表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
チート勇者も楽じゃない。。  作者: 小仲酔太
第6章 火薬庫に雨傘を
129/160

第13話 パーティルーム

【前回のあらすじ】

 テオンとララをレナから引き離したアスト。彼にはかつて王都の3分の1を焼き払った『メラン大火』の忌まわしき記憶があった。一方、残されたレナの前には武器商人を名乗るハサンが現れて……。

―――メランギルド


 今日、2度の大騒ぎの渦中にあったこのギルドも、徐々にその興奮を落ち着かせつつあった。


 「ぶぅ~っ!!」


 受付から戻ってきたララはずっとこんな調子である。アストに連れられてギルドに帰ってきた僕らは、イリーナたちと少し話した後、正式に彼らと行動を共にすることになった。


 既にレナのパーティ『フィロソフィア』に所属していた僕は叶わないが、ララはイリーナとアストのパーティ『竜頭龍尾』に入ることになった。もちろん冒険者登録を済ませてから、である。


 ララはそのとき測定してもらったステータスに不平を漏らしていたのだった。


 「テオン、もう一回見せて!!」


 「何度見たって同じだよ……はい」


 彼女にステータスの紙を手渡す。彼女も既にアストに一撃を食らわせたことで、高ステータスを期待されていた。しかし、刻まれた数値はそこまで高くはなく……。


 氏名: ララ・アルタイル

 レベル: 24

 ランク: G

 発行所: メランギルド

 職業(熟練度): 狩人(34)

 職業補正値: 1.2

 HP: 324

 MP: 43

 STR: 42

 VIT: 58

 INT: 31

 AGI: 57 


 「いやいや、その数値で落胆してんなよ!」


 横からボブが野次を入れる。


 「そのステータス、軒並み俺より高いんだからな!!」


 「へえ。ボブはどれくらいなの?」


 「いや、見せねえ」


 「えー、何で?」


 「何でもだ。絶対見せるか!!」


 彼は頑なに胸ポケットを押さえつける。あそこに入ってるのか。今度こそっと見てやろう。


 「ははは!何度も言ってるだろ?ステータスが全てじゃないんだ。アストの身体に一撃浴びせるには少なくともSTR80は必要とされてる。ララちゃんは実質それくらいだと思っておきな。いやあ、良い新人が入ってくれた」


 「えへへ。そう言われると嬉……それでもテオンより低いじゃん!!」


 いてっ!


 ララの拳が僕の左腕に直撃する。今ので僕のSTRも80くらいまで下がったんじゃないかな。


 わはははと笑いが起こる。竜頭龍尾にはいつも笑いが絶えない。いいパーティだと思えた。


 「それでは皆さん、よろしくお願いします!!」


 ララは元気よくお辞儀をする。こうして彼女も冒険者の世界に足を踏み入れたのだった。


 そこへ一人の男が歩いてくる。


 「あー、盛り上がってるとこ悪いな」


 「あ、親父!戻ってたのか」


 ハロルドが反応する。彼の親父さん?がっちりした体つきにTシャツと短パンというシンプルな服を身に付け、その上から仕立ての良いマントに身を包んでいる。少しちぐはぐな男だった。


 「ああ、ついさっきな。ところでそろそろギルドを閉める時間だ。続きはパーティルームでな」


 「もうそんな時間か。分かった……とその前に、ちゃんと紹介しなきゃな」


 イリーナがララとアデル、そして僕を指す。


 「今日僕のパーティに入ってくれた新人君たちだ……って、テオン君はパーティは違ったね。まあ、これから力を貸してくれることには変わりない」


 紹介されて僕らは名を名乗る。


 「そうか。君が騒ぎの元になった高ステータスの新人だな?俺はアーノルド・ガードナー。このギルドのマスターだ」


 ギルドマスター!?あ、言われてみればそんな貫禄も……。


 「君たちのステータスは後で記録を見させてもらうよ。ともかくうちはこれから大変だが、どうか皆を助けてやって欲しい。期待しているぞ」


 彼の差し出したごつごつの手を、僕らは一人ずつ握っていく。随分大きな手だった。


 「それじゃ、僕らはパーティルームに行くよ」


 イリーナはそう言って歩き出す。パーティルームって?首を傾げる僕らに、待ってましたとボブがやって来る。


 「パーティルームってのはパーティメンバーが集まって話し合ったりする部屋のことさ。王都の冒険者は人数が多いからな。普段はギルドに集まるんじゃなくて、そのパーティルームに集まるんだ」


 「そうなのか……って、え?それじゃあ、今日ギルドに集まってた冒険者って、あれで一部だけ!?」


 昼間、ギルドのホールには200人近くの冒険者がいたはずだ。


 「いやいや、今日は特別さ。午前中に全員集められたんだ。数人クエストから戻ってきてなかったりするけど、今日はほぼ全員ホールにいたはずさ」


 「ふうん。じゃあいつもは今みたいにこのホールはがらがらなんだね」とララ。


 「まあな。パーティルームを持ってない小さなパーティが集まってるくらいだ」と後ろからアストが補足する。


 「ところでお前ら、ルーミちゃんが呼んでるぞ?」


 「ルーミが?」


 見ると、マギーやキールたちと一緒にこちらを遠巻きに見ながら、必死に手を振っていた。


 確かに実力者揃いのパーティが集まっていたら、声を掛けづらかったかもしれない。


 「どうしたの、ルーミ?」


 「あ、あの……すみません、お父さんのお仕事が終わるのもそろそろかなと思ったもので……」


 あ、そうか。このあとゼオンと会うという話はララから聞いていた。このままパーティルームに向かうと、抜け出せないかもしれない。


 「分かった。イリーナさんに言って抜けてくるよ」


 僕は彼女に事情を話し、今後の予定については明日話し合うことにして、ララとアデルを連れてルーミの元へ戻ってきた。


 「それじゃ、行こうか。フィリップの工房に戻るんだっけ?」


 こうして僕らは、すっかり静まり返ったギルドを後にしたのだった。





―――クレイス修理店


 「それでね、砂漠でゼルダさんたちに会って、聖都ペトラの復活を目指してるんだって聞いて、私もサーミアさんに会って、出来るなら月の踊りを継承したいなって」


 ルーミは早速ゼオンに旅の話を聞かせていた。彼はその話をうんうんと聞いている。父親らしい、とても優しい表情をしていた。


 ここはクレイス修理店の2階。店に通じる廊下に掛けられた梯子を上った先。狭いながらも程よく飾り付けられ、居心地の良さそうな部屋だった。


 壁際には観葉植物が並び、真ん中にはボードゲームの置かれたテーブル、部屋の奥にはちょっとしたバーカウンターまであった。何でもここは昔、ブレゲ――メリアンの所属していたパーティのパーティルームとして使われていたらしい。


 「そんな大きな目標が出来ていたのか。そういえばサーミアさんについてメリアンさんに聞くのを忘れていたね」


 ゼオンとは丁度店の前で落ち合った。僕らが梯子を上っているとき、突然ルーミが表へ駆けていったかと思うと「お父さん!」と叫んだのだった。


 「メリアンさん?彼女、サーミアさんのこと知ってるの?」


 「サーミアさんは昔、彼女のパーティに入っていたからね」


 「え!?冒険者だったんですか?」


 新たに出てきた新情報に、驚いたルーミの声が部屋に響く。


 「冒険者が一番旅しやすいからね。踊り子も旅芸人も、昔は今以上に冒険者との兼業が多かったんだ。サーミアさんは盗賊としても一流だったよ。まあとっくの昔に引退してるけどね」


 「盗賊……何だかイメージと違うニャ」


 「昔、竜頭龍尾のメリアンとサーミアと言えば、知る人ぞ知る名コンビだったんだよ」


 「ん?竜頭龍尾……?」


 僕は聞き慣れた名前に思わず反応する。


 「あ、言ってなかったっけ?メリアンさんは竜頭龍尾の初代リーダーだよ?」


 「「「ええっ!!」」」


 「そ、それじゃあ、この部屋って……」


 竜頭龍尾のかつてのパーティルームってことか。このちんまりとした部屋に、昼間会った面々が詰め込まれる様子を少し想像する。


 今、この部屋にはルーミ、ゼオンの他、アデル、ララ、キール、マギー、そして僕がいる。ポットとリット、メルーもギルドに来ていたが、彼らは予めゼオンさんが取っておいてくれた宿に向かった。


 小柄なルーミとアデルを含めた7人。それでこの部屋はかなり一杯になっていた。あの大柄なお爺さん、ヴェルトなどはとても入りそうにない。人が増えてパーティルームを変えたのだろうか。

 

 「竜頭龍尾……。メリアンさんが初代リーダーで、サーミアさんも元メンバーで、ハロルドもアストも入っていて、アデルと私も入ることになって……。何だか不思議!そのパーティを中心に、私、色んな人と繋がってるんだ!!」


 ララが興奮して声を上げる。確かにとても不思議な気がした。


 「不思議じゃないさ。類は友を呼ぶって言うだろ?パーティにはそのパーティの気質に合った人が自然と集まる。初代リーダーのブレゲさ――メリアンさんの方がいいのかな?ああいう人の元に集まるべくして集まったのが僕らってことさ」


 アデルがしんみりとしている。


 「だけどテオンとレナだけ仲間外れなんだよな。フィロソフィアだっけ?」


 「そう。多分最初に冒険者になったときから、レナと同じパーティになってたんだろうね。こっちはこっちで何か縁とかあるのかな?」


 僕の何気ない言葉に、ゼオンがくくくっと笑い出す。


 「ああ、失礼しました。きっとテオン君にも面白い縁が巡ってきますよ。レナさんのギルドはまた特別ですから」


 その何か知っていそうな口ぶりに少し引っ掛かった。だがそれよりも、さっきから急に静かになったララが気になる。彼女はじっと窓の外を見ていた。


 「ララ、何か見えるの?」


 窓の向こうは静かに眠る住宅街。最新鋭の設備は、メラン大火の傷跡でもあった。アストの話がふと思い出される。そういえばイグニスはどこのパーティなんだろうか。


 「レナ、どうしてるかなって。あの辺だよね……」


 住宅街の向こうにはメランファミリアの塔も見える。そしてその少し左、今は静かになっている住宅地。ここからでは流石によく見えないが、大体その場所の見当はつく。


 あそこで僕らはレナと別れた。彼女は最後まで何かを叫んでいた。ギルドを出た後、あの場所まで戻ることもできたが、何となく顔を合わせづらくてここまで来てしまった。


 「レナもここに集まることは知っていたニャ」


 「来ていないってことは他に用事が出来たんだろ?大の大人を心配することないぜ」


 マギーとキールもララを励ます。依然心配そうなララの溜め息。ふと奥を見ると、話し疲れたルーミがゼオンの膝で眠っていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
7fx2fj94k3jzaqwl2la93kf5cg2g_4u5_p0_b4_1
ESN大賞
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ