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チート勇者も楽じゃない。。  作者: 小仲酔太
第5章 不穏の幕開け
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第13話 メランの洗礼

【前回のあらすじ】

 アルト村出身のアストとの再会に沸くテオンとララ。面識のあったアデルも大いに盛り上がる。テオンとアデルは、アストたちの所属する王都の冒険者ギルドへと向かったのだった……。

挿絵(By みてみん)

 王都メランの大通りに面した、王都でも有数の巨大な建物の前に僕は立っていた。アストに案内されて辿り着いた冒険者ギルドのギルドハウスである。


 「ここが王都の冒険者たちのホーム『メランファミリア』だ。今もこの屋上にでっかい塔を建てようって工事が続いてるんだぜ」


 アストに話しかけていた彼のパーティメンバーらしき男が、僕とその後ろのアデルに声を掛ける。


 「俺はボブ・ドージだ。よろしくな!」


 「よろしく。僕はアデル、こっちがテオンだ」


 「おう!まあまずは中に入れよ」


 ボブは建物の中へ入っていく。その前には彼と一緒に歩いていた二人の冒険者がいる。


 「さあ、行こう」


 ハロルドとヒルディスに背中を押され、僕らは『メランファミリア』へと足を踏み入れる。その瞬間、耳を覆う喧騒と全身を覆う人の圧。


 「うわ……王都の冒険者ってこんなにいるんだ」


 アデルがあんぐりと口を開ける。僕も同じ顔になっているだろう。ギルドの中には100……いや、200人くらいいるかもしれない。それだけの人がひしめき合っていた。


 外から見てあれほど大きかった建物が狭く感じるほど、その中はぎゅうぎゅう詰めであった。


 「驚いたろう?この建物には防音魔法が掛けられている。これだけの冒険者が騒いでいたって外からじゃ分からねえのさ」


 ボブは左の方へと進む。その先には数人の人の輪に話しかけるアストがいた。


 「あれが俺らのパーティだよ。ほら他の冒険者に絡まれる前に……」


 ハロルドがそういうが早いか、早速僕らに近寄ってくる2つの影。


 「あら、初めて見る顔ね。冒険者志望さん?」


 「そんなむさ苦しい奴らより僕らと話そうよ。僕はユーリ、こっちはアリエル。『薔薇の園庭(ローゼンガーデン)』っていう、華麗な冒険者だけのパーティさ」


 二人は煌びやかな衣装に身を包み、痩身を踊らせくるっと回って立ち止まる。絵になる美男美女のコンビだった。


 「お!君の装備もなかなかエレガントだね。いい素材を使ってる」


 美男子の方が僕の服に目を止める。これはポエトロの町で作って貰った、ムーンハウンドの毛皮をあしらった服。リュカとの思い出の品でもある。レナ曰くかなり良いものらしい。それを瞬時に見抜くとは……。


 「おい、人の客に何唾付けようとしてんだよ!!」


 ボブが割って入る。


 「あら、ごめんなさいね。だってこんなに可愛い子たち、放っておけなかったのよ」


 アリエルがアデルの頭を撫で、その耳に息を吹きかける。


 「ふわあぁぁ。お姉さん、やめて……うぅ」


 聞いたことのない声を漏らすアデル。顔が真っ赤になっている。


 「くっ、騙されるなよ。アリエルは男だ」


 「「えっ!!」」


 「ちょっとボブ君……そんな言い方、野暮じゃない?」


 「うるせえ!!ほら行くぞ、二人とも」


 ぐいっと腕を引かれる。二人の後ろから他の冒険者たちも近付いてくる。取り込まれたら揉みくちゃにされそうだ。このままボブに付いていかなければ、二度と『竜頭龍尾』の元へは戻れない気がした。


 「あら行っちゃうの?またお話ししましょうね」


 アリエルが妖艶な笑みで手を振る。どきっとするほど美しい笑顔だった。あれは男、あれは男……。


 「はっはっは!!早速絡まれたな。ここの連中はお喋り好きだからな。まあまた話す機会もあるだろうさ。すべては巡るものだからな」


 『竜頭龍尾』のメンバーだろうか。白髪混じりの大男がアデルの頭をぐしゃぐしゃと撫で回した。


 「アストから聞いたぞ。うちに入ってくれるんだって?うちは他のパーティよりずっと常識的だからな。安心してくれ」


 「まだ決まった訳じゃねえけどな。この爺さんがヴェルト・ザイフェルト。『すべては巡り繰り返す』ってのが口癖のベテラン冒険者だ」


 「同じ輪を巡る者同士、よろしく頼むよ」


 「次は私でいいかしら?」


 変わり者そうなお爺さんの後ろから、またすらっとした美人が現れる。


 「レン・クリストスよ。可愛い男の子は私も大好き。よろしくね!」


 かなり胸を強調したおへその覗くトップスに、深いスリットの入ったタイトなロングスカート。目のやり場に困るセクシーなお姉さんだった。


 「私は正真正銘女よ。安心してね?」


 そう言いながらアデルの頬を撫でる。


 「姉さん、あまりからかっちゃ心変わりさせちゃうよ」


 さっきボブと一緒にいた男二人ががははと笑う。


 「僕はワズロー・ワーテルロー。こっちはベン・ジアミンだ。分からないことがあったら何でも聞いてね」


 この二人は常識人ぽい人だ。とてもほっとする。是非頼りにさせて貰いたい。


 「うん、頼りにしてもらって構わないよ」


 え?今心を読まれた?驚く間もなくアストが口を開く。


 「俺たち『竜頭龍尾』は今12人いる。君たち二人が入れば14人だな。次は……ああ、リーダーに挨拶してもらおう」


 アストがにやにやと長椅子に座る。他のメンバーも次々と座っていく。何か始まるのだろうか……。


 ぎらっ……。


 そのとき後ろから強烈な気配を感じた。咄嗟に飛び退く。


 どさ。


 さっきまで立っていたところ、倒れたのはアデルだった。


 「驚いた……。あたしの攻撃、かわされちゃったよ」


 彼を見下ろすように立つ一人の小柄な女性。彼女が襲いかかってきたのか。一応身構えるが、殺気の欠片も感じなかった。


 「イテテ、一体何が……」


 「やあ、いきなりごめんね?僕はイリーナ・ドラグノワ。このパーティのリーダーだ。大丈夫かい?」


 「うん……ぐえっ」


 立ち上がろうとしたアデルを、踏みつけるイリーナ。


 「『うん』じゃねえ、『はい』だ」


 「は……はい」


 答え直すアデルに、彼女はにっこりと笑った。


 「よろしい。僕は人に舐められるのが嫌いでね。格下が僕にため口を聞くのは許さないよ。それで君の名前は?」


 「はい、僕はアデル、アデル・アレーナです」


 アデルのフルネーム、初めて聞いたな。僕と同じように出身地から取っているのか。彼はすっかり弱腰になっていた。それでも彼女は足をどけない。


 「うん、よろしく」


 そして彼女の目が僕に向く。僕は慌てて背筋を伸ばす。


 「はい、ブルム地方から来ましたテオン・アルタイルです」


 「ああ、君は別にタメ口でもいいよ。僕より格上みたいだからね」


 その発言に、僕以上に『竜頭龍尾』のメンバーが驚く。アストとハロルドだけは笑っていた。


 「Sランクのリーダーが格上と認めるなんて……テオン、お前一体……」


 ボブは頭を抱えている。


 「まあ敬語を使ってくれるっていうなら止めないけどね。アデル何とかと、テオン・アルタイルね……って、アルタイル?」


 イリーナが反応する。アストの家族と思われたのだろうか。ハロルドからはミリオーネと呼ばれていたが、リーダーならアルタイルというのも知っているのだろう。


 「聖都を滅ぼしたっていう帝国の悪の組織か!?」


 そっち!!帝国の奴隷狩り集団アルタイル。その名前と同じファミリーネームを付けてしまったせいで、エリモ砂漠ではちょっと騒がれてしまったのだった。レナの報告がもう伝わったのだろうか。


 「それは偶然の一致だよ……です。テオンは寧ろ、そのアルタイルを倒してくれた人です」


 寝そべったままアデルが補足する。


 「おお!君が十数人で100人規模のアルタイルを倒したっていう冒険者の一人か!!こりゃ益々楽しみだな。もうパーティ加入手続きは終わったのか?」


 「すみませんイリーナさん、それはこれから向かうところで。今から受付行ってきますね」


 「おう、よろしく頼むな!」


 イリーナがどいてようやく動けるようになったアデルと僕は、ボブに連れられてギルドの受付カウンターへ行く。ポエトロとは段違いの職員数だ。そのうちの1人が僕らに気付く。


 「やあ、初めて見る顔だな。冒険者志望かい?」


 「いや、僕らは二人とも既に冒険者だ。さっき王都に着いたところでね」


 「二人をうちのパーティに加えたいのです。お願いできますか?」


 「ああ、お安いご用だ。地方出身の冒険者か……」


 クリフと呼ばれた受付の男は、窓口から乗り出して僕とアデルに耳打ちする。


 「マナーだけは気を付けな。良くない噂もあるみたいだから」


 「良くない噂?」


 「『キラー』ってのがな……いやまあトラブルさえ起こさなければ関係のないことだ。じゃあ二人の冒険者カードを見せてくれ。ステータス更新とパーティ情報の確認をする」


 何やら気になる噂だな。後で誰かに聞いてみよう。


 「パーティ情報の確認?」


 「王都に初めて来たってんなら心配はねえが、一応な。他の町のパーティならいいんだが、王都内のパーティに重複して加入するのは規則に反するんだ」


 僕らはカードを手渡し、測定用の魔道具に手を(かざ)す。


 「アデル・アレーナ……ペトラ発行とは珍しいな。次はテオン・アルタイル……ん?」


 僕のカードを読み込む彼の手が止まる。


 「あんた……『フィロソフィア』ってパーティに心当たりは?」


 「えっ?」


 「あんたは既に王都のパーティに所属してるよ」


 何だって……?僕は正真正銘王都に来たのは初めてだ。『フィロソフィア』なんてパーティは聞いたことがない。しばらく考えて、ひとつだけ思い付いた可能性を口にする。


 「あの……レナって人はそのパーティにいますか?」


 「ああ、『糸引』レナの知り合いか。そうそう、彼女のパーティだよ」


 そういうことか。『糸引』ってのは彼女の2つ名だろうか。どうやら僕は勝手にレナのパーティに入れられていたらしい。


 「それと、もうひとついいか?」


 クリフは1枚の紙を僕に見せる。


 「このステータス……どういうことだ?」


 紙には僕のステータスが書いてあるようだ。


 氏名: テオン・アルタイル

 レベル: 48

 ランク: G

 発行所: ポエトロギルド

 職業(熟練度): 剣士(82)

 職業補正値: 1.5

 HP: 616

 MP: 309

 STR: 104

 VIT: 173

 INT: 115

 AGI: 120


 あれ、僕のレベルって32とかじゃなかったっけ?そのときボブが横から紙を覗く。あ、見られたらまずいかも……。そして案の定。


 「何じゃこりゃ~!!」


 ギルド中に叫び声が響いたのだった。

遂に出ました、第1章6話以来のステータス表記です。ポエトロギルドでは簡易版しか無かったですからね。レナがアルト村で測定したステータスと比較してみましょうか。


レベル: 30→48

職業(熟練度): 剣士(33→82)

HP: 421→616

MP: 127→309

STR: 42→104

VIT: 61→173

INT: 56→115

AGI: 48→120


アルト村を出てからそれなりに色々ありましたからね。でもこんなに伸びるほどでしたっけ?第1章では伏せられていた剣士熟練度も公開します。敵と戦わずして相当伸びていたんですね。


このステータス、ちゃんと表計算ソフトで算出しているものですので、決して出鱈目な数ではありません。ええ、出鱈目ではないのです。一部おかしな伸び方をしていますが出鱈目ではないのです。ああ、俺TUEEEEが加速していく……。


次回更新は5/16です!

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