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チート勇者も楽じゃない。。  作者: 小仲酔太
第6章 火薬庫に雨傘を
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第7話 アキを呼ぶ歌

【前回のあらすじ】

 地下の巨大な空間へと案内されたシェリルたち。そこは身分の低いヒューマンの生活区だという。さらに目の前で行われる奴隷無視。悲しい気持ちになりながらも、ミノタンを地上へ返すのだった。

 アオイがミノタンたちを地上へ帰す間、私たちはこの場で待つことになった。そこで、領主から詳しく話を聞くことにしたアキ。


 「領主さん、俺らが今回呼ばれた理由、まだ詳しく聞いていないんですが?」


 「ええ、ここなら話してもいいでしょう。皆さんにお願いしたいのは、簡単に言えば警護です」


 「警護?」


 「戦いの余波がここまでシェルターまで来ないとも限りません。それで念のため……」


 「はあ……。まあ、不安なのは分かるし、俺たちも何かあったときに備えて戦地の近くにはいたい。だから全然いいんだけどさ……」


 彼は頭を掻き、困ったような顔でふっと息を吐く。


 「これだけの設備を備えながら、戦争を控えて、俺たち四人だけで警護なんて、何か力になれるとはとても思えないんだけど」


 不可解なのは、彼らが何を不安に思っているのか、だ。地上での戦いがこの地下空間にまで及ぶことはまずなさそうであり、もしあったとしたら、どう考えても私たちだけでどうこうできる規模の話ではない。


 「この中に敵が入ってきたとか、そういうことを言っているのか?」


 「いえ、戦争が始まったら地下に繋がる階段をすべて閉鎖しますし、階層を移動する魔導エレベーターも停止させます。魔法で保護するため、破壊されることもまずないでしょう。敵に侵入されることは想定していません」


 「だとしたら警護なんて要らねえだろ?」


 「そうなのですが、そこはどうしても、と」


 「もしかして貴族たちか?」


 「え、ええ」


 この領主はあくまで平民の位。貴族たちには頭が上がらないということだった。


 「で?貴族たちは一体何を恐れているんだ?平民のシェルターの、さらにその下に住んでるんだろ?」


 「それは私には何とも。貴族の皆さんの考えることは、平民の私には想像もつかないものですから」


 「理由は聞いてもいないのか?」


 「いえ、その……聞きはしたのですが」


 領主は明らかに口ごもる。


 「あの、上にいる私たちが丸ごと落ちてくるんじゃないかとか、私たちでは敵わない敵が現れて、シェルターも全く通用しないだとか、色々と仰っています」


 「ず、随分心配性な方々なのですね」


 「ずっとこんな土の中で暮らしてるから、心やられちまったんじゃないか?」


 この心配は流石に想像できない。この床もかなり頑丈そうなのに。私は徐にかんかんと靴を鳴らす。


 「おいおい、まさか今床を落としちまおうとか、そんなことを考えてるわけじゃねえよな?」


 パールが本気で心配そうな顔を私に向ける。


 「そ、そんなわけないじゃないですか!」


 私の言葉に、領主がうんうんと頷く。


 「それが言えたらいいんですけどね。もちろん貴族の方々はシェルターより上に来ることはありませんので、この辺りにいてくれるのであれば、何をしていても構いません。本当に来て頂けただけで私としては十分なのです」


 申し訳なさそうな彼に、アキは詰まらなさそうに溜め息を吐く。


 「何だよ。じゃあ俺ら、あんまり来た意味ねえってことかよ」


 「そんなこと言うなよ。人々の不安を取り除くのも、うちらの大事な役目だろ?まあ、ミノタンや他の奴隷を外に閉め出して不安だなんだってのはむかつくけどさ」


 パールがアキの肩に手を置く。


 「そういえば、今畑にいる人たちはいつ地下に入るんですか?」


 私は何気なく聞いた。何気ない会話のつもりだった。


 「…………。」


 領主は首を傾げたまま黙っている。


 「(おい、まずいこと聞いたんじゃないか?)」


 「(で、でも、流石に戦争が始まっても外で働かせたままなんて……)」


 「(ティップのところを基準に考えるな!奴隷ってのは守られるような存在じゃない。文化の違いで事を荒立てるなってアキにも言われたろ?)」


 「(で、でも……)」


 「おい領主」


 突然アキが低く威圧するような声を出す。


 「まさかこのまま上の奴らには戦争のこと知らせないつもりじゃねえだろうな?」


 目を合わせないままなのが怖い。領主は黙ったままだ。


 「俺たちは部外者だ。奴隷制度に対してあれこれ言うつもりはない。だがあいつらも人間だ。ここで自由にして良いと言うなら、俺は上の奴らを守りに行くぞ」


 私とパールは目を合わせて頷き、アキの隣に寄り添った。


 「はて、皆さんが何を仰っているのか分かりかねますが、好きにしてて構わないのは本当です。ですが地上に出るというのは如何かと。あなた方に死なれては帝国の損失です」


 「待て、俺らは別に帝国のために動いてるんじゃねえ。世界のために動いてるんだ」


 「そうですか。とにかく戦争中上に出るのは賛同しかねます」


 「なら!!」


 一段、アキの声が大きくなる。


 「上の奴らも同じだろ!」


 「…………。」


 領主は尚も黙っている。何故そこまで非情になれるのか。


 「俺は彼らを放っておけない。皆ここに連れてくる。いいな?」


 「…………、私はあなた方に出来る限りの自由を許しましょう。戦争中、ここには誰もいません。つまりここで何が行われようと知る由はありません。この階層までならお好きに使って構いません。それでよろしいですか?」


 アキも未だに領主と顔を合わせない。そのまま、彼は立ち上がり地上への階段へと歩き出した。


 「戦争はもういつ始まってもおかしくないんだ。今から知らせに行く」


 しかし領主はその言葉を聞くと途端に焦り始める。


 「お、お待ちください!」


 「何だ?」


 彼は明らかに苛立った様子で、首だけで振り返る。


 「上に上がられる前に、1度領民に会っては頂けないでしょうか?」


 「ああ、顔は出すよ。皆をここに連れてきてからな」


 「いえ、だからその前に……」


 「今アオイも上に行ってるんだ。上に上がるなら、あいつが降りてくる前に行った方がいいだろ」


 そのまま前を向いて歩き出そうとした彼の腕を、領主ががっと掴む。


 「地上に戻ったら暫くは地下に戻られないのでしょう?その前にどうか!」


 「しつこいぞ!何なんだよ!!」


 「どうかこの下へ。この地であなたが何をすべきか、それを決めるのはその後でも良いはずです!」


 彼はでっぷりと太った二の腕を揺らして、必死にアキを引き止める。その様子はどこか異様で、引っ掛かりを覚えた私はアキに尋ねる目を向ける。


 「はあ、何であんたがそんなに必死になるのか分からねえが、そこまで言うなら……」


 流石に何か事情がありそうだと思ったのか、彼も向き直る。領主はほっとして腕を離す。


 「あの、何故そこまで必死なのか教えてもらえたりは……?」


 「私は領主です。ただ領主としての勤めを果たしたいだけです」


 その事情を話してくれることはなさそうだ。


 「おい」


 アキは階段から離れ、広い地下空間を見渡している。


 「下に向かう魔導エレベーターってのはどこにあるんだ?」


 「え?」


 「魔導エレベーターってのに乗るんだろ?」


 「え、お仲間を待たなくてもよろしいのですか?」


 「さっき言ったろ。アオイが戻ってくる前に上に上がりたい。ここまでの長い階段を何往復もさせたくないからな。さっと下に降りて、またすぐ上がるんだよ」


 すぐ動こうとするアキに、領主は戸惑いながらも動き出した。


 「そうですか。それでしたらもうご案内しましょう。ですが下にいる間にお仲間が戻ってくることは?」


 「まあ、そのときはそのときだ。大丈夫、俺らには一応連絡手段があるから、何とかなる」


 「はあ、そうなんですね。では」


 領主は歩き出す。向かったのは階段から程近い場所にあった真っ白な建物。しかしどこにもドアは見当たらない。


 「この中にエレベーターが動いています。領民にとっては神聖な魔導機械ですので、傷など付けないようにお願い致します」


 そう話しているうちに、ウィンと音がして壁の一部が消える。


 「わっ!!建物に穴が開いた!」


 「ここから乗れば良いのか?」


 「はい。全員中に入ったら動き出しますので、焦らずお乗りください」


 領主はさっと乗り込んで端による。


 「そうか」


 それを聞いてアキはすっと道を譲る。こういうとき、彼はレディファーストを徹底するのだ。パールと私は恐る恐るエレベーターに乗り込んだ。


 アキが続いて乗り込むと、ひゅんと入り口が消えて壁が現れる。どういう仕組みになっているのだろうか。


 「それでは降ります」


 領主が内壁にさっと手をかざすと、一瞬ふわっと体が浮くような感じがした。動き出したのだ。


 「おっ!すげえな、凄く静かに動き出した!!」


 「ああ、俺も初めて乗った。やはり帝国の技術はすごいもんだな」


 「恐れ入ります。この技術力が我々の誇りですから。メランの野蛮人たちには絶対に負けませんよ」


 壁の方を向いたままで領主が話す。確かにこの間見たメラン王都の少し古めかしい町並みに、こういう魔導機械は似合わないだろう。


 それを言えばここも地上はどこまでも続く小麦畑、まさか地下にこのような文明があるとは思えないのだが。


 「うっ……」


 「ん?シェリルどうした?」


 「ご、ごめん。軽く酔ったみたい」


 「あー、そうか。これくらいでも酔うのか」


 な、情けない。


 「それにしても結構かかるな。そんなに深いのか?」


 「ええ。今半分くらいです」


 まだそんなに……。私の体がぐっと強張る。


 そのとき……。


 「ん?歌……?」


 アキがふっと上を見る。


 「歌……ですか?」


 不思議そうな顔の領主。


 「まさか、アオイの歌か!?」


 「ああ。これは良くない歌だ。行かなきゃ!領主、すぐに向きを変えろ!!」


 「え?上にですか?無理ですよ!!一度下に降りてからじゃないと」


 「そうか。仕方ねえ」


 そう言うとアキは荷物を下ろす。アオイは滅多なことでアキを呼ばない。恐らく時間はない。


 「パール、これ頼む」


 「ああ、行ってらっしゃい」


 パールもアキの行動を分かっており、驚くこともなく彼を送り出す。


 「え?アキ様、何を……?」


 「本当はあまり人前でこの力を使いたくないんだけどな」


 彼はぐっと屈んで力を溜めると、大きく飛び上がった。領主が止める間もなく彼の頭は天井に近づき。


 「な!?危ない……え?」


 ぶつかる音は鳴らない。彼の姿は既にない。彼はそのままふっと宙に消えたのだった。

12時を回ってしまいました。本当に申し訳ありません。推敲等も出来ていないので、今日の分が書けたらまた直します。


どうぞよろしくお願い致します。

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