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チート勇者も楽じゃない。。  作者: 小仲酔太
第7章 黄昏に燃える光
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第2話 騎士隊長アメリア

【前回のあらすじ】

 メラン王国とアウルム帝国の戦争が始まった直後、テオンは巨大な光の柱を顕現させて迫り来るゴーレムの大群を打ち破った。それを見ていた騎士隊の隊長が、何やら動きを見せていた……。

 「見たか!!これがメランの冒険者の力だ!!行くぞお前ら。勝つのは、俺たちだ!!」


 僕が光の力でゴーレムを一掃させて一息、戦場に響いたのはアストの声だ。


 僕の故郷アルト村から冒険者として旅立ち、今や王都のSランク冒険者。彼の鼓舞は周りの冒険者たちを奮い立たせ、突然の事態に戸惑っていたメラン軍を叩き起こす。


 「うぉーっ!!」「凄ぇぞ、新人!!」

 「これなら何も怖くねえ!!」「今度は俺たちの番だ!!」


 冒険者たちから、軍人たちから、メラン軍のあらゆるところから雄叫びが上がり、僕らは最高の士気で進軍を開始した。アストは前衛に戻り、駆け出した先頭集団を引っ張っていた。


 「へえ、すんごいじゃない……」


 前衛の一番後ろ、セクシーな格好の冒険者が振り返ってこちらを見ていた。レン・クリストス。アストと同じ冒険者パーティ『竜頭龍尾』の頼れるお姉さんだ。腰に差した刀が勇ましい。


 「あ、テオン!レン姉さんに見とれなかった?ねえ!!」


 僕に厳しい目を向ける女の子。幼馴染みのララ。強力な気配察知で遠く離れていようがスキルで隠蔽されていようが、敵の居場所を正確に掴むことが出来る。


 どうやら僕の目を見なくても僕の目線の動きを察知する特殊能力にも目覚めてしまったらしい。


 「何だべ!何だべ!!今の何だっぺ~!?光がばーぁっ!!って、そんでゴーレムがぱぁ~って!!消えちまったべ!!」


 目を真ん丸に見開いて未だ呆然としているのは、『竜頭龍尾』のメンバーで人見知りの田舎者、ウリ・メロンズだ。正直名前くらいしかよく知らないが、アストに教えてもらってめきめき強くなっている有望株なのだそうだ。


 「ふふふ。ウリちゃん、すっごいでしょ?うちのテオン!!」


 「ああ、すんごいべ!!こんな人が味方でいてくれるんなら、戦争だって安心だべ!!あ、もしかしてこの人、ララさんの恋人なんか?」


 「え!?いやいやいや、べ、別にそういう訳じゃ……。テオンにはハナっていう好きな人もいるし……」


 そうだった。ハナ、確かにそれは僕――テオンの好きな人だ。子供の頃から勉強を見てもらっていたお姉さん。今もアルト村で僕の帰りを待っているはずだ。僕が村を追い出されたという真実を知らずに……。


 僕が好きな人のことを忘れていたのは別に僕が薄情というわけではない。僕にはもう一人、本当に好きな人がいるのだ。


 姫様……。彼女は僕と一緒に魔王を倒す旅をした、滅んだ国の王女様だった。僕の……前世での話だ。


 僕には前世の記憶がある。名前はロイ・ルミネール。勇者を志した戦士だった。僕がさっき使った光の力は、ロイの頃に手にした魔王を倒すための力だった。


 「そうなのかぁ。それは、何というか……切ないべなぁ」


 ウリがララの手を掴んで励ましている。開戦前、見ず知らずの僕らと同じ中衛なんて不安だと愚図っていたとは思えない。ララは有り難うとウリに優しく笑いかけていた。


 「ん?あれ、誰かなぁ?」


 不意にララが怪訝な顔つきになる。


 「ララ、どうしたの?」


 「うん。誰か、こっちに向かってくる……」


 「え!!誰かって……もしかしてさっきの光でテオンさんの居場所がばれて……?敵が来ちゃうべ!?ゴーレム来ちゃうべ!?」


 「ウリちゃん落ち着いて。大丈夫、敵じゃないの。味方だよ!軍人さんの方からこっちに向かって来てるみたい」


 「味方?敵じゃないだか?」


 「軍人?やっぱりさっきの僕のかな?」


 「うん、多分そうだろうね。凄く速い。風属性の魔物に乗ってる?……あ!フィアカーの時の鳥さん!!」


 どんどん何かを察知していくララ。彼女の気配察知は村にいた頃から頭ひとつ抜けていたが、今や僕とは全く違う世界が見えている感じだ。


 フィアカー……王都名物の交通機関で、鳥型の魔物に牽かせた車である。王都に来るときも、通りがかりの行商のフィアカーに乗せて貰ったのだった。


 「あいつだ。ほら、そこの若い男……」


 「あ!あの如何にも魔導師っぽいローブの!!」


 後ろから聞き慣れない声が聞こえる。見るとあの鳥に乗った2人組の騎士が駆けてきていた。


 「違う。あの魔導師はケイロン様の御次男のウィスプ殿だ。覚えておけ」


 そう話すうちにもう僕の前まで辿り着く女騎士。


 「げっ……」


 前の方ではレンがさっと顔を背けて他の前衛を追いかけていった。


 「貴殿が先程の光の御仁だな?」


 女騎士が鳥の上から話しかけてくる。横に流した長い金髪が風になびく。脇には顔まで覆える鉄仮面を抱えている。こちらを見下ろす端正な顔つきには、少し高圧的な空気が滲み出ていた。


 さらにその後ろに男の騎士が鳥を付ける。頭を丸刈りにした真面目そうな男。だがその見た目とは反対に物言いは失礼だった。


 「え!?こっちのちんちくりん?俺と同じくらいじゃねえか」


 「こら!王国の切り札になり得る人材なのだぞ!!口を慎まぬか」


 「あ、そうだな。本当にあの光のお人がこいつだったら、ちゃんと敬意を払うよ」


 不遜な態度の男に女騎士がきっと鋭い視線を向ける。


 「すまない。喧嘩を売りに来たわけではないんだ。こいつは少し生まれた家が特殊でな。騎士としては優秀だから何とか許してほしい。この男が新米の騎士ブライアン。私はアメリアだ」


 「アメリアさん。僕はテオン、テオン・アルタイルです。冒険者やってます」


 「ここにいるということは、『竜頭龍尾』の新人なのか?」


 「いえ、僕は別のパーティですが縁あって一緒に行動させてもらっています」


 「そうかそうか。それなら安心だ」


 ん?何がだろうか。


 「隊長、それでどうするんだ?俺たちはここでこいつを守ればいいのか?」


 「テオン殿だ」


 訂正されたのも気にせず、ブライアンは僕の顔を舐め回すように見てくる。


 「テオン殿、あんた本当にさっきの女神様の光をやったやつなのか?」


 かなり凶悪な顔。騎士の優美さとか高貴さとは正反対だ。そういえば、ララとウリの気配がないと思って周りを見てみると、二人とも白髪の大男ヴェルトの影に隠れていた。


 「おい、ブライ。その顔は人に恐怖を与えると言っただろう。自重しろ」


 「は?普通に見てるだけじゃん。なあテオン、お前さっきの光、軽いやつでなんかやってみてくれよ」


 「テオン殿だ」


 「なあテオン殿?」


 ブライの無礼な感じ、どことなくキールを彷彿とさせた。


 「軽いやつ……と言いましても、僕にはそんなに器用なことは」


 そう言いながら右手に魔力を集中させ始める。するとそれに気づいたのか、アメリアの方はさっとそこに目を向けた。


 「あ?あんな大規模なことしか出来ないってか?」


 眉をひそめるブライアンは魔力を感知する力はないらしい。


 「ええ、こんなことくらいしか……」


 彼の目の前に右手を握ったまま出し、ぱっと指を開く。その掌の上には、星形の光がくるくると回転している。


 ブルム地方を出てエリモ砂漠に入った頃から始めた光の力の修行は、驚くほど上手くいっていた。初めは光の玉を出すのが精一杯だったが、今ではこのように手の上くらいなら自由自在に形作ることが出来る。


 「うおっ!!これは……」


 彼は目を見開き、手の上の星に指を伸ばす。


 「あっ、危ないですよ。指が切れちゃいます」


 そう。この光は投げつけるだけで魔物を消すことが出来る。ナイフの形にすれば岩でも切れる。


 今は軽く光を出しただけ。何を消し、何を残すかということは深く考えていない。軽く出したからこそ、この光は何でも消す、最も危険な状態になっているのだ。


 さっと指を閉じて光を消す。


 「何と神々しい。まさしくそれは女神の光。あなたこそ光の御仁で間違いない。そうだな、ブライ」


 「あ、ああ。もう疑わねえ。あんた、若いのにすげえんだな。……いくつだ?」


 凄い、と言いながら彼の口調は変わらない。隊長と呼ぶアメリアに対してもあんな態度なのだ。


 「いくつ?とはどういう……?」


 「歳だ。お前、何歳だ?」


 「15です」


 「げっ!歳下かよ!!なあ、お前どうやってあんな力授かったんだよ。ステータスはどれくらいなんだ?剣を持ってるな。強いのか?」


 ぐいぐいと迫ってくる。彼は今にも鳥から落ちてしまいそうなほど身を乗り出していた。


 「おいブライ、いい加減にしないか。すまない、テオン殿」


 「い、いえ……。ところで、あなたは騎士隊の隊長さんかと思いますが、冒険者エリアまでどのようなご用件で?」


 さっきブライアンは僕の護衛がどうとか言っていた気がするが。


 「ああ。先の攻撃であなたは我々の希望の光になった。あのゴーレムの群れは凶悪だった。それをあなたが一撃で葬り去った」


 うーん、やったことは確かなのだが、希望の光と言われると……まあそうかもしれない。光の力だし。


 「あれは我々の受けた衝撃も大きかったが、それは当然敵からしてもとんでもない脅威となっただろう。今はまだ初手の大駒が破られて相手も混乱の内だが、そのうち必ずあなたのもとへ刺客を送ってくるはずだ」


 「う……た、確かにそうですね」


 「我々はあなたを失うわけにはいかない。だから、私があなたの護衛を請け負うことにした」


 「はあ。それはありがたいことですが……」


 しかしこの人、騎士隊の隊長だと聞いて否定しなかった。もしそうなら、そんな人が騎士隊の指揮をほっぽり出して、二人だけでこんなところまで来るなんて大丈夫なのだろうか。


 それをどう聞いたらいいものやら考えていると……。


 「あんたはここで予定通りに攻撃していればいいんだよ。中衛にいるってことは攻撃役だろ?俺たちはあんたらの前衛を少し厚くしに来ただけと思えばいいんだよ」


 ああ、僕も単刀直入に言ってしまおう。


 「でも、騎士隊の指揮とかはいいのですか?」


 僕の問いに、アメリアはふふっと口元を和らげる。


 「ああ。元来騎士隊は自由に動く遊撃隊だからな。私も自由に動いてここに来ただけさ。それに、その……個人的にあなたに興味を持ったからな」


 「えっ……?」


 女騎士の美しい顔に笑みの華が浮かぶ。


 ぱきっ。


 ヴェルトの向こうから、ララ愛用の弓がぽっきり折れた音がした。

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