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<8>-2

 

「宗二郎――頭に変な感覚があるんでしょ?」


 固有刻印を使うとき、必ずといっていいほど、頭の中で妙な違和感から始まる。


「その違和感について。ずっと調べていたんだけど……宗二郎のソレは、固有刻印か――あるいは魔力によって何らかしらかの影響が発生している」


「……………………」


 面と向かって言い切られると、納得である。

 俺の中の固有刻印は頭の中にある。他の人間と同じ体の表面ではなく、脳内のどこかに刻印があるのだ。それが大きいか小さいか、物理的なものとしてあるのか、あるいは情報として入っているのかは自分でも解らない。でも刻印を使う度に〝何か〟が起こるのは事実である。


「アタシは。宗二郎がどれだけすごいか……しってるよ。だって宗二郎だったら何でも出来ちゃうのは、アタシがよく解ってたから。できれば――誰にも知られて欲しくなかった。石蕗先輩にすらも。アタシ達だけの秘密にしておけたらよかった」


 一言一句に『後悔』みたいな感情を滲ませながら、留歌子は抱えた膝の中に頭を埋めた。


「…………きっと。……ううん。……もし、宗二郎がすごい刻印を持っている事を知ったら、絶対に宗二郎は都合のいい道具にされちゃう。自分の意志を持つことすら許されない、機械にされちゃうよ」


 笑って『そんな馬鹿な』と否定できない真剣さが、留歌子の言葉の中にはあった。

 切迫していて、彼女を追い込んでいるのは自分であり、そして来たるべき日が迫っている学科移転の期日に合わせて、彼女の心は余裕の無いものへと変わっていた。

 留歌子は膝に埋めていた頭を上げ、橋の明かりを見るも、すぐに正面へと向き直り、暗い闇を見つめる。


「私たちが暮らしている内界は……学校に通っているだけのアタシ達じゃ、知る由も無い――〝()()()()〟でいっぱいなんだよ。怖いのは異形だけじゃない。この狭い世界に住んでいる人間だって、じゅうぶんに怖いんだよ……アタシ達は何も知らない。知らないからこそ、平和でいられる。でも平和じゃ無いものが、平和でいると思っているアタシ達を、そのまま見逃してくれる――なんて、そんな甘いことは無いんだよ」


 瞳に何を映して思っているのか、宗二郎には読み取れない。暗い闇の中……向こう岸の町並みは静まりかえり、彼女を照らす光は薄く。それでも確かに。留歌子の瞳には小さな光が灯っていた。


「なにもかもを……知っているような言い方だな。ハハハ。まるで未来が見えてるみたいな」


「ううん。超能力者じゃないんだから、何もかもは知らない。未来なんかぜんぜん見えるわけないし……アタシはしってることだけを、宗二郎にいってるだけだよ。嘘じゃないよ」


 いつもの元気さは無い。結わいていない長い髪の毛が、はらりと草の上に被さった。


「だから、宗二郎は……自分がもつ力の価値を、もっと自覚すべき。自覚した上で――宗二郎は他の人たちよりも、警戒をしなくちゃいけないの。宗二郎に関わっている全ての人間を、疑わなくちゃいけないの」


「そこまでしなくちゃ、いけないものなのか」


「うん。そこまでしなくちゃいけないの。……宗二郎が、お金を貰って刻印を使っているなら、まだよかった。でも……宗二郎が魔導科に行っちゃったら、もう――遊びじゃ済まなくなる。自分がどんな一歩をもって進もうとしているのか。アタシも魔導科がどんなところなのかは知らない。でも……今よりも宗二郎の立場が悪くなることだけはわかる。もう一度考えて見て。もっと……真剣に」


 何も言わず、宗二郎は天を仰ぎ見た。

 地上よりも、星の方が明るく見えた。

 東京が――『旧首都』と変わってから、地上の明かりは激減した。

 多くの街灯が消え、電力の供給量が減り、走る車の数も半分以下となった。

 夜になれば、昼間よりも街の活動は鈍くなり、闇が多くなる。

 内界の気象は異界の影響からか、気温が下がった。

 地上の環境が変われば、夜空はこんなにも明るく見えるものなのか。

 かつての東京では見えない星の光まで届いている姿。あの小さな星にも名前が付けられているのかな、などと思考の端で考えながら。


「……………………うん。ありがとう。ルカ子。ちゃんと考えるよ」


 夜空をぼんやり見つめる宗二郎を見ながら、留歌子は穏やかな声で言った。


「いつか……いつか後悔しないように。宗二郎が――一生懸命頑張った先に、後悔しか無い道が訪れるなら、そのきっかけが魔導科に行くことであるなら、アタシは嫌だよ。そんな運命は……絶対に嫌だかんね」



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