【AnotherEpisode-02/〝怪物〟と〝人修羅〟】-2
「おい、修。……聞いてんのか?」
「ああ。もちろん。聞いてますよ」
「磯良君。ぜひとも君の意見を聞きたいですね」
「あー、俺としては、二人の作戦形式にああだこうだ言える立場じゃあねえと思うんですけど。……なんせ二人で戦っている姿は、外から見ていても完成されていますし」
「完成? フフフ。君もまだ甘いですね。磯良君。……僕はまだピッチを上げられるんですよ。余計な動きをしている少年がいるから、中々合わせるのが大変で。精度をだいぶ落とさなければならないのですから……」
「ホント、うるせえなアンタ。文句垂れるんだったら、一人でやれよ。小賢しく立ち回ってるの見なくて良くなるなら、俺もそっちの方が清々する」
「だって嘘ではないでしょう?」
「ちょ、ちょっと。いい加減やめてくださいよ。古川さんも煽らないで。苑樹さんも冗談なんだから、真に受けないでくださいよ」
短い黒髪を掻きながら、どうにか磯良修は場を収めようとする。
「ですね。僕もすこし大人げありませんでしたね。僕らの目的は、異界の探索。そして可能であれば異形の駆逐。そして戦闘成果を独自に分析し、戦闘マニュアルを確立させることですから……」
薄い笑みを湛えたまま、古川禦己は小さく咳払いした。
頭が動くと柔らかい髪が前髪に流れた。
「どうやら異界は、我々が思っている以上の速さで変容を続けているようですね。パンドラクライシスから四年目。……神乃くんや二十日世さんが帰還者として戻ってきて、早くも三ヶ月ですか。時間にすれば長いかもしれませんが、たった数年で異界がここまで現実世界を侵蝕するとは。予想を大きく超えています」
禦己は腰に差している一本の鞘に触れた。刀が収められていない鞘。なぜ空白の鞘が三本もあるのか、武器の詳しい能力については『まだヒミツです。秘密兵器なんですから、いざというときにお披露目します。そのほうが面白いでしょう?』と本人が語って以来、ずっとそのままになっていた。お披露目をする前に、彼の斬撃は瞬く間に、異形の命を刈り取ってしまう。今後もこの兵器は『ヒミツ』のままになりそうだ。
「始まりの四九体の姿も、目撃情報が少なくなってきましたし。……代わりに新種の異形が沢山出てきましたね」
禦己は目の前に転がっているソレに目を移す。
十字路のど真ん中には、三人の人間。
そして……もう一体。『異形の者たち』と呼ばれる、この世には存在しない怪物が切り刻まれた状態で死んでいた。
異形の中でも大きな部類に属する体格を持っていた。
昆虫のような体格で、足は細いが胴体が大きい。卵を背負った『タガメ』のようであるが、頭部は細長く、鎌状の腕が八本。縦に裂けた口には細かな歯は、穴あけ工具に似ていた。
頭部まわりには拳大の球体ガラスを連想させられる、黒色眼球が頭部へと無数に収まっている。
近くで見ると目は無数の球体で寄り集まっている複眼に見えた。
……『ミグナネマ』という名で呼ばれているこの異形は、獲物を捕らえようとする動作こそ素早いが、重い下半身が影響しているのか、足取りは遅く、複数で囲んでしまえば、簡単に倒せてしまう。
修は実際に目撃したことは無いが、頭部にある鎌状の腕で捕らわれれば、拘束されたまま、口から伸びる細い吸盤で対象に吸い付き、血や体液などの養分を吸い取るのだという。
説明されたときは、心底寒気がした。
……もちろん、実物の形状を見ても戦慄を隠せない。
修は喉の中に居座る不安や恐怖を、唾と共に飲み込んだ。
「異形は確実に種類が増えています。この異界で進化しているのか、あるいは『新宿』から新たに現れてくる個体なのか。なんにせよ、場当たり的な戦闘では、間違いなく人間側が削り負けるでしょう」
「…………負ける、ねえ」
禦己の言葉に対し、皮肉を混ぜ、磯良修の笑いは歪む。
大型異形をたった一人で斬り殺して見せた、古川禦己の方がある意味、異界で蠢くバケモノ共よりも『妖怪』じみている。
「訓練を積めば、誰でも異形に対応できる固定技術。やはり個々の能力よりも、あらかじめマニュアル化された作戦行動の方が安定しますね。一人一人能力に差がある固有刻印に頼るだけでは限界がありますから。……どんなに勝てない相手であれ、狩りは身体的能力よりも、知恵を生かせた方が勝ち残ってきたのは、歴史を見ても明らかでしょう?」
腕を組む苑樹は、否定も肯定も無い。何もしない動作が肯定を示す。
「で、アンタが考えた二人一組の作戦ってのは、普通の人間が出来るとは、考えられねえんだよ。俺らだったら回せるのだろうが。やはり個人が持つ適応能力の差が生まれるんじゃないのか?」
だったら、と修は単純な思考から自分の意見を提示する。
「…………二人でダメだったら、三人で組みゃあ、いいんじゃねぇですかね?」
「余計、手間掛かるだけだろうが」
「――いや。磯良君の考えは、悪くないです」
苑樹の否定を、真っ向から砕く禦己。
いつもこの人は、苑樹さんに恨みでもあるのじゃないかと思うくらい、意見のぶつかりを生み出す。また喧嘩が始まる。そう思うと修は気が気でない。




