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チート勇者も楽じゃない。。  作者: 小仲酔太
第1章 アルト村の新英雄
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第10話 ゴーレムの倒し方

挿絵(By みてみん)

【前回のあらすじ】

 ブルムの森で怪物と会敵するテオンたち。怪物は村長たちの攻撃で既に傷だらけになっていた。しかしその姿にテオンは見覚えがあった。ブルムの森に現れた怪物は、前世の世界の戦闘兵器ゴーレムだった……。

―――前世


 「ゴーレムって凄いよな」


 「ん?いきなりどうした、ロイ?」


 僕はかつてミールという街で衛兵をしていた。


 国の守りは基本ゴーレムが担ってくれているが、彼らは基本的に敵と命じられたものを排除するだけだ。国民同士のいざこざや国家間の複雑な駆け引きも関わってくると、そう簡単に武力で解決するわけにもいかない。


 人間の衛兵が仕事を失わないのはそのためだった。あくまでも防衛力という面で言えば、兵士の力はゴーレムのそれに遠く及ばなかった。


 「こんなに強大な力が絶対に味方でいてくれるんだなって」


 「まあ確かに、ゴーレムは管理者の命令に絶対服従だもんな。じゃなきゃこんな兵器、危なっかしくて使えねえよ」


 「絶対服従か……。人じゃそれは難しいからな。それぞれが各々の正義を持っていて、それを契約で繋ぎ止めているのが人。どんなに忠に篤くたって、ゴーレムほどの安心感にはならないんだろうな」


 「なに?お前裏切ろうとでもしてんの?」


 「いやいや、なんでそんな話になるのさ」


 「悪かったよ。お前ほど忠実な兵士はいない。でも絶対服従のゴーレムだって暴走することはあるだろ?」


 「そうだな。絶対なんてないってことか。だから僕たちはもしものときのために、ゴーレムの緊急停止方法を教えられている、と」


 そう。ゴーレムには緊急停止方法がある。逆に言えば、それなしで止めることはほぼ不可能だと言ってもいい。その方法とは……。





―――現在


 ゴーレムは完全に元の動きを取り戻していた。


 村長は時々距離を詰めてはゴーレムを殴り、注意を引き付けている。こいつは攻撃してきた相手を優先的に攻撃するようだ。


 背後には負傷したユズキとジグがいる。ゴーレムの拳を直に受けて怪我で済んでいるのは驚愕だが、戦闘に復帰するのは不可能だろう。今はサラが呼びに行っているクラの治療を待つばかりだ。


 「テオン、お前はあの怪物の止め方を知っているんじゃな」


 「はい。どこで知ったとは言えませんが、必ず止めます」


 「まあ止まらなければ破壊して振り出しに戻すだけじゃ。好きにやりなさい」


 「はい」


 ゴーレムが再び拳を振りかぶって村長の方を向く。僕はその背後に回って攻撃後の隙を窺った。


 「ほれ、今じゃ」


 村長が敢えて低姿勢で攻撃を待ち、難なくかわす。直後、僕が背中からゴーレムの頭部へとよじ登った。


 ゴーレムの鉄製の頭部は騎士のマスクのようになっていて、マスクを上げればその額には羊皮紙が貼り付けられている。


 前世の知識の通り……!!


 羊皮紙には文字が刻まれている。たった3字。これがゴーレムの停止方法の鍵であった。だからこそ軍用ゴーレムは一般的なものより背が高い。


 ゴーレムの停止方法を解く鍵は、刻まれた文字の1字目を消すと言うこと。ただし気をつけなければならないのは、この文字は右から左に書くということだ。


 この停止方法はあくまで前世で知っている新型のゴーレムのものだ。だがその由来はゴーレム開発者の故郷に伝わる伝承に因んだものだという。「真理」から「死」へ、という意味なのだそうだ。


 僕は確信をもって右の1字分を破りとり、そのまま飛び降りる。これで……。


 「と、止まらない……!?」


 ゴーレムの動きは先程までと全く変わらない。テオンの行為を攻撃と見なし、反撃の拳を繰り出してくる。


 頭部から飛び降りたままの姿勢で油断していたテオンは、その攻撃を避けきれなかった。


 「テオン……!?」


 拳の直撃は免れたものの、風圧をまともに受けて吹き飛んだ。即死ではなかったものの、もう動ける状態ではない。


 「テオン、生きとるか!?」


 「はい、なんとか……」


 「もうじきクラが来る。意識を保てよ。さっきは何をしたんじゃ」


 「額の文字を1つ消しました。右の1字を消せば停止するはずなのですが……」


 「止まらなかったと。……ひとまず欠けた1字を戻すか」


 村長は先程と同様、膝を砕いてから首を折り、ゴーレムを再生させた。


 「本当に何度も戻りおる」


 ゴーレムの額の文字も戻っていた。


 「文字が反対だったということはないのかの?」


 「文字の左右は停止方法に大きく関わることです。間違いではありません。ですが……そのゴーレムが僕の知っているものと違う可能性があります」


 「ふむ……。だが文字が鍵なのは間違いあるまい。どうせやり直せるんじゃ、やってみるかの」


 村長はゴーレムの攻撃をかわして再び膝を砕く。


 「何度も同じ手を食いやがって、戦士としては落第じゃな……」


 こうべを垂れたゴーレムに近づき、羊皮紙の左を破ろうとしたそのとき……。


 ぐらっ……。


 「な、何じゃ!?」


 突然足元が揺れた。地面がうねり、液体のように動き始める。村長は体勢を崩し転んでしまった。蠢く地面はやがて辺りに空いた穴を塞ぎ、抉れた部分を補修していく。


 そうか。迂闊だった。僕たちがここに来たとき、地面には荒らされたあとがなかった。しかし木の枝は折れていた。


 あのときは戦闘のあとではなく怪物がただ通っただけなのだと思ったが、今ならわかる。あそこでは確かにゴーレムの拳が突き上げられていたのだ。


 あの地面はこうして何事もなかったように均されていたんだ。ゴーレムは拳で殴るだけじゃない。土属性の魔法も使役する。実際に見たことはなかったが、話には聞いていたはずだった。


 村長は蠢く地面に飲み込まれ、大穴のあった場所に下半身を埋もれさせていた。


 「村長!?ご無事ですか?」


 「ああ、わしは大丈夫だ。数秒あれば抜け出せる」


 しかしゴーレムはそんなに悠長ではない。既に拳を構えている。膝が砕けても狙えるように、村長の身動きを封じたのだろう。戦闘兵器、恐るべし。


 「させるか!!」


 飛び出したのはアムだった。そういえばユズキとアムは実は親子だったのだ。アムにとって村長は実の祖父ということになる。


 アムは村長をかばってあの拳を受ける気だ。村長を動かせないのだから守るにはそれしかない。


 だが、それは絶対に助からない。


 ディンとララもすぐにそれに気がつき、アムを引き戻す。


 「何すんだよ!?村長が……村長が!!」


 「だからってどうする気!?アム死んじゃうよ!!」


 「そんなの分かんねえだろ!!」


 アムは二人の制止を振りほどいて駆け出す。ゴーレムの拳はもう突き出される寸前だ。もう間に合わない!!


 どうする!どうする!!どうする……!!


 諦めたくない。村長を失いたくない!もう誰にも、消えて欲しくない!!


 いつしか僕の右手は光りだしていた。考えている暇はない。残された手段はゴーレムを今すぐ止めること。ゴーレムの額の文字を変えること。右ではなく左の文字を消すこと。


 この手を、前に向けるだけ……。


 意識せずとも体が勝手に動いた。あの日暴走した光は、素直に意に従った。ゴーレムの額の文字が一瞬光に照らされた。


 意味が、変わった……。





 アムは村長の前に立って目を瞑っていた。

 ディンはその場に立ち尽くして足を震わせていた。

 ララは振りほどかれた手を戻すこともできずに、立ち尽くしていた。

 レナは未だ木陰に隠れながら、ただ見ていた。


 ユズキとジグは痛む身体を辛うじて持ち上げ、村長はようやく地面を脱し、先程まで暴れていた森の怪物を見やった。


 ゴーレムは、停止していた……。





―――アルト村


 「あ、テオン。起きた?」


 気が付くと僕は村の広場にいた。ゴーレムの停止を確認したあと、すぐに眠ってしまったらしい。


 目を開けると、葉を赤く染めた木が風に揺られてざわついていた。


 「テオン?」


 上から大きな目が覗き込んできた。近い。ふぁさっと滑り落ちた髪が顔をくすぐる。頭を誰かに撫でられている。


 「あれ……ララ?」


 「ふふ。まだ眠い?」


 はっと気がついた。後頭部に当たる柔らかな感触。至近距離から覗き込む顔。横たわった身体。


 ララの……膝枕!?


 慌てて跳ね起きる。


 「うわっ!危ないなあ」


 頭をぶつけそうになってララが仰け反る。


 「な、何してんだよ!」


 「照れた?可愛い~!!」


 胡座のままそっぽを向く僕ににじり寄ってくる。おかしい。なんで僕はララ相手にどきどきしてるんだ……。


 「元気なのはいいけど、まだじっとしてなきゃだめよ。はいこれ」


 やって来たのはクラだ。治癒力を上げる緑色の飲み物をくれた。うーん、苦い。


 そういえば至近距離でゴーレムの風圧を受けて瀕死だったんだっけ。それがある程度は動けるようになっている。クラの治癒はやっぱりすごい。


 「そうそう、怪物退治の件だけどね。詳しいことは村の皆は内緒にするようにだって。村長からの命令よ」


 「内緒?」


 「そう。特に最後の、止まったところ」


 そうだ。僕はまた光の力を使ってしまったんだ。見ていたのは……村長、ジグ、ユズキ、アム、ディン、レナ、そしてララか。


 右手に視線を落とす。あのときはほとんど無意識だった。だけどちゃんと思った通りに光を出せた。暴走しなかったのは……偶然だ。


 ひょっとしたら、また皆を消してしまっていたのかもしれない……。


 僕はぎゅっと右の拳を握った。


 「あのとき、何が起こったんだろう?」


 「……え?」


 「怪物よ!テオンが止めるのに失敗して、村長が元に戻して止めようとして埋められちゃって」


 埋められちゃって……って、何か縁起悪いな。


 「どうして止まったんだろう?時間差でテオンのが成功してたの?」


 ああ、ララは気付かなかったんだ。見られたと思った。あの日の悲劇の真相も、気付かれるのではと思った。


 キューの失踪に心を痛めていたのはハナだけじゃない。ばれたらもう、皆とは友達でいられない……。


 「村長の攻撃が効いてたんじゃないかな?再生してたのは形だけ、とか?」


 「そっか。そういう可能性もあるのね!」


 村長の口止めは間違いなく僕のためだ。村長には僕の力が見えていたはず。ジグたちは気付いたかもしれない。でもアムとディンは気付かなかったかもしれない。

 安心はできないが、ララの笑顔に少し心が和らいだ。


 「でもさ、テオン?」


 変わらぬ笑顔でララが尋ねてきた。


 「私たちに何か、隠してない?」

ゴーレムの額の文字はヘブライ語。右から左に書く言語です。書かれた文字は「真理」を意味する「エメト」。その右の一文字をとると「死」を意味する「メト」。これでゴーレムを崩壊させることができるようです。今度ゴーレムに会ったらお試しください。

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