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チート勇者も楽じゃない。。  作者: 小仲酔太
第6章 火薬庫に雨傘を
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第21話 よーい、ドン

【前回のあらすじ】

 王都西側、既に開戦準備を整えて待機していたテオンたちは、夜明け前に配置についていた。日の出直後、帝国は霧に映像を投影してメラン軍を驚かせる。これに対抗すべくテオンに白羽の矢が立った!

 「度肝を抜かれたままじゃ士気に関わるからな。お前、何か派手にやってくれよ」


 前衛の方からわざわざ僕に頼んできたアスト。


 「分かった。僕に出来る派手な一発、ぶっ放してみるよ!!」


 僕は右の手をぎゅっと握り締めた。味方はパニックになってはいないものの、開戦直後に現れた巨大な顔、もとい霧に映し出された敵将に、勢いを削がれつつあった。


 対して帝国軍は早々にゴーレムの大軍を進ませていた。


 「ねえ、テオン……あれってもしかして、ブルムの森にいた怪物だよね?」


 構えかけた弓を戻しながら、ララが不安そうに呟く。ブルムの森で怪物として対峙した魔導機械兵……それが地平線をびっしりと埋め尽くしてこちらへと迫る。


 「何?ララ、どういうことだ?ブルムの森に怪物?」


 首を傾げるアスト。


 「そうなの。この間村の近くの洞窟にたくさんあれが潜んでいたのが見つかって、ハイルが怪我したり村長がピンチになったり、大変で……」


 「親父が!?だ、大丈夫だったのか?」


 「あ、うん!その怪物は村の皆でどうにか倒したし、重傷者もなく済んだんだよ」


 ララがちらっと僕を見る。倒した……というよりは僕が光の力を使って止めたのだが、詳しいことは村長が口止めしていたし、彼女自身も僕が何か抱えているのを察していたから、アストにも話さないでおいてくれるのだろう。


 まあ肝心なことはもう、ララにもアストにも知られてしまったのだが……。


 「でもあんなのがあんなにたくさんいるなんて、私の弓は通用しなさそうだしどうしよう?」


 そう言いながらも僕をチラ見してくる。


 「大丈夫。多分僕なら、あれくらいどうにか出来るから」


 「さっすがテオン!!」


 待ってましたとばかりにララが跳ねる。しかし当の僕は、実はそこまで楽観的ではなくて。


 (どうにか、出来るよね?ライト?)


 『どうにかって……あんな遠くまで光を飛ばせるか分からないよ?前も文字を消すのでやっとだったんだし、あんまり安請け合いするのは感心しないな』


 脳内で一人、会議の真っ最中だった。


 (アルタイルのときは今回と似た感じじゃなかった?)


 『いやいや、敵の数も質も距離も段違いだよ。何より金属は光を反射するから効果が薄いんだ』


 (え!?そんな弱点があったの?鏡みたいな部分があったらこっちが消されちゃうかもってこと?)


 『かも、知れないよ?…………今まで見たことないけど』


 「無いんかい!!」


 「え!?テオン、急に何?大丈夫じゃないの?」


 「え、いや、何でもない」


 僕がライトと会話しているとき、時間はほとんど止まっているらしい。つまり今は「大丈夫だよ」と言った直後だ。


 (ライト、あれを派手にどうにかする手段は?)


 『あるよ。いつも通りで大丈夫』


 (いつも通りって?)


 『為すべきことを見据えよ。とにかく敵を消すことだけを考える』


 敵、敵か……。


 (待って。消すのは敵じゃない、ゴーレムだけ)


 『どうして?同じでしょ?どうせゴーレムの周りの兵士も倒さなきゃいけないんだから』


 (うーん、そうなんだけどさ。出来るだけこの力を人には向けないようにしたくて。特にこの戦争では……)


 『どうして?……戦争だからこそじゃないの?』


 ライトの疑問も尤もだ。だがここは譲れない。


 (これは戦争だから、だ。例え敵でも兵士は人間、国のために働いている真面目な人たち。殺人犯でも奴隷狩りでもないから)


 『ブラコは消してないんだけど……。分かったよ、消すのはゴーレムだけ、ね?じゃあそれを念じて?』


 視界に映るゴーレムの群れは徐々に大きくなってきている。周りで何かが蠢く気配がする。魔力の流れだろうか。他の冒険者パーティも、あの群れを撃ち抜く魔法を練っているのかもしれない。


 「おっと、ここら辺の冒険者に伝えておかなきゃな。今から期待の新人テオンが!!派手に魔法をぶっ放すぞ!!」


 「お!?そりゃ楽しみだ」「あたしたちは魔法撃たなくて良いの?」

 「とりあえず見とこうぜ」「ぐちゃぐちゃになったら、効果が見えねえだろ」


 辺りから魔力のうねりが感じられなくなる。アスト……余計なことをしてくれる。が、まあまだ距離もあるし、打ち漏らしても問題はないのか。


 右手が熱くなる。心は落ち着いている。周りに皆が付いていてくれる安心感からなのか、驚くほどに平常心を保てていた。


 『うん、良い感じ!今までで一番濃厚な魔力が溜まってるよ。絶対にうまく行く!!』


 これなら暴走の心配だって微塵もない。ただ真っ直ぐ前を見据える。目に映るゴーレムたちの近く、何人かの歩兵団も見える。あっちは消さずに、そっちだけ消す。うん、大丈夫。


 『折角だし、もっと目立つようにやっちゃえ!!』


 ライトの提案に思考の中で頷き、かっと右手を空に向ける。


 「メラン王国ブルム地方、アルト村のテオン!行きます!!」


 刹那、上に向けた右の手の平から強烈な光が溢れ出す。その束は真っ直ぐに天へと向かい、戦場のどこからでも見える光の柱となって顕現した。


 「うおっ!!」「何だこの光!!」「眩し……」


 周りの冒険者たちが目を覆う。だが味方全体、敵全体に見せつけるなら、やはりこれくらいやらねばならないだろう。


 「これが僕の力だーっ!!」


 右手を振り下ろし、ゴーレムの映る限り視界の端から端まで、その巨大な柱をゆっくりと凪ぎ払った。光は真っ直ぐ敵軍まで伸び、扇のように広がり、順番にゴーレムたちを飲み込んでいく。


 戦場が光に包まれて僅か数秒。見据えた先に蠢いていた機械兵たちは、跡形もなく消え去っていた。視界には戸惑い足をもたつかせる敵軍が見えている。


 『ばっちりだね!!皆同じ姿形だったからか、ゴーレムは見事きれいに消え去ってるし、敵……じゃなくて相手の兵士も皆残ってる。完璧だよ、テオン!!』


 頭に響く声だけでライトが興奮しているのが分かる。まあ凄いのはこの力だ。願うだけでその通りに叶う奇跡のような力。この結果を見据えていたのだから、こうなるのは必然……。


 『まさか本当にここまで出来ちゃうなんてなあ』


 ライトが溢す。


 (え……出来るって分かってたんじゃないの?)


 『え?……あ、もちろんそうだよ!テオンがここまで力を使いこなせるようになって、感動してただけだよ』


 うーん、何か引っ掛かる……。


 「なあ、おい……。テオン?」


 アストが呆然と立ち尽くしている。


 「こ、これは何が起きたんだ?」


 どうやら状況に付いていけていないらしい。


 「何って、アストに言われた通り派手な一発を……」


 「派手な一発って……。なあ、ゴーレム、どうなった?」


 「目に映ってた分は全部消した」


 「け、消した……?」


 「うん、多分。たまに消えずに残ったり転位させるだけのこともあるけど」


 「今、ゴーレムの群れが見えなくなったのは、お前が消したからなんだな……?」


 「うん」


 アストは未だにぼーっと戦場を眺めている。それはメラン側も帝国側も同じだった。まるで時間が止まったように、皆の動きが止まっていた。


 「はっはっは。こりゃあたまげたわい!!ここまでのことが出来るとは。何がどう巡ってこんな力に行き着いたのかは分からぬが、こりゃあ凄いものを見た。なあ、アスト!!」


 ヴェルトが豪快に笑いながらアストの肩を叩くが、彼の反応は鈍い。


 「テオン……」


 いつの間にかララが僕の手を握ってきていた。そうだ。ララにとって、いや、アルト村の人たちにとって、この光は忌まわしい記憶を呼び起こす。これは『消滅の光』そのものなのだから。


 「凄い!!」


 だが、彼女の表情はとても明るかった。


 「そっか、これが本来のテオンの力なんだね!!村のときとも、アルタイルのときとも違う!その力、もう自分の物に出来たんだね!凄いね!!」


 凄く褒めてくれた。その顔は本当に嬉しそうで、誇らしそうで。


 「あれ?テオン、泣いてる?」


 「え?いや、泣いてなんか」


 熱くなった目頭をさっと押さえ、目の辺りに流れる汗をさっと拭って、改めて戦場を見渡す。巨人の映像で持っていかれた空気は一変、完全にこちら側の手の中にあった。


 「ほれ、アスト。お前が言い出したんじゃぞ?ちゃんと最後までやらんか!」


 「えっと……そ、そうだな」


 我に返ったアストはすーっと息を吸い、戦場の端まで聞こえるような大音声で叫ぶ。


 「見たか!!これがメランの冒険者の力だ!!行くぞお前ら。勝つのは、俺たちだ!!」


 それに応じるように、戸惑っていたメラン軍が一気に勢いを取り戻す。


 「うぉーっ!!」「凄ぇぞ、新人!!」

 「これなら何も怖くねえ!!」「今度は俺たちの番だ!!」


 冒険者たちから、軍人たちから、メラン軍のあらゆるところから雄叫びが上がり、僕らは最高の士気で進軍を開始した。


 「アスト、凄いや」


 「何言ってんだ。これはテオン、お前の力だぜ。さて、俺も前衛に戻って俺の仕事をしなくちゃな。俺たちも行くぞ、付いてこい!!」


 「「おう!!」」


 周りの冒険者たちから遅れること数秒、僕らも競うように前進を開始した。メラン軍はこの勢いで、あっという間に国境線を越え、バルトの地に足を踏み入れるのだった。





―――その頃、地面の下では……。


 「「うぉーっ!!」」


 地上の軍勢の上げる雄叫び、そして勢いよく進軍する地鳴りが、メラン王国の地下に開けられたこの空間に反響する。


 「始まったのね」


 上を見上げながら足を進める。真っ暗なこの道で頼りになるのは、私の握る電灯の魔道具だけだ。


 「ええ、私たちも作戦開始ですね」


 声を潜めて私の後ろを歩くのは、つい先日出会ったばかりの武器商人ハサン。素人の私から見てもまだまだ新人といった感じの青年だが、何の因果かこの最前線で背中を預けることになっていた。


 「まったく、メランの軍人ってのは随分無茶なことをさせるんだな」


 そしてその後ろを歩くこの男。彼もまた私の浅い知り合いであり、(あずか)り知らぬ因果で行動を共にすることになった。


 「あたし、まだ納得してないんだけど」


 「ん?何がだい?綺麗なお姉さん」


 「何がじゃないわよ!何であんたがここにいるの、ドン・ブラコ!!」 

次回は明日です。どうぞお楽しみに!!

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