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チート勇者も楽じゃない。。  作者: 小仲酔太
第7章 黄昏に燃える光
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第11話 秘密

【前回のあらすじ】

 テオンたちの戦況が気になるキールとマギーは、二人で王都を囲む城壁まで来ていた。そこで兵士と揉めるうち、城壁から降りてくるバートンと遭遇した。そしてその横には、異常な権力を持つ男が……。

 「あんた、絶対ただ者じゃねえだろ?」


 マスターはがははと一笑に付し。


 「酒場のマスターだと言ったろ」


 とだけ言うと、踵を返して街の方へと歩き出した。


 「おい、待てよ!!」


 「すまねえな、実は店に客を待たせたままなんだ。俺はもう帰らせてもらうぜ」


 取りつく島もない。


 「キール、すまない。ちょっと話したいことがあるんだが、マスターの店まで来てくれないか?」


 代わってバートンが俺を誘う。ちらっとマギーを見ると、彼女は二つ返事でこくこくと頷いた。


 その様子を見ていたバートンが少し微笑んだ気がした。


 「マスター、この2人も新規客だ。頼む」


 「あ?」


 呼び止められた彼が、俺をさっと見る。だがすぐにその視線をマギーに移し。


 「嬢ちゃんなら大歓迎なんだが、喧しいガキンチョはごめんだな」


 なっ……!!


 「ニャははは。キールはガキンチョにゃ!!」


 マギーも面白がって笑い転げている。


 「何でマギーはいいんだよ!こいつも十分喧しいじゃねえか!!」


 つい思ったことを叫んでしまう。


 「そりゃ、当たり前じゃねえか!」


 がははと笑うマスター。そして。


 「ガル氏族のご令嬢を無下に扱うわけにゃ、いかねえもんなあ?」


 「ニャ……っ!?」


 彼の一言に凍りつき。


 「お前、どこまで知っているニャ……?」


 不意に顔を出す夜マギー。


 「がははは。それじゃ、お客さん2名様ご案内だ。さっさと来い」


 どしどしと歩くマスターの後ろ、僕らはただ無言で付いていくばかりだった。王都の東側、旧市街の酒場に着いた頃には、マギーは汗だくになっていた。





 「私はね、もう~地下とか何とか、こりごりなんですよ!!」


 店内から何やら叫び声が聞こえる。


 「あ!?何であいつまで来てんだ!!しかも酔ってねえか?ちょっとバートン、お前ここで待ってろ」


 マスターが一人店内に入っていく。バートンは肩を竦めながら店の入り口から少し横にそれる。


 「ん……今の声オルガノじゃないか?」


 すっかり夜マギーのままの彼女が鼻をひくつかせながら尋ねる。


 「さすが、よく分かるな」


 「マスターとの関係は秘密にしてるのかニャ?」


 「ああ。何しろキラーザの件で、弟さんがあんなことになっちまってるからな」


 「なるほどな……」


 キラーザ、それはオルガノの故郷の町のことだ。彼が勤めていたその町の刑事局は、町長の悪政の影響で腐敗が進んでいた。彼の弟モノルトは、刑事でありながら新興的な反社会組織のリーダーでもあったのだ。


 キラーザにはオオカムヅミという地下組織があった。モノルトは元々そのメンバーだったが、彼はその活動に満足できず、より過激なネオカムヅミという組織を立ち上げ、数々の暴力沙汰を起こしていたらしい。


 あくまでも正義を掲げるオオカムヅミと、ただのチンピラ集団と化してしまったネオカムヅミはその対立を深め、ついにモノルトは暗殺されてしまった。


 オルガノはその件で大きな悲しみを背負った。バートンとマスターとの関係は、それを彷彿とさせるような物だということだ。


 「まあ、俺は弟さんのようにはならない。心配するな」


 「それならオルガノにもそう言って打ち明けちゃえば良いニャ。秘密にしている時点で、オルガノには同じことになっちゃうんじゃない?」


 「むぅ……。確かにそうも考えられるが……」


 彼はうぅと悩みながらも、やはり隠れたままでいた。


 「ほらお客さん、あんたの連れが迎えに来てくれてるから、今日は帰んな」


 不意にマスターがこっちへ目を向ける。バートンははぁと息を吐くと。


 「すまない、キール、マギー。俺はオルガノを宿に連れ帰るよ。話はマスターから聞いてくれ」


 「そうか。結局、秘密にしたままなんだな」


 「ああ……、まだちょっと踏ん切りがつかない。それじゃ。……マスター、すまない。また連れが世話になっちまったな」


 彼はオルガノの肩を担ぐと、申し訳なさそうに目を伏せながら店から出てきた。


 「あれっ……!?キール君とマギーさんじゃないですか。仲良しさんですねぇ……ひっく」


 刑事があんなんで大丈夫かと言うくらいに酔っている。まあまだ配属されてないから、飲むなら今のうちなのかもしれない。


 「もう、あんまり心配かけるんじゃないニャ。……お互いに」


 マギーが手を振りながらぼそっとこぼす。店の奥ではマスターが手招きしていた。





 「さて、バートンは行っちまったが、もうあんたら2人はお客と決めたからな。ゆっくりしていくといい。何飲む?」


 カウンターの中からマスターがにっこりと笑う。店内には俺たち2人と、さっきまでオルガノと話していたのであろう見慣れない格好の男が1人いるだけだ。


 「ミルクだけで良いニャ」「ああ、俺も今は酒を飲む気にはなれねえ」


 「そうかい。戦争だからってそう堅くなられるとこっちは商売にならないんだがな」


 がははと笑いながら冷蔵庫に手を伸ばす。中には数本の瓶が入っているだけだった。その一番手前から牛乳瓶を取り出す。2人分注いで俺らの前に出すと、瓶を一番奥にしまった。


 「ん?冷蔵庫ががらがらなのが気になるか?」


 「あ、ああ。よく分かったな。それに何で元のところに戻さないんだ?」


 「そりゃ、もう今日はミルクを頼むやつは来ないからな」


 ……ん?どういうことだ?


 どん!!マギーがカウンターを叩く。


 「そんなことよりマスター、あんた一体何者なのニャ?」


 静かだか低く威圧的な声で尋ねる。俺も固唾を飲んで返答を待つ。


 「俺はマスター・グラート。見ての通り酒屋の主人さ。普段はただ無口で飲み物を注ぐばかりさ。あんたら、運が良いんだぜ?俺のこの良い声を聞けるのはごく限られた客だけだからな」


 「そうか、そいつぁ光栄だ。それで?何で俺たちはその限られた客に選ばれたんだ?」


 俺が突っかかると、マギーも一緒に身を乗り出す。ガル氏族のご令嬢……グラートの言ったその言葉の意味はさっぱり分からない。


 マギーの名字がガルだとは聞いていたが、ガル氏族という名は聞いたことも、故郷の図書室で読んだ覚えもないのだ。


 「俺はこの街の情報をすべて握っている。いや、この国、この大陸のすべての情報といっても良いだろう。俺に知らないことはないさ」


 グラートはそう言い切る。


 「ガル氏族といえば遥か古代から続くアイルーロスの王族の名だ。まあ種族内の機密事項とされてるから、外部には知られちゃいないがな」


 淡々と説明するグラートを、マギーは苛立ちのこもった目で睨んでいる。


 「そうだ。何故それをあんたが知っているニャ」


 「そう睨むな。これはメランの軍部の中でも高レベルの機密事項として扱われている。軍の最高幹部たちの他には国王やその側近くらいしか知らねえ。安心しろって」


 何てことだ。つまりこのグラートという男は、王国軍の最高機密に触れられるほどの人物ということだ。


 「てかそんな機密事項を俺らなんかにベラベラ話しちゃ不味いだろ……。それにそこには別の部外者もいるんだし……」


 気付かれないように後ろを見る。店内にいるもう一人のお客は、平然とグラスを傾けている。


 「そうだな、小僧だけは権限がない。他言したら……分かるな?」


 「キール、私からもこのことは秘密にしてほしい。何か問題がある訳じゃないけど、知られたくはないことなのニャ」


 マギーからも頼まれ、俺は頷く。権限がないのは俺だけ、ということは後ろのやつは軍のお偉いさんってことか?


 「まあ、お嬢ちゃんのことは今は詮索する気はねえ。それよりも……壁の向こうが知りたかったんじゃねえのか?」


 「あ、ああ。バートンと一緒にいたってことは、テオンのことは聞いたのか?」


 「もちろんだ。テオンのことは軍も注目してるし、同行しているはずのアデルも俺たちの仲間だ」


 な、アデルが仲間……?


 「それで、テオンは大丈夫そうなのかニャ?」


 「ああ。開戦からスキル全開でなかなかド派手な活躍ぶりだぞ。今はちょっと厄介なのを相手にしてるが、あいつがいるんだ。大丈夫さ」


 「あいつ……アストさんか?」


 「アスト?ああ、あいつも近くにいたなあ。でも、あんな小僧じゃどうにもならねえよ」


 なっ……!!アストさんは俺の憧れの剣士だ。それをこんな風にけなされちゃ、黙ってられねえ。


 「何だと!?」


 「キール、黙って。じゃ、あいつってのは誰のことニャ?」


 「ヴェルトさ」


 俺はマギーに首根っこを掴まれながら、飛び出した名前について思い出していた。ヴェルトってのはアストさんのパーティにいた大柄な爺さんだったか。そんなに強そうには思えなかった。


 「ヴェルトってそんなに強いのか?」


 「まあな、若造のときから仕込んだ俺の愛弟子だ。保証するぜ?」


 「へえ、流石にあんたの方が若いと思うんだけど、あのお爺さんを弟子にしてたのか?あんた、実は相当お年寄り?」


 「がはは。まあ細かいことは気にするなって」


 笑い飛ばすグラートは精々40代後半というところだ。60歳くらいのヴェルトより上だとは到底思えない。


 「あいつには俺のとっておきの結界術を仕込んである。神話級の魔物にだってやられはしないさ」


 「神話級……!?テオンはそんなものと戦っているのかニャ!?」


 「何、ただの巨大な亀だ。人間が遅れを取るような相手じゃねえさ」


 彼の言っている意味が分からなくなってきた。神話級なんだろ?亀の姿をしていたら人は負けないって?じゃあ神話級とは呼ばれなくない?


 がたがたっ……。


 不意に足元から音がした。マギーがびくっとして俺の腕に抱きつく。足音は徐々に大きくなり店の奥の方へと移動していった。


 「お?まさか俺の予想が外れるとはな……」


 そう言いながらグラートは、1度冷蔵庫の奥にしまったミルクを手前へと移動させた。


 「はあ、はあ……。やっと見つけたわよ、黒幕さん!!」


 店の奥の暗がりから、見知った顔が飛び出す。


 「よう、お客さん。注文ならカウンター越しに頼むよ」


 「はあ!?……え?キール君とマギーちゃん?」


 それはテオンたちと行動をともにしていた謎のスイーツハンターだった。


 「何でユカリがここに……」


 「ユカリちゃんよ!!」

バートンに秘密はよくないと言うくせに、秘密だらけのマギー。あべこべの台詞は昼と夜の不一致とも関係があるのか無いのか、彼女は何者なのか。そんなことより、ユカリはなぜ頑なにユカリちゃんと呼ばせたいのか。

人にはそれぞれ詮索されたくない秘密があるのです。私は優しい作者なので、そういう詮索はしたくありません。……え?ダメですか?

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