないのが心苦しい限りです。


何とか皆さんに忘れ去られないよう、お正月も頑張ります!よろしくお願い致します。


それではよいお年を。

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