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チート勇者も楽じゃない。。  作者: 小仲酔太
第6章 火薬庫に雨傘を
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第15話 サムライ

【前回のあらすじ】

 思わぬ形でアオイと再会したシェリルたち。一緒に出会ったクラリス、タケルと壁をすり抜けて貴族の領域、地下へと進む。土のトンネルの中、アウルム帝国の奴隷制度の秘密が明かされていく。

 「この国の奴隷文化はね、僕たちサムライのせいなんだ……」


 「……え?サムライ?」


 タケルの口から出た聞きなれない単語に、みんな首を傾げている。


 「僕たちってことは……家名か何かなのか?」


 「ううん。みんぞく?しゅぞく?の名前なんだって。ミュルメークスの」


 つまり、アレクトリデウス・オルニオ種と同じように、ミュルメークス・サムライ種というのがあるということだろうか。


 「でも、サムライ種なんてキュアノス国では聞いたことねえな」


 「うん。お父さんは『僕たちは歴史から忘れ去られた種族なんだよ』って言ってた。地上の人たちで僕たちのことを知っているのは、殆どいないんだって」


 忘れ去られた……。何事もなく話すタケル。何だか悲しい歴史がありそうだ。子供に聞いても分からないだろうし、聞くにしても何て聞けば良いか分からないが。


 「ねえ、どうしてサムライは忘れられちゃったの?」


 「え!?アオイ、それ聞いちゃう?」


 「シェリルは気にならないの?」


 「そ、そりゃ気になるけど……」


 ちらとタケルを見ると、にこっと笑って話し出した。


 「あのね。サムライは昔は他のミュルメークスと同じ地方で一緒に暮らしてたんだって。だけど、僕らはでんとう的に他の種族をどれいにして働かせるんだ。だからあるとき、怒った他の人たちに追い出されちゃったんだって」


 彼の話しぶりは悲しむよりも寧ろ得意気で、知識を披露したい子供のきらきらとした目をしていた。そういえば私も昔、おじいちゃんに覚えたばかりの医療の知識を披露していた。相手はオルニオで一番の医者だというのに。


 「サムライはね、そのあとこっちの方に逃げてきて、この辺りに暮らしていたヒューマンやオプリアンスロープをどれいにしちゃったんだ。同じことの繰り返しだね。どれいがりはサムライの生き甲斐なんだって」


 「うひゃー。そりゃ大変だね。それで怒られて追い出されたのに、また同じことをしたらまた怒られちゃうじゃん」


 「そう!そうなの。だからサムライはね、一部のヒューマンにどれいを管理させて、自分たちは社会から隠れることにしたんだって。ヒューマンはバカだから、種族内に格差があるとその中で勝手に争って、サムライには逆らわなくなったんだよ」


 幼い男の子の口から出るとはとても思えない言葉。こんな可愛い姿をしていても、流石は奴隷狩りを生き甲斐にしている種族の子供というべきか、その無邪気な笑顔がとても恐ろしく見えてきた。


 「ヒューマンはバカか。そんなことを言ったら種族丸ごと滅ぼされそうだ。あいつらは怒ると容赦ないからな」


 「そうなんだ。それじゃあ気を付けなきゃね。えっと……それが古の大戦よりさらに昔のことなんだって。今のアウルム帝国は、そのときしはいする側だったどれいが仕切ってるんだけど、今でも僕らのことをきぞくって呼んでるんだ。もう悪いことはしてないのに」


 「なるほどな……。じゃあお前らはなりたくて貴族になってるわけではないし、今では奴隷制度とも縁を切ってるわけか。なんか安心したよ」


 さりげなくすごい話を聞いていたような気がする。帝国のヒューマンたちが大切にしている奴隷や身分の制度がサムライ発祥のもの。そもそもヒューマン至上主義と言われる彼らが皆、元奴隷であり何故か今もサムライを貴族と呼んで敬っている……。


 「な、何だか頭が痛くなってきました。私はこういう難しい話は苦手なんです……」


 「分かるー。あたしも途中からちょっと分かんなかった。それにしてもタケル君すごいね!どうしてそんなことまで知ってるの?」


 「僕のお父さん、れきしがくしゃなんだ。いつもたくさんお話ししてくれるから」


 「そうか。そりゃいいお父さんだな。タケル君も頭良いし、将来はお前も学者の先生にもなれるんじゃないか?」


 うんうんと私とアオイも頷く。だが。


 「ううん。僕、れきしがくしゃじゃなくてぷろぐらまになりたいんだ」


 「ん?もう1回言って?よく分かんなかった」


 「れきしがくしゃ(歴史学者)じゃなくてぷろぐらま(プログラマー)になりたいんだ。えんじにあ(エンジニア)でもいいかな」


 「「ぷろぐらま??えんじにあ??」」


 また現れた新しい単語に、三人して目を回す。


 「えーと、そうか、地上にはそもそもこんぴゅーた(コンピューター)がないんだっけ。ほら、ヒューマンのシェルターを移動するとき、エレベーターとか乗らなかった?ああいうのを動かす仕組みを作るんだよ」


 こんぴゅーた。えんじにあ。ぷろぐらま。何がなんだか分からない。ああ、サムライ恐るべし。


 「えへへへ。お姉ちゃんたちゲンじいみたいな顔してる!おもしろーい!!」


 いつの間にか戻ってきていたクラリスが私たちの顔を見てけらけら笑っている。


 「ゲンじい?」


 「ね!タケル君ってすごいでしょ!!カッコいいことたくさん知ってるんだよ!!」


 無邪気に喜ぶ彼女を見てタケルは顔を赤くしている。この顔は年相応の可愛いものなのに。


 「そうだ!!ねえタケル君、あの部屋見せてあげようよ!きっとビックリするよ!!」


 「あ、あの部屋?本当はあそこにはあまり外の人を連れていっちゃいけないんだよ?悪い人に見られると大変だから……」


 「お姉さんたちは悪い人じゃないでしょー!いいの、行こっ!!」


 彼女は半ば強引にタケルを連れていく。


 「ほら、お姉ちゃんたちもこっち!!」


 彼女たちが入っていった、さらに深く下りていく細いトンネルに、私たちも1列になって続いた。





 「え……何これ…………!?」


 「ぶわっ!!ちょっと、急に止まらないでよ!パールのお尻に思いっきり顔をくっつけちゃったじゃん!!」


 先頭を進んでいたパールが不意に立ち止まり、アオイが文句を言っている。腰を屈めてトンネルを通っていた私も、バランスを崩して床に手を付いてしまう。


 地面はいつの間にか土から真っ白な床に変わっていた。それは恐らく石の床なのだが、驚くほどまっすぐに切り出され、表面をツルツルに磨かれている。高度な文明の為せる技だろう。


 「もう、何なんですか。……え?アキ??」


 顔を上げた先、視界にアキが飛び込んできた。


 いや、実際は床に映ったアキ。それほど床は綺麗に光を反射している。そしてその上、アキの像を床に結んでいたのは、壁に映し出された彼の姿だった。


 細い通路を抜けた先はきっちり四角に固められた真っ白の広い部屋であり、その壁1面に大きく何かの映像が映し出されている。薄暗い部屋の中にたくさんの人が集まり、その中にアキの姿もあるのだ。


 「へへ!!すごいでしょ!!」


 「ここはかんししつ(監視室)。町の集会所を見れるんだよ」


 結局そのまま膝をつき、トンネルから這い出る。監視室と言うだけあり、大きな壁に向けて長い机と椅子が並んでいる。机の上には見たことのない魔導機械のようなものが埋め込まれている。


 「アキ、大人気だー!あはは、何か嬉しくなるね!!」


 壁に映し出された映像の中、たくさんの領民に囲まれながらアキが何かを喋っている。人々は彼に潤んだ視線を向け、時には涙を流し、手を組んだり合わせたりして拝んでいる。


 「人々が不安を感じてるのは本当なんですね。アキの存在がこれほどまでに皆を元気付けて……」


 何だか私まで胸に熱いものを感じる。


 「不安?そういえば戦争直前だったねー。あたし、すっかり忘れてたよ」


 「ふーん。この人はお姉ちゃんたちのお友だちだったんだね。この人が来てから、町がずっとそわそわしてたんだよ。えーゆーさまが来たって。えーゆーさまって何?」


 「ふっふっふ。英雄ってのはね!世の中がピンチの時に助けてくれる強くて優しくてカッコいい人のことだよ!!悪い人をみんなやっつけちゃうの」


 アオイが得意気に胸を張る。


 「悪い人を?それじゃあ、あの人やっつけちゃう?」


 クラリスが指を指す。その先には大きく丸い体を部屋の隅に押しやった男。領主だった。


 「領主さんはあの町の人たちを思いやっている、優しくて真面目な方でしたよ?そりゃ私たちも最初はこの町の特殊な事情を知らなかったから、ヒューマン至上主義の激しい人なのかとも思ったのですけど」


 見えなかったのだから仕方がない。彼に話しかけていたミノタンたちの声も、聞こえなかったのだから無視ではなかった……。


 「あれ、あれは何だ?」


 パールが壁に近づく。領主の元に誰かが近付き、何やら耳打ちしていた。


 「シェリル……。お前、領主と話してたよな?」


 「え?」


 「ほら。エレベーターの中で。アキがアオイを助けに行ったあと、領主は明らかにお前と話してた。お前の耳は……ヒューマンと同じだから」


 パールはいきなり何を話し出したのだろうか。だが……確かにそうだったような気がする。


 「うちらと最初に会ったときも、迷いなく『皆様』って言ってた。うちの言葉に反応したときもあった……」


 集会所の端、アキの話も聞かずに何やら考え込んでいる領主。やがて彼は謎の男たちに何かを告げる。誰も気づかないその怪しいやり取り。


 「あれ?この人たち……あたしを拐いに来た人だ」


 アオイが思い出したように男たちを見つめる。タケル君の言葉が蘇る。


 『街の人の中でもね、悪い人には僕たちのこと見えるの』


 アオイを拐おうとした男たち。帝国の奴隷狩り文化。私たちのことが実は見えていた領主。彼は怪しい男たちとも繋がっていた……。


 「あのえーゆーさん、あの人をやっつけたりしないよね?あの人がいなくなると、みんなすごく悲しむから。やっつけたりしないよね?」


 クラリスがパールの服の裾を掴んでいる。


 かつ、かつ……。


 背後から足音がした。振り返ると、細い通路の出口、ジェイクが立っていた。


 「お前ら、何をしに来たか知らねえが、今は手を出すんじゃねえぞ?」


 「え?」


 「ここははっきりいってクズの巣窟だ。まあ自覚がないのが可哀想なところだが、この街は腐ってる」


 さっきの眠そうな顔はどこへやら、凛々しい顔の兵士がそこにいた。


 「それでも今は事を荒立てるわけにはいかない。暫くはこんな街でも全力で守らなきゃならねえんだ。今は……な」

サムライアリは、実際に奴隷狩りをして自分たちの巣に他の種類のアリを連れてきて、働きアリとして働かせるそうです。奴隷というと普通は市民権を持たないものですが、ちゃんとした奴隷ありの社会では労働環境はちゃんと整えて反感を持たせないようにする、というのは当たり前の話だったそうで。


市民権の最たるものが選挙権なわけですが、選挙に行かない激務の労働者、となると奴隷かそれ以下になってしまうのかなと思ったりもします。

全く身近な話題ではないのに奴隷の話書けるかもしれないと思った私の感覚、強ち的外れでなさそうなのが悲しいところです。


サムライアリに雇われたアリさんの労働環境ってどんな感じなのでしょうかね。


次回、ジェイクは何を語るのか。それではまた明日!

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