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チート勇者も楽じゃない。。  作者: 小仲酔太
第6章 火薬庫に雨傘を
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第2話 ヨモツザカと期待の新人

【前回のあらすじ】

 テオンたちと別れたゼルダ一行は、シャウラとブラコの騒ぎが解決した後のキラーザにいた。同じ頃、アキと呼ばれる冒険者とその一行も話をしていた。彼らは帝国のバルト地方を目指していた。

―――キラーザの町、酒場の地下


 「「「かんぱーいっ!!」」」


 あちらこちらでジョッキを打ち鳴らす音が聞こえる。皆抑圧された感情を爆発させるように、満面の笑みで飲み交わしている。


 「はっはっは!!ドンは無事にキラーザを出られた!ダゴン様がマスター代理になられた!!」


 ダゴン――ブラコの筆頭部下の大柄な背中に手を回し、医務担当の壮年の男が仰々しく笑う。


 「何より、ここならどれだけ笑っても罰せられない!!最高だな、はっはっは!!」


 真っ赤な顔でさらにエールを煽る。医者の不養生とならなければ良いが。


 ここはキラーザの酒場の地下、オオカムヅミが経営していた商工業者の総合互助施設『ヨモツザカ』の大広間だ。町長は認めてないため非認可、つまり闇ギルドである。


 オオカムヅミのキラーザにおける慈善事業の中核を担っていたため、実質彼らの本拠地と言えよう。


 テオンたち、そしてキールと別れたおれ――バウアーとケインは、ダゴンとともにその後のキラーザを見て回っていた。ネオカムヅミに襲われる危険もあったが、彼らの目的は元々ブラコ一人だったらしい。


 『恨むべき敵を恨むのはいい。だが敵の仲間をすべて敵とは思うな』


 そんなブラコの教えが暴漢同然の彼らにも根付いているのだそうだ。この『ヨモツザカ』がなくなっては町は滅びるとまで言われている。だから彼らもここを潰すことだけはしない。


 だがそのマスター、ドン・ブラコがキラーザを離れた今、町の人々の影の支えとなってきたここは、町長の格好の獲物になることが予想された。潰されるのか、乗っ取られるのか。どちらにしても人々に絶望をもたらすだろう。


 そんな折、ここを守るマスター代理として選ばれたのがダゴンだった。


 「我に果たしてマスター代理が務まるか。だがドン・ブラコ様に代わって『ヨモツザカ』を守っていく者が必要なのも事実。我は我で精一杯やろう。だが我もまた皆の支えを必要とする未熟者。何卒、よろしく頼む」


 彼の挨拶はいつも通り堅苦しかった。


 「なあ、バウアー?さっきの『ここならどれだけ笑っても罰せられない!!』ってどういうことなんだ?笑って処罰されるなんてあり得ねえだろ?」


 ケインが不思議そうに問う。だがそれが実際に行われるのがこのキラーザという町だった。処罰というのはつまり罰金だ。この町は厳しい条例を次々と出し、罰金を徴収することで町の財政を立て直そうとしているらしい。


 「ほら、町の人たちは今もずっと怯えた振り(・・)をしてたろ?おれたちが理由を聞いても誰も答えてくれなかったやつ」


 「ああ、そういえばそうだった。それって何でだっけ?ちゃんと聞けたような気がするんだけど」


 彼は基本的に興味のないことは覚えられない。こういう暗い話をすぐに忘れてしまうのは、いっそ彼らしいと思える。キールが細かいことを気にして、ケインが忘れたと笑って。バランスのいい3人組だった。


 「あのときは後ろからダゴンが来たんだよ。あいつ、町の人に会うたび大丈夫だって声掛けて。おれたちもあいつの知り合いだって分かってから、急に話を聞いてもらえるようになったんだ」


 「へえ。そうだったっけ?」


 「ああ。皆が怯えてたのは、暗殺者サソリに対してじゃなかった。町長の息のかかった権力者たちに対してだったんだよ。あいつらは心底サソリを恐れた。だが町の者は大して怯えてない。それが許せなくて、笑うことを禁止したんだとよ」


 「何だよそれ。ありえねえだろ」


 「その時もお前同じこと言ってたよ」


 おれとケインが話しているのを聞き、医務担当がやって来る。


 「おいおい、しけた顔して飲んでんじゃねえぞ?笑っていいってんだから笑えよ~」


 そんな強制されて笑うのはごめんだが、あまりにも幸せそうな顔で飲む彼に思わず笑ってしまう。


 彼の後ろではダゴンが多くの町民たちに囲まれ、団子状態になっていた。相当慕われているのだろう。


 「なあおっさん、ダゴンは何であんなに人気なんだ?」


 ケインが何気なく尋ねる。


 「はっはっは!!聞きたいか?ええぞ?ダゴン様はわしらの誇りでもあるからな。ドンの次に尊敬するお方じゃ」


 「そんなにか?」


 「そんなにじゃ。彼はな、ずっとオオカムヅミとキラーザの民を繋ぐ窓口として、皆の話を聞き力になれることを探す、そういうことを続けてきたのじゃ。彼と話すだけで皆勇気付けられ、苦しい生活の中でも生きてこれたと言って過言ではない。


 ドンもそんな彼の働きを見て、逆にこの町でのわしらのすべきことを悟り、この『ヨモツザカ』を作られたのだ」


 「へえ。つまりあいつ……ダゴンがマスターになるのは寧ろ当然というか、今も代理ってことになってるけど普通にマスターになったらダメなのか?」


 「はっはっは!!お前たちもそう思うか。わしらも何度もそう提言したんだがな。ダゴン様は自分の器に過ぎるの一点張りだった。自分はただの炭鉱夫崩れですから、とな。最早そんなこと思っているのは彼一人だと言うに。ほんに謙虚な男だ」


 ダゴンの団子はなおも大きさを増している。中にはおれたちが話を聞いた町の八百屋やら陶芸家やらがいる。皆、昼間は暗い顔をしていた。今ここに浮かない顔をしている者は一人もいない。


 彼は悪い町政のせいで、同じく炭鉱夫をしていた弟家族を亡くしたらしい。その直後は随分と荒れ、周りにも迷惑をかけたらしい。


 「ダゴン様はね、うちに来て最初に、商店の人らに恩返しをしてえって言ったんだよ。特に今ダゴンに抱きついてる八百屋の奥さんはね、ショックで仕事をやめた彼にずっとご飯を食べさせてやっていたんだ。『我が生きているのは町の人たちのおかげだ』ってのが彼の口癖なんだよ。素晴らしいだろ?」


 村、町というのは規模が大きくなるほど各人の役割がはっきり分かれてくる。そして役割が複雑化してくると直接関わらない人が出てくる。その果てに、自分が周りに生かされていることを忘れてしまう者が出てくるものだ。


 「何だか当たり前のことを言ってるようにしか思えねえけど」


 ケインは興味をなくし、机の上に並んだ料理を物色し始めた。この話はまた忘れられてしまうだろう。


 「はっはっは!!当たり前のことを当たり前と思えることの、何と幸せなことか!!その感覚をいつまでも忘れんようにな」


 医務担当はまた陽気に笑って次の話し相手を物色し始めた。あの笑顔がここだけの物だなんて、腹立たしいったらない。


 「元々こんな予定じゃなかったんだけどな、おれたち、とんでもないことを知っちまったな」


 これまでの気楽な冒険者人生が一気に変わってしまうような気がする。昔逃げ出した窮屈な屋敷が脳裏に蘇る。ざわつく心を抑えてケインの元に向かう。彼は既に口を一杯にしていた。


 「皆さん」


 程よくお腹も膨れた頃、ダゴンが話し出した。


 「我はただの炭鉱夫、皆さんに迷惑も掛けてきた。だがドン・ブラコ様がキラーザを離れてしまわれた今、誰かがこの町を何とかしなくてはならない。この局面で皆さんから我に指名を頂いたこと、本当に嬉しく思う。これ以上ない恩返しの機会として、この役目をしっかり務めていこうと思うが、やはり不安も多い。どうか皆さんも我と一緒に、この町を守り影から支えるのを手伝ってほしい。今ここに総合ギルド『ヨモツザカ』のマスター代理の任を受けることを、ここに宣言する」


 ぱちぱちぱちぱち!!


 キラーザの地下に大きな拍手の音が響く。その音は遮音魔法により外に漏れることはない。だがギルドがもたらす希望は、人知れずこのキラーザを支えていくのだろう。


 「何かよく分かんねえけど」


 ケインがおれの肩に脂まみれの手を置く。


 「あのおっさんには頑張って欲しいって思うな」


 純粋な笑顔が眩しく光った。





―――一方王都、日が暮れた直後


 「「期待のルーキー爆誕だー!!メラン王都は安泰だー!!」」

 「「魔導兵器も蹴散らすぜ!!帝国なんて怖くねえ!!」」

 「「期待のルーキー『テオン・アルタイル』がいる限り、この戦争に負けはない!!」」


 王都の冒険者ギルドの前は異様な熱気に包まれていた。冒険者たちがテオンを担ぎ上げ、散々に囃し立てていた。


 「これは一体何なんだ?」


 キールの尋ねる声に答える声はない。彼の声が届いた私やマギーなどは彼と同じ気持ちだし、事情を知っていそうな冒険者たちはすっかり騒ぎに夢中になって、彼の声など届かない。


 「あ!!アデルがいるよ?」


 ルーミの指差す先、テオンを囃し立てる人の群れの中に一際背の小さな姿を見つける。


 「普段は冷静な振る舞いばかりだから感じないけど、ああやってはしゃいでいると本当に子供みたいね」


 小さな声で漏らす。


 「子供!?」


 だが気付かれてしまった。


 「レナ、アデルは耳が良いんだからそんなに大きな声を出したら聞こえるニャ」


 マギーに溜め息をつかれてしまう。


 「ねえ、今レナさん、失礼なことを言っていなかったかい?」


 「アデル君は歳を取っても若く見られそうで良いわね」


 「レナさんの君呼びは何だか子供に話しているような感じがするよ。きっと僕とそんなに歳変わらないだろうに」


 「あら、嬉しいこと言ってくれるじゃない!」


 「アデルは確か23歳だったニャ。レナはそれより10は上かな?」


 「え!?」


 私の年齢は絶対に秘密。まさかこんなところでヒントを与えてしまうなんて……。


 「れ、レディの歳を詮索するなんて野暮なことはしないでくれる?」


 キールが呆れ顔で首を振る。


 「そんな年増のことは放っておいて、あのテオンの騒ぎについて教えてくれよ」


 ぽかっ。黙って無礼者の頭をひっぱたく。彼は微塵も動じることなくアデルから目を離さない。


 「ぷっ。あ、えーと」


 アデルは吹き出しながらも話し出す。


 「ギルドの受付でテオン君のステータスを測定したんだ。皆の前でね。あんな出鱈目のステータスは初めて見たよ。皆、大型新人が来たって大盛り上がり!それで、この通りさ」


 なるほど。彼のシンプルな説明に、首を傾げる者は誰もいなかった。

ダゴン・ピンクニーニョ(本名:ダゴン・キルヒ)。キラーザの関所に囚われていたブラコを助けに来た部下の筆頭。大きな斧を振り回す武人風の男でした。ちなみに桜団子が好物です。第6章では昔出た名前有りのモブキャラがもう何人か出てきます。楽しみにしていてくださいね。


次回更新は来週金曜日6/14となります。

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