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チート勇者も楽じゃない。。  作者: 小仲酔太
第7章 黄昏に燃える光
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第3話 次席のブライ

【前回のあらすじ】

 開戦直後ゴーレムを一掃したテオンの元に、騎士隊長のアメリアと新人騎士のブライアンがやって来た。二人はテオンの護衛に来たという。新たな出会いと共に、戦争はゆっくりと始まったのだった。

 「はぁー、その歳でレベル48かぁ。一体どんな鍛練を積んだらそんなに強くなれるんだよ……。はぁ~」


 さっきから僕の隣でブライアンが溜め息を吐いている。僕らは今、小走りで行軍している途中だった。そろそろ国境を越える頃だろうか。


 ブライアンはスケイルフィアに乗ってずっと伴走している。騎士隊長らしいアメリアは、いつの間にか『竜頭龍尾』の中衛を率いる位置でレイピアを天に掲げている。


 「女神様!どうか私にこの光の御仁を守り抜く力をお与えください!!」


 彼女は敬虔な女神教徒らしい。女神とは、この世界の人間たちに魔力とスキルを与えた存在だと聞いた。魔術――もとい魔法によって起こされる様々な奇跡は、すべて女神様のご加護、ということらしい。


 ところで、この国にはレベルシステムとサポートシステムというものが存在する。王都で開発されたそのシステムは、人々にレベルに応じた補助を与え、魔力も肉体も強化することが出来る。


 それらが両立していることに違和感があるが、面倒臭そうなので聞くのは後にしよう。


 「なあ、どうやったらそんなに早くレベルが上がるんだ?何かいい方法があるのか?」


 興味津々で尋ねてくるブライアン。レベルというのは単純に敵を倒すと上がっていく。僕の出身のアルト村では、成人するまで魔物と戦うことは禁止されていた。だが、僕は1度だけその決まりを破ったことがある。


 消滅の光……。後からそう呼ばれることになった、ブルム地方の大事件である。アルト平原の中心で突如、強烈な光が発生した。遠くの町からでも視認できるほどの巨大な光なドームが現れたのだ。それが消えたとき、辺り一体の魔物は跡形もなく消え去ったのだった。


 その光の中心にいたのが正しく僕だ。消滅の光は、僕がゴーレムを消して見せたあの光の力の暴走によるものだった。それが僕のレベルの高さの原因。一気に魔物を倒せるこのスキルのせいなのだ。


 「うーん、僕のレベルは正直いい上がり方をしたとは思ってないんだ。ただ大量の魔物を消しただけだよ」


 「あー、なるほど。さっきみたいなことがゴーレムだけじゃなくて魔物にも出来るってことか。……あれ?ゴーレムって経験値になる?さっきの一撃でまた凄いレベルになったんじゃねえか?」


 「え?あ……確かにそうかも。戦争から帰ったらもう一度測ってみようか」


 「おう、それがいいよ。自分のレベルは細めに測って把握しておいた方がいい。ステータスも最新をキープ。高いステータスになっていれば、それだけ暮らしやすくなるからな。王都の常識だ」


 にかっと笑う。最初、彼に対して怖いとしか思わなかったが、話してみれば人懐っこくて話しやすいタイプだった。本当にキールによく似ている。


 キールとは僕らと一緒に王都に来た冒険者であり、僕の友達だ。彼との出会いも随分苛烈だった。彼の財布が盗まれるという事件があり、僕の仲間がその犯人と疑われたのだ。


 そのときの彼の叫び様は随分怖かった。だが色々あって誤解も解け、今ではすっかり打ち解けあったというわけだ。


 彼はアストに憧れる長剣使い。この戦争に参加しないかと誘ってみたのだが、気になることがあると言って王都に残った。彼が何を気にしているかは聞けなかったが、彼なら大丈夫だろう。


 「あ、ところでテオン。あんたは何でこの戦争に参加したんだ?」


 「え?うーん、期待されたから、かな?」


 「は?」


 おっと、ブライアンがまた少し怖い顔になった。真面目に答えなくてはならなそうだ。


 僕がアウルム帝国と初めて対立したのは、エリモ砂漠での事件だった。砂漠には帝国からアルタイルという奴隷狩り集団が攻めてきていた。彼らの所業は許されざるものだった。


 「帝国とは遅かれ早かれ戦うと思っていた。アルタイルはゼルダたちの国を滅ぼしたんだ。王都に着いて早々、これから戦争が始まる、僕がいれば勝てる、と持ち上げられた。だから……」


 疑いなく参加した。けれど、確かにこの戦争の大義が何なのか、僕は全く知らずにいた。


 「ねえ、ブライアンはこの戦争の名目とかって知ってる?」


 「あ?ああ、もちろんだ。寧ろあんた、知らないのか?やっぱ冒険者ってのはそういう連中なんだなぁ」


 少しむっとした。


 「まあ教えてやるよ。この戦争はな、宗教戦争なんだよ」


 「……宗教戦争?」


 「この世界の二大宗教は知ってるか?」


 「二大宗教?」


 女神教と……白聖教?白聖教とは前世のサモネア王国の国教だ。世界最大の宗教派閥だったが、まあこの世界で白聖教の教会も祭典も見たことがないから、こっちには無いのだろうが。


 「それも知らねえのか。この世界には女神教と黄金教がある。女神教がメラン王国の国教で、黄金教がアウルム帝国の国教だな。黄金教の奴らは女神様のご加護を私物化し、自分達の都合で振るっているんだ」


 女神様の加護……ああ、スキルのことか。


 「帝国ってのは極端なヒューマン至上主義でな、ヒューマン以外の扱いがとにかく酷い。近隣のデルマ公国も被害を受けていてな。女神様のご加護を等しく受けた人類同胞が、同じ女神様の力で蹂躙される……そんなの許せねえだろ?」


 それはアルタイルの奴隷狩りにも通じていることなのだろう。僕は大きく頷いた。


 「我々は帝国の黄金教を邪教と認定し、滅ぼすことに決めた。それが……表向きの理由だ」


 「表向き?」


 含んだような言い方に、僕は首を傾げた。


 「何事にも裏はある。実はな、メラン王国の政治の中枢にいる貴族の中にも、密かに黄金教を信仰している者がいやがるんだ」


 ぎりりとブライアンの歯軋りが聞こえた。何か嫌な目にでもあったのだろうか。


 「これはそいつらへの見せしめさ。女神様のご加護は皆に平等に与えられる。それを汚そうというやつをメランの王様は絶対に許さないのさ」


 「なるほどね。メラン王国の王様が立派な人で良かったよ」


 「当たり前だろ?」


 わはははと笑うブライアン。


 「それにしても宗教とか帝国のこととか詳しいんだね」


 「学校で習うからな。テオンはやらなかったのか?」


 「うん。精々近くにどんな町があって、どんな種族が暮らしてるのか、くらいかなあ」


 旅をしているうちに大分忘れてしまったのだが。ハナ、ごめん……。


 「なんじゃそりゃ。そんなことしか教えてくれない学校なんて、学校って言えんのか?」


 なっ!?それはハナに対する侮辱か?そうだよな?


 「まあ見るからに田舎者だもんな。しょうがねえよ。しょうがねえから、俺が教えてやろう」


 「ブライアンが?」


 「俺はこう見えても王立騎士学校で優等生だったんだぜ」


 こう見えても何も、彼の知識についてはさっき披露されて既に信頼している。口は悪いが頭は良い。本当にキールそっくりだ。


 「な、なあ、ララさん。あの怖い人、いつまで付いてくるだか?」


 「多分ずっとよ。テオンったら、よくあんな人と仲良くお喋りできるなぁ」


 後ろでララとウリがぶつぶつと呟いている。その後ろから、1匹の魔物が迫っていた。


 「おーいララ!持ってきたぜ~」


 「あ、ボブ!ありがとう!!」


 その魔物の上に股がっていたのはボブ・ドージ。『竜頭龍尾』のメンバーだ。ララが何故か力んで弓を折ってしまったため、代わりのものを持ってきてくれたのだった。


 「うひぃ!魔物!!」


 「う、ウリごめん……」


 ボブはテイマー。特にヘルハウンドをテイム出来る珍しい力の持ち主だった。


 「ははは。こいつはボブのテイムした魔物だから大丈夫じゃって。いい加減慣れてやれよ」


 「く~ん」


 ヘルハウンドの方も若干落ち込んでいる。可愛い。


 「うぇ~。でもおら、ハウンドはどうしても苦手で……」


 「そうだよな。悪い悪い。俺はすぐ後衛に戻るわ。じゃ、また何かあったら……」


 手を上げながら僕らを見回し……。


 「えっ!次席のブライ!!」


 ボブの目はブライアンに止まっていた。


 「ボブ、ブライアンのこと知ってるの?」


 「当たり前だよ!王都の有名人だぞ!?王立騎士学校を次席で卒業して、騎士になって早々武勲を上げた期待の新人騎士だ。何でお前、そんな友達みたいに……」


 彼の興奮は相当のものだった。どうやら王立騎士学校の優等生というのは想像以上に凄いらしい。


 「しかもブライはな、最初は落ちこぼれだったんだよ。そこからあれよあれよという間に次席まで登り詰めて。その様子を書き綴った本が今度舞台になるほどなんだぞ」


 ボブの話に、ブライアンは恥ずかしそうに頭を書いた。


 「まあ、これが首席にまでなってたらカッコ良かったんだけどな。どうせ二位止まりだし」


 「そんな謙遜することねえよ。首席は化け物過ぎたんだって。あんただって立派さ」


 「へぇ。ねえ、その首席って誰だったの?」


 「ああ。ピーチーズ・ヴェルダンディっつういかれた女だよ」


 ブライアンがつまらなそうに言い捨てると、それをボブが引き継ぐ。


 「王立騎士学校始まって以来の天才って言われる最高の騎士様で、その剣や魔法の腕もさることながら、その美貌がもう王都中を虜にしてしまうほどだって……」


 「ブライアン、そんなに綺麗な人なの?」


 「ばっ……馬鹿、俺は別に虜になってなんか……」


 真っ赤になっている。おやおや、これは……?


 「そりゃあ、来る日も来る日も意識して美人を見つめてりゃ、熱もこもるよなあ、ブライ?」


 いつの間にかアメリアまでこっちに下がって来て、ブライアンをからかう。もう帝国の領土なのだが、こんなに気を抜いていていいのだろうか。


 「わわっ!アメリア・ペトリシア様!!まさかあなたまでこんなところに……。今日もお綺麗で、はあ、何とも麗しく……」


 ボブがアメリアに恭しく頭を下げる。


 「お前は狂化騒ぎのときのハウンドテイマーか。あのときは世話になったな。するとこのヘルハウンドがあのときの……」


 狂化騒ぎ……?それには僕も覚えがあった。狂化した魔物数体と戦ったことがある。


 「今回も多分狂化した魔物が出てくる。活躍を期待しているぞ」


 アメリアの言葉に、ボブは元気良く返事をして戻っていった。

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