過去の親友 現在の敵
『真天はさ、結構堅いんだよ。だから、防御戦になっちゃうんだよ』
『あんただって、亜天だって、防御苦手だろ?』
『ふふっ、でもね。防御だけじゃぁ、殺せないでしょ?そうしたら、自分が傷つくだけだよ』
昔の、稽古中。
仲睦まじく、語り合う真天と亜天が居た。
肩を組むことも、笑みを交わすことも無いけれど、真剣そうに語り合っていた。
何時も片時も離れずに居たから、2人は「双子」とまで言われた。
其れ位、仲がよかった。
幼く、詳しいことが分からない2人だったが、亜天はいつも冷酷なように感じてしまった。
時々いつものふざけた目ではなくて、凍りついた目をしていた。
真天は其れが何時も怖かった。
「真天殿っっ!至急、ここへ当たれと・・・!」
「ん?何処何処・・・あ、分かった」
真天は、部下が持っていた紙を見た。
その一瞬に顔が凍りつくような表情をし始めた。
そこにはいつもの命令が書かれていた。
≪ある場所で、実験に失敗。正気を失ったものを抹殺せよ≫
抹殺、と言う言葉に真天はやや驚いた。
今までは殺せという命令は何一つ無く、捕獲程度のものだったからだ。
「殺せ・・・な」
真天は、一気に駆け出した。
『俺達、いつまでも一緒にいような♪』
『あぁ・・そうだな』
耳に微かな思い出か廻る。
今まで幸せで、まだ何も知らないあの頃の淡い思い出。
亜天、と心の中で呼んだ。
「お前は、今、何処にいるんだ?」
問い掛けは、そっと空に消えた。
そこは、古びた実験室だった。
真天は、そこの扉を蹴り飛ばすように開けた。
部下と真天の予想絶する景色が目の前に広がった。
血の匂い。
転がっている死体。
貪り合う狂人。
「これ・・が・・・実験・・室」
部下が、小さく呟き、後ずさった。
しかし真天は、部下を振り払い、白刃で斬り付けて行く。
蟇蛙が潰れるような音が、何度も聞こえた。
怖い。
怖い。
「亜天ッ!」
その名を呼んだとき、ふらりとよたつきながら、前に通る人が現れた。
真天は、びくんっと打たれたように固まった。
≪呼んダか?・・オレの・・名・・ヲ・・・≫
聞いたことの無い低く、おぞましい声。
過去のあの声とはかけ離れ、姿形さえも変わり果てていた。
真天は、ごくりと息を飲み、刃を振りかざす。
亜天は、目を瞑り、手を広げた。
まるでその姿は、斬ってくれ、と言わんばかりだった。
≪真天・・俺ハ、オ前ノ手ニカカッテ死ネルノカ・・・≫
「ああっ、亜天ッッ!」
『真天はさ、結構堅いんだよ。だから、防御戦になっちゃうんだよ』
『あんただって、亜天だって、防御苦手だろ?』
『ふふっ、でもね。防御だけじゃぁ、殺せないでしょ?そうしたら、自分が傷つくだけだよ』
『別に良いだろ。ほっとけ』
『ほっとけないの。俺は、真天に傷ついて欲しくないんだ』
過去の思い出が脳裏に浮かぶ。
真天は声を殺し、亜天に蹲った。
『真天・・・・』
斬った刹那、己の名を呼んだ亜天を想いながら。