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チート勇者も楽じゃない。。  作者: 小仲酔太
第5章 不穏の幕開け
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第22話 発明一家メルクーリ

【前回のあらすじ】

 アリスト博士の密かな研究であり、帝国に漏洩してしまったノートの中身、AI理論の内容がレナの口から語られた。彼女はジョドーへの報告書の中でユカリへの猜疑にも言及。彼女の思惑とは……。

 「うそ、もうこんなに日が傾いちゃってるの?」


 王都に着いたときはまだ正午だったはずだ。思ったより研究所に居すぎたのか、外に出た頃には既に日は斜めに射していた。夕焼けも近いだろう。


 「これはテオン君たち怒っちゃうかな」


 そう思うが、まずはクレイス修理店に向かわなければならない。運良く彼らもまだお店にいてくれたらラッキーなのだが、流石にそんなことはないだろう。


 私は彼らと待ち合わせた門の前を避け、また先にギルドへ様子を見に行っていることも考え、その近くを通らないように慎重に道を選ぶ。


 向かうは町の西側、かつて流行り病の後処理と『メラン大火』で2度の大火災を経験した区画、所謂『静寂区』だ。


 別に火事で住む人がいなくなったわけではない。あの辺りは寧ろ王都の中でも人口密度の高い住宅地だ。


 なぜ静寂かというと、1度古い物が焼き払われたおかげで、最新の防火設備やセキュリティを備えた建物が建ち並び、その高度な防音機能が中に住んでいる人々の気配を完全に断ち切っているのだ。


 人がいないかと思えるほどに情報を公開しない住宅、それが王都最新鋭の住宅地だった。


 「皮肉よね。焼けてなくなったからこそ、初めて導入できた機械の街だなんて……」


 王都の科学技術は正直言ってかなりレベルが高い。それなのに何十年も変わらない街並みがあるのは、ひとえに過去に執着する人の業だ。いや、悪いことばかりではないのだが。


 私はどうしても過去に執着する考えを許容できなかった。何故ならそれが今王都を危機に陥れているからだ。


 研究分野においては、王都の軍事技術はそれほど帝国に劣るわけではない。高度なスキルを再現した対軍用の魔導兵器を駆使すれば、ある程度いい戦いはできるだろう。


 戦争が近い……。それを察知した軍部は、今も防衛の策を練っているだろう。しかしそれは魔導兵器の配置でも、最新の魔道具の使い方でもない。騎兵――スケイルフィアに乗った彼らをどこに並べるかと言う話なのだ。


 今回帝国が戦争に踏み切るとしたら、どれほどの新時代兵器が出てくるか分かったものではない。それなのに、軍の現場はあまりに前時代的だった。


 「壊れなきゃ変わらない。失わなきゃ気付けない……。そんなの、もうたくさんなのに」





 「ここ……静寂区よね?」


 クレイス修理店が近付いてくると俄かに騒がしくなってくる。どこかに人だかりでも出来ているのだろうか。その雑踏が私の元まで聞こえる辺り、辺りの静けさが際立ってはいるのだが。


 角を曲がると、その正体はすぐに分かった。目当ての店の前に6人ほど。知った顔だ。


 「やっぱりレナだニャ!知ってる匂いだと思ったのニャ」


 マギーだ。テオンたちが出てくるのを待っているのだろうか?それなら丁度よかった。自然にここの店主と話が出来る。


 マギーの他には、ポットにリット、キール。メルーはキールに担がれている。だがもう一人は知らない者だった。


 「マギー、その人は?」


 「師匠のアリアだニャ」


 「あら、無事に会えたのね!良かったじゃない。ねえ、テオン君いる?」


 「テオン?テオンならルーミたちと一緒のはずニャ」


 「そう。中にいるのね?」


 「中?何言ってるのニャ?」


 あれ?話が上手く通じない。


 「今、ゼオンの知り合いにサーミアの話を聞きに来たところなのニャ。ただ、今は取り込み中だからって待つように言われたのニャ」


 「ゼオン?」


 そのとき、店の中から男が出てくる。私もよく知る人物。


 「ゼオンさんじゃないですか!?ご無沙汰してます、レナです」


 「え?ああ、これはどうもお久し振りです」


 「あれ?レナ、ゼオンと会ったことあったのニャ?」


 ゼオンはポエトロ出身の大商人。王都で知らない人がいないほどの有名人だが、私は個人的にもお世話になっていた。


 「さっきお話ししたお得意様です。レナ様にはうちの卸す魔道具を買っていただきますから」


 「何!?あれはレナのことだったのか?」


 キールが驚いた顔で話に入ってくる。


 「あれって何よ?まあいいわ。ゼオンさんのお知り合いって?」


 「ええ。ここは『紫檀の名工』メリアン・メルクーリさんのお店なのですが……」


 ゼオンの話が終わるのを待ちきれず、私はその名前に反応してしまった。


 「『名工』ですって!!??」





―――少し前


 「『名工の逸品』?何だそりゃ?」


 俺はメルーを担ぎながら石畳の道を歩いていた。さっきまでいたアーケードのような彩り豊かな石畳ではない。静かな住宅街に伸びていく冷たい床だ。


 辺りはしんと静まり返っていた。その不気味さを先陣を切って割っていくのはマギー。その横のアリアの道案内がなければ、迷ったのではないかと思うほど細い道だった。


 「メリアンさんは冒険者としても活躍されていました。その傍ら数々の魔道具を開発し、人知れず世に送り出していたのです。彼女の生み出した魔道具は『名工の逸品』としてもてはやされました。冒険者を引退された後は、彼女の2つ名であった『紫檀』を冠して彼女自身を『紫檀の名工』と呼ぶこともありました。まあ彼女は自分の名が世に出るのを嫌がったので、それがメリアンさんだと知る人は私とマルコさんしか居なかったのですが」


 「なるほどな。職人ってのは変わり者って言うし、そういうの珍しくねえのかな」


 「どうなのでしょう。彼女のお子さんたちも数々の魔道具を発明されたのですが、皆さん有名になり出すと途端に止めてしまって……。やっぱり皆さん冒険者になって、今では自分で使う分しか作らなくなってしまいました。私も度々商品化のために伺うのですが、頷いて貰うのに随分骨を折ります」


 「へえー。親も親なら子供まで……一家全員発明一家かよ」


 「まさにそうですね。私がメリアンさんと商談をしているときに、まだ幼かったお子さんたちが次々に私にご自分の発明品を披露されまして……。まさに一家相伝の発明家魂というものでしょうか」


 「あれ?発明品を人に見られるのはいいのか?じゃあ何で有名にはなりたくねえんだよ」


 「さあ……。それは私には何とも」


 「そうか、そりゃそうだよな。ところでその一家の魔道具はどれくらい凄かったんだ?」


 俺がそのことを聞くと、途端にゼオンの目付きが変わった。


 「ええ!まず長女のデスピナ様!!彼女は派手な魔道具がお好きな方でして、代表作の『グレネードシャワー』などは上級な道具魔術士(アイテムマジシャン)には最早定番と言えるほどに普及しております。その大型版『グレネードキャノン』は、魔道具の導入を渋る軍部にもその豪快さが買われて導入されたほどです!!


 続いて長男のカリアスさん!!彼は敵を退けたり敵の攻撃から身を守ったりする魔道具がお得意で。電撃の床を生み出す『ショッキングフロア』、敵の魔法をすり抜ける『イエローマント』など、センスの光る商品を多数産み出していただきました。また、戦闘だけでなく『雨避けの布』など日常生活にも役立つものも多数取り揃えております!!


 お次は次女のレスピナさん!!彼女はまさに天才で、人の心を操る魔道具に力を傾けておられました。あまりに強力すぎて表立って商品化できるものは少なかったのが残念です。相手を眠らせたり混乱させたり、噂では惚れ薬を発明してしまったということも聞きます。あ、これは絶対内密にという話でした。聞かなかったことにしてください。


 そしてメリアンさん!!あの人はからくり仕掛けの魔道具が大変得意で、中でも『弓引』と呼ばれるからくりウッドドールが大変人気でした。精密な操作が必要な弓を引く動作を自動で行うのです!冒険者時代はそのようなからくり人形を多数搭載した『からくり山車(だし)』という戦車型の巨大魔道具を引き連れておりました。商品としては『デウスエクスマキナ』という自動で剣と弓を使う機械戦士を開発していただきました。あまりに高価だったため数は売れませんでしたが、大枚をはたいて買ってくださった大物冒険者もおられました」


 な……なんというマシンガントーク。だが俺もこの手の話は好きだったため、ぎりぎり……ぎりぎりかじりついて聞いていられた。


 「そ、その高価な機械兵っていくらくらいだったんだ?」


 「なんと10億L(リブラ)です!」


 「ま、まじか!?そんなの買えるやついたのかよ?世の中って分からねえな」


 「ええ、その方は本当にお得意様で、今ご紹介したメルクーリ一家の方々の魔道具は殆ど全て買っていかれましたよ」


 「すげえな。最早メルクーリファンだ」


 「残念なことに、一家皆様名前は伏せるようにと仰って、その方にはさる『名工』としか言えなかったのですけどね」


 本当に残念な話だ。それだけの顧客が付くのなら、商人を介在させずに直接契約だってできるだろうに……。


 「ゼオンー!!ここでいいニャ?」


 気付けばマギーとアリアは一軒のお店の前に立っていた。お店自体も建物に埋もれるような目立たないものだった。


 「あれ?知ってる匂いが近付いてきてるニャ。これはレナかニャ?」


 「それでは皆さんここで待っててください。お連れしていいか店主さんに聞いて参ります。おや、お店にはいないかな?」


 ゼオンは店へと入っていく。間もなくレナが角を曲がってきたのだった。 





 「まさかあの『デウスエクスマキナ』を作ったのが、フィリップの店主さんだったとはねえ。長年の謎がこんな形で解けるなんて、人生は本当に予想外だわ」


 「それにしてもメリアンさん、お店を開けたままで一体どちらに……」


 そのとき、店の奥からどたどたと慌てた音が聞こえた。


 「あ、あの!すみません気付かなくて。何かご用で……あれ?」


 出てきたのはフィリップだった。


 「あれ?ここはメリアンさんのお店では?」


 ゼオンが尋ねる。


 「あ、はい。メリアン……ブレゲ親方のクレイス修理店です」


 「ブレゲ親方?じゃなくてメリアンのお店かって聞いてんだよ」


 キールの眉がつり上がる。


 「は、はい!!メリアン・ブレゲ・マイヤーはここの店主で、親方で、僕の奥さんです!!」

メリアン・メルクーリ改めメリアン・ブレゲ・マイヤー。またもやミドルネームが出てきましたね。こちらはアルタイルと違って屋号のようなものです。


メルクーリ一家も大分濃いキャラを集めましたが、それより気になるのはメリアン、フィリップの超歳の差夫婦でしょうか。いえ、恋に年は関係ありませんからね。そんなこともあるのでしょう。


さて、そろそろ5章の終わりが近付いて参りました。そこで誠に勝手ながら、6章からは週2投稿にさせて頂きたいと思っております。仕事が忙しくなってきて、少しペースを落としたいです。ここまで読んでくださった方々にこれまで同様精一杯の物語を楽しんで頂くため、どうかご理解のほどをお願い申し上げます。


次回更新は6/3です。

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