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チート勇者も楽じゃない。。  作者: 小仲酔太
第1章 アルト村の新英雄
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第9話 怪物に挑む村人たち

挿絵(By みてみん)

【前回のあらすじ】

 怪物の脅威を知らずに村を飛び出してしまったアムとディンを追って、ブルムの森に入るテオンたち。2人を守って潜んでいたサラと合流するが、迂闊な行動を取ったディンの足元が爆発してしまうのだった……。

―――1時間前


 私たちは一目散にユズキのいる洞窟へと向かっていた。


 2週間前、ハイルから報告を受けたときには耳を疑った。森の地下に突如熱源反応が現れ、その直後に大爆発。それは一撃でグリズリーを吹き飛ばし、その場所にぽっかりと巨大洞窟が姿を現したという。


 慎重を期してハイルとユズキの二人に調査を依頼した。その結果、とんでもない怪物が見つかったのだ。始め爆発だと思ったものは、実は地中から放たれた怪物の拳打だと判明した。地面に一定以上の衝撃が加えられたときに放たれるのだ。


 怪物は洞窟の中で岩や木の根に絡まっており、身動きの取れない状態であった。怪物の拳が地上にのみ向けられているのはそのためで、洞窟内部や樹上などは安全だろうというのがハイルの推測だった。


 今日、ユズキたちは洞窟内部から怪物を調査する予定だった。報告の通りであるならば、安全の保障された調査だった。しかし、ハイルは怪物の攻撃を受けた。


 まさか怪物が自由に身動きを取れるようになったとでも言うのか。


 これはまずい。怪物の驚異的な力が腕だけだとは限らない。もし素早く動き回れるようになっていたら。もし拳打以外の攻撃もできるようになっていたら。


 私の嫌な予感はよく当たる。嫌になるほどよく当たるのだ。





 ユズキは洞窟の入り口に立っていた。傍らにはぼろぼろの大剣が立ててある。彼は装備を普段の大剣から大盾に変えていた。


 「親父!良かった。ハイルは無事村に辿り着いたんだな」


 「おお、ユズキ。お前も大丈夫そうで何よりじゃ。して、怪物は?」


 「この中で歩き回ってるよ。自由に動けるようになっちまったんだが、それでも頭上にしか興味がないらしい」


 「そうか、ならば危険エリアを歩かなければ問題はなさそうじゃな。倒せそうか?」


 「この面子なら問題ないだろう。洞窟の中から叩く」


 「よし、では行こうか」


 私はぐっと杖を握り、足を踏み出そうとした。


 「ん?アムとディンじゃと?」


 私には村の門から出入りする人間を把握する能力がある。村から離れ過ぎなければ、どこからでも門を通る人間を特定することができる。テオンの一件で門を通らない限り察知できないと、その不十分さを思い知ったものだが、今回は十分な働きをしてくれた。


 私が察知したのはアムとディンが村の門を通過したということ。レベル測定で浮かれ、ユズキの救出に同行したがっていた二人の姿が思い出される。


 「すまんがサラ、アムとディンが約束を破ってここに向かっておる。ここまで来たら樹上に避難させておいてくれんかの。わしも気を付けておく」


 「あの馬鹿ども……。分かったよ。怪物と立ち合えないのは残念だが、今日は子守りに徹しよう」


 「任せたぞ」


 こうしてユズキ、ジグ、クラ、トウ、そして私の5人は、怪物討伐のために洞窟の中に向かったのだった。





―――現在


 「ディン!いやああぁぁぁぁっ!!」


 ディンの無事を確認しようと今にも飛び出しそうなララを抑えながら、僕は砂煙に目を凝らした。湿った森の中ならそんなに長く砂塵が舞っていることはない。視界はすぐに回復した。


 「ディンっ!!」


 彼は無事だった。大きく抉れた地面のすぐ脇に、尻餅をついて倒れている。彼の前には大盾を構えるユズキの姿があった。


 「ふぅ、間一髪だったな」


 穴の下からジグの声が響く。よく見ると大きく抉れた穴の脇に、人一人が通れる程度の小さな穴が空いている。


 「ようディン。無事か?」


 「ユズキ!?今、何が……」


 「怪物が急に上を向いたんでな。咄嗟に盾を構えて飛び出してみた」


 ディンが樹から飛び降りた衝撃に怪物が反応して上を向いた瞬間、ジグがユズキをハンマーで打ち上げ、地面から飛び出したユズキがディンを突き飛ばしながら怪物の攻撃を盾でいなした……ということらしい。


 「に、人間業じゃない……!?」


 レナが目の前の光景に呆気にとられながらそう漏らす。アムもディンもララも、当然僕も、この場にいた若い者は皆同じ反応だった。


 「分かったかしら、レナ?数値じゃこの強さは測れないでしょ?」


 得意気なサラはいつの間にかロープを投げてディンを回収していた。


 「あんたはまた迂闊なことして。あとでハイルの説教だからね」


 ディンは不満そうな顔をしていたが、それよりも目の前で起こったことに対する興奮の方が大きいようだった。無事で済んで本当に良かった。


 どしんっ!!


 安心したのも束の間、抉れた地面から巨大なものが飛び出す。


 「すまん、追い詰めすぎたようじゃ」


 そう、怪物だ。洞窟で村長たちの攻撃を受けた怪物が、逃げるように地上に飛び出してきたのだ。その身体は傷だらけだった。


 「あれが……怪物」


 その異様な姿に皆驚く。全身銀色の鎧に覆われた大人二人分ほどの身の丈の大男。その腕は肩から大きく肥大し、下に垂らせば地面に付きそうなほど長い。異形とも言うべきその姿。鉄仮面のような形の頭部の奥、目の位置から赤い光がぼうっと覗いている。


 まさしく怪物だった。人間でも魔物でもない。僕が前世で見た魔人とも違う。そもそも生物ではなかった。


 「あれは……むしろ、過去の大戦の……」


 レナは何か心当たりがあるらしい。それは僕も同じだった。


 「ゴーレム……」


 呟いてはっとした。それは僕の知るはずのない言葉。レナが驚いてこっちを見た。


 「テオン君、どうしてそれを……?」


 ゴーレム。


 それはテオンの記憶にあるものではない。そう、僕――ロイの、前世での記憶だった。


 ゴーレムが初めて誕生したのはかつての大戦の時だった。当時世界一の大国であったブラン王国が、魔族を倒すために開発した軍用兵器。その力は絶大で、魔界から侵攻してきた魔族軍を壊滅に追いやったと聞く。


 その技術は大戦が終わったあとも培われ、僕が生まれた頃には王家や貴族の護衛としても用いられる一般的な兵器となっていた。


 もちろん、これらはすべて前世での話である。


 今目の前に現れたゴーレムは、まさに前世で見たもので間違いない。それも大戦後に一般に普及していたものではない。普及型はあそこまで肩を肥大させていない。身長もせいぜい人の1.5倍程度であり、目の前のものとは違う。


 あれは、昔博物館で一度だけ見た旧型、大戦で使われた軍用ゴーレムだ。


 「どういう……ことだ?」


 転生した世界の村の近くに突如現れた怪物。その正体が前世の世界にあった軍用兵器?


 ここは……異世界じゃないのか?


 そもそも軍用ゴーレムが派遣されたのは魔族領のみ。人のいる地域に進軍した話など聞いたことはない。なぜそいつがここに?


 頭に疑問が渦巻く。そのせいで反応が少し遅れた。


 「テオン!?危ないっ!!」


 ララの声が響く。ララもレナも、樹から飛び出して大きく跳躍していた。


 どんっ!!


 身体に突き飛ばされたような衝撃が走り、僕も樹から落ちた。咄嗟に受け身をとって顔を上げると、先程まで立っていた樹が根本からぼっきり折られていた。


 「こんなところでぼーっとすんじゃねえ!!」


 怒鳴りながら僕の前に降り立ったのはジグだ。僕を突き飛ばしたのは父だったのか。ゴーレムの方を見ると、所構わず攻撃を繰り出していた。どうやらあれに巻き込まれそうになっていたらしい。


 「ジグ、ごめん。もう大丈夫」


 「ああ、しっかりしろよ。さて、あのでかブツ……攻撃は確かに強いが防御はそれほどでもねえ。あの膝にもう一撃、俺か村長の攻撃が入れば動きは抑えられる。それまでは耐えろ」


 まじか。軍用兵器を生身の人間が破壊するなんて聞いたことがない。魔法か爆弾を使わなきゃ、人類には勝てない代物ではなかったのか。


 「そら、またくるぞ!」


 ゴーレムはこちらに向かって拳を繰り出そうとしていた。その攻撃は寧ろ風圧による遠距離射撃に近い。僕は咄嗟にその射線上から逃げる。風圧は衝撃波を伴ってすぐ脇を駆け抜けた。危なかった。


 だが大丈夫。回避に専念すれば僕でも避けれる。ゴーレムはアムへと標的を変えて攻撃を繰り出す。その傍にはユズキがいる。あちらも大丈夫だろう。


 いつの間にか村長も穴から地上に出てきていた。トウとクラは上がってくる気配がないから、洞窟内部の調査を続けているのだろう。


 「さて、そろそろ大人しくしてもらおうかの」


 ユズキが攻撃を受け流したのを見て、村長が一気に間合いを詰める。方向を変えようとしたゴーレムの膝に強烈な一撃が入る。


 同時にジグもハンマーを振っていた。叩いたのは虚空。あれはジグのスキルだ。空気を叩いて波を生じ、離れた相手に衝撃を与える。


 ゴーレムの右膝は二人の攻撃によって折れ、その場に倒れた。


 「そら、決着じゃ」


 村長の振り上げた杖が強かにゴーレムの首をうち、ゴーレムは沈黙した。





 「ほ、本当にあんな怪物を倒しちゃった……。あなたたちこそ怪物だわ」


 レナはへなへなとその場に座り込む。いつの間にか俺の傍に来ていたアムとディンも安堵の息を漏らす。


 だが……。


 「皆待って!多分こいつは、再生する!!」


 僕は咄嗟に声をあげる。


 そう。ゴーレムが軍用兵器として有用な理由。それはある条件を満たさない限り、破壊されても再生するということだった。


 「なんじゃと!?テオン、この怪物を知っておるのか?」


 村長がこっちを振り返った、そのとき……。


 ガタッ……!!


 一度動きを止めたゴーレムは再び立ち上がった。砕かれたはずの両膝も再生させて。


 「ちっ!!とんだ化け物だぜ」


 村長に向けられた拳をジグのハンマーとユズキの盾が防ぐ。風圧ではなく直接の打撃を受けた二人はそのまま吹き飛んでしまう。


 「いかん!!」


 村長も慌てて距離をとる。


 「再生なんて……どうすりゃええんじゃ」


 倒す手段を失って途方に暮れる大人たちの脇を通って、僕は前に出た。


 「ここは……僕に任せろ!!」


 張り上げた声はテオンの声ではあったが、今までのテオンのものとは違う。それはまさに、数多の戦場を切り抜けてきた戦士、ロイのものだった。

読んでいただきありがとうございます。


今日中にあと1話投稿したら、少し修正や章の設定などを行います。

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