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チート勇者も楽じゃない。。  作者: 小仲酔太
第5章 不穏の幕開け
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第23話 再会のグラース

【前回のあらすじ】

 サーミアを知るというゼオンの知り合いメリアンとは、フィリップの親方ブレゲのことだった。彼女の一族はレナも愛用する有名魔道具の発明者たちだった。クレイス修理店に今、皆が集まる!!

 「は、はい!!メリアン・ブレゲ・マイヤーはここの店主で、親方で、僕の奥さんです!!」


 「え!?奥さん!!??」


 フィリップの言葉にゼオン一人が驚きの声を上げる。


 「まさかメリアンがフィリップの奥さんなんて、世間は狭いのニャア。それにしてもゼオン、いくらなんでも驚きすぎじゃないかニャ?」


 「いえ……た、確かにそうですね。恋愛の形は人それぞれですから……。ところでフィリップさん、メリアンさんはいらっしゃらないですか?」


 何だか気になる言い方だが、とりあえず置いておこう。


 「え、ええ……。ちょっと今取引で……」


 私はピンと来て聞き方を変える。


 「今日テオン君たちがここに来たわよね。まだいる?」


 「あ、テオンさんはもうギルドに行きました。他の方ならまだいますよ」


 案の定、フィリップは今の言葉が問題になるなど微塵も思っていない顔で答える。


 「ははは。レナさんがいなければ諦めて帰るところでした。彼らは奥の地下室ですか?」


 「ええ。え?え、あ、いや、その……」


 彼は急にどぎまぎとし出すがもう遅い。キールがさっと詰め寄って止めを指す。


 「それじゃ、上がらせてもらうぜ。いいよな?」


 「は……はい」





 暗い店舗の奥、明かりを嫌ったような不気味な廊下を身体を横にして進んでいく。乱雑に積まれた段ボールに胸が支えそうになるリットを見て、もやもやとしながら下を見る。


 見通しのいい足元にやがて階段が現れ、闇の空間は下へと向かっていく。その奥から声が聞こえてくる。


 「……もう一声!ご自分で取りに行こうとするなら、あんな魔物だらけのところ、無理でしょう?」


 「さあねえ、あたしゃ魔物の強さなんて分からないからね。知ったこっちゃないよ」


 「そんなこと言ってこの機会を逃したら、一生後悔することになりますよ?何しろAランク級の冒険者が何人もいて、初めて潜り抜けられた激戦地でしたから」


 「出任せを言うんじゃないよ。Aランク級の冒険者なんてそんじょそこらにいるもんかい」


 「これを見てもそんなことが言えますか?ララさん」


 「はい。これ結構重いんだから」


 どさっ。


 「な、何だいこれは!!コキノビーにレッドヘア、グラントベアまで、しかも全部希少部位ばかり……」


 「あれ?随分お詳しいのですね。専門外の魔物素材まで」


 「う……ひ、一通りは試したことが……。はあ、負けたよ。あたしは元冒険者だ。だからこそ分かる。わざわざコキノ高原の方を回っていったろう?」


 「ええ。普通は熟練の冒険者でも避けるルートです。だからこそのこの収穫。ただの鉱石ではありませんよ」


 「む……。キラーザというだけでなく……、確かにこりゃこんな額で買えた代物じゃないね。どれだけ欲しいんだい?」


 聞こえてくる声はルーミの物と老婆らしき物。何かの交渉をしていたらしい。ララが振り返ってこちらへ来る。


 「すみません、レナさん。もう用事終わっちゃいました?こっちはもう少し掛かりそうで」


 「あ、それはいいのよ。ところでこれは何?」


 階段からちらっと覗くと、机の上にルーミが鉱石の入った袋を乗せて中に手を突っ込んでいる。対するのは小柄な老婆。その前には大量のリブラが積まれていた。


 「ルーミちゃんがブレゲさんに鉱石を売り込んでるんです。ほら、火山でたくさん拾ったやつ!」


 いや、それは分かるのだが……。


 「ブレゲさんってお婆ちゃんじゃない!!」


 「え?」


 「何だい?とんでもなく失礼なお客が来たもんだね」


 そりゃあ、私が彼女の発明した魔道具を買ったのは10年以上前だから、25歳のフィリッブの奥さんだとしても私と同い年くらいはあるかもと思ったわよ?でも、こんな、だって……。


 「あの、レナさん?取引の邪魔なのでちょっと上で待ってて貰えますか?」


 ルーミにまで白い目を向けられてしまった。


 「あ、じゃあ私も上にいるね!ほら、レナさんもマギーもちょっと外に出てよう?」


 「ニャ!?マギーはまだ地下室見てないニャ!!」


 「しょうがねえ。ここは退こうぜマギー」


 「ニャ……分かったニャ」


 え!?マギーが素直!!何で……??


 ララに押されるようにして私たちは狭い階段を後退っていく。


 「あれ?あなたは確か……」


 彼女はゼオンの前で足を止めた。彼は階段の隅に張り付いて上っていく私たちを見送っていた。


 「おや、君はアルト村の……」


 「えっ!?私のこと覚えてるんですか?」


 「あ、いや、すまない。随分大きくなっているから自信はないんだ。ララちゃんで合ってるかい?」


 「!?すごい!合ってます合ってます!!」


 「良かった。デミの村の人だからね、覚えておきたいとは思っていたんだ。君も王都に来ていたんだね」


 「はい、ルーミちゃんたちと一緒に……。あっ!?」


 そこでララは慌てて私の元に来る。


 「(ルーミちゃんってお父さんに会いたくないって言ってましたよね?)」


 そ、そういえば……。黙って王都にまで来てしまったことで、ルーミはゼオンに申し訳ない、怒られてしまうと思っていたのだった。


 「(ば、ばれちゃったね……。どうしよう?)」


 「(それは心配ないニャ。ゼオンにはあっという間にばれたのニャ)」


 いつの間にかマギーも近くにいた。ニコニコと楽しそうにしている。


 「(ど、どうするの?)」


 「(別に怒ってはいなかったニャ)」


 「(あの、何の話をしておられるのですか?)」


 「(何ってルーミちゃんとゼオンさんのことで……)」


 「私のこと?」


 「えっ!?」


 マギーの隣に当の本人、ゼオンが来ていた。


 「ははは。ルーミは私に会いたくない、か。嫌われてるのかな。あまり遊んでやれなかったからかな」


 「い、いや、嫌われているわけではないと思いますよ?」


 あまり仲が良くないんだと言っていた彼女の姿が蘇る。何を話したら良いのか分からないとも言っていた。


 「せ、折角こんな場所で会えたんですから、少し親子でお話などしてみては……」


 「うーん、そうか……。そんな風に気を遣わせてしまうのは申し訳ないな。大丈夫だよ、私は」


 だ、大丈夫って……。


 「あ……。レナさん、とりあえず行きましょう」


 振り返るとルーミとブレゲは既に交渉に戻っていた。確かに今ここで出来ることなどないだろう。


 「そ、そうね」


 私は慌てて階段を上る。だがゼオンはそのまま私も見送ろうとしていた。


 「あの、ゼオンさんは行かないんですか?」


 「ああ、私はここで見ているよ。ルーミには気付かれないようにね」


 ララが立ち止まった私たちを追い抜いて地上まで上がっていった。


 「見ていたら口を出したくなりませんか?」


 「いやいや、もっと未熟者ならそうしたかもしれませんが、あれは立派な新米商人です。下手したら商売敵にすらなるかもしれない」


 な……!!実の娘を敵ですって!?


 「見たところ、確かにいい鉱石を持っているようだ。レナさんの協力あっての物かな。でもあれを私はここに売りに来るなんて思いつきもしなかっただろう……」


 彼のルーミを見る目は、果たして父親としての目なのか、縄張りを荒らされまいとする商人の目なのか、私には判断がつかなかった。


 「既に机に乗っているリブラだけでも相当だが、あれはまだ2倍には増やせるだろう。最終的には……相場の15~20倍くらいは行くだろうね」


 そ、そんなに……!!ルーミにそこまでの商才があっただなんて。


 「やっぱりこのままここで見守っていますか?」


 「ああ、そうするよ」


 私も何となく気になり、ここで取引が終わるのを待つことにする。本職の商人がここで見ているのだ。邪魔になることはないだろう。


 「父親って不思議なもんだね」


 不意にゼオンが口を開く。おもむろにハンカチを取り出して目頭を押さえている。


 「嫉妬してもおかしくない状況なのに、嬉しくて胸が熱くなるばかりなんだ……」


 私ははっとする。いつの間にか握りしめていた拳を、気付かれないようにそっとほどいたのだった。





 「分かったよ。それで買い取ろうじゃないか」


 「ふふふ。ありがとうございます!」


 それから間もなく、ルーミの明るい声が暗い地下室に響く。


 「ではこの鉱石一箱で870万L(リブラ)です」


 は、870万!!そんなに大きな取引をしていたの!?


 「け、結局相場のどれくらいだったんですか?」


 私はゼオンに解説を求める。


 「相場の17、8倍だね。流石だよ」


 そう言うと彼は階段を降り始めた。


 「え!……ちょっとゼオンさん!!」


 こつ、こつ。しっかりと音を立てて隠れる気もない。すぐにルーミも気付いてしまった。


 「あ!お、お父さん!!どうして……」


 「やあルーミ。元気かい?」


 「あ、あの……ごめんなさい、勝手に王都に来ちゃって……」


 ぽん。


 俯く彼女の頭に彼の頭が乗せられる。父親らしい大きな手だった。


 「見事な商談だった。成長したな」


 ルーミの口はまだ何か言い訳を言おうと開きかけていたが、遂に言葉が発されることはなかった。ただ、にやけた口許だけが下向きの顔から覗いていた。


 「おや、ゼオンさんかい?何だ、この嬢ちゃんあんたの差し金だったのかい?道理で手強いと……」


 「お褒めに預かり光栄です。私は今の商談には全く関与していませんよ。今日私がここに来たのも偶々です」


 「おやそうかい。ああ、そっちの方がしっくりくるね。あんたより商才があるんだもの」


 「ははは、違いありません。あ、こちら遅くなりました。先月の売上金の一部です」


 ゼオンは袋の中から更に財布を取り出して机に置く。まさか外の袋はインベントリ?


 「ああ、いつも悪いね。あんな昔の発明が未だに役に立ってるなんて、ありがたいことだよ」


 「今日は来客が多くてさぞお疲れでしょう。また後日来ますね」


 踵を返したゼオンが、立ちっぱなしのルーミに声をかけた。


 「今夜時間を作ろうと思う。少し話せないか?ここまでの旅の話とか、聞かせて欲しいんだ」


 彼女はその言葉にがばっと顔を上げる。やがてその首がこくんと縦に揺れる。


 離ればなれだった親子の再会がぼやけていく。気付けば私の目からは涙がこぼれ落ちそうになっていた。

レナ、ユカリに気を付けるべくクレイス修理店に来たはずなのに、すっかりルーミとゼオンの親子の再会に意識を持っていかれていますね。親子の形には色々あるでしょうし、中にはハートフルとはいかないものもあるでしょう。


ですがやはり円満な親子関係というのが書きたくなります。離れているときはあーだこーだ言ってても、親に褒められたら素直な喜びを隠せなくなる。ああ、ルーミ可愛い……。流石我が子!!←


次回更新は6/5です!

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