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チート勇者も楽じゃない。。  作者: 小仲酔太
第1章 アルト村の新英雄
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第11話 送別の宴

挿絵(By みてみん)

【前回のあらすじ】

 前世の知識と無意識に発動した光の力で、ブルムの森の怪物ゴーレムを倒したテオン。光の力については村長が口止めしてくれたが、幼馴染みのララには秘密を勘繰られてしまった。秘密を知られるのを恐れるテオンは果たして……。

 「テオン?私たちに何か、隠してない?」


 ララはいつもの笑顔のままにそう尋ねてきた。


 僕は何も言えなくなって押し黙る。こういうときの女子って本当怖い。脳裏にちらりと過るのは前世で思いを寄せた姫様だ。姫様にも隠し事は通じなかった。


 だが今探られているのは、あの光の秘密だ。意図したわけではないにせよ、あの光は間違いなく人を一人消した。つまるところ、僕は同胞殺しなのだ。


 「いや、あの……ごめん。そんな顔させるつもりじゃ」


 思わず沈み込んでしまっていたようだ。ララが一転心配そうな顔になる。隠す以上は隠す覚悟というものが必要だ。村の皆を悲しませるのは、嫌だ。


 「ううん、大丈夫だよ!ごめん、話せなくて。でも大したことじゃないんだ」


 「そ、そう?ねえ、悩みごとがあるなら聞くよ?」


 「本当に大したことじゃない。ララには関係ないことだよ」


 「……そう」


 ほっ。何とか見逃してくれたようだ。少し寂しそうな顔をさせてしまったが、秘密がばれたらそんな顔も見せてはくれなくなるのだろう。


 これでいいんだ……。胸が、ちくりとした。





 村長とユズキは、あれからも少し洞窟に残って調査を続けていたらしい。夕方になった頃、二人は戻ってきた。怪物(ゴーレム)は既に動力源を失っており、二度と動くことはないらしい。


 だが洞窟の中には同様のゴーレムが多数眠っていたという。そのほとんどは木の根に覆われ岩に挟まれ、とても動けない状態であったという。


 しかし何かの拍子に起動してしまえば、あの拳で拘束を断ち動けるようになる可能性もある。そもそもあの戦いの衝撃で他のゴーレムが起き出さなかったのは奇跡と言えよう。


 あのゴーレムたちが何の目的であそこにいたのか、動き出したら何をしでかすのか分からない以上、放っておくわけにはいかない。


 細心の注意を払いながら今後も調査を続けるということだ。


 「あのゴーレム、一体何体くらいいるんですか?」


 「ああ、今日数えただけで50体はおったかの。実際はもっとおるじゃろう。はあ、嫌になるわい」


 50体以上の軍用ゴーレム。間違いなく戦争規模だ。そして、この地の人間を傷つけることも厭わない。


 前世での大戦と関係があるというのなら、あの戦争の相手は魔族ではなく人間だったということに……。いや、馬鹿なことを考えるのはよそう。確かに僕は当時のことは知らないが、そんなことあるはずがない。


 「ではユズキさん、手筈通りにお願いします」


 悶々と考えていたらレナとユズキが傍を通りすぎていった。レナはあのゴーレムを王都に持ち帰って調査したいと言っていた。恐らくその話だろう。


 「あ、テオン君!!」


 レナは僕に気づくと大きく手を振ってきた。


 「もう動いて大丈夫なの?」


 「ええ。クラの魔法ですっかり。治ったのは傷だけで体力はまだもう少しかかりますが……」


 「流石あの方の妹だわ。血縁って凄いのね!」


 「妹?クラは姉ですよ、サラの」


 「ん?あ、いやこれも秘密だった。今の、忘れてね!」


 おい。この人、今朝からちょっと迂闊すぎないか?この人に僕の秘密を握られてるの、あまりにも不安だ。


 寂しそうなララの顔が浮かぶ。ど、どうせばれてしまうのなら、ララにだけは……。はっ、何を血迷っているんだ、僕は。


 「それで、本当に明日旅立つけどいいのね?」


 そう。色々あったが、僕らは予定通り明日発つことにしたのだ。


 体力なら道中でも癒せる。何より、レナはゴーレムを王都に運ぶという仕事が増えたことで、予定がギリギリになってしまっていた。


 彼女に付いていくには、僕も明日発つ以外ない。


 「もちろんです。もう3年待つなんて、できません」


 レナはにこっと笑った。


 「その覚悟、好きよ。あなたのこと、私が責任もって貰い受けるわ!」


 少し気にかかる言い方だが、まあ今の僕にレナが必要なのは間違いない。


 「はい、よろしくお願いします!!」





 その日の夜、僕の送別会は無事開かれた。村の広場に皆集まって壮大な宴会だ。


 僕は成人してから初めての酒の席となっていたが、治癒の妨げになるといってクラにきつく禁酒を言いつけられていた。


 「そうか、王都まで行くのか!そいつは楽しそうだな」


 ハイルが上機嫌で酒を飲みながら腕を回してきた。もう怪我は何ともないらしい。


 「レナちゃんと二人旅とは羨ましいねえ。変なことするんじゃねえぞ?」


 すぐ下品な話をしようとするのはエルモだ。そういえば彼は8年前まで村の外にいたんだ。話を聞きたくてこれまでも色々尋ねてみたが、詳しくなったのは町の女の子の口説き方ばかりだった。多少町の流行りを知れたのは良かったが。


 「もう、お父さんっ!……テ、テオン君はそんなことしないよっ!……あ、あの、怪我してるのに明日旅立つなんて、大丈夫なの?」


 か細い声を精一杯張り上げて僕の心配をしてくれるのはエナナだ。歳はひとつ下の14。村に来たばかりの頃はすぐに泣き出しそうな弱々しい印象だったが、最近は随分しっかりしてきたと思う。しかしエナナから話しかけてくれることは珍しい。


 「ああ、うん。クラの魔法が効いてるからね。それよりも早く外の世界を見たくてうずうずしてるよ」


 「そ、そうなんだ。あの……絶対、帰ってきてね」


 「なんだなんだ?もしかしてエナナちゃん、テオンにほの字かあ?」


 「何!?おいテオン!!うちの娘はまだやらんぞ!」


 「まだって……いつかはいいのかよ。緩い父親だな」


 エナナはすっかり俯いてしまった。顔色は見えないが耳まで赤くなっている。悪い気はしないが正直その気はないのでとても申し訳ない。何というか妹みたいに思ってしまうのだ。


 居たたまれないので、エナナの頭をぽんと撫でてその場をあとにする。振り返るとエナナはそのままの姿勢で固まっていた。





 ふらふらと歩いていると、競い合うようにご馳走を食べていたアムとディンと目があった。二人は僕の姿を見ると手を止めて駆け寄ってきた。


 「おう、テオン!食べてるか?」


 「今日のご飯は俺とディンで取ってきたんだぜ!」


 「何しろユズキもハイルも、今日は動けなかったからな」


 「テオンもな」


 「みんな今日の怪物戦で活躍したからなー……はあ」


 ディンがいきなり落ち込みだした。ゴーレム戦から帰って以降、ずっとこの調子らしい。


 「テオンは俺たちを心配して来てくれたんだよな」


 「あんな恐ろしい怪物に、臆さずに立ち向かってたよな」


 そういえば二人はほとんど木陰に隠れていた。アムが村長を守ろうと飛び出したときも、ディンは足を震わせていた。それで二人とも劣等感を覚えてしまったらしい。


 「もう俺たち、テオンの兄貴分名乗れないな」


 普段勇猛な二人が動けなかったのは、いわば本能によるものだろう。二人は森の中で生きてきた優秀な狩人だ。勝てない敵に挑まないのは生き延びるための基本だ。そのおかげでこのご馳走がある。


 「僕は結局大ケガを負って、狩りに出られなくなった。今こうして美味しいご飯を食べられるのは二人のお陰だよ。ありがとう」


 「「なっ……!!」」


 二人は照れてみるみる赤くなっていく。たまには素直に思いを伝えるのも悪くない。


 「いきなり何だよ!気色悪いな」


 「いつものテオンらしくないぞ?頭の怪我、やばかったんじゃないか?」


 なんて失礼なやつらだ。二度とお礼なんか言わない。


 「だけど今俺たちがあるのはお前のお陰だ。ありがとうな」


 うぐっ。早速仕返しされた。顔が熱い。


 「外に出ても、俺たちのこと忘れんなよ」


 「おう。きっと戻ってくるから、それまで死ぬなよ」


 ああ、目頭も熱くなってきてしまった。長居は無用だ。





 その後も僕は村人一人一人と言葉をかわし、別れを惜しんだ。


 サラ、クラ、トウ、ユズキ、村長……。


 人口の少ない村だから、その分一人一人と思い出がある。崩壊間際の涙腺を落ち着かせるべく、少し広場から離れて門の方へ来ていた。


 この辺りでは夜になると草原から冷たい風が吹く。少し火照った体にはとても気持ちがよかった。


 「テオン君……こんなところで何してるの?」


 振り替えるとハナがいた。風に長い黒髪がなびいて艶かしい。ワンピースのような衣服がはためいてすらっとした脚が覗く。思わず目を逸らした。


 「ハナ……。ハナこそディンを放っておいていいのかよ」


 「ん?ディン?……まあ確かに落ち込んでたから少し心配だけど、主役の癖にこんなところで一人になってる子の方が放っておけないわよ」


 子……か。ハナと僕はいつまでも先生と生徒の関係なんだな。僕――ロイとしてはこのままでもいいが、僕の中のテオンが浮かばれない。


 「子供扱いしないでよ。ハナは、僕にとってはただの先生じゃないんだから」


 「え?いきなりどうしたの?」


 「僕は……その、ハナのこと、女として意識してるってことだよ」


 少しやんわりとした言い方になってしまった。どうせストレートに告白するなら、もっとはっきり言いたかったが、ハナには既にディンがいる。何よりキューを奪った僕にそんな資格はない。


 ただ思いを伝えるだけ。

 その先は望まない。


 「………そう。ありがとう。嬉しいわ、テオン君」


 やっぱり困っているようだ。分かっていた。でも……。


 明日僕は村を旅立つ。少しくらい困らせたっていいだろう。これは僕の些細なわがままだ。


 「ハナに、そういう風に見られてないのは分かってるけどさ。僕のことも呼び捨てで呼んでよ。ディンみたいに」


 ハナはわずかに赤みがかった頬で口を開く。月明かりに照らされてその唇がてらっと光る。


 ずっと横顔として見てきたその顔。それを今、正面から見つめている。


 「テオン君……。ううん、テオン」


 名前を呼んでくれた。呼び捨てで。ディンのように。キューのように……。


 ハナは恥ずかしくなったのか顔を背けてしまった。やっぱり可愛い。姫様、ごめんなさい。もう少しこの顔、眺めさせてください。


 しばらくして、顔を逸らしたまま目だけこちらを向いた。上気した頬に上目遣いが何とも……。


 「私もテオンのこと、好きよ」


 「……え?」

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