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チート勇者も楽じゃない。。  作者: 小仲酔太
第6章 火薬庫に雨傘を
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第18話 竜の血脈ドラコーン

【前回のあらすじ】

 バトス地方を目指すゼルダたちは、その道中プルプラの村に立ち寄っていた。その村にある青紫の湖は、災害や戦争など不吉なことの予兆として赤く染まるという。そして今、確かに湖は赤かった……。

 「私はリュート、ドラコーンだよ」


 紫の湖のほとり、リュートと名乗ったその男の種族名を聞き、私たちは思わず驚きの声をあげてしまいました。


 「え……ドラコーンですか!!??」


 ドラコーン。鱗をもつ人類レピアンスロープの中でも、空を飛ぶ能力を持った彼らは竜の血脈だと言われています。昔読んだ本には、ブルム地方の東の境界、ミネラドラコという山の周辺に暮らしていると書かれていました。


 竜……まだ世界に動物がいた、遥か昔のこと。神の域に迫ったという最強の生物。それが天使と契りを結び人となったのがドラコーンです。


 竜の頃はそれは多様な姿があり、翼を持つものは寧ろ少なかったそうですが、ドラコーンとなったとき、本物の竜はすべからく、翼を持ったドラゴンフォームという姿になる力を得たのだと言います。


 そんな昔のことを、誰がこの時代まで語り継ぎ、書き留めてきたのかは謎なのですが……。


 かさかさ。おや、あの足音、あの声は……。


 「ファム。もしかしてゼルダたちが追っていた、空を横切った影というのは……」


 「ええ、僕もそう思ったところです。リュートさん、ドラコーンということは空を飛ばれるのですか?」


 「ああ。ちょうどさっきまでも空を飛んでいたよ。いつもこの辺りを通りかかると必ずここに降りるんだ。水を飲みにね」


 なるほど。村に着く直前、私たちの頭上を通りすぎて森へと降りた謎の影。その正体はこのおじさんだったのですか。


 「え?水を?あの湖の水を飲まれるのですか!?」


 「ああ。ここの湖の水はミネラルが豊富でね。青いときなら、それはそれは美味しいんだ。まあドラコーン以外には毒にもなりうるほど濃い水だがね」


 そのとき、がさごそと隣の茂みが揺れ、茶色い耳が飛び出ます。


 「あ!やっぱりファムだ!!結局先を越されちゃったなあ」


 「うわ……気持ち悪くなる臭いですね。真っ赤な湖……不吉の前兆、ですか」


 ミミとゼルダです。彼女たちが出てきた方向には遺跡があります。あそこもプルプラの名所のひとつです。二人はあの辺りに影が降りたといって、遺跡の方を調べに行っていたのでした。


 「おや、また可愛らしい女の子だね。お名前は?」


 ゼルダはまた年を勘違いされてしまったようです。彼女の見た目は10才の少女ですが、私たちの中で1番年上です。(わか)く見られるという点ではリュートと同じと言えなくもありませんね。


 「初めまして、この一行のリーダーをしています。ゼルダ、22歳です」


 「え、22歳!?こりゃ失礼、立派なレディだったのか。人は見た目に依らないな。私は……」


 「あ、リュートさんですよね。私たちは耳がいいので、さっき自己紹介していらしたのを聞いていたんです。それより、あの湖の水は飲めるのですか」


 「ああ、それも聞こえていたのか……いやいや、もう一度言うがドラコーン以外には勧められん。あの湖に生息している魔物がいるから、全てがダメなわけではないだろうが、昔は私たちの真似をしてお腹を壊したり、運が悪く死んでしまった人もいたらしいんだ」


 「えー!何だ残念。あの赤い水、まるでジュースみたいで美味しそうなのに~」 


 ミミの言葉にゼルダがゾッとします。


 「ミミ、正気ですか?あの水、腐ったような強烈な臭いがします。とても飲めたものではないですよ!!」


 「そうかなぁ」


 「そうだぞ、元気っ娘。私が美味しいと言ったのは青い水だ。赤は絶対にダメだ。あれは本当に鼻が曲がるような臭いで、少し舌を付けただけでぴりぴりと痺れてしまう。飲んだ暁には喉から胃から焼けるようだった。試しに木の枝を放り込んだら煙を上げて溶けてしまったよ」


 「と、溶け……」


 「待ってください。そんな危険な水を、リュートさんは飲んだことがあるのですか!?」


 「ん?ああ、まあ慎重を期してフォームチェンジして飲んだのだが……。うん、思い出したくないほど不味かった」


 「そ、それで済むのが驚異です……。ミミ、彼が飲めたからといって真似して飲んではいけません。間違いなく死にますよ」


 「うん。そうする」


 ミミがしゅんとしてうつむいてしまう。それにしてもあの赤紫の液体が、彼女にはそんなに美味しそうに見えるのでしょうか。彼女の目にはもしかしたら、私の目に映るよりずっと色鮮やかな湖に見えているに違いありません。


 「それにしても嫌になるほど赤いな。アキくんたち、大丈夫だろうか……」


 「アキくん?」


 「ああ。彼は私の友人なのだが、今少し物騒なことに顔を突っ込んでいてね。私も彼に手を貸したわけではあるが、こんなことになっているならやめた方が良かったなと」


 リュートの頭からきゅーという音が聞こえます。これが不安の音なのでしょうか。


 「ところで、こんな見ての通り物騒なときに、君たちは何でこの湖に来たんだい?」


 彼は湖を眺めたままゼルダに尋ねます。


 「いえ、この湖に寄ったのは気まぐれです。私たちはこの先のバトス古道に用があるので」


 「ほう。ここからさらに東へ行こうとしてるのか。山は魔物が強い。気を付けなよ」


 確かにあの山にはグリズリー系が多く生息し、冒険者を寄せ付けない難関地帯です。私たちが元々暮らしていた砂漠の魔物もそれなりに強かったのですが、恐らくそれより遥かに強いでしょう。


 しかし、不思議と不安はありません。以前の私たちならばそう簡単には進めないところだったでしょうが、今は何の不安も感じないのです。理由は明快。私たちはテオンたちとの旅を経て、とんでもなく強くなっていたのです。


 彼と直接剣を交え、直々に特訓してもらっていたファムはさることながら、ゼルダにミミ、全く会話をしなかった私でさえも、彼の戦いぶりを見たからなのか、その後の立ち回りに大きな違いが出ていました。


 「へへーん、おじさん、ミミたちのことを侮ったらダメだよ!この間なんか私、ブルーキャットを一人で討伐したんだから!!」


 ブルーキャットはこの辺りから見られるようになる山猫型の魔物。その体躯は3M(メトロ)を超え、Bランクの冒険者が複数人で戦わなければならないほど、強力な魔物でした。


 「へえ!そりゃすこい。見かけによらず強いんだねえ。それなら大抵の魔物は大丈夫なんだろうけど、あれには気を付けなよ」


 感心したリュートは、しかしすぐに表情を引き締めます。


 「あれ?」


 「ブルムの悪夢、テラグリズリーさ」


 テラグリズリー!!私たちは息を飲みます。ブルムの悪夢は、私がまだ10にもなっていない頃の話です。この辺りに暮らす人々を恐怖のどん底に陥れた、1匹のテラグリズリーがいたのです。


 「まさかそいつがまた出現したと言うのですか!」


 テラグリズリーはそもそも稀少な魔物で、この辺りに生息するブルートグリズリーの中でも特に強力な個体が、ある日突然巨大化することで誕生する魔物なのだそうです。そのように魔物が成長により変化することを、魔物の変異と言います。


 「以前ほど狂暴ではなく人目につかない洞窟の奥で暮らしているらしいが、それでも気を付けるに越したことはない。何せ、出会ってしまったらおしまいなのだからな」


 ブルートグリズリーはとても好戦的な魔物。その変異体であるテラグリスリーも、当然その性格を受け継いでいます。出会ってしまったらおしまい……リュートの頭からは、嘘の音はもちろん誇張の音もありません。


 「うひゃー!とんでもないことを聞いちゃったね。テラグリズリーか。絶対に会いたくないなあ」


 「ええ。テオン殿がいるときならまだしも、我々だけではとても太刀打ちできません。やはり慎重に行かなければなりませんか」


 折角不安を感じることはないと思ったばかりなのに、早くも懸念材料が出来てしまいました。これも不吉な赤い湖のせいなのでしょうか。


 「まだ被害はないとはいえ、看過できる事態じゃない。私もこのことを族長に伝えて対処を考えるよ……あっ!!」


 リュートが突然大きな声を出し、空気が鋭く震えます。流石はドラコーンと言うべきでしょうか。私の耳にずきずきと余韻の残るほどの大声でした。


 「ここでのんびりしている場合ではない!早く族長の元に戻らねば。すまない、もう少し君たちとお話ししていたい気分なのだが、急いでいることを思い出したよ。失礼!!」


 リュートはそう言うと物凄い勢いで湖の方へ駆け出し、強く湖岸を蹴って飛び上がります。


 そのまま彼の身体はさっと光に包まれ、一瞬の後に目の前には巨大な竜が現れていました。


 「うわつ!すっごーーい!!竜だ!!こんなに近くで見れるなんて……」


 「お、大きいですね……。私たち4人くらいなら、その背に楽に乗せて飛んでくれそうです」


 「本当……。あれだけ大きな身体が宙に浮かんでいるなんて、とても不思議です。あの翼の周りに展開されている風魔法も、もの凄く丁寧で熟達したものですよ!!」


 皆さん、口々に驚きを叫びます。今はまだ、リュートはジャンプの勢いだけで上昇しているような感じです。そして一度翼を羽ばたかせたとき、彼はもう目に見えないほど空高く飛び上がってしまいました。


 「す、すっごーーい!!……うっ!!ごほっごほっ」


 つーん。


 呆気に取られるのもほんの束の間。突如、私たちの鼻に強烈な刺激が襲ってきました。


 「く、くっさーーー!!!!」


 こ、これは赤い湖の臭いです。きっとリュートが湖の上で羽ばたいたから、溜まっていた臭い空気が撒き散らされたのです。


 「う、う……も、もうダメです…………」


 ばたり。


 ゼルダがその臭いに負けて倒れてしまいます。ただでさえ臭いに敏感なライカンスロープの彼女に、この空気は凶器でした。


 「わ、私ももうダメ……」


 間もなくミミも倒れます。


 「マール!!しっかり……し、ろ…………」


 薄れゆく視界の中、ファムが私に手を伸ばします。


 そして、私の記憶は一度途絶えました。次に目を覚ましたとき、私たちは皆、ユカリまんの宿に運ばれていました。全員気絶していたそうです。


 その間に5日の月日が流れ、戦争が……始まっていたのでした。

昨日今日と更新が遅れてしまい、大変申し訳ありませんでした。楽しみにしてくれている方が折角いらっしゃるというのに、お待たせしてしまって本当に心苦しい限りです。


先月から平日も休日もなかなか時間がとれず、執筆がかなり滞ってしまっております。物語の展開が細かいところまで詰められておらず、1話に要する時間が多くなってしまっているのも一因です。本当に情けない限りです。


それでも何とか話が途切れることだけは無いように、踏み留まっております。これはひとえに、そんな私の作品でも読んでくださる皆様がいるお陰でございます。本当にありがとうございます!!今後とも、どうぞよろしくお願い致します。


次回更新は8/9です

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