表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
チート勇者も楽じゃない。。  作者: 小仲酔太
第5章 不穏の幕開け
101/160

第11話 竜頭龍尾

【前回のあらすじ】

 アーケードで買い物をするマギーたち。待たされるキールに弱気な男がぶつかってくる。その男こそルーミの父親ゼオンだった。一方、テオンに勝負を挑んだハロルド。今、決着が付こうとしていた……。

―――マギーサイド


 「あ、ア、アリア!!会いたかったニャ~!!うわーんっ!!」


 この店の店主マリーの後ろから顔を出したその女性に、マギーが飛び跳ねて抱き着いた。アリア……マギーの探し人がそんな名前だった。すらりと長身で艶のある栗色のセミロングが美しい。


 「マギー。ごめんね、置いて行っちゃって。そんなに寂しかった?」


 「さ、寂しかったニャ~!!マギー、捨てられちゃったのかと。見限られたのかと……ひぐっ。思って……うわーんっ!!」


 全力で泣き叫ぶマギーはまるで子供のようだった。


 「よしよし。大丈夫よ。私がマギーを見捨てたりするはずないわ。マギーは私以上の天才なんだから。自信を持って?」


 「でもマギー、いつも音外してばっかりで綺麗な音も出なくて……」


 「それは昔の話でしょ?今やあなたは立派な歌い手よ。私の弟子なんだから、下手なはずないじゃない」


 そんな話の間もアリアはずっとマギーの頭を撫でていた。二人は師弟というより、姉妹か親子のようにも見えた。


 「ふふふ、この子が『歌姫』さんのお弟子さんなのね。私と名前も似ていて、一気に好きになっちゃったわ」


 マリーもマギーに近付いて、その頭を撫でた。


 「ええ、本名はマーガレット・ガル。私の自慢の弟子よ。あ、あなたたちは初対面ね」


 アリアが俺とメルーに目を向ける。


 「私はポエトロの町のアリア、アリア・ジュヴネールよ。よろしくね」


 「ああ、俺はキール・サルート」


 「私はメルー、スイーツハンターになる者です」


 「スイーツハンター??」


 「はい。世の中の全ての甘味を頂くのが目標です」


 「ふふふ、面白い人ですね。あら、先程お出ししたお菓子がもう空っぽに。次のを出した方がいいかしら」


 おっと、このままメルーを甘やかしているとこの店のお菓子を食べ尽くしてしまうな。いつかの茶屋で横目に見ていたメルーの食べっぷりを思い出す。


 「いやいやお構い無く。こいつは出されたら全部食べなきゃいけないっていう呪いに掛けられてるんで、寧ろ出さない方が……」


 「何言っているんですかキールさん!まだお菓子があると分かったら、食べ尽くさなきゃ私師匠に怒られてしまいます!!」


 いや、その師匠ユカリはスイーツハンターなんてふざけた仕事じゃねえぞ絶対……。そんな言葉を飲み込み、とりあえずメルーを締め落とすことにする。


 「あらあら、乱暴はいけませんよ。あ、私まだちゃんと自己紹介していなかったわね」


 マリーは笑いながら姿勢を正す。メルーのことはもう気にしないことにしたらしい。


 「ここマリー・ランジェリーの店主、マリー・ミリオーネ・アルタイルです」


 ん?アルタイル?


 「あら、アルタイルってテオンさんやララさんと同じ姓なのですね?」


 「あら、アルタイル姓って他にもいるんですか?私の夫がアルタイル姓なのですが、あの人道中で適当につけた名前って言ってましたよ?何でも、元々姓を用いない村出身だそうで……」


 テオンとララの苗字も、出身地のアルト村から付けたらしい。もしかして何か関係があるのだろうか。


 「ところで間のミリオーネ、というのは?」


 「私の旧姓です。ミドルネームと言って、王都ではたまに見かけますよ。例えば私は結婚前に商売を始めていたのですが、名前が変わると取引先の方を混乱させてしまいますので、ミドルネームとして残したのです。この街でミリオーネという姓はお得ですしね」


 「お得ニャ?」


 気付けばマギーも泣き止んで、マリーの話を聞いていた。アリアが後ろから抱き着き、未だに全身を撫で回している。


 「たまにポエトロにも来ていたんだけど、マギーたちは知らないかな?マルコ・ミリオーネさん」


 「えっ!?」


 「アリア、その人なら知ってるのニャ。王都まで車に乗せて貰ったのニャ」


 「そうだったの!マリーはマルコさんの娘さんよ」


 なるほど、王都一の大商人と同じ姓となれば、交渉事も多少有利に進められるのかもしれない。


 「そしてマリーさんはポエトロのテラグリズリー襲撃事件を解決した英雄でもある、王都一の冒険者アスト君の奥さんなんですよ」


 ゼオンが補足する。


 「「「えっ!!!!」」」


 マギー、ポット、リットが揃って声を上げた。アスト……それは王国で人気絶頂のSランク冒険者だ。空前の長剣ブームをもたらした有名人である。まさかその名前がここで出てくるとは……。


 「あ、ゼオンさんお久しぶりです」


 アリアがゼオンに頭を下げる。そういえばこの人、ずっと部屋にいたのに暫く存在を忘れていた。


 「ゼオンさんって影薄いですよね。それでいて商人としては大成功を収めているんですから不思議です」とマリー。


 「あはは、厳しいなあ。ところで、キュー君の手掛かりは何か掴めましたか?」


 ゼオンが声のトーンを落として尋ねる。アリアの顔がしゅんとしぼむ。


 「それがあまり進展がなくて。確かに去年王都に来ていたのは確認が取れたけど、数日しか留まらなかったみたい。その後は北西へ向かったそうだけど、手掛かりがないままデルマ公国の国境を越えそうになった。もうこの国にはいないのかも」


 「そうですか。ですがその話だけでもこの子達の希望にはなるでしょう」


 ゼオンがポットとリットを指す。


 「実は、私たちの兄トットも消滅の光に巻き込まれてしまって……。マギーさんたちにも手伝ってもらって、探しているところなんです。だけどまだ手がかり1つ無くて……」


 「そう、トット君まで……。全く何なのかしらね。消滅の光って。国立図書館にも一切の記述のない、前代未聞の災害……」


 アリアが俯いて拳を握りしめる。ポットとリットが顔を見合わせる。何か思い当たることでもあるのだろうか?しかし根掘り葉掘り聞ける空気ではない。


 「とにかくあたしたちは何でもいいから手掛かりが欲しい。もしキューって奴に話を聞けたら、あたしたちにも大きな足掛かりになるんだ」


 ポットがアリアの手を取り、その顔を見上げる。


 「あたしたちも手伝うよ、キューの捜索!」


 「あなたたち……。ありがとう、ありがとう!必ず見つけましょう、キューも、トットも!!」


 3人は手を取り合って意気投合した。同じ痛みを背負う者同士、通じ合ったらしい。


 「さて、他に探し人はいませんか?マリーさんも僕も仕事柄情報が集まって来ますから」


 「他……マギーはアリアだし、アリアはキューだし、ポリットはトットだし、ルーミはゼオンだし……。他に誰かいたかニャ?」


 「おいマギー、あたしらをポリットで略すな!!」


 俺も考えてみる。キラーザの関所でみんな目的を吐露していた。残るは……。


 「ゼルダたちが探してるサーミアってのは?」


 「サーミア?伝説の踊り子のサーミアさん?」


 「そういえばそうニャ!ルーミも会いたがってたのニャ。ベリーダンスの祖とか言ってたっけ?とにかく凄い人ニャ」


 雑な説明だが、それで伝わるほどの有名人らしい。


 「サーミアさんか。流石に今どこにいるのかは分からないですね。でも彼女と仲の良かった人なら知っていますよ」


 「本当かニャ?どこの誰ニャ!!」


 「ちょうどいいです。僕もお世話になった方で、今その人に会いに行くところだったんですよ。メリアンさんという方なのですが」


 「メリアン?聞いたことないニャ」


 「そりゃそうでしょマギー。あんた王都に来たばっかりなんだから」


 「それじゃ、早速メリアンさんのお店に行きましょうか。マリーさん、どうも有り難うございました」


 「いえ。でもお一人まだ歩けないようですが……」


 俺に落とされたメルーはまだ倒れたままだ。


 「ああ、こいつは俺が運ぶから大丈夫だ。早く行こうぜ」


 メルーを肩に担いで立ち上がる。俺と似たような背丈の癖に、メルーの身体は随分重かった。メリアンという人の店が、あまり遠くないことを祈るばかりだった。





―――テオンサイド


 「テオン~、もう終わった?」


 ララがクレイス修理店から出てくる。


 かんっ!!


 「あ、ごめん。何か蹴飛ばしちゃった……これは?」


 彼女は足元に転がっていた破片を拾い上げる。それは真っ二つに割れたハロルドの盾だった。


 「ハロルド~!もう終わった?……ハロルド!!」


 後から出てきたヒルディスがハロルドに駆け寄る。彼は盾を装備していた左手から血を流していた。


 「ごめんなさい、寸止めしようと思ったんだけど力が入りすぎちゃって……」


 「参ったな。僕の必殺のコンボを破られた上に寸止めを考えるほど余裕があるなんて。先輩冒険者としての面子は丸潰れだ。テオン君、君は本当に強いな」


 ハロルドが繰り出した技は、剣と盾の二連撃というシンプルなものだった。しかし力強い突進の勢いをそのままぶつけてきたあの盾は、中途半端に受けていたらただでは済まなかっただろう。


 僕はハロルドの剣を弾いたばかりの右手を無理矢理加速させて、正面から盾に切りつけたのだった。辛うじて力負けせずに済んだ僕の剣は、盾を割り飛ばしたのだった。


 「まさかハロルドの矛盾撞着(コントラストライク)が破られるなんて、彼以来ね」


 「ああ、だから誘いに来たのさ。ねえテオン君、僕たちのパーティに入らないかい?」


 「えっ?」


 唐突な言葉に、僕は一瞬固まる。


 「僕たちのパーティは『竜頭龍尾』。今王都で1番勢いのあるパーティさ。Sランク冒険者も何人かいるから、難しいクエストにだってたくさん行ける。うちとしては君のような実力者に加わってもらえると嬉しいんだ」


 Sランク。それは冒険者として最上位のランクだ。そんなところから誘ってもらえるとは、滅多にないことかもしれない。そう思っていると……。


 こつ、こつ。石畳をゆっくりと歩いてくる足音が聞こえてきた。やがて男が角を曲がり、迷いなくこちらへ近付いてくる。


 「お、ハロルド!こんなところにいたのか。首尾はどうだ?勧誘は出来たか?」


 それは確かに見覚えのある美男子だった。


 「よう!丁度今誘っているところさ。テオン君、紹介するよ。彼がうちの稼ぎ頭、王都でも指折りのSランク冒険者の一人。『竜殺し』アスト・ミリオーネだ」

遂に登場、Sランク冒険者『竜殺し』アスト!!


第1章の設定集で詳しく書いて以来、本編では殆ど登場しなかったこのキャラですが、覚えておいででしょうか?村ではサラが操を立てて、彼からの便りをずっと待っているわけですが、ポエトロでアストが既婚者であることが明かされていました。


その結婚相手がマリー・ランジェリーの店主マリー。その父親がテオンたちを車に乗せてくれた大商人マルコ・ミリオーネ、その商売仲間がゼオン・グラース、その娘がルーミちゃんです。付いてこれていますかね。


都会に行くと本当に世間は思ったより狭いなあと思うことが多いわけですが、王都編でもそんな感じが出せたらいいなあと思うわけです。人の縁というものは本当に不思議なものですね。


次回更新は5/12です!

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
7fx2fj94k3jzaqwl2la93kf5cg2g_4u5_p0_b4_1
ESN大賞
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ